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うちの猫が強すぎる!  作者: シンカワ ジュン
第四章 お猫様とご主人さま
62/66

お猫様は、魔王と共闘する【ΦωΦ】

ΦωΦ


 ネコパンチをした時とは違う、確かな手応えがあった。


「!?」


 アタシの登場と引っ掻かれたことで驚いたのか、ウォルフは慌てて飛び退く。その飛び退いた先で、奴はアタシが爪を立てた指先をしげしげと眺めた。


「……傷付いた? オレが? こんな小さな獣の爪で?」


 ウォルフは目をまん丸にして、心底驚いたように呟いている。若干放心しているようにも見えた。

 だけど、これでようやく実感した。

 アタシの爪が……攻撃が届いた。これならウォルフに思いっきり噛みついてやれる。


「マロンちゃんがウォルフに傷を……?」


 なぜかジャルまで驚いている。どうしてそんなにビックリしているのかしら、なんて考えている暇はない。奴にウォルフにアタシの攻撃が通じると分かったのだから、また機会を窺わないと。

 アタシは一度大きく息を吐いてから、また身を低くする。全身の筋肉に力を漲らせて、いつでも飛びかかれるよう準備をするのだ。


 さっきから自分の指先を見つめて呆然としているウォルフだけど、見た目ほどの隙はない。むしろアタシが攻撃する前よりも警戒心が増しているような気がする。ジャルもそのことを感じ取ったのか、ぎし、という音が聞こえるくらいに拳を握り締めた。

 辺りの空気が張り詰めたように感じ始めて、十数秒。ウォルフが喉の奥から不快な笑い声を絞り出した。


「ヒヒッ」


 口の両端を吊り上げて、カミサマとは到底思えないような邪悪な表情を浮かべている。


「こいつは面白い! ジャル以外にもオレに傷を負わせることができる奴がいるなんて! それもこんな小さな獣が!」


 ゲラゲラと品のない笑い声を上げながら、ウォルフは血の滲む指先をべろりと舐める。


「そういや自分の血の味ってこんなだったけか」


 やたらと満足げに呟いたウォルフは、そのまま自然体に構えた。……やっぱり、隙は見えない。


 次は噛みついてやろうと思っていたけれど、これは骨が折れそうね。


 ウォルフの全身を包む神力が先ほどまでよりも強固になったのを見て、アタシはそんなことを考える。幸いこちらはアタシとジャルの二人がかりだから、どちらかに注意を引きつけることで攻撃を入れることはできるだろう。

 おそらくだけど、今はウォルフの注意はアタシに向いているだろう。それならアタシが奴の前に出て、ジャルが動きやすいようにしようかしらね。

 体を低くしたまま一歩踏み出す。すると、ジャルが小声でアタシに話しかけてきた。


「マロンちゃん、危険だと思ったらすぐに引いてください。あなたが怪我をすると、アイラさんが悲しみますからね。……本当はあなたにも安全な場所にいて欲しい。だけど、あなたの気持ちも痛いほどよく分かる」


 だから、頼りにしていますよ。


 いつも通りの暖かい声音に、アタシの体から余分な力が抜けたのが分かった。筋肉の強張りが取れて、いつものアタシらしいしなやかさが戻ってきたような気がする。


 うん、今なら思った通りに動けるわ。


 アタシは一足でウォルフの前に踊り出る。奴の金色の目がアタシの姿を映す。それと同じように、アタシの目もウォルフの姿を映す。


「お前、そんなに濃い神力纏ってたっけか?」

「ニャア」


 よく分からないけど、アタシは濃い神力を纏っているらしい。でもそんなことはどうでもいいわ。ウォルフをぶっ飛ばせるなら、なんでも使ってやるんだから。

 それに、この濃い神力とやらに気を取られてくれるのなら、こちらとしても好都合よ。少なくとも奴の関心はジャルよりもアタシにあるっていうことだから。

 ウォルフの腕がアタシへと伸びてくる。その腕を避けながら、ウォルフがジャルに背中を向けるように誘導する。そうすると、ウォルフの向こう側で魔力が瞬間的に膨らんだのが分かった。だからアタシは横に飛ぶ。ウォルフがおや、なんて呟く間も無く、奴の体が吹っ飛んだ。


「チッ、相変わらず瞬間的な防御が抜群に上手いな」


 右手を前に突き出したまま、ジャルが憎々しげに呟く。これに対し、ウォルフはかははと笑った。


「ジャルに褒めて貰えるのは嬉しいねぇ」


 派手に吹っ飛んだにも関わらず、ウォルフはピンピンしていた。殴られたらしい箇所をちょっと摩っていたけど、特にダメージを受けた様子はない。本当に憎たらしいオスだわ。


「それにしても、なかなかの連携じゃないか。あのジャルがまさかこんな小さい獣と一緒に戦ってるなんてさ」

「マロンちゃんは心強い味方だからな」

「こんな神力塗れの獣を心強い味方だって言うのか! 魔王が聞いて呆れるよ」

「なんとでも言え。だが、マロンちゃんのことを侮辱するのは許せない」

「あの人族の娘が大事にしてるから?」


 ウォルフが何気なく放った言葉を聞いて、ジャルの全身から怒気と殺気が放たれる。それこそアタシでも身震いするくらいの気配だった。野生で生きていたら、こんな殺気にも耐えられるようになっていたのかしら。

 アタシのそんな考えを遮るように、ジャルがおもむろに口を開いた。


「お前の口からアイラさんに関わることが出てくることがこんなにも気に食わないとは思わなかったぞ」


 ジャルの右手に今まで見たこともないような魔力が凝縮されていく。あれは相当に危険なものだ。だって、アタシの意思を無視して全身の毛が逆立っているんだから。

 だけどウォルフはそれに気が付いていないみたいで、ヘラヘラと笑っている。


「おお、こわ。まさか魔王が人族の女にこんなに執心してるなんてよ」

「私も正しく魔王だったというだけだ」

「……! ハハッ、そうか! そういえばそうだった! そういや最近だっけ? あの話がだいぶアレンジされて本になったのって。あれ、始まりの魔王の日記が元になってるんだっけ?」


 ウォルフが何かを尋ねたけれど、ジャルは無言で凝縮された魔力を纏わせた右手を振り抜く。いつの間にかウォルフの眼前に迫っていたジャルの右手だったが、奴が瞬間的に神力を集めたために阻まれてしまう。だけど、さすがにジャルの凝縮された魔力の方が強かったらしい。

 ウォルフの神力の盾を突き破り、ジャルは奴の顔面に凶悪な拳を叩き込んだ。

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