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第二部 VS氷取沢女学院 エピローグ  鶴川高校

挿絵(By みてみん)




エピローグ  鶴川高校




「……なんか今日、見物客が多くないニャ?」


「……それは自分も感じていたであります」


氷取沢女学院との激闘から二日が経ち、前日は休養も兼ねて、準決勝の相手チームの分析と


ミーティングのみで終わらせた鶴川女子野球部は再び練習を再開したのだが――


いつもの河川敷での練習場に起こった変化に、ののあと海帆だけでなく、一緒にランニングを


続ける女子野球部全員が気づいていた。


準々決勝の前までは天端を歩く人が偶然気づいた練習風景に足を止めて眺めていくということは


あったが、今のように二桁を超える見物人が同時に集まったことなどなかった。


半数以上は鶴川高校の制服を着た生徒だが、近隣の他校の学生服を着た者も混ざっている。


さらには子供からお年寄りまで加わるなどその年齢層は幅広い。


「これはあれニャ?ののあ達、すっかり有名人になってしまったニャ?」


「そ、そんな!自分が有名人なんて恐れ多いであります!」


「でも試合がテレビ中継されたり、注目されてるのは間違いなさそうデース」


「そういえば、さっき陽菜はサイン求められてたよな」


「ニャ⁉ ののあはそんなの言われてないニャ!ピヨっちだけズルいニャ!」


「……あんなのただ自分の名前を書くだけでしょ。そんな物を欲しがる意味が分からないわ」


「ですがイメージは大事ですわよ。特に個人が簡単に情報を流せる今の時代では、ファンへの


対応一つで面倒なことにもなりますもの」


「風見さんも沢山の人から握手を求められてて凄かったです!」


「いやいやいや。あれは自分から握手しに行ってたような……」


「笹川殿。そこは見て見ぬふりをするのが情けというものだぞ」


「はいはい、喋りながら走らないの。そんだけ余裕があるならもう10周追加する?」


『す、すみませんでした!』


最後尾からランニングを追走していた沙希が言葉の鞭で尻を叩くと、教え子達は真剣な表情に


戻って走ることだけに集中し直す。


やれやれと沙希は思いながらも、彼女達の浮つく気持ちも分からなくはなかった。


実際、優勝候補の一角であった氷取沢女学院に勝利したことで鶴川高校への注目度は


一層高まったし、チームとしてもこれまで以上に自信を得ただろう。


浮かれるなという方が無理なほどの大仕事を成し遂げたのである。沙希だって本当は手放しで


褒めてやりたかった。


けれど、戦いはまだ終わってはいないのだ。


県大会を制するにはまだ二試合も残っている。勝利を喜ぶのはいいが、気を緩めすぎたまま


勝ち抜けるほどこれからの戦いは甘くはない。


それは指揮官である自分も同じであり、だからこそ率先して自身を律せねばならないと沙希は


考えていた。


「お~い、沙希~~」


――と、そこで聞きなれた声で名前を呼ばれ、沙希は走り続けながらそちらへと顔を向ける。


すると予想通り、そこにはジャージ姿の久美がいた。そしてその手で何やら大量のダンボール箱


を積んだ台車を押しているのにも気づく。


沙希はランニングを続ける集団から抜けると、そのままの足取りで久美のもとへと向かった。


「ごめん、ちょっと荷物運ぶの手伝ってくんない?」


「それは構わないけど……なんなの、この大量の飲み物は」


近づいたことで、久美が運んでいたダンボールに印刷されているのが水やスポーツドリンクの


商品名であったことに気づく。


「差し入れよ。さ・し・い・れ」


「差し入れぇ?あんたがぁ?」


今までそんな気の利いた真似をしたことがない久美を怪訝そうな目で見る沙希。


すると久美はそんな視線にお構いなく、「ええそうよ。感謝しなさい」とドヤ顔で


ふんぞり返ってみせた。


「……と言いたいところだけど、私からだけじゃないのよねぇ」


しかしあっさりネタばらしをすると、ダンボール箱に貼られた宅急便の送り状を指さした。


誘導されるがままに沙希が送り状に書かれている文字を覗き込むと――その瞬間、驚きで目を


見開いた。


「く、久美!これの送り主って⁉」


「驚くのはまだ早いわよ。他のも見てみなさいな」


言われるまま他のダンボールにも貼られていた送り状に目を通していくと、そこには沙希が


まさかと思いながらも予想した通りのものが書かれていた。


かつて共に女子野球部で戦ったチームメイトの名前。それがそこにはあった。


