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第二部 VS氷取沢女学院 第七章 2

挿絵(By みてみん)



――時間は一回の表まで遡る。


「どうだった?実際に打席で見た相手エースの球は?」


椿の変化球の前に手も足も出せず終わったののあと海帆に向かって、沙希はそう問いを


投げかけた。


「……一文字コーチのお店のマシーンで練習した球よりも変化が大きかったであります……」


「あんなに変化するなんて聞いてないニャ。初見殺しだニャ」


「なら、目さえ慣れちゃえば次の打席からは打てる?」


「う”……。そ、それは……にゃ……」


恐らく答えは分かっているだろう意地の悪い問いに、ののあは拗ねた顔で頬を膨らませると


沙希から目を逸らす。


「別に打てなくても恥じゃないわ。正直ね、私もあのピッチャーがこれほどまでとは思って


なかったもの」


そう言うと沙希は自身の前髪を人差し指でくるくると巻き始め、


「多分、敵のエース様は今日絶好調よ。前の試合の映像よりも球が走ってるし、変化球も


キレてる。穂澄や奈月でも打つのは容易じゃないでしょうね」


打席できわどいコースへの球をなんとか紙一重でファールにし、粘り続ける穂澄を見据える。


「でも、ののあはののあ。海帆は海帆。穂澄や奈月とは長所が違うし、戦い方だって違ってくる


のは当然でしょ。


だから私が一つ、あのピッチャーに一泡吹かせられるかもしれない策をあなた達に授けて


あげる」


「策……でありますか……?」


「ええ、そうよ。じゃあまず、どうしてあなた達が相手の土俵で勝負しなくちゃいけないか


整理しましょうか」


「それはファーストとサードがあんなに前に出てくるからバントが出来ないせいニャ。


いくらののあの足が怖いからってあれはズルいニャ」


「そうね。でもセーフティーバント封じの超前進守備は別にルール違反じゃないからズルでは


ないわね。むしろ、あれだけ後ろをがら空きにしながらも前に出てこれる勇気を褒めるべきよ」


「多分、自分じゃバント以外ではバットに当てられないと思われてるからであります……」


「まぁそれが正解でしょうね。厳しい言い方をすれば、あなた達は相手に『舐められている』。


だから、まずはその余裕を崩す必要があるわ」


「もったいつけないでさっさと話すニャ!どうすればあいつらをぎゃふんを言わせられるニャ⁉」


「焦らないの。じゃあ海帆、あなたが守備に就いてて怖いと感じる打者ってどんなタイプ?」


「それは……やっぱり思いっきりバットを振ってくる打者が怖いであります。


強振すれば当たった時にそれだけ強い打球になりやすいでありますから……」


「なら、狙い球だけ強振してくる打率の高い打者と、空振りばかりで打率は低いけど常に


強振してくるタイプだったら?」


「後者であります。例えにして申し訳ないのでありますが、ビビちゃんみたいなタイプが


守ってて一番怖いであります……。


練習中もいつどんな打球が自分のところに来るか分からないから、ビビちゃんの打席の時は


思わず後ろに下がりたくなるであります……」


「そう。つまり、そういうことよ」


「あ……!」


「……どういうことニャ?」


「いくら強豪校のレギュラーだとしても、守っているのは人間ってこと」


察した海帆と未だ察せていないののあの対照的な二人の顔を見比べながら、沙希は人差し指を


立てるとようやく己が示そうとしている策の肝を説明し始める。


「どんなに空振りしようとも、常にフルスイングを続ければ相手の守備にはプレッシャーに


なるわ。


そしてそれは試合が進めば進むほど、接戦であればあるほどより大きく、効果的になっていく」


「つまり……三振してもいいからブンブン振り回して相手をビビらせろってことニャ?」


「イグザクトリー!」


立てていた指をそのまま、正解に辿り着いたののあの顔の前にビシィッ!と突きつける沙希。


「たかが一歩。されど一歩。相手がビビッて一歩でも退がれば、封じられているののあの足にも


勝機が生まれるはずよ。もちろんバットに当てられるに越したことはないけど」


「確かにののあちゃんの足なら、その一歩が生む効果は大きいでありますが……」


「流石は海帆ね。確かにそれだけじゃ『まだ足りない』わよね」


自身の策の不足を沙希は認めると、そこに気づいた海帆を褒めるように頭を撫でまわす。


「今言ったままにセーフティーバントを狙っても成功率は20%もないでしょうね。


そこから少しでも成功率を上げる為には、ののあのバントの精度を上げる必要があるわ」


「出来るだけ打球の勢いを殺して……それと三塁線ギリギリで止まるようなバントが理想で


ありますが……」


そこまでのイメージを共有した二人が同時にののあの顔を見る。


「……ののあちゃんにそんなバントが出来るでありましょうか?」


「問題はそこなのよねぇ。海帆なら出来るでしょうけど、ののあじゃ難しいでしょうねぇ」


「むっ……!みほりんに出来るならののあにも出来るはずニャ!むしろ出来ないはずが


ないニャ‼」


(上手いであります、先生。ののあちゃんの扱い方をよく分かってるであります)


わざと海帆と比べた上に煽りも一摘まみ隠し味として加えたことで、ののあの負けず嫌いな


性格が一瞬にして燃え上がっていた。


あまりにも計画通りに餌に喰いついたののあの反応に、沙希はニヤリと黒い笑みを浮かべたく


なるのを必死に堪えながら釣りを続ける。


「確かにののあはバントの基礎は出来てるけど、やっぱり一発勝負で成功させるには練習不足


だと思うのよねぇ」


「だったら今から練習するニャ!」


「……どう?試合中に出来そうかしら?」


と、そこで沙希は海帆へとわざとらしく話を振ってきた。


水面まで釣り上げた魚を前にタモ網を手渡れたようだと思いながらも、海帆は自分に与えられた


最後の仕事を全うする。


「ぶっちゃけて言いますと、ののあちゃん次第だと思うであります……」


「ののあに不可能はないニャ!みほりん、さっそく教えるニャ!」


(はい、釣れたであります)


それまでの落ち込み具合はどこへやら。完全にやる気を取り戻したののあに腕を引っ張られなが


らベンチ裏へと連れて行かれ、これは自分も落ち込んでいる場合ではなさそうだと海帆は悟る。


「……あれ……?」


「? どうしたニャ、みほりん?」


「い、いや……なんでもないであります」


悟って――ついでにもう一つ気づく。


(もしかして……先生の釣りを手伝わされていたつもりが、実は自分も一緒に釣られていたで


ありますか?)



【続く】

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