第4話: 歩く暴風・・・
(エリス視点)
ダンテが部屋に入り、リューグとあたしの間に座る。
挨拶もそこそこに話しかけようとしたところで、ガゼルが3人分のお茶を持ってきた。
やっぱり甘未は無かったようだ。
慣れない手つきで3人の前にお茶を並べながら、あたしの方へ向いて話しかけてくる
「ココにまともな茶葉なんてないからな、文句言ってもかわりはねぇぞ」
「味はともかく毒とか睡眠薬とかは入ってなさそうね」
「ンなことしねぇよ!!」
「もー、そんなにカリカリしないでよ、一応確認しただけじゃない」
「だそうだから、お茶を飲みながらでイイから話を聞きたいのだけど いいかしら」
あたしはガゼルを無視してダンテに話しかける。
部屋に入ってきた時から何やらソワソワしている様子で、見ているこちらも落ち着かない。
ダンテは出されたお茶を一気に飲むと大きく息を吐いた
それを見ていたリューグが思わず声をかける
「おい、ダンテ。いつになく落ち着きがねぇじゃねぇか。」
「お頭に早くお伝えしないといけない情報がありまして、ただ、その・・・」
「なんだ、言ってみろよ、この嬢ちゃんのことは気にしなくていい。」
歯切れが悪い言い方にリューグが促す。
ダンテはあたしの方をチラリと一瞥し、少し間をおいて話を続ける。
「マークのところの商隊が街に来る途中で襲われて、かなりひどい状態ということです。」
「!!」
「全員殺されたわけではないのですがかなりの重症で、当分は動けないだろう という状況です。」
「街の北側の街道から少し離れたところで突然に襲われて、商隊と護衛のほとんどがやられたみたいですが、」
「盗賊団にやられた ってわけではなさそうで・・・荷物が取られたわけではなく、襲ってきた中に相魔師が何人か居たらしく、それで、その・・・」
リューグと隣にいたガゼルは驚愕の表情のまま、ダンテは話を続けるがこの場にいる全員の意識があたしの方へ向いていくのが分かる。
リューグもあたしとダンテを交互に見て小さく「続けろ」とだけ言う。
「えぇっと、さっきも話した通り積み荷に手を付けず、目的は商隊のメンバーだったのではないか と考えています。」
「その言いようじゃ、何とか撃退できたんだろ? それなら盗賊って線も無くはないんじゃないか?」
リューグは言うが、普通の盗賊に複数の相魔師がいるのはかなり珍しい。分かったうえで確認を取っているのだろう。
「いえ、相手は真っ先に積み荷に火を付けにきたようですし、警告なしに襲ってきた所でもマークの商隊が狙い撃ちされたと考えるべきかと」
「あと、その、撃退といっても、実はこれも突然に一人の相魔師がた突然現れて助けてもらった様です。」
ダンテは一旦話を止めてリューグの反応を見ている。
と、ここまで話をきいてあたしには思い当たる事がある。
「あ、それって多分あたしのことじゃない?」
「「何!?」」
リューグは今日一番の驚きの顔であたしを見返す
「丁度1週間くらい前だったかしら、街道から外れたところで商団が襲われていたのよ。」
「盗賊なら、ちょっと懲らしめてアジトのお宝を頂き・・・ っじゃなくて、」
「結構危ない状況だったから、とりあえず悪そうな顔した奴ら全員空に飛んでもらったわけよ」
ダンテは何となく予想していたのだろが、それならそんなに落ち着かない態度でなくてもいいのにと思っていると
状況の補足を話し出した。
「助けられたこと確かのようですが・・・」
あたしは胸を張ってまんざらでもない顔で二人を見回すが、次のダンテの言葉を聞いて一瞬固まった。
「ただ、商隊の護衛だった者も何人か巻き込まれて負傷したらしいです」
「う、それはあれよ、どうしようもない状況で、名誉の負傷ってやつよ」
