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天使と悪魔の王子争奪戦

作者: 霧原瑞奈

「レラージェ!レラージェ・ハーゲンティ!今宵限りでお前との婚約は破棄させてもらう!」

そう指差された令嬢は、レラージェ・ハーゲンティ公爵令嬢。真っすぐな銀の髪に青い瞳、その髪の色に似たドレスを纏い、その瞳に似たアクセサリーを身にまとう、それは美しい少女である。

その顔立ちは大変に整っていて、その玲瓏たる美貌と、公爵令嬢の立場に見合った立ち居振る舞い、公爵令嬢らしい気位の高さもまた、「天使のように美しい」と評判の令嬢。

そのレラージェの婚約者、レラージェを指差す男が、この国の第一王子であるタミエルである。その腕に一人の女性を抱いて。

その王子の腕の中に居るのは、ライラ・アルマロス、子爵令嬢である。

その見た目はレラージェとまるで真逆で、軽く巻かれた髪は艶やかに黒く、その瞳は金色をしていて、やや釣り目のアーモンドアイで見つめられると男は黙って従ってしまうと噂の、「悪魔のように艶めかしい」と評判の、レラージェと同じ歳と思えぬほどの妖艶さである。

その艶めいたボディを包むのは髪と同じ、つやつやと輝く黒のドレス、その豊かな胸元を真紅のルビーが飾る。何もかも、レラージェと正反対である。

「そんな…」

手にした扇をハラリと広げ、口元をそっと覆うレラージェ。

「婚約破棄など…悲しいですわ」

そのコーンフラワーサファイアの瞳から、ぽろりと一粒の涙が流れる。周囲に居た男たちがざわりと声を上げる。

そう、この場所はパーティ会場。国王の即位20周年を祝う式典を終えたばかりの歓談パーティである。

周囲の者たちもざわめく。

「そう言えば王子はハーゲンティ公爵令嬢をエスコートしていなかった」「それどころか、式典の途中で席を外していたような」「会場の裏で黒いドレスの女性と一緒に居るのを私は見た」などなど。

「それで、王子様…?私を捨てて、その娘を選ぶと?」

青い瞳の温度が下がる。周囲の温度も下がる錯覚を感じるほどに、その目は冷たい。

「…ああ、お前の悪事は知っている!」

びしりと指をさしたままのタミエル。その腕の中で何も言わず微笑むライラ。

「悪事、ですか」

レラージェはパチリ、と手にした扇を閉じる。胸の前でそっと重ねられた手も、指先まで気を使った所作をしているのが分かる。だがタミエルからすると、そんな細かい所作までも腹立だしくあった。

「そうだ、ライラに嫉妬して、悪口や持ち物の破壊、階段から突き落としたりもあっただろう!」

そう言われて、レラージェは一つ、ふう、とため息をついた。

「そんな、嫉妬など…。もしも本当にそこの娘を排除したいのならば、そのようなくだらない悪戯などせずに、この世から追放していますわ。そもそも。そこのご令嬢?ライラ、でしたわよね」

レラージェはライラに扇をびし、と向ける。それに対して顔色一つ変えずに、ライラは王子の腕から抜け出して、す、とレラージェに正対する。

「突き落としても何ともないでしょうに」

「な!」

「…まあ」

くす、とライラは笑う。

「だって」

瞬間、パチンと鳴らされた指から炎が飛んできた。

「!」

驚く王子を尻目にライラの前で炎は霧散する。ライラの前には白い翼が出現していて、それがゆっくりと開かれる。その翼はライラの背中から生えていた。

「ら、ライラ…?」

「だって」

くすくすと笑うレラージェ。

「天使ですもの、その人」

「な」

唖然とするタミエル。それを尻目に、その背に白い翼を生やした黒い娘、ライラはさっと手をレラージェに向けると

「そちらこそ!」

その手から雷が放たれる。しかし雷はレラージェの前で霧散する。その前には漆黒の翼があった。ライラの時と同じく。

「王子…レラージェは、いわゆる悪魔ですわ」

レラージェはその背に黒い翼を生やして、冷たく微笑んでいた。どこまでも美しく。


「ライラ嬢が天使でレラージェ嬢が悪魔…見た目的には逆の方がしっくり来ないか?」

周囲がざわめく。そもそも何故、そんな簡単に周囲が信じるんだ!?と王子は一人で内心パニックに陥っていた。

「レラージェ…お前はいつから…その…悪魔に?」

「あら、この世界に生まれ落ちた時から私はこうですわ」

「え」

「まあ、正確には…公爵夫人のお腹の中に宿っていた命を乗っ取った、でしょうか」

「な、なんでそんな事を」

「だって、欲しかったんですもの」

王子を見て、にこりと笑う。その表情は美しく魅惑的だった。

「王子の…魂が、ね」

「は」

「王子の魂は、私の一番好みの味をしていますのよ。まだ味見はしていませんが、見れば分かりますの」

「好みの、味?」

「ええ、王子そのものには全く興味はありませんが、その魂の味だけは格別ですのよ。純粋でいながらも悪いところもあって、甘さの中にほのかに感じる苦味…。はちみつ色の魂の中にかすかにコーヒーのような黒が混じった、実に好みの魂の見た目…そして味と見た目は比例しますのでね」

