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うちの猫が強すぎる!  作者: シンカワ ジュン
第三章 魔王様の専属シェフとお猫様の日常
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魔王様の専属シェフは、先々代の神王と対面する

「ククッ、そんな怖い顔しないでくれよ。それにしても、オレの名前知ってるんだな。いやあ、嬉しいねぇ! なになに、そんなにオレのこと気になってたの?」

「いや、全然」


 あまりにも馴れ馴れしく接してくるウォルフ様に対して、私はうっかり失礼な態度を取ってしまう。まがりなりにも相手は先々代の神王様だというのに。だけど、やはりこの目の前に立つ神物(じんぶつ)を敬おうという気持ちはこれっぽっちも起こらなかった。

 私のこの塩対応に、ウォルフ様は気を悪く……されている様子は微塵も感じられない。むしろ面白いと声を上げて笑っている。


「アッハッハ! いやあ、ここまで雑な扱いは何百年ぶりだろうか!」

「はあ」

「さすがはジャルガ=ティルガに気に入られていることだけはあるねぇ。お前、今はジャルの専属料理人なんだろう? オレに対する態度が主従でそっくりだ」

「えっ?」


 ウォルフ様の口からジャル様の名前が出てきて、私の思考が一瞬停止した。


 どうしてウォルフ様は私がジャル様の専属シェフをやっていることを知っているんだろう?


 私のこの考えを不思議な神様パワーで読み取ったのだろうか、それとも傍目から見ても分かりやすかったのか。ウォルフ様は笑いを噛み殺しながらあっさりと疑問に答えてくれた。


「お前たちの話はぜーんぶ……マロンっていうんだっけ? コイツを通して聞いていたんだぜ?」

「え、盗聴とか気持ち悪い」

「はっきり言ってくれてありがとさん」


 ウォルフ様はケラケラと笑っているが、こっちからしてみればまったくもって笑えない。というか、うちの可愛いマロンになんてことしてくれてんだこの野郎。しかも全部聞いていたって? それってつまり、私のプライバシーはここ最近のものは全て筒抜けだったということだ。


 右手を背中側に隠すように持っていき、怒りのまま握り拳を作る。いくら不敬と言われようとも、このスカした神を一発は殴らないと気が済まない。

 私は頭に血が上るのを自覚しつつも、殴りたい対象にマロンが捕まっているので必死に我慢をする。ウォルフ様は私が何も言わないのをいいことに、聞いてもいないことをペラペラと喋り始めた。


「ホントはお前に聞き耳の秘術を施そうと思ったんだが、ヒトってのは思考に雑念が多くて上手く聞き取れないからなぁ。だからコイツにオルカリムを与えるついでに秘術を施した」

「ニウゥウウウゥ」


 ウォルフ様によってプラプラと雑に揺らされたからか、マロンが不機嫌丸出しの鳴き声を漏らす。フウフウと鼻息も荒い。これは相当怒っている時の仕草だ。

 というか、今さらっと聞き捨てならないことを言わなかったかこの神様。私に聞き耳の秘術を施そうと思ってたって? それってつまり、私のおはようからおやすみまでを盗聴しようとしてたってことだよね? トイレやお風呂中の音すらも聞こうとしてたってことだよね?


 ……気持ち悪い以外の何ものでもないんだけど!


 私のプライベートが知らぬ間に侵されていた事実を聞いて、全身に鳥肌が立った。この世界に産声を上げてからずっと盗聴されていたわけではないのは、不幸中の幸いだったのかもしれない。いや、マロンと再会してからは私生活が筒抜けだったという事実は変わらないけれども。

 今この場にジャル様やサディさん、リオン様、ダニーさんがいたら、まず間違いなく私の心の底からの叫びに同調してくれただろう。あとウォルフ様にしっかりと抗議もしてついでに制裁も加えてくれていたかもしれない。

 そんなことを考えながら半分現実逃避をしていると、ウォルフ様はマロンが怒っていることに気付いていないのか、それとも気にしていないのか。彼は更に話を続けた。


「コイツもコイツでオルカリムを与えた弊害か、ただの獣にしては雑念が多くてなぁ。ま、ヒトに比べたら静かなもんだから、内容を聞く分には特に困らなかったけどな」

「ニャウウウ」


 マロンの瞳孔が開いてまん丸になっている。これはもう怒りが爆発するのも時間の問題だ。

 それよりも、さっきのウォルフ様の話を聞いて気になったことがある。

 オルカリムを与えた弊害で、マロンの雑念が多くなった? それってつまり、マロンはオルカリムを与えられる前よりも賢くなったということなのだろうか。

 確かにマロンは元々賢い子だったけど、この世界で再会してからは更に頭が良くなっていたと感じていたのだ。私の言葉も理解しているような場面も多かったし。まあ、お猫様としての性質は変わることはなかったけれど。


 そう、お猫様としての性質は変わらない。


 つまり、マロンの怒りが頂点に達した時、懐いていない人……私やジャル様じゃない人に対して行う動作はただ一つ。


「フシャー!」


 猫パンチだ


 マロンはもう我慢できないと言わんばかりにグネグネと体を動かし暴れ、ウォルフ様の拘束から抜け出す。そして地面に着地するなりウォルフ様の方に体を向け、目にも止まらぬ早さで右手を突き出した。

 魔獣だけでなく魔族の人たちさえも吹き飛ばす強力な猫パンチがウォルフ様に繰り出される。


 そうして、パシンッ、と。


 やけにいい音だけが私の耳に届いた。

 そう、音だけが。


 今まで見てきたはずの光景とは全く違うものが私の目に映り混乱してしまう。


 どうしてウォルフ様は無事なの?


 そんな考えが脳裏を過った時、ウォルフ様の口からおかしくて仕方がないといったふうの笑い声が漏れ出た。


「ククッ、バカだなぁ」


 黄金の瞳がいやらしく歪む。


「オレを害することができる力を、わざわざ他者に与えるはずがないだろう?」

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