「それに誰も死んでないし、最近のあたしって手加減がすごく上手いのよねぇ」
ガゼルはその場面が想像できるのか、リューグの隣で身震いしている。
この話はこの辺で終わらせないと! とあたしは襲ってきた連中のことを説明する。
「人数はそれほどでもなったけど、確かに相魔師が居たわね」
「あいつら倒れた仲間を動ける奴らが背負って、なかなか手際よく逃げ出していったんだけど、」
「本当なら、襲っていた奴らはちゃんと始末しとけばよかったわ」
あたしはそこで一度話を止め、勿体つけるように少し間をおく。
中々の急展開で話についてこれていない状態だったリューグだが、ようやく思考が元に戻ったのかあたしの方へ前のめりに話し出してくる。
「嬢ちゃんがそこまで言うってことは相手の素性に何か心当たりがあるんだな?」
「何でもいい、何か気づいたことがあるなら教えてくれ!」
当初の目的から大きく離れてしまっているが、情報のギブアンドテイクは大事だろう。
あたしは襲ってきた連中について次の言葉を出す。
「あいつら間違いなく"魔王教"に関わっているわよ」
「!!!」
はい、今日一番の驚きの顔の更新いただきました!
リューグだけでなく、ダンテもあたしの言葉の意味を理解するまで驚愕の表情になっている。
「簡単よ。あいつらが使っていた相魔に黒色があったし、」
「あいつらの一人が黒相魔で仕掛けてきたのよ。」
「まぁ、即席術式みたいだったから相魔師では無かったと思うけど、少なくとも黒相魔を使える奴と何か関わっているはずだわ」
あたしは頬に手を当てて思い出しながら話す。
ダンテはあたしの話を聞きながら考え事をしている横でリューグがあたしに聞いてくる、
「それは他に誰が知っている? 憲兵には話したのか?」
「話してないわよ。」あたしは即答する。
「それに、多分誰も知っていないと思うわ。あたしは商隊からすぐ別れたし、普通の人は黒相魔を見たところで多分違いも分からないだろうしね。」
「あたしが知っている情報はこれくらいだけど、魔王教はあなた達と敵対関係なの?」
今度はこちらから尋ね返す。
「いや、これまでの俺達は直接魔王教と関わった事は無かったはずだ」
「だが、ここ最近の過激になったやつらの背景になんらか関係はあるのかもしれん」
「エリス嬢、貴重な情報提供に感謝する。」
「だったら、あたしの方も色々聞かせてほしいんだけどね。」
リューグ達はまだ他にも色々聞きたそうだったが、あたしの方の用事はまだ全然進んでいない
元々ここで話をしている理由も、何か情報が得られそうだったから というだけで確信があるわけではない。
でも、魔王教に襲われるような相手であれば、攫われた人物との繋がりも見えてくるかもしれない と思えて来た
「2日前に街の神殿から攫われた女性について でよかったでしょうか?」
ダンテはあたしが言う前に説明を始めてきた。
「私の知っている事はそれほど多くありません。予めエリスさんが知っていることを教えてもらえますか?」
「そうね、先日に街中で二人組に攫われた女性を追っているの」
「この森の方に馬と一緒に走っていったって聞いたのがが最後で、あたしもそれを追ってここまで来たら、
ここにいる男たちがあたしをストーカーしてきたから、ちょっと話を聞かせてもらってここにいるってわけ」
「ストーカー?」
ダンテがリューグの方を見て聞き返す。
「いや、そこはスルーしろや。」
「俺はその場にはいなかったが、ガゼルたちが森に入ってきたエリス嬢ちゃんを監視してたら、こっぴどくやられたって話だ」
リューグは話し難そうに説明する。
「相魔師だと知ってりゃもう少しやりようはあったんだろうがな。」
「あたしは別に気にしてないから、あなた達も気にしなくていいわよ」
