第3話: 淑女・・・
(第3者視点)
再びアジトへ戻る
戻ってきたガゼルたちの様子を見て助けようとエリスに向かっていっては、
何人かガゼルたち同様に空に飛んでいくアクシデントもあったが、アジトには着いた。
事情を良く知るのはお頭だが今は不在で、もう少ししたら返ってくるとのことなのでエリスはアジトで待つことにする。
客室などない状況でエリスの要求にこたえられる部屋がお頭の部屋しかなかったため、ガゼルは周囲の反対を押し切り案内。
エリスが閉じ込められたと嘆く芝居で見ていた格子は、単なる”格子扉”に過ぎず、風通しの悪い洞窟内での2重扉の1枚である。
「と、いうわけでさぁ」
ガゼルが申し訳なさそうにお頭と呼ばれる男これまでのいきさつを説明する。
「はぁ・・・」
こめかみに手を当てながら大きな溜息を出すお頭に対して、エリスは自分のやったことが説明されて自慢げな表情で
フンフン と頷いている
「俺の名はリューグ、こいつらをまとめているモンだ。」
「あたしはエリスよ、あなたならあたしの探している人をしってるのかしら?」
自己紹介もそっちのけで、エリスは単刀直入に尋ねる
「まぁ、待て待て、あんたが俺たちのことをどう思っているかは何となく想像つくが、俺たちはそんなんじゃねぇよ」
「確かにこんな奴らだが、俺たちはそこらの盗賊とは全然違う。 自分で言うのもなんだがいわゆる"義賊"ってことで通ってるんだ」
「"義賊"?」
エリスは予想は違う話の方向に戸惑いながら聞き返す
「あぁ、義賊だ。確かにこの国の法律的には悪いことをしているのかもしれないが、相手はもっと悪いことをしている奴らだけだ」
「詳しいことは言えねぇが、最近は特にこの辺りで怪しいことをしている奴が多くてな」
「だから、何の理由もなしに人攫いなんかしねぇ。このところはそんな要請自体も無いしな」
矢継ぎ早なリューグの話を聞いていたエリスは冷静に聞き返す
「"義賊"ってことはともかく、貴方たちがあたしの探している人を知らないってのはホントかしら」
「そもそもまだあたしは何も話してないし、口数が多い男ってのは大概詐欺師なのよね」
リューグはエリスの物言いに特に気を悪くする感じもなく即答する
「別に信じてもらわなくても良いけどな、そもそも世間的に日の当たることをしているわけじゃねぇ」
「ただ、ここにいる全員それぞれの思いで為すべきことをやってんだ。」
「万が一にも一時の儲け話に釣られて人攫いなんてするやつはいねえよ」
強く断言するリューグとエリスは数舜見つめ合い、エリスが先に視線をはずし一呼吸する。
「分かったわ、でもあたしの探している人がこの森に連れ去られたのは事実なの」
「何か情報があったら教えてほしいのだけど、」
「俺たちの知っていることを教えるのはいいが、何かそいつの特徴とかはあるのか?」
「それにそもそも俺たちの言うことをお前は信用できるのか?」
リューグはエリスに試すように言う
「えぇ、あたしは人を見る目はあるつもりよ」
「なんとなく、最初から「あ、こいつら違うかなー」 とは感じてたのよねー。」
エリスは、椅子に座ったまま背伸びをしつつ、一気にリラックスした表情に変わる
「じゃなきゃ、あんたのお仲間たちがもし本当の悪人なら、あたしをストーカーしてた時点で即お星さまにしてあげてるしねー」
「ある意味ハズレひいちゃったけど、あたしの勘は間違ってなかったようだし、ここはお互い気にしないことにしましょ」
傍らで話を聞いていたガゼル他の男たちは、物騒な内容と自分たちに起こったことを思い出しブルっと震える。
何かしら言いたそうなガゼルの態度を背中に感じつつリューグも答える
「それについては、手加減してくれたようだしお互い様でいいぜ。」
「こいつらもこのところ抱えている案件で、少し気が立っていたようだから大目にみてくれ」
少し和んだ様子の二人の雰囲気に未だ納得できていない周囲の男共に対してリューグが全員に聞こえるように言う
「おいお前ら、この嬢ちゃんはここから先は俺の客人だ、下手なことしてんじゃねえぞ!」
いきなりの宣言に戸惑いつつも、周囲の反応は顕著だった。
これまで全身に感じていたとげとげしい視線がリューグの声の後から薄れていくのをエリスは感じた。
「ふーん、あんたなかなか人望あるのね。」
「改めて自己紹介させてもらうわ。あたしはエリス。 エリス・コーネリアス」
「ん、家名持ちか? でもそうでないと相魔なんて使えないわな」
「あなた達のお仲間にもいっぱい見られたから、今更隠すこともないしね」
エリスはあっけらかんと言うが、この世界で相魔を使える人間は少なくないもののエリスが使ったと聞いた術式を扱える人間は少数だ。
そんなエリスが関わっている事件であるから、それなりに大きな事件なのだと想像できるが、
実際のところリューグとしてはここ最近での”人攫い”については先ほどエリスに言った通り特に心当たりは無かった。
「繰り返し言うが、嬢ちゃんの探している情報にすぐに心当たりはねぇ。」
「ただ、街の中にも俺たちの仲間は多いからな、そこから情報を持ってこさせることも出来なくはないが、少し時間がかかるな」
「攫われたのは、一人の若い女性よ」
「狙われた理由はその女性を知っていれば分かるけど、今は言えない」
「あと、攫われた状況からみて少なくとも街から外に連れ出されたはずよ」