「な…」

王子の横で、ライラは一つため息をつく。

「全く。本当に困った悪魔ですこと…。王子の魂があの世に行ってから食べればいいではありませんか」

「さらに好みの味に磨き上げるのも楽しいではありませんか」

悪魔の時間では、人の一生などささやかな時間ですからね、と笑いながら。

「ライラ…お前は、お前は私を好きだよな?」

王子がライラにすがる。だが、ライラは王子を一瞥しただけで告げた。

「私は、この世に出現した悪魔を退治するためにやってきただけですわ…子爵及び周囲の記憶を操作して、子爵令嬢として、この世界に潜り込んだだけです。王子本人に興味はありません」

ぐっさりと王子の胸に言葉の刃が刺さった。

レラージェも、ライラも、王子本人には興味がないのだ。胸を張って婚約破棄を告げ、嫉妬のあまりライラを害したと決めつけた。なんてことだ。

「王子殿下。少なくとも貴方に何の興味もないライラより、私はあなたの魂は好きですわ。私と一緒に行きましょう」

「ど、こへ」

「魔界の私の家ですわ。そこで王子殿下のクローンを作る計画をしていますの。魂を量産したいのです」

「魂の量産…」

何を言われているのかが、もうさっぱり分からない。

「ああ、そうですね。私の手元にいる人間の女と交わってもらって、貴方の子供の魂が私の好みに合う味をしているかを検証するのも良いですわね。さしずめ人間の牧場ですわね」

「人間の…牧場」

あまりの悍ましさに、気を失いそうだった。

「そんな事、させませんわ!」

ライラはその言葉と同時に光魔法を放つ。それをレラージェは左手で防御魔法を放ちつつ、その背の黒い翼で飛び上がり、右手で黒い炎を放つ。紫混じりの炎は禍々しい。その魔法を避けるように宙に浮かび、ライラは反撃の魔法を放つ。レラージェがその右手に魔法の剣を作り上げてライラに襲い掛かれば、同じように魔法の剣を作って鍔迫り合いをする。お互いの力は互角で、互いに防御と攻撃を繰り返す。

「レラージェ嬢には似合わない魔法だよなあ…」

「見た目は聖属性魔法が似合いそうなのになあ」

周囲は無責任にざわめく。自分には彼女の関心が向かないことが分かっているから他人事なのである。

「だいたい、何ですかその見た目は…!銀の髪に青い瞳、何で悪魔のあなたがそんな悪魔っぽくない見た目を!」

「あら、これは元々産まれるはずだった公爵令嬢の姿ですもの、私は魂を乗っ取っただけで姿はいじっていませんのよ」

くすくす笑いながらも攻撃の手は緩めない。

「そもそも、あなたの方がよっぽど悪魔に居そうですわねえ」

「仕方ないでしょう!王子経由であなたに近付くためには、王子の好みを取り入れないといけなかったのだから!王子は内心、位の高い娘を苦手としています、自分の言う事を素直に聞いてくれなさそうだからと!だから子爵令嬢になってみたものの、仮にもあなたは公爵令嬢で、私は子爵令嬢と言う立場、普通には声をかけることすら許されていないのだもの!」

「あらあ、じゃあ、私は王子の好みから外れているのねえ…。公爵令嬢もかわいそうに。公爵令嬢のまま育っても、王子に捨てられたのかもしれないわね」

くるくるとパーティ会場の天井付近を飛び回りながら、そんな会話を繰り広げる天使と悪魔。会場の男性陣は、そっと王子を見やる。

「王子の好みって、お色気系のボンキュッボンな訳…?」

「爽やか系の見た目に反して肉食なんだな王子って」

「そもそも、王子を経由すれば公爵令嬢に近付けるって思われている訳?王子の立場って…」

こそこそ話す周囲の言葉に、王子は段々イライラを募らせていく。

「そもそも。お前、ライラ嬢とレラージェ嬢、どっち好み?」

「俺は、ライラ嬢かなあ」

「俺はレラージェ嬢だな、あの意外性とかたまらない」

「うんうん。ものすごい美人だし、なのに悪魔って、なかなか」

「自分はライラ嬢だなあ、あの妖艶な見た目なのに天使って、もう拝んじゃうなあ」

こそこそ話す周囲に、

「お前らああああ!他人事だと思ってぇぇぇ!」

とうとう王子が切れたが、

「いや、殿下が自分でレラージェ様を勝手に断罪したのではないですか、碌に裏も取らないで」

傍にいた側近候補に言われて、王子は青ざめる。

「お前、何で止めない!」

「止めましたが聞かなかったでしょう」

「ぐ…」

そう話す王子を尻目に延々と魔法と打ち合うレラージェとライラ。決定打に欠けていたが、やがて魔力は尽きる。


その勝敗は…どちらに?


タイトル通りの話でした。(王子本人は全く必要とされていませんが)国王夫妻出てこなかったですが、多分会場に着いた段階で卒倒していると思われます。

ちなみに、レラージェもハーゲンティも、悪魔の名前です。

タミエルは堕天使。

ライラとアルマロスは天使の名前です。


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