「みんな一昨日の試合をテレビで見たらしくってね。いやぁ、電話で怒られまくったわよ。


なんで教えてくれなかったんだ!ってさ」


「ご、ごめん……私のせいで……。ってか、なんで久美のとこに電話がいくわけ……?」


「あんたが私と百合香以外に携帯変えた後の番号を教えてないせいでしょうが」


「あ……」


「まぁ私の場合は家の商売柄、毎年みんなに年賀状を出してたからってのもあるけどさ。


ともかく事情を説明したらみんな納得してくれたけど、それでも久しぶりに揃って話が


したいって言ってたわよ」


「……うん……」


未だかつてのチームメイトに対する負い目が払拭しきれていないのを久美はその返事で


察すると、やれやれと肩をすくめてみせた。


「まっ、そんな訳で自分も何か今の女子野球部の力になれないかってみんなして言って


くれてね。この通り、飲み物の差し入れをしてくれたってわけ」


「そうなんだ……」


「ああ、でも優からだけは連絡がなかったのよねぇ……。


こっちから連絡取ろうにも住所も変わって音信不通だし、今はどこで何をやってるのやら」


「お姉様でしたら、今はイタリアでデザイナーの仕事をなさってますわよ」


「へぇ。そうなの?」


と、そこでランニングを終えた奈月達が久美に挨拶をしながら歩み寄ってきていた。


その集団の中にいた雅が聞こえていた二人の会話に割って入ると――


「ん……?雅……あなた今なんて言った?」


「ですから風見 優はわたくしの姉ですわ」


「マジで……?」


「マジですわ」


雅がノータイムで言い返してきたのを見届けてから、沙希と久美は『ええええええええ⁉』と


同時に驚愕させた大声を上げると顔を見合わせた。


「え?えっ⁉ で、でも優って全然お嬢様って感じじゃ……」


「そ、そうよね。雅ちゃんみたいなお嬢様口調じゃなかったし、メイドさんとかも傍に控えて


なかったし……。それに卒業アルバムに載ってた住所だってその辺にある普通のアパートだった


はずよね……」


「お姉様はわたくし以上に完璧主義者ですから。高校に通っていた時は完全に風見の人間と


いうことを隠しきって一般人を演じていらしたのでしょう」


「そうは言われても、あの優がお嬢様……ねぇ」


「正直、私も信じられないわ……」


二人にとっての姉がどのような存在であったのか気にはなる雅であったが、これ以上は練習の


妨げになると判断すると千代を呼び出し、


「ともあれ、お姉様の連絡先でしたらこちらになりますわ」


現在の住所と電話番号、さらにはメールアドレスまで書かれたメモを二人にそれぞれ


差し出させた。


「あ、これはご丁寧にどうも……」


名刺を受け取るように沙希と久美が腰を低くしながらそれを受け取ると、千代は一礼して


再び姿を消す。


「それで、今日はどうしますの?」


「ん?どうって?」


「練習メニューですわ」


呆れたように肩をすくめる雅を見て、沙希は「あ、ああ……そうね」と監督としての顔つきを


取り戻す。


「準決勝まで時間はありませんのよ。1秒たりとも無駄にしている余裕など無いのでは


なくて?」


「おい!先生に対してその口の利き方は――」


「いいのよ梓。雅の言う通りだわ。ごめんなさいね」


沙希は雅に対して一言謝罪の言葉を述べると、投手と捕手、内野陣、外野陣ごとに分けた


次の練習の指示を出す。


ポジションごとに散っていく教え子達を見送る沙希の顔を、隣にいた久美が覗き込み、


「どしたの?怒られたくせになんか嬉しそうじゃない」


「いやね。あの物怖じしない性格は確かに優の妹だなって思ってさ」


「ああ……そういえばあの子もああいうタイプだったわよねぇ」


当時のことを思い出し、かつてのチームメイトの姿を雅に重ねて二人は笑い合う。


そんな彼女が次の試合の鍵を握ることになるとは、この時はまだ知る由もなかった。



【第二部 VS氷取沢女学院編  完】

ここで一旦、第二部 VS氷取沢女学院編は終わりとなります。


続きとなります、VS陣馬高校編は現在のろのろと執筆中ですので、


期待せずに長い目でお待ち下されば幸いです。


また、ここまでの感想・レビュー・評価などを頂ければ今後の励みになりますので、


是非とも宜しくお願い致します。


最後となりましたが、ここまでお読み頂きました読者様に最大限の感謝を込めて。


本当にありがとうございました。そして、お疲れ様でした。

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