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うちの猫が強すぎる!  作者: シンカワ ジュン
第四章 お猫様とご主人さま
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お猫様は、己の己の未熟さを呪う【ΦωΦ】

 口の中に残っている神力を吐き出す。そしてそのまま続けて爪で神力を引っかいてやった。薄い布どころかティッシュくらい薄っぺらかったから、簡単に破ることができたわ。まあ、ティッシュみたいだったから口の中に残ってうっかり飲み込んじゃったんだけど。

 アタシのこの行動に驚いたのは、ウォルフだけでなくジャルもだった。


「マロンちゃん、いったい何を!?」

「うわすっげ、この獣オレの神力を食いやがった!」


 食べたくて食べたんじゃないわよ、失礼しちゃうわ!


「ニャア!」


 ウォルフに文句を言いつつアタシは体勢を整える。ちらりと横目でジャルを見ると、ウォルフの言った「オレの神力を食べた」って言葉に驚いたのか目を丸くしていた。


「え、神力を食べたですって? ちょ、そんな体に悪いものを食べてはいけません!」

「神力って一応魔力よりも癒しの力は強いはずなんだけどな~」


 若干ズレているようなやり取りを聞いて肩の力が抜ける。二人ともたぶん真面目に話をしているつもりなのかもしれないけれど。

 おっと、そんなことを気にしている場合じゃないわ。アタシはアタシがやるべきことをやらないとね。

 すっごくマズイ神力だったけど、飲み込んだおかげか力が湧いてくる。腐ってもカミサマって奴なのね、あのオス。

 ぐぐっ、とお腹の奥に力を入れて、アタシの体に取り込んだ力を全身に巡らせる。するとどうだ、今までよりももっと機敏に動けるようになった。


「ニャッ!」


 アタシは隙なく構えて、ウォルフがさりげなく今も生み出し続けている薄い神力を睨みつける。それがご主人さまの元へと向かう前に爪を立てて切り裂いた。


「やっぱり、精製前のオレの神力が視えてるな、この獣」


 なら、とウォルフは口角を上げると、薄い神力を四方八方に広げてきた。しかもその薄布みたいな神力からも金色の弾丸を生み出してこちらに飛ばしてくる。

 先ほどよりも攻撃が苛烈になったことで、ジャルも防御に専念するしかできないようだ。たぶん、この場にジャルだけならこの攻撃も脅威にはならないはずだ。だけど、アタシたちがいるから……特に、ご主人さまがいるから。守りに回らざるを得ないのだ。


「ほらほら、これならそこのチビもオレの神力を切り裂けないだろ?」


 ニヤニヤ笑うウォルフは本当に腹が立つ。しかし悔しいが奴の言う通りだ。アタシには奴の弾丸を防ぐ術がない。いくら機敏に動けるようになったとはいえ、この雨のような弾丸の全部を避け切れるとは到底思えない。

 悔しい、そんな言葉が脳裏を過った時、アタシの体を暖かい光が包み込んだ。


「ニャン?」

「マロンちゃん、あなたに強固な防御魔法を施しました」


 ジャルは目の前の敵を見据えたまま、しかしアタシにしっかりと語りかけてくる。


「マロンちゃんにはウォルフの神力が視えているのでしょう? そして、奴が何か企んでいることにも気が付いている」


 いつも通りの柔らかさの中にも真面目さを含んだ声で、ですから、とジャルは言葉を続けた。


「ウォルフの企みを阻止してください。あなただけが頼りです」


 寄せられた信頼の念を全身で感じ取ったアタシは、じわじわと全身が熱を持っていくことを自覚する。これは歓喜の熱だ。自慢の毛並みも興奮で逆立ってる。


「ニャ!」


 ジャルの期待に応えるためにもアタシは彼が作り出している防御壁を抜け出し、雨あられと降り注ぐ弾丸の中に身を投じた。

 いつもよりも軽い体はウォルフの放つ弾丸を避けることを可能にしている。もちろん全部を避けきれないけれど、痛みはほとんど感じない。これはジャルの防御魔法とやらがしっかりと機能していてる証拠だろう。


 これならいける。


 アタシは辺り一面に広げられたウォルフの神力を片っ端から破り捨てていく。だけどウォルフも黙っているわけはなくて、奴は破られた神力をすぐさま修正する。

     ΦωΦ


 そんなことを延々と繰り返していた時、ウォルフはまたニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべた。


「多少の知性はついたみたいだが、やっぱり獣は獣か」


 いったいどういう意味、と疑問を抱いたのも束の間のこと。

 アタシの視界の端に、まるで蜘蛛の糸みたいに細い神力がまっすぐにご主人様の元へ伸びているのが見えた。


 しまった!


 派手な攻撃に紛れて見逃してしまったそれを噛み切ろうと一歩踏み出した時にはもう遅かった。


「なんだと!」


 ジャルの悲鳴にも似た声がアタシの耳に突き刺さる。反射的にジャルの顔を見れば、彼の表情は焦燥の色に染まっていた。


 どうしてそんな顔をするのか。

 理由は嫌でも分かってしまった。


 だってそれは、アタシが神力の糸を見逃したと気付いた時から頭の片隅にチラついていたことだから。

 まるで繭のような神力の糸がウォルフの腕の中に収まる。それはあからさまなほどに人の形をしていた。


 しゅるりと糸が解けていく。


 その繭の中から現れたのは、未だ気絶しているご主人さまだった。

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