第二部 県大会編 第三章 今度こそ本当に県大会開始!
第三章 今度こそ本当に県大会開始!
「おっはよー奈月、喜美。 聞いたわよ。女子野球部、また勝ったんだってね?」
いつものように一緒に登校してきた奈月と喜美が揃って教室に入ると、待ち構えていたかのように
仁美が自分の席から手をブンブン振ってくる。
大声で名前を呼ばれたせいでクラスメイトの視線が集まり、奈月は照れて真っ赤になった顔を
隠すように俯きながら、早足に自分の席に着いた。
「おめでと。これで次は準々決勝だっけか」
「はい。あと三つ勝てば優勝なのでそのはずです」
「おぉ~!二回戦も楽勝だったんでしょ?これは二度目の鶴川の奇跡が見えてきちゃった?」
「あはは……、実際は楽勝と言える内容ではなかったんです……。試合後に先生から
いっぱい反省点と課題を出されちゃいましたし……」
確かに一回戦は陽菜が先発し、九回を投げて打たれたヒットは二つのみというパーフェクトに
近い出来で相手打線を封じてくれた結果、5対0と完勝であった。
しかし昨日の二回戦では、公式戦マウンドデビューとなった先発の喜美の不安定な立ち上がりを
狙われ、味方守備の乱れもあり序盤に大きくリードを許してしまう。
なんとか中盤以降に打線が爆発し、結果だけ見れば9対4の快勝に思えるが、沙希の言葉を
借りれば『練習試合で対戦したチームよりも格下だったので、たまたま拾えただけのラッキーな
勝利にすぎない』のである。
「はいはい……昨日の試合の逆MVPが通りますよっと……」
と、そこで。試合の話題に花を咲かせる二人の席の間を、自嘲しながら肩を落として猫背になった
喜美が通り過ぎる。
――かと思ったところでくるりと反転し、
「勝てたから良かったものの4失点……。やっぱりあたしにはピッチャーなんて無理なんだわ……」
「で、でも初めての公式戦なのに一人で投げ切って、中盤以降立ち直れたのも立派だったって
先生は褒めてくださってたじゃないですか!」
「……いい?そもそもあたしが打たれてなかったら、立ち直れたのが立派なんて誉め言葉は
存在しないのよ……?」
「相変わらず喜美のマイナス思考は油汚れ並みに頑固ねぇ。勝てたんだから次に向けてさっさと
切り替えればいいじゃないの」
「そ、そうですよ!仁美ちゃんの言う通りです!」
なんとか励まそうとする二人に向けて喜美は、「フッ……」とアンニュイな冷めた笑みを浮かべ、
「まぁ次の相手は氷取沢だし、先発は間違いなく陽菜だろうからあたしの出番はないだろうし、
そう考えればいくらか気分は楽だけどね……」
全く切り替えられていない遠い目を窓の外へと向ける喜美に、仁美はこりゃ駄目だとお手上げの
ポーズを奈月に向かってしてみせた。
「で……、その氷取沢って強いの?」
「はい。去年の県大会準優勝校です」
「おぉ……」
その説明だけで十分に強さが伝わる肩書に、流石の仁美も気後れが声と顔に出てしまう。
「で、でも去年の三年生は卒業してるんだし、必ずしも去年と同じくらい強いってことは
ないもんね?」
「去年の氷取沢は二年生と一年生だけのチームだったから、むしろ全員成長して強くなってるの
よねぇ……」
「で……でもでも!トーナメントの一発勝負なんだから何が起こるか分からないじゃない!
ジャイアントキリング狙っちゃいなさいよ!」
「狙って番狂わせを起こせるならどこもやってるわよねぇ……」
「奈月ぃ~!今日の喜美ってば超ウザいよぉぉ~!」
「あはは……。多分明日の朝まではこんな感じのままだと思いますので、今はそっとしておいて
あげて下さい……」
幼馴染の取り扱い方を熟知している奈月が苦笑すると、喜美は意味もなくまた「フッ……」と
アンニュイな笑みを浮かべてみせた。
「……それよかごめんね、二人とも」
「ふみ?どうして仁美ちゃんが謝るんですか?」
「本当はブラスバンド部で女子野球部の応援に行きたいんだけどさ、今年はソフトボール部も
勝ち進んじゃってて……」
女子野球と大会期間が被り、ブラスバンド部は例年通りソフトボール部の試合を優先させ
応援演奏に赴いていた。
その万年一回戦負けのソフトボール部も今年は同じ球技である女子野球部の活躍に
感化されたのか、まさかの快進撃を続けていた。
「でも次の試合は日程が被ってないし、ブラスバンド部の友達を誘って応援に行くからね!」
「本当ですか⁉ありがとうございます!」
「でさ、試合までにちょっと時間があるじゃん?だからそれまでに横断幕を作ろうと思ってるのよ」
「ふみ?仁美ちゃん、どこかに道路を作るんですか?」
「それは横断歩道でしょうが……。横断幕は観客席から掲げる、グラウンド上の選手からも
見えるくらい大きな旗みたいなやつ……」
相変わらず遠い目で外を眺めたままのマイナス思考モードでも喜美がしっかりツッコミを
入れてくると、奈月はやっと理解したらしく手をポンと叩いた。
「お店に頼んで作ってもらうと流石にお金がかかるから、私の手作りになっちゃうけどね。
でも心配しないで!私、こう見えても書道二段だから!」
「楽器で演奏ができて、書道もできるなんて仁美ちゃん凄いです!多才です!」
「ふふ~ん♪それほどでもあるかなぁ~♪」
「フッ……。多才と器用貧乏は紙一重……」
「奈月ぃぃ~!やっぱ今日の喜美ってばマジ超ウザいよぉぉぉ~!」
器用貧乏だという自覚があったのか、泣きついてきた仁美の頭を奈月は苦笑しながら撫でて、
珍しく慰める側に回る。
「ぐすっ……。それより横断幕に書く文字はどうする?やっぱ格好いいフレーズがいいよね。
女子野球部でなんかそういうスローガンとか使ってない?」
「すろーがん?」
「うん、奈月相手に横文字を使った私が悪かった。要するにチームの目標というか……合言葉
みたいなもん」
「目標なら全国大会に出場して優勝することです」
「う~ん……、全国制覇!とかは割とどこも使ってるからインパクトが弱いかなぁ……。
じゃあ合言葉的なのは?」
「チームの合言葉……。ふみぃ……ごめんなさい。パッと思い浮かばないですぅ……」
「なら奈月がいつも言ってる、野球を楽しもうとかでいいんじゃない……」
「ふむふむ……。野球を楽しもう……野球を楽しむ……うん!いいわね、それ頂き!
やるじゃない喜美、相変わらず顔はウザいままだけど!」
フッ……とそろそろ見飽きてきたアンニュイな笑みを浮かべる喜美に向けた指をパチン!と
鳴らすと、仁美は忘れないうちにスマホに記録させた。
(仁美ちゃんがここまで応援してくれているんです。私も期待に応えられるように、次の試合も
頑張りましょう!)
そして奈月もまた自身に気合を入れ直すと、鼻息と共に小さな両拳を握りしめていた。
【続く】




