お猫様は、目的地まで案内する【ΦωΦ】
ΦωΦ
ジャルたちはしばらく何やら言い合っていたけど、それのおかげかさっきまでのピリピリとした空気が幾分か和らいでいた。そうね、緊張しすぎるのも良くないから、これはいい傾向ね。
もちろんここは敵地だから気が緩みすぎるのもダメだと思うけれど、適度なリラックスは必要よ。アタシだって、狩りをする時は獲物に気取られないように、直前までは警戒されないように体の力を抜いているもの。
それはそうと、まずはこの鉄の部屋から出ないとね。
「ニャア」
アタシが声を掛けて、たぶん扉だと思う所の前に向かうと、ジャルたちもハッとなって顔を上げた。
「こんなことをしている場合ではありませんでした。アイラさんを救出に向かいましょう」
「そうだね」
「とは言うが、ウォルフの居場所が分かるのか?」
ダニーの言葉を受けて、ジャルがぐっ、と押し黙る。
「それについては……もう神力の気配を探ることはできません。勘で進むしかないでしょう」
あら、ジャルたちにはウォルフの居場所が分からないのかしら? それならアタシが案内してあげないと。なんでかはよく分からないけれど、あの白い球体から感じた嫌な気配とニオイのする方向がアタシには分かるから。
はじめは扉をジャルに開けてもらおうと思ったけれど、すぐに自分で開けようと思い至る。ちょっと鬱憤も溜まってるしちょうどいいわ。
アタシは重そうな鉄の扉に向かって、思いっきりネコパンチをした。すると、まるで軽いおもちゃを弾くかのように扉が豪快に吹っ飛んでいく。なんか扉の向こうの壁に穴が空いたような気もするけれど、それはそれでスッキリするわね。
「ニャン!」
さあ、行くわよ!
そう声を掛けながら後ろを振り返ると、ジャルたちがポカンとした表情でアタシを見つめていた。
「うわ、話には聞いてたけどこれは引くわ……」
「一応言っておくけれど、直接叩かれる分には別に大したダメージはないよ? まあ、二次被害がないとは言ってないけれど」
「あんな重たそうな扉が自分に向かって吹っ飛んできたらさすがにヤバいだろ」
「それはさすがに想定してなかったかな!」
ダニーとサディが何やらわいわいと喋っている。ふふん、アタシのネコパンチはすごいでしょ。
でも、そうね。ウォルフにはアタシのネコパンチが効かなかったけれど、こうして別のものをぶつけることはできるんじゃないかしら? 会ったら試してみなくちゃ。もちろん、ご主人さまに危険が及ばないようにしないとね。
「ニャッ」
さて、やりたいことも明確にまとまってきたし、先に進むわよ。
アタシは部屋から出て嫌な気配がする方向へと足を進める。少し歩いては後ろを向くということを繰り返していると、ジャルはアタシの気持ちが分かったらしい。
「付いてきて欲しい、と言っているのですか?」
「ニャオ」
そうよ、と答えると、ジャルはフッと小さく笑った。
「分かりました。それでは、案内はマロンちゃんに任せますね。ああでも、少しでも危険を察知したら私の後ろに隠れてください。いいですね?」
いつも通りの優しい口調。うんうん、やっぱりジャルはこうでなくちゃ。あんまりピリピリしてたら、ご主人さまも驚いちゃうもの。
「ニャ」
ジャルの申し出を素直に聞き入れつつ、アタシはウォルフがいるであろう場所を目指した。
特にこれといった危険や異変はないままに、アタシたちはとても大きな扉の前へと辿り着いた。鈍く光るその扉はやはり金属でできているみたいで、普通の人間ではとてもじゃないけれど開けられそうもないくらいに重そうだ。
でも、この扉の先にウォルフはいるわ。だって、嫌な気配とニオイがプンプンしているもの。そしてもちろん、ご主人さまもいる。アタシの大好きな気配がするもの。
そうなると、扉を吹っ飛ばすのはさすがにやめた方がいいわね。ご主人さまを巻き込みかねないわ。
そう思いアタシは扉をカリカリと引っ掻く。どうやらこれだけでジャルには意図が伝わったみたいで、彼は分かりました、と頷いた。
「マロンちゃん、こちらに」
ジャルはそう言ってアタシを抱き上げると、目の前の重そうな扉に手を掛ける。そして力を込めたかと思うと、いとも簡単に開けてしまった。しかも片手よ、片手。やっぱりジャルはすごいわね。ご主人さまの番にするなら、こういう強いオスが一番よ。
今度ご主人さまにおすすめしなきゃ、なんて、ちょっとこの場にはそぐわないことを考えていたアタシは、突然感じたまぶしさに思わず目を閉じた。
何かしら? ウォルフの嫌なニオイに混じるのは、アタシの好きな草の匂いと、これはたぶん花の香り。そよそよと吹く風は心地良くて、カサカサという草同士が擦れる音をアタシの耳に運んでくる。
もしかして、アタシたちは外に出たのかしら?
目を光りに慣らすために、何度かパチパチする。そうして少しずつ、ぼやけていた視界が広がって、アタシたちが今どこにいるのか、ようやく理解できた。
広い広い花畑だった。小さな白い花が風に揺れていて、まるで一面雲の絨毯のよう。テレビの向こうでしか見たことのない景色だわ。
気温も暑くもなく寒くもない絶妙さ。日の光がぽかぽかしてて、きっと気持ちよくお昼寝できると思えるそんな花畑の中心に、ヤツはいた。
「やっほー、待ってたよ」
いけ好かないヤロウの声が耳に届く。相変わらずニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべているウォルフは花畑の中心に座っていて、その隣にご主人さまが倒れていた。
「ニャア!」
アタシはいてもたってもいられずにジャルの腕から抜け出す。あまりの怒りにフウフウと鼻息が荒くなっているのも自覚する。
ようやく見付けたわ。絶対にめちゃくちゃに引っ掻いて、アンタが後悔するくらいにガブガブと噛み付いてやるんだから。




