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第二部 VS氷取沢女学院 第二章 5

挿絵(By みてみん)



「椿……」


未だに打球が消えていったライトスタンドを顔面蒼白で見続けていた椿が、審判から受け取った


新しいボールを直接手渡しに来た菫に気づき、そこでやっと我に返った。


同時に三塁側ベンチから鬼の形相を超えた阿修羅の形相で自分を睨みつけてきている梨花の


視線に気づき、さらに表情から血の気を引かせて体ごと背を背けた。


「す……すみません……菫先輩……あたし……また……」


「ううん、謝るのは私の方よ。まさかあのコースの球をスタンドまで運ばれるなんて完全に


予想外だったわ。今のは私のミスよ……ごめんなさい」


椿がどうしてここまで動揺しているのかを理解している菫は、出来るだけその理由を意識させ


ないように優しい口調で言う。


「でも大丈夫。打線だって一年前とは比べ物にならないくらい成長しているわ。


たった二点くらいすぐに取り返してみせるわよ」


「…………」


しかしどれだけ励まそうとも、椿の表情は一向に晴れなかった。


そうこうしているうちに審判から早く守備に戻るよう注意されてしまう。これ以上は遅延行為と


して受け取られかねない為、菫は最後に右手を椿の肩に置き、


「とにかくあとアウト一つでチェンジよ。今はそれだけに集中しましょう」


「……はい」


覇気のない返事に菫は不安を抱えながら、走って自分の守備位置へと戻っていく。


そして主審と梓に「お待たせしてすみませんでした」と頭を下げてから、キャッチャーマスクを


被り直した。


(マズイわね……。椿は気持ちで投げるピッチャーだし、しっかりとリセットさせて


あげたかったのだけど……)


気分がノッている時は実力以上の力を発揮できる椿だが、逆に心の余裕を失うとそれだけ輝きも


失ってしまう。


それだけに椿が未だ『あの時』のことをトラウマとして抱えていたのだと今になって気づいた


のと、それを呼び覚ます原因となってしまった、彼女に首を横へ振らせてしまった自分のリード


を悔やんだ。


そして次の打者は右のサイドスロー投手にとっては天敵となる左打者。


椿には厳しい状況が続くが、今は彼女を信じて、考えうる限り最良のリードをするしかない。


――しかし――菫の悪い予感は的中してしまった。


五番の梓、さらにはスイッチヒッターであると事前のデータから見抜けなかった雅の左打者二人


に連打を浴びてしまう。


なんとかどちらもシングルヒットで済んだが、ランナーは得点圏まで進み一、二塁。


さらに続く打者も左の陽菜だ。



『ああ~っと、これはどうしたことでしょう。完璧な立ち上がりと思われた橋本さんですが、


三番の千葉さんへのフォアボール。さらには四番の南さんにホームランを打たれ、状況が


一転してしまいました。


これはやはりまだホームランを打たれたショックが残っているのでしょうか?』


『それもあるでしょうが、何より打たれ方がまずかったのかもしれませんね』


『と……言いますと?』


『橋本さんは川島さんをとても信頼しており、彼女のサインには滅多に首を振りません。


去年の大会でも首を振ったのは決勝戦の一度だけでした。


ですが、その時の投球で横須賀学園の比良坂さんに今と同じくホームランを浴び、そこから


五失点と崩れてしまいました』


『そういえば南さんにホームランを打たれた直前にも、サインに首を振っていましたね……』


『ええ。どういう意図があってそうしたのかは分かりませんが、前回と同じ失敗を繰り返して


しまったという思いはあるでしょうね。


もしこのまま立ち直れないようだと、大量失点の再現もあるやもしれません』


『つまり橋本さんにはいきなり正念場が。そして鶴川にとっては大きなチャンスを


迎えている訳ですね』



文代のおかげで状況が把握できた涼子は、頭の中の情報を即座に最新のものへと書き換えて


いく。


去年の決勝戦の結果は記憶していたが、そこまで詳しい情報までは調べていなかった。


(氷取沢は去年も大会に出ているから、そういう接点も生まれてくるのね……。


CMに入ったら資料を読み返しておかなくちゃ……)


もしくは文代に他にも使えそうな情報はないか聞いたほうが早いかもしれない。そう考え


ながら、涼子は実況を続ける。



『そしてここで打席に入るのは鶴川の先発投手である秋月さん。自らの手でさらに点差を


広げることが出来るでしょうか!』



【続く】

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