デスロワイヤル体育祭
ぴいぃぃぃぃぃい！
甲高い笛の音と共に男子も女子もトラックの輪の外側から内側へと躍り出る。
その眼はどれも血走り、狩られる者など誰もいないかの様に見えた。
今日は高校の体育祭。
「やっちまえぇぇぇぇえ！！」
最終学年による最後の競技が始まり、親も親戚も果ては近所の連中まで見守りつつ一丸となって雄叫びを上げる。
毎年恒例の通称、デスロワイヤル。
その名を冠する通り、たった一人の強者を決める険しい競技である。
俺こと田中渥美もその中で、早速意中の子を血眼になって探していた。
その周りでは、早速相手の息の根を止めようと女子も男子も手練手管を繰り出している。
隣の席の山田は自分の人造まつ毛バシバシの二重をパチパチとうる瞬かせながら、ぐーにした手を口元に寄せ相田に、
「私っ、拓人君の事っ」
と肝心な事は言わない作戦を実行し、
隣のクラスの栗本は影で可愛ゆいと人気のあった眼鏡っ娘垣下に床ドンをしながら、
「俺の物になってよ」
と囁いている。
つか栗本はどーやって彼女を地面に？！
あ、垣下が栗本に抱きついた……あれはオチたな。
「俺実はずっと前から山田が好きだ！！」
観察中叫び声が聞こえて振り返ると、木下が彼女に抱き付きそれを剥がそうと争い始めたのを、山田がひっそりとほくそ笑んでいるのが確認出来た。
今は膨れ上がって団子状態、デスりがすげぇ。
勘のいい奴はこの辺でわかっただろう。
この競技は告りスリングといって相手を陥落させた者からイチ抜け出来るルールだ。
させられた側はある種敗者かもしれない。
だがしかしこれの勝敗は違う。
なぜならさせられた者も抜ける、というルールがあるからである。
次々と脱落者が出る中、俺は必死で隣の席のあの子を見つけようとトラックからはみ出さない様走りつつ探す。
見つけた！！
彼女、道中花恋はふわくるした栗毛色の背中まである髪を靡かせ、ちょうど目の前の相手にぴょこんとお辞儀をしながら、
「ごめんなさい、お友達以上には思えないの」
と、断りの言葉を告げていた。
そこにすかさず俺は、
「花恋！ 俺と付き合え！！」
と叫びながら登場し彼女を抱き込む。
しかし
「え？ なんで？ あっくんはただの幼馴染でしょ？」
と無邪気に言い捨て、花恋は手を払い除けると栗本の元へと駆けて行った。
遠くの方で、最後の組が手を繋いだのが見える。
俺はその場で絵文字のオーアールズィーよろしく崩れ落ち、その背に情け容赦なく吸盤付き優勝旗はスポンと付けられたのであった。
