精霊さんと図書館(1)
・ この物語はフィクションです。
・ 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
・ 登場する地名、固有名詞等は全て架空のものです。
※ タイトルに「刑事」とつきますが、基本的に事件は発生せず、
推理要素もありません。
※ 内容的には日常路線・・・・・と思います。
っと、そうそう図書館に寄らなくては。
ショルダーバッグから身を乗り出してキョロキョロしている精霊さんを
気遣いながら慎重に走行。
図書館は我が家と西署のちょうど中間地点のあたりにある。
本に喰いついてくれれば、そのまま本と精霊さんを部屋に置いて
仕事に戻ることができる。
一緒に居られても迷惑というわけでは無いのだが、うっかり話をしている
ところを誰かに見られたりすると非常によろしくない。
というのも俺には前科があるからだ。
震災の年の秋、世情もやや落ち着いて業務量もピークを過ぎ、緩やかに
日常が戻りつつあることを実感していた時に、突然俺の心は折れた。
震災後の多忙の中で麻痺していた心が回復し、現状を冷静に見れるように
なった途端、鬱積していたダメージに心が潰されたのだ。
震災後の荒波を夢中で泳ぐ中で、俺は思いのほか多くのものを失っていた。
プライベートでも仕事でも。
俺の心が弱かったせいもあるが、潰れてもしょうがないと言える状況だった。
生きる気力がごっそり削がれ、出勤どころか食事をとることさえもままならない。
無断欠勤した俺の様子を見に来たのは、当時バディを組んでいた
巡査部長だったが、よほど俺の顔色が悪かったらしくそのまま病院に
連れていかれた。
結果、身体的異常はなく精神的なものとの診断。
その後訪れた精神科では「燃え尽き症候群」との診断を下され、診断書には
「うつ病」と書かれた。
そうして一か月、俺は病休で自宅療養となったのだった。
自宅療養から復帰した俺は、刑事課員でありながら刑事課の業務から外された。
刑事課に在籍しているものの、警務課あずかりの雑用警察官ポジション。
主な業務は留置人の護送要員。
留置場に逮捕・拘留されている被疑者を検察庁に護送車で連れていく際に
同行するのだ。
その他にも定期会議の資料作成や警察友の会関係の交流会の会場設営、
商業施設で行われた防犯意識向上イベントでのチラシ配り、交通安全運動
パレードでのにぎやかし要員等々、雑用オブ雑用な日々を3か月程過ごした。
その後、経過観察良好と判断された俺は、幸か不幸か刑事課に復帰。
直後は本当に腫れもの扱いで、戦力扱いはされず、その立場は超微妙であった。
もちろん、こちらの状態を気遣って配慮されているとはわかっていたが、
対等に扱ってもらえない情けなさや不安感からコミュ障気味になり、
人間関係も希薄になってしまった。
長々と語ってしまったが、そういった暗黒時代をどうにか乗り越え、
僅かながら信頼を回復し、現在ようやく一刑事課員としてほぼ同等の扱いを
受けられるようになったのだ。
まあ、コミュ障状態が長かったせいで、人間関係は良好とは言えないのだが。
ここで「幻覚が見えているようだ」とか「会話しているかのような独り言が
多い」とか噂が立つと、再発の疑いありと判断されて何らかの処置がとられる
恐れがある。
なので、精霊さんには家でおとなしくしていて欲しいというのが本音だ。
図書館の駐輪場にバイクを止めると、ちょうど会館時間の様で
正面口からぞろぞろと人が入っていくのが見えた。
バイクスタンドを立てるより早く、精霊さんがバッグから飛び出し、
正面口へ駆けていく。
「ちょ!まっ・・・・・・・」
思わず声を掛けて赤面する。
ベンチで談笑していたおばあさんグループが怪訝そうな顔でこちらを見てい
るからだ。
「ちょまっ~ちょまっ~ちょまっ~」
節をつけて歌のフレーズのようにごまかしてみるが・・・・・・・・効果なし。
恥の上塗りをしただけだ。
そそくさとスクーターに鍵をかけ、視線を気にせず平静を装ってクールに
正面口まで歩く。
・・・・・・・・・・って、いくらなんでも
『ちょまっ~ちょまっ~ちょまっ~』はなかったな。
プチ黒歴史。こんなんばっかり、俺の人生。
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