エリスはあっけらかんと言うが、吹き飛ばされた方のガゼルたちがこの場に居たら大いに文句を言っていただろうことは想像に難くない。
ダンテはすぐに思い当たることがあるのか話し始めた。先ほどまでの不安そうな態度は既に無い。
「なるほど、ちょうどこの森にいる奴らから丁度聞いた話と合致する。」
「月が出ているだけの明るさの時間帯にもかかわらず、馬を引きながら森を進んでいる奴が居たらしい」
「今日、ここに来る前に聞いたばかりの話なので詳しいことはまだ調べられてはいないが、エリスさんの言っていることと合う」
ダンテのいう森にいる奴らとは、森に住み森で生業をしている者たちで、ダンテはここに来るたびに常に訪れるようにしていた。
「そ、それよ! で、一体そいつらはどこに行ったの?」
あたしは思わず椅子から立ち上がりダンテに顔を近づけて問いつめる
「待て待て。 さっきも話した通り今朝聞いたばかりで詳しいことは知らない。」
「だが、わざわざ森を馬で抜けようとしてたってことは、人目を憚って最短ルートを通って行こうとしていたはずだ。」
「森の奴らの話だと、この方向だったはずだから・・・」
ダンテは胸元から携帯用の地図を出しながらエリスに位置関係を説明する。
「もし、まっすぐ行った先が目的地なら、バンデルの街、このあたりの領主のいる州都だな」
「だが、人攫いがそのまま州都に入るとは思えない。どこか街の外にアジトなり隠れ家なりあるんだろうよ」
「ありがとう! よし! バンデルの街の周辺を捜索することにするわ」
あたしはダンテの言うことを聞きながら、次の行くべき所が分かったことで心の焦りが取れたことを実感していた。
「いや、こちらも貴重な情報をもらったし助かるよ」
ダンテはエリスに謝意を示しつつ、リューグの方へ向いて言う。
「私はもう一度この件を魔王教の線からも調べてみる。」
ダンテはリューグにそう言って席を立とうとする。
「あぁ、頼む。だが、やっぱりわからねぇ。」
リューグはこれまでの話の流れから、何かしらの目的があっての商隊の襲撃があった事は分かるが、
その何かがさっぱり分からず、思わず声に出てしまう。
「エリス嬢、何か他に知っていることは無いか? 魔王教だったか、どんな連中なんだ?」
「黒相魔はどんなのがある? 封魔席石は有効なのか?」
リューグは自分の疑問の答えを知ってそうなエリスに矢継ぎ早に問いかける
「大の男がそう急かさないって。」
「そうね、教えてあげても良いけど、あたしも教えてほしいことがあるの」
「バンデルの町の周辺で、隠れ家になりそうな場所、とりあえずあたしはそこから調べようと思ってるんだけど、あなた達は心当たりある?」
「私もよく考えたら、あんまりあの辺りのこと知らないのよね。」
あたしの質問にリューグが応える。
「あぁ、それなら俺たちの仲間を付けてやる。そいつに案内させよう。」
「そう?場所を教えてくれるだけでも良かったけど、助かるわ。」
「あ、でもあたしの魅力にメロメロになってるやつだと、可憐なこの身の安全が心配に・・・」
「ここの連中で、今更あんたに言い寄る奴は居ねぇよ!」
ダンテは若干あきれたようにエリスに言う
「何それ、ちょっとあたしを何だと思ってるのよ!」
「歩く暴風」
ボソッとドアの向こうで番をしていた男が呟くのが聞こえた。
あたしはキッと男の方を睨み、男は怯んだ顔をそむける。
「誰をつけるかは後で決めるが、とりあえず仲間をこれ以上飛ばすのは止めてくれ」
リューグが呆れたような疲れた声でしぼりだした。
仕方ない、これからもう少しお世話になる連中だから今回は見逃してあげよう。
焦りの晴れたあたしの寛大な心に感謝することね!