「だから私もここまで追ってきたのだし」
エリスは攫われた状況を説明する。普段よくいる場所に居た時に複数人に襲われそのまま攫われたらしい。
その場にいた他の者たちは皆殺されたらしく、目撃者といっても急に走っていく2頭の馬を見たくらいだ。
その馬が街を出てこちらの方へ走り去っていったところで情報は途切れている。
「街道から外れているとはいえ、人一人を抱えて移動するならそれなりに目立つはずだ」
「攫ったやつらはあまり上手いとは言えないな」
リューグがもし実施するなら、街中に隠し場所を作り一旦そこで縛り上げてから、何かの荷物と一緒に馬車にでも載せて街から出るだろう
よほど急いでいたのか、それともほかの理由があるのかわからないが、それなら何かしら痕跡が残っている可能性は高い。
「そうすると、情報を持ってそうな奴はあいつくらいか・・・」
リューグは顎を撫でつつ、誰か知ってそうな人物に心当たりがあるのか考えるように遠くを見つめる。
「おいっ ダンテを呼んできてくれ」
部屋の外に立っている男に声をかけると小さく頷いてどこかへ歩いていく。
「そのダンテ って人が何か知っているの?」
エリスは素直な疑問を口にする。あまり情報が得られそうになければ、さっさとココから出て行った方が良いと思うが、
何かあるのであれば別だ。
「あぁ、さっき言った街の情報に詳しい奴でな、定期的にここに来てもらっている。」
「あくまで情報屋だから、嬢ちゃんに飛ばされた中には入っていないはずだ」
リューグが口端を上げて嫌味の味を聞かせた笑みを浮かべて言う。
「だって、か弱い女の子に人相の悪い男共が威嚇してくるんだもの。自業自得よ。」
「あぁ、わかったわかった、別に嬢ちゃんを咎めるつもりはねぇよ。」
「早とちりした俺たちが悪い。」
「だけど、嬢ちゃんほど目立つ相魔使いがあの街にいたなら俺の耳に入ってても良かったんだがな」
「そういう意味じゃ、あの情報屋もあまり期待できねぇかな」
リューグは自分で呼びつけた情報屋の能力に疑問符を持たせる話し方をする。
「期待させといて、やっぱり知りませんだとしても暴れたりしないわよ」
「遠回しな言い方しなくても、最初から当てにしないでくれって言えばいいのに」
エリスは単刀直入にリューグに言う。とリューグは二やっとまた笑みを浮かべるが今度は少し柔らかい。
「すまんすまん、俺もこんなことしている色々と慎重になってしまってな。」
「だが、本当にあの町の冒険者ギルドの目立つ奴らは知っているつもりだが、嬢ちゃんの事はやっぱり聞いたことが無いんだ」
「あたし冒険者ギルドに登録してないから。」
「この人探しもギルドからの依頼じゃなくて、あくまであたし個人の知り合いからのものなの」
「なるほどな、曰くつきの事件ってことだな」
リューグとしては、敵に回すべき相手でもないし、もし自分たちが依頼されたなら解決するような人助けの用事だ。
手助けしてやる義理は無いが、出来る範囲で手伝いさっさと出て行ってもらえれば良い。
そんな厄介払いの考えを察したわけでもあるまいが、エリスは既に気を緩めて待ち人をまつ様子になっている。
・・・
「お頭、ダンテを連れてきました」
「あぁ、こっちに来てちょっと話を聞かせてくれ」
呼びに行った男と共に一人初老の男が横に立っていた。
ダンテと呼ばれた男はあたしを見て少し強張った表情でリューグを見直して部屋に入ってくる。
「あ、そういえばさっきあたしのことを"客分"って言ってくれてたわよね」
「ここの男共はお客にお茶の一つも出してくれないのかしら?」
エリスの声は一段高くなり、さも当たり前のように話し出す。
「あ、お茶菓子はなんでもいいわよ、あたし食べ物に好き嫌いは無いから」
「でも、あえて好みを言わせてもらえればやっぱりお茶請けには甘味よねー」
放っておくとどんどん要求がエスカレートしそうなところで、リューグの後ろからガゼルが口を挟む
「いや、そんなの無ぇよ! 確かに客分とは言ったが、あれだけのことをしておいてもてなしてもらおうとか、どんな神経してんだ!」
「えー、それはさっききれいさっぱりこっちのお領さんと一緒に水に流したじゃない。」
「細かいこと気にしすぎると、、、 禿るわよ」
「禿ねえぇよ、ってかもし禿たとしてもお前のせいだよ!」
「ガゼル! 止めておけ!」
このままだと更にほかの者たちも文句の一つも言おうと混じってきそうなところで、リューグが一喝する。
「あ、いや、すいませんお頭・・・・」
「俺も気持ちはわからんでもないが、この嬢ちゃん・・・エリス嬢には…逆らわない方が 何となくいい」
「甘味なんてもんは無いが、茶くらいは出してやる。 だからこいつらをおちょくるのはその辺にしておいてくれ」
「えぇ、無いものねだりをするほどあたしも我儘じゃないわ、じゃぁお茶をお願いしていいかしら?」
リューグは一人大人の対応でエリスに応え、エリスとしては特にふざけているつもりもないのだったが無いものは仕方ない
「それじゃ、流麗な淑女たるこの身は、お茶を入れて頂くのを待たせて頂くわ」
周囲から見えない溜息が聞こえるてくような中でも、エリスはいつも通り満足げに椅子に深く座りなおした。
「自分で淑女とか言うかよ」 と誰ともなくつぶやく声は運よくエリスの耳には届かなかった。