第1話: 籠の中?
(第3者視点)
暗く冷たい岩に囲まれた部屋ともいえぬ狭い空間、
汚れた薄布を敷いただけで固い感触を直に伝える足元、
眼前にはか弱いこの細腕では曲げることも、ましては到底壊すことなど出来ない格子状の枠
その向こう側には、沐浴などという言葉すら知らないであろう誇りまみれの頭、
同様に薄汚れた服装の男が立つ。
時折、真新しい頬の傷を撫でながらこちらを睨見つけている。
「あぁ、私のような美少女がこんな場所で自由を奪われ、
いやらしい男共に囲まれて明日をも見れぬこの身の儚さ・・・・」
舞台女優もかくやといった澄んだ声色で、決して大きな声ではないが
周囲の者すべてが聞こえていた。
「あぁ、なんて不幸、なんて不憫、なんて可哀想なわたし・・・」
少女の声は、発した言葉と同様に悲壮感に満ちたものだったが、
それを聞く者たちの様子に変化はない
「あぁ、この陽の光もささぬ片隅で、私のようなか弱い美少女が
かくも無残に、春の花よりも短い命を散らしてしまうなんて、
世界の慈悲は一片たりとも残っていないのかしら・・・」
か弱いといった単語を聞いたあたりから、先ほどの頬に傷のある男が
キッと声の主の方を見やり声を荒げた
「うるせぇ! どこのどいつが可哀想だの、不幸だの言ってやがんだ!
テメェ一人をここに連れてくるだけで、何人怪我したと思ってやがんだ!
か弱い だと!?
あんだけ大暴れしておいて、どこの口がほざきやがる!」
男は声を張り上げ一気に捲し上げて睨みつけてきた
「いやーん、怖ーい、」
「だって、こんな人相の悪い男の中に、私の様な美少女が居たら何されるか分から無いじゃないの」
「これは、正当防衛よ、正当ぼ う え い ね(ハート)」
先ほどの澄んだ声から、一変して年相応の声で応える少女
「別に誰も死んでないし、大の男が細かいこと気にしちゃだめだと思うしー」
「まぁ、不幸中の幸い ってことで、こんな美少女と知り合えた幸せを神さまに感謝するくらい広い度胸を見せてほしいなー」
「よっ! お兄さんの心は軍隊アリの顔よりも広い!」
「全然広くねぇよ!!!」
突然態度の変わった少女に、さらに声を大にして言い返す男、
男は口をあんぐり開けて顔色は怒りの色に染まり始め、
心なしか頬の傷から再び血が流れだしているようにも見える
男がさらに言い返そうとしたとき、奥の方からカツカツと足音が聞こえてきた
「ちっ、お頭が来たぜ。 テメェの嘘くせぇ芝居を聞かされるのもようやく仕舞だ」
「なんでこんなところにテメェみたいなのが一人で来たのか知らねぇが、こちとら本当に大迷惑だぜ」
「神さまに感謝するどころか、怨みごとの一つでも言ってやりたいくらいだぜ!」」
「それもそうね、神さまなんてロクデナシには、どうぞ言ってやって頂戴」
「それじゃぁ、見張りご苦労さま~」
悪態をついても受け流されるだけの男を横目に手を振りながら、少女は奥からやってきた人物の方へと向きやる。
「ったく、どんな化け物が暴れたのかと思いきや、こんな嬢ちゃんだったとはな。」
「おい、てめえらなんてザマだよ、たった一人相手に手ひどくやられやがって」
お頭ににらまれた周囲の男どもは目をそらし、こちらを苦々しく見ながらも事実なので反論できないでいる
「でも、お頭・・・ こいつは相魔を使いやがるんですよ」
「それも、会っていきなりぶっ放してきやがって・・・」
「何人もぶっ飛ばされて、一通りやられてから、ようやく話しが出来たんでさぁ・・・」
口々にこちらをチラ見しながら、まるで猛獣におびえているような態度の男たち
「それに、見た目はまぁ一応整っちゃいますが、頭の中は絶対アレですぜ」
ん? こいつ今なんて言った?
他の男どもの外野からこそこそ話し出す
「あいつ、俺たちをぶっ飛ばしている時、めっちゃ嬉しそうに笑っていたのを見たぜ・・・」
「あぁ、あの綺麗な顔に一瞬騙されたら終わりだ。気づいたら空に飛ばされてたもんな・・・」
「地面に這いつくばっていた俺たちを見下ろしていた時のあの顔、おれ今晩夢に出るぜ・・・」
「確かに顔は悪くないが、俺としてはもう少し体の方のボリュームがないと・・・」
「お、それな。確かにもう少し、こぉボンっと出るところが出てないとな・・・」
「こらソコ!! 今なんて言った!! あぁ!!!」
「今度はお星さまにしてやるぞ ゴルァ!!!」
少女を怒りの顔を剥き出しに、外野の方を指さして凄む
「あー、俺の部下たちをこれ以上傷つけるのは勘弁してくれ」
「とりあえず、俺も一体どんな状況なのかよく分かってねぇんだ」
宥めすかすように、少女に向き合うお頭と呼ばれた男。
「ただ、お嬢ちゃんが俺たち相手に暴れまわったってことは分かる。
とりあえず、怪我だけで済んだみてぇだが、こっちとしてもただで返すわけにはいかない」
いまだに外野の男どもに今にも襲い掛かりそうな形相の少女がお頭に向き直る
「えぇ、そうね」
「あたしも悪かったとは思っているのよ、ちょっとした手違いっていうの?」
先ほどまでの鬼の形相を隠し、少しすまなそうに顔を傾けて話す少女
「おい、ガゼル、とりあえず何があったか説明しろ」
お頭と呼ばれた男の後ろにいる男に声をかける
「っていうか、そもそもなんで嬢ちゃんが、俺の部屋で寛いでんだ?」
ガゼルと呼ばれた、頬に傷のある男が ヘイ と返事し、どもりながら言葉を続ける。
「それが、あのー、こいつに一番いい部屋で待たせろって脅されて・・・」
「だって、私の様な美少女がこんな冷たい地面に座れるわけないじゃない!」
「それに、ここのトップと話をするなら、その部屋で待つのがみんなの手間が少なくていいじゃない ね」
「ね じゃ、ねーよ。 あーまぁいいや細かいことは。」
「お嬢ちゃん、お前さんにも話をしてもらうぜ」
「よ、さすが お頭の心は一角ウサギの額よりも広い!」
「全然広くねぇよ!!」
ガゼルと頭領がハモリながら突っ込む。
「はぁー、ほんとに今日はなんて日だよ、あっちでもこっちでも騒ぎばかりか・・・」
頭領は太い腕を組みながらため息をつきつつ、ガゼルと少女にこの状況についての話を聞き始めた。