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相魔使いの美少女世直し漫遊記  作者: 茶寮サスケ
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第5話: 森を進む

次の行動が決まったことで、エリスは準備を始める。

バンデルの町までは徒歩で2日程の距離があるが、元々1週間くらいは捜索にかかるつもりでいたから特別な準備は必要としていない。

特に普通の人間であれば大物になる水については、エリスのような相魔師であれば空気中から作ることができるため、携帯食糧さえあれば何とかなる。

そのため準備といっても、消耗品の補充くらいでアジトの中にあるものを適当に手にとっては、使えそうなものを見繕っていく。

一応、リューグから許可をもらってちゃんとお金を払う上での行動だが、「碌なものがないわねぇ」などと言いながらアジト中を回る姿は、傍から見ている者には盗賊にしか見えない。 だが、それを口にするものも既にこのアジトにはいないのも実情であり、見た目は美少女の嵐が去っていくのを大の男たちが静かに待つだけの状況であった。


アジトを一通り周り再びリューグの部屋の前を通った時、エリスはリューグに声を掛けられた。

「エリス嬢、あんたを案内させる奴だがそれなりに腕が立つ奴でないと足手まといになりそうだ」

「ガゼルを付けようと思うが、それでいいか?」


リューグはこのアジトの中でも腕が立ち、何よりエリスのことを誰よりも体にしみて覚えているガゼルなら、エリスへの対応についても問題ないだろうと考えての人選だった。

「あぁ、あの頬に傷のある人ね。あなた達がいいならあたしは誰でもいいわよ」

エリスは特に気にしてなさそうに了とする。

「じゃぁ決まりだ。バンデルの街近くまでは、歩いても1日ありゃ着くだろうから、そんなに準備に時間は掛けねぇ。」

「エリス嬢が出発したい頃に声を掛けてくれりゃぁいいぜ」


リューグはエリスにそう言い、ドアの外の男にガゼルを呼んでくるように指示する。


そうして呼ばれてきたガゼルが、これからの事を聞かされて顎が落ちそうになるほど愕然とした顔になり、エリスとリューグとを交互に見返す。

ニンマリと笑顔のエリスと、決まったことだと有無を言わせない二人の顔に冗談ではないことが分かり、棒立ちになる

「じゃぁ、半刻立ったら出発しましょう。夜通し歩くことになると思うから、少し休んでからの出発でお願いするわ」

「分かった。そういうことだガゼル、頼んだぜ」

言われたガゼルがエリスに向かって頬をひきつらせながら「よろしく頼む」と言うまでそれほど時間はかからなかった。


エリスとガゼルが出発したのは既に太陽が落ち始めた頃だった。

このまま歩けば当然夜の森の中を突っ切ることになる。

ガゼルは夜の森でも大きな危険は回避できる自信はあるが、自分の少し後を歩くこの見た目だけは無害そうな少女は大丈夫なのかと少し心配になる。

大きな森ではないが、大型の動物もいれば、滅多にないが魔獣と呼ばれる会ったらすぐ逃げるべき危険な相手との遭遇の可能性も0ではない。

また、高い木々で空が見えなければ自分たちが向かっている方向もすぐに怪しくなり、森で迷うことも注意しなければいけない。

「エリス嬢、あんたがすげぇ相魔使い手だってことは身に染みて理解しているつもりだが、森のことは俺に任せてくれよ」

ガゼルは昼間にやられた意趣返しでは無いにしても、ここでは自分の方が案内役として優位にたっていたいと思う気持ちが立ち、あえてエリスにそう声を掛ける。


「はーい、よろしく。」

「気を使ってもらっているみたいだけど、もう少しペースを早くしてもらっても良いわよ」

ガゼルの思いを知ってか知らずか、エリスからは軽薄な反応が返ってくる。

何か一言いってやりたいが、言い返されるのが落ちだと既に理解しているし、実際のところペースを上げてよいなら上げたいと思っていたところでもあった。


「そういうことなら、もう少し速くするが、着いてこられるんだろうな?」

「問題ないわ、それに夜の森には長居しない方がよいでしょ」

「・・・あぁ、そうだな」

主導権をとっているつもりが、やはりエリス相手だと調子が悪い。

だが、リィーグの親方に案内を頼まれた以上仕事はきっちりやることが自分の役割であると理解しているガゼルは特にそれ以上言わずに歩みを速くして森を進んでいく。


実際に進んでいるルートは明らかに他よりも草丈等が低く定期的に人が通っていると思われる状態だ。

このルートがそのままバンデルの町まで繋がっているのであれば、実際のところエリス一人でも森を抜けることは容易だったかもしれないが、

当然のように分岐のような場所がある。


分岐の場所でガゼルは一度止まり、辺りが暗くなり始めていたため荷物から松明を取り出して火をつけようとする。

赤の相魔石を使った道具で、一般人からすると普通は持っていない高価なものになる。


「へぇ、そんなのも持ってるんだ。封魔石もそうだけど、あなた達結構羽振り良いんじゃないの?」

「俺たちみたいな少しの時間でも惜しい場合が多い状況だと、少なくとも誰か一つは持ってるぜ」

「封魔石も、まぁこんなことやってりゃどうしても相魔師と相対する場面も出てくるからな」

「まぁ、どちらもどっかの悪徳商人からぶん獲ったもんで、金に換えることは出来るが、有効利用させてもらってるわけだ」

そういいながら手早く松明に火を付ける。


