精霊との出会い(2)
・ この物語はフィクションです。
・ 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
・ 登場する地名、固有名詞等は全て架空のものです。
※ タイトルに「刑事」とつきますが、基本的に事件は発生せず、
推理要素もありません。
※ 内容的には日常路線・・・・・と思います。
幻覚・・・・・・・・。そんなものが見えるなら、俺はもう精神的健常者の
枠組みから飛び出してしまっているのではないだろうか。
ぶっちゃけていえば「異常者」ではないか・・・・・・・・・。
異常者認定を確定させそうな思考を放棄し、ぼんやりと視線を妖精さんに戻す。
妖精さんはこちらの気も知らず、のんきにリングビスケットを頬張り続けている。
もうほっぺたをぱんぱんに膨らませ、良い笑顔を浮かべて。
妖精なんてありえない。ありえないとは思うのだが・・・・・・幻覚にしては
存在感があり過ぎない?
幻覚ってもっともやっとした感じじゃないのかな~?わかんないけど。
そんなことをぼんやりと考えていると、妖精さんがすごい形相で苦しみ始めた!
って、そんなにパンパンに頬張ってたら、口中の水分もってかれてのどに
詰まるのは必然だわ!
あわてて持っていたペットボトルを差し出すと、妖精さんは夢中で取りつき、
苦悶の表情を浮かべながらもなんとかビスケットを飲み下して『はぁ~~』と
大きく息を吐きだした。
う~ん。なんというかリアルすぎる。
やっぱり幻覚じゃないんじゃね?でも妖精なんているわけなくね?
と、思考が振出しに戻ろうとしていたところ、なんと妖精さんに話しかけられた。
「アタシが見えてるの?」
「えぇ。見えてますけど?」
「なんで?」
「なんで???????」
しばし見つめあう妖精さんと俺。
その時ちょうど火にかけていたケトルが沸騰したのでとりあえずバーナーを止め、
いそいそとコーヒーを淹れて一口すする。
妖精さんはバーナーに興味を持ったようで、鋭い目つきで構造をお調べ中だ。
ふーっ。やっぱり山の上で緑と青空を満喫しながら飲むコーヒーは格別だね。
夏の名残で下界はまだ汗ばむ陽気だけれど、2000メータークラスの山頂では
すっかり秋の気配。
紅葉こそまだ始まっていないが、気温も風の冷たさも色濃く季節の移り変わりを
反映している。
肌寒い空気がコーヒーをよりおいしく感じさせる。
しみるというのはこのことだろう。
心の底に溜まりまくっている負の澱が少し浄化されるような気がする。
コーヒーで一息つき、心の平静を少し取り戻した。
『あ~今日は山に来てよかったな~』
なんて思いながら妖精さんに視線を戻すと・・・・・!!!!
いつのまにか妖精さんの近くに白いほっそりとした子犬(?)が現れていた!
しかも、めっちゃ歯をむき出しにしてグルグル唸っている。
ちっさいくせに迫力満点。
なんなのこの展開!もう妖精さんだけでお腹いっぱいなのになんで敵意むき出しの
犬がこんなところに現れるの?
激しく『ヤバイ、殺られる』感を感じ、腰を浮かせて視線を外さぬまま
素早く後ずさる。
刺激しないように慎重に慎重に・・・・・・・・って「熱っつ~!!!」
犬に気をとられるあまり、脇に置いていたケトルを倒して熱湯を左手に
ぶちまけてしまった。
俺の叫びに反応して素早く近づいて来てる犬。
その刹那、右のふくらはぎ付近に刺激的な痛みが・・・・。
「いって~!!!!!」ってヤバイヤバイ、
野犬に噛まれるなんてヤバくね?狂犬病になんじゃね?
マズイでしょ~!マズいでしょ~!!
パニくりながら素早くズボンをまくり上げて確認するも、幸いにも歯が刺さった
ような傷ではなく、小さく内出血しているだけだ。
ズボンもよく見てみたが穴などはなく、噛むと言うよりは歯で挟んだという感じの
攻撃だったようだ。
メッチャ痛かったけど。
子犬は俺に一撃加えたあと妖精さんのそばに戻り、威嚇状態で俺を睨み
続けている。
・・・・・・・・・・なんだか泣けてきた。
せっかくの日曜日に時間をかけて山に登りに来たというのになんなのこれ?
こんな時ぐらい心を癒すような穏やかな時間を過ごさせてくれよ。
『しょうがないだろ、これがお前の人生。お前クオリティだろうが』
と、負け犬思考がリフレインする。
あ~ホント、生きててもなんも良いことないな~・・・・・・・。
深い溜息を吐いて空を見上げる。
滲んだ視界に移る青空は雲一つなく真っ青で・・・・・・・・無性に
腹立たしかった。
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