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第二部 VS氷取沢女学院 第十一章 2

挿絵(By みてみん)




「よーし、ダウンは終わったわね?」


試合終了後――関係者入口前。


球場の外に出てからストレッチを終えた教え子達に沙希が問いかけると、元気の良い返事が


返ってきた。


「じゃあ学校に戻って試合の反省会をするわよ。久美にお昼ご飯を届けさせるように


頼んであるから、それを食べながらね」


『はい!』


各自が荷物を持ち、帰り道へと移動を始めようとすると、


「奈月~~!」


楽器が入ったケースを手に持ちながらこちらへと走ってくる少女が二人。仁美と春香だ。


「見つかってよかったぁ~。選手がどこから出てくるのか分からなかったから


走りまくっちゃったよぉ~」


「だ、だからスマホで連絡しようって言ったじゃない……」


軽く息を弾ませるだけの仁美と肩で息をする春香。体力の差を見せながら、余裕のある仁美は


奈月に向かってニコッと笑いかけ、


「準決勝進出おめでとう!凄いよ!あの氷取沢を倒しちゃうなんてさぁ‼」


「ありがとうございます!仁美ちゃんと泉さんも応援ありがとうございました!」


『ありがとうございました‼』


奈月が頭を下げて礼を述べると、それに倣って女子野球部全員も続く。


それに驚いた仁美と春香は「わわっ⁉」と驚きを声に出しながら思わず後ずさった。


「そ、そんな!私達なんて二人だけだし、向こうの応援団と比べたらお礼を言われるような


応援なんて出来なかったし……」


「そんなことない!」


否定の言葉が聞こえたと思った瞬間には、仁美の体は抱きしめられていた。


「ひゃっ⁉ き、喜美⁉」


「仁美の応援があったから、あたしはあそこで心を折らずにいられた……。


ありがとう……ありがとう仁美……」


「……キマシタワー?」


「茶化すな!」


春香に向かって仁美は怒鳴ると、どうしたものかと困った顔になりながらも喜美の背中に手を


回し、優しくポンポンと叩いた。


「正直言ってどっちが勝ってもおかしくなかった紙一重の勝利だったし、あなた達の応援が


勝利の後押しになったのは本当よ。私からもお礼を言わせてもらうわ」


「せ、先生にまでそう言われると……あはは、ちょっと調子に乗っちゃうかも……」


喜美に抱きしめられたまま春香へと照れた顔を向けると、彼女も照れくさそうにはにかんだ。


こうして鶴川女子野球部としてだけでなく、鶴川高校として皆で掴んだ勝利の余韻を分かち


合っていると――


「鶴川高校さん」


校名を呼ばれ、全員がそちらへと顔を向ける。


するとそこには千羽鶴を両手で持った菫と目を真っ赤に泣き腫らした椿が立っていた。


「準決勝進出おめでとうございます。全員一年生とは思えないくらい本当に強かったです」


「あっ、は、はい!あ、ありがとございます!」


自分の前に菫が歩み寄ってきたので、奈月は反射的にお辞儀をする。


すると、頭を下げたその視線の先に、菫が手にしていた千羽鶴がそっと差し出された。


「これ……うちの一年生が折ってくれた物なんです。勝手なお願いで申し訳ないのですが、


これを受け取ってはもらえないでしょうか」


「これを……ですか?」


「はい。ご迷惑でなければですが」


「そ、そんな!迷惑だなんてとんでもないです!


で、でもそんな大事な物……本当に私達が貰ってしまってもいいんでしょうか……?」


「鶴川高校さんだからこそ、これを託したいんです」


その言葉に、奈月は思わず下に向けたままであった顔を上げた。


すると菫は初めて出会った時と同じ優しい微笑みを浮かべ、奈月の手を取って千羽鶴を乗せる。


「あなた達が全国へ行けるように、私達にもその千羽鶴を通して応援させて下さい」


「――――‼」


紙で作られた物なのに、まるで鉄の塊でも持ったかのような重みが両腕にかかる。自分が今


感じているその重みの意味を、奈月には理解できた。


本当ならば氷取沢女子野球部が自分達の手で全国へと持っていくはずだった千羽鶴。


その可能性を奪ったのは誰でもない――自分達なのだ。


ならば自分達には責任が有る。


菫達の夏を終わらせてしまった代償として、この千羽鶴に込められた全ての想いを受け継ぐ――


勝者としての責任が。


「……分かりました。この千羽鶴……預からせて下さい。


絶対とは言えませんけど、一緒に全国大会へ行けるように出来る限り努力します!」


「ありがとうございます。では私達はこれで。準決勝、頑張って下さいね」


そう言って菫がお辞儀をした――その時だった。


「……お前ら!」


それまで一言も発することなく顔をうつむかせていただけだった椿が突然口を開いた。


「あたしと菫先輩の最後の夏を終わらせたんだ……!絶対に全国行って……優勝しないと


許さないからな‼」


「つ、椿……。すみません、今の言葉は忘れて下さい」


「いえ、忘れません」


すると今度は陽菜が一歩前へと進み出て言葉を紡ぐ。


「私達の目標は最初から全国制覇です。勝負に絶対はありませんので私も奈月と同じで約束は


出来ませんが、全国の頂上に辿り着くまではその言葉を私の力にさせてもらいます」


陽菜の口から当然のように出た全国制覇という言葉に菫は一瞬驚いた顔を見せたが、


その目標の高さが鶴川女子野球部の強さの一つなのだとすぐに納得することが出来た。


そして彼女達に千羽鶴を託したのは間違いではなかったと確信へと変わると、


もう一度深々とお辞儀をしてその場を後にした。


「……重いわね」


奈月が手にしている千羽鶴を自分も一緒に持ち、陽菜が言う。


「……はい。とっても……とっても重たいです」


「なら、全員で持てばいいだろ」


そう言って梓が近寄ると、強い決意を浮かび上がらせた表情で二人が持つ千羽鶴に手をかけた。


菫と椿。信頼し合った先輩と後輩の姿に、彼女にも思うところがあったのだろう。


「そうだな。皆で持てば少しは軽くなろう」


「浪波節は優雅とは言えませんが、嫌いではありませんわ」


さらに穂澄が。雅が。


その後も順に次々と手を伸ばし、鶴川女子野球部全員で受け継いだ千羽鶴を持つ。


そして誰からでもなく、自然と全員が同じタイミングでそれを高く掲げると――


「次の試合も絶対に勝ちましょう!」


『おおッ‼』


優勝という決意を新たに強く心に刻み、鶴川女子野球部はまた一段と結束を強めたのだった。



【続く】

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