「そういうことね、あ、あたしは自分で火くらいつけられるから、次から言ってくれたら着けてあげるわよ」

そういいながら、人差し指を掲げると小さな火が一瞬で現れた。

「ほぉ、緑だけでなく、他の色の相魔も使えるのか。」

「あら、相魔について詳しいじゃない。もしかして、あたしは緑のメインカラーだけだと思ったのかしら」

「あれだけバンバン風を起こして俺たちを飛ばしてくれりゃぁな。」

一瞬遠い目をするガゼルだが直ぐに意識を戻す。

「緑と、火を出せるのは赤だったか? どっちも使えるってのはかなりのやり手だって聞いてるぜ」

「まあね、あたしのすごさが分かったなら、態度で示してね」

「あーはいはい、お嬢はスゲえぇよ」


軽口でのやり取りをしつつも、松明を掲げて分岐を迷わず進んでいく。

ペースを上げたといっても、やはり周囲が暗くなるとどうしても歩みは慎重にならざるを得ない。

蜘蛛の巣や木の枝を払いつつ進む中、ガゼルはエリスが問題なくついてきている事で、注意をしつつも若干の心の余裕も出てきた。


「そういや、お頭と話しているとき、”魔王教”とか言ってたが、何なんだそいつらは?」

「お頭やダンテのやつは何か知ってそうだったが、”魔王”なんておとぎ話に出てくるアレだろ?」

ガゼルは歩きながらエリスに尋ねる。 


神聖教会:どの国よりも歴史の古い組織であり、その神話の中に魔王は出てくる。

創世の神々として、金色の最高神、最高神が生み出した相魔と同じ各7色の特徴をもつ7柱の大神がいる。

魔王はその神々の創世したこの世界の破壊を目論む存在として定義されている。

とはいっても、普通の人からすれば子供の頃に悪いことしたた魔王に連れ去られる など分かりやすい脅し文句に出てくるくらいだ。

「”魔王教”ってことは、魔王をあがめている奴がいるってことだよな」

「よくわからんが、そいつらは何を目的にしているんだ?」

ガゼルの率直な問いに、エリスは少し間をおいて答える

「あたしが知ってるわけないじゃない。」

「ただ、あいつらは使ってくる黒相魔だけは好きになれそうにないわね」

「エリス嬢はやりあったんだったな、俺たちもこれから関わるかもしれねぇ相手みたいだから、知っていることあれば教えてくれねぇか」


ガゼル達のような日々荒っぽいことに関わってはいても、魔王教と関わることは本当に無かった。

各神殿においても敢えて魔王を話題にするようなこともなかった。


「まず、あたしが会ったやつらは、魔王教と関わりがあるだけで魔王教の信徒というわけではないと思うわ」

「魔王教の信徒がもし居たら、あそこまで脆くは無かっただろうから」


「エリス嬢は魔王教の信徒ってやつとも会ったことがあるのか?」

「えぇ、何度かね。あまり仲良くなりたい人たちではなかったわ」

エリスは簡単に言うが、情報屋であるダンテですら魔王教などそうそう聞くことは無い。

ましてや、信徒と出会うなど一体普段どんなことに関わっているのか、ガゼルには想像の埒外である。


「一体、あんた何者なんだ」

ガゼルの口から思わずこぼれる疑問にエリスは無視を決め込み話を続ける。


「黒相魔については、なんて言うか、一言で言えば”気持ち悪い”系の効果よ」

「前の時は、人の心を狂わせるタイプの術だったわね。」

「即席術式だったから死ぬほどではなかったと思うけど、使徒が直接つかう術式だと普通の人なら”持たない”かもね」

「他には、派手な術式もあるけど、そういうのを使うやつと会ったら、とりあえず逃げたほうがいいと思うわ」

「あ、封魔石は有効よ。そういう意味では関わる人たちは一通り持っていた方がいいかもね」


説明を聞いてもガゼルとしてはよくわからないことが増えただけだった。

封魔石が有効というところは有用な情報だったので素直に礼をいう。


ただ、聞けば聞くほどこの年派のいかない見た目のエリスがなぜここまで知っているのかの疑問だけは膨らみ、

ガゼルは自分の考えることではないと一旦は胸にしまうがつい口に出てしまう

「エリス嬢がこれまで何してきたのかもう少し知りたいところだが、どうせ聞いても話してくれなさそうだしな」


「女の素性を詮索するなんて、野暮なことはしちゃだめよ」

「あたしのやってることなんて、依頼があれば悪人ぶっ飛ばして、ついでに貯めこんだお宝を頂戴するくらいよ」

「今回の依頼は本当は面倒だから断りたかったんだけど、依頼人が断りづらい相手だったから仕方なくね」


かなり物騒な内容を普通に話すエリスを既に違和感なく受け入れてしまっている自分自身に諦観しつつ、

ガゼルはエリスに確認する。

「冒険者ギルドの依頼じゃないんだな。あんたを顎で使える依頼人ってのも気になるが・・・」


エリスは特に何も言わずガゼルの話を聞き流す。

「あたしもいつも冒険者みたいなことをしているわけじゃないけど、

悪人どもをお空に飛ばすのって一度やったらこれが何とも言えず気持ちよくって・・・ エヘヘ」

そう言って不穏な笑みを浮かべて思い出し笑いをするエリスの声にガゼルは引き気味だ。

エリスの不気味な笑いに耐えかねたわけではないだろうが、ガゼルは突然歩みと止めた。


ガゼルの後ろを歩くエリスも止まった理由を感じており、目の前の暗い森の先を2人はじっと見つめていた。


「何かいる」

予想の範囲内ではあるが、会いたくないナニかが自分たちの進む先にいる気配を感じた二人の

共通の認識だった。

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