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第二部 VS氷取沢女学院 エピローグ  氷取沢女学院

挿絵(By みてみん)




エピローグ  氷取沢女学院




準々決勝の翌日――氷取沢女子野球部 専用グラウンド。


ユニフォーム姿の二年生と一年生がそれぞれ前後一列ずつに並ぶその前に、一人だけ制服姿の


菫が一歩踏み出す。


「まず始めに――今年も氷取沢女子野球部が全国へ行けなかった責任は、主将を任されながら


皆の力になれなかった私にあるわ。……最後まで頼りない主将で本当にごめんなさい」


「そ、そんな!菫先輩が謝る必要なんてありませんよ‼」


頭を下げる菫に向かって椿が慌てて声を上げ、それに続くように二年生全員が。そして一年生


全員も菫の言葉を否定する。


それでも菫はすぐに顔を上げようとせず、しばらくの間そのままでい続けた。


「ありがとう。でも現に今も私はこうしてあなた達に支えられてしまっているわ」


そこでやっと菫は顔を上げ、


「本当……主将失格ね」


眉の下がった困り顔のまま、目の端に涙を光らせ微笑んだ。


「失格ついでに、最後に一つだけ我儘を言わせて」


その涙を指先で拭い、


「来年こそ全国に行ってね。大丈夫、あなた達は強い。あなた達なら出来るわ」


そして最後に、自分と後輩達との距離よりも少し離れた場所に立つ梨花へと振り返る。


自分にもう一度野球をするチャンスを与えてくれた恩師は珍しく驚いた顔をしたが、


フッと笑うとすぐにいつもの顔に戻り、自分にその必要はないと首を振って伝えたてきた。


いかにも梨花らしい振る舞いに菫もクスっと笑うと、再び後輩達へと向き直る。


けれど言葉は梨花にも向けたまま紡いでいった。


「このチームで野球が出来たことは私にとってかけがえのないの宝物でした。


今まで本当に……本当にありがとうございました」


「うおおおおおぉぉぉぉ!菫先輩に拍手ぅぅぅぅぅぅ‼ほら一年‼拍手が小さいじゃん‼」


「や、やめて椿!そういうの恥ずかしいから本当にやめて‼」


号泣しながら率先して誰よりも大きな拍手をする椿を、耳まで顔を真っ赤にさせながら慌てて


静止させようとする菫。


しかしそれでも椿は止まらず、結局は彼女の気が済むまで続けさせるしかなかった。






「そ、それで次の主将なのだけど……」


そう言うと菫は少し疲れた顔でこほんと一つ咳ばらいをしてから、一列に並んだ二年生達の


顔を左から順に一人一人見ていく。


そして右端に並ぶ佳乃まで見終わると、顔の向きを正面に立つ椿へと戻し、目を合わせて


微笑んだ。


(す、菫先輩……!やっぱりそうですよね⁉新しい主将はあたししかいないって、菫先輩なら


そう言ってくれると信じてました!)


感激で目を輝かせながら、確信へと変わった主将任命の言葉を待つ椿。


そして菫が口を開いていき――


「山吹さん。あなたにお願いするわ」


椿は盛大にずっこけた。


「わ、私……ですか?」


「ええ。この二年間、誰よりもチームのために尽くしてくれていたあなたこそ、次の主将に


相応しいと思うの」


「で、でも……私では菫先輩みたいな主将になんてなれませんよ……」


「そ、そうじゃん佳乃!中学の時はあたしが主将だったんだし、あの時と同じメンバーなら


今回もあたしが主将をやったほうがいいに決まってるじゃん⁉」


「いやー、私は佳乃が主将でいいと思うぜー」


「絵里香⁉あたしを裏切るつもり⁉」


「だってよー、椿が中学の時に主将をやってたって言っても空回りしまくりだったし、


その度に尻ぬぐいしてた佳乃のほうがよっぽど主将らしかったしなー」


「だな。椿ってプレーで周りを引っ張れるけど、主将ってタイプじゃねぇよな。


どっちかっていうとあれだ、特攻隊長」


純の例えに付き合いの長い二年生だけでなく、一年生までもが腑に落ちた顔で「ああ……」と


納得してみせた。


「な、なんだよ一年まで!そんなにあたしが主将じゃ不服じゃん⁉」


「おい。橋本」


それでも引き下がらない椿へと、ついに梨花が口を開き、


「少し黙れ」


「は、はい……」


蛇に睨まれた蛙とはこういうものだと、他の教え子に示して見せた。


「山吹さん。これは私だけの考えじゃなくて、監督とも話し合った上で決めたことなの」


「監督とも……」


「それに私を真似る必要なんてないわ。むしろ私は全国へ行くことが出来なかった主将なの


だから反面教師にするべきよ」


「そ、そんな!菫先輩を否定するようなことなんて、それこそ私には出来ません!


皆だってそのはずです!」


「なら川島から受け継ぐべき部分だけを受け継ぎ、後はお前なりのやり方でチームをまとめて


いけばいい」


「監督……」


「山吹さんと私は違うわ。私にしか出来なかった主将としてのやり方があるのなら、


山吹さんにしか出来ない主将のやり方だってあるとは思わない?」


そう言うと菫は微笑んだ顔で佳乃を見つめ、言葉を紡ぐ。


「大丈夫。私だって独りで主将をしていた訳じゃないわ。


そしてあなたにも、支えてくれる素晴らしい仲間がいるはずよ」


「私の……仲間……」


呟き、横に並ぶ中学時代からの仲間達と、後ろに控える高校時代からの新たな仲間達を見た。


すると逆に彼女達からは信頼が込められた目で見つめ返され、佳乃が新たなリーダーとなること


を望んでいるのが分かった。……若干一名ほど、未だ不服そうな顔をしている者もいたが。


「……分かりました。正直に言えば自信は有りませんが、皆と一緒に氷取沢女子野球部の


名に……そして菫先輩にも恥ずかしくないチームを目指したいと思います!」


「ええ。私もいつだって相談に乗るし、必要なら練習も見に来るから」


「そんな!たまになんて言わずに毎日来て下さいよ!なんなら卒業後は新しい監督に……」


そこまで言って、椿は自分に向けられた突き刺すような一本の視線に気づいた。


「ほぉ……?橋本はあたしが監督じゃ不満か?」


「い、いえ……そ、そそそんなことは言ってませんて……。な、なぁ!みんな⁉」


椿が助けを求めると、苦笑いを浮かべる佳乃以外のチームメイトは一斉に顔ごと目を逸らした。


「お前らぁ~~⁉」


「橋本」


「は、はひい!」


「もう一度聞くぞ。あたしと川島。どっちが監督でいてほしい?」


「も、もちろん土屋監督です!」


「よーし!追加メニューはグラウンド10周で許してやる!よーい……ゴー!」


「くそぉぉぉ!後で覚えてろよお前らぁぁぁぁぁ‼」


捨て台詞を残しながら走り出した椿を見て、笑いが起こる。


こうして氷取沢女子野球部の夏は終わり――


新たな夏に向かって、走り始めた。



【続く】

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