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毒入りのアップルパイもしくは復讐の始まり

 何でも、できると思っていた。

 この恋の為なら、何だって。

「イザベラ」

「……はい」

 その名を呼ばれたのは、ずいぶんと久しぶりだった。

 あなたの何よりも綺麗な濃紺の瞳を、長い睫毛がそっと隠す。それはあなたが、隠し事をするときにする癖だった。


「君にアップルパイを用意させたんだ。好きだっただろう?」


 そう言って、あなたが差し出したのは、有名店の箔が付いた箱だった。

「まぁ嬉しい! ラルフ様、あなたからの贈り物だなんて」

 あぁ。そのアップルパイに毒が入っていなければ、どれだけ喜ぶことが出来ただろう。


 私は、泣きそうになりながら、それでも微笑を浮かべた。

「ありがとうございます」


 今までの、全て。

 あなたに、出会えたこと。

 恋を、したこと。


 その想いが決して返されることはなかったのだとしても。

 それでも、私は、とても幸せだった。


 微笑んだ私から、気まずそうに視線を逸らすと、あなたは執務があるからと去っていた。


「奥様」

「あら、どうしたの、メリー」

 侍女兼護衛のメリーが言いにくそうに、アップルパイの入った箱に視線を落とす。

「大変申し上げにくいのですが……」

「大丈夫よ、わかっているわ」


 このアップルパイ、毒入りでしょう?


 私がそういうと、メリーは、驚いたように目を丸くした。

「知っておられたのですか?」

「ふふ、腐っても侯爵夫人よ。それくらいわかるわ」

 ……といっても、私たちは白い結婚だから、本当の意味で、侯爵夫人にはなれなかったのだけれど。

「ほんっとうに、馬鹿よねぇ。平民の女に入れこんで、私が離縁に応じないからって、毒殺しようとするなんて」

 ――考えが、浅はかすぎるわ。


 それでも、私は、ラルフ様のことが好きだった。

 本気で、愛していたのだ。

「もちろん、毒入りなんて、食べないわ。……でも、そうね。私は、毒入りのアップルパイを食べたの」

「どういうことですか?」

「だから、メリー。協力してくれない?」


◇◇◇


 翌日から、私の復讐は始まった。

 アップルパイを『食べた』私は、高熱を出し、三日三晩寝込んだ。

 そして――。


「大丈夫かい、イザベラ」


 ベッドに横たわる私を、心配そうにのぞき込む旦那様。けれど、私は、その旦那様が私が死んでいないことに相当焦っていることに気づいている。


 私は、ここで瞳を潤ませ、上目遣いをして、旦那様を見た。

「あなたは、誰……ですか?」 


 かつてこの恋のためなら死ねるほど、愛したあなたに向ける、これは。

 

 ――愛おしくて幸福な復讐計画だ。

 


 それは、ここから始まった。


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