表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鏡写しの幻想世界(ファンタジーワールド)  作者: 蒼榛(あおはる)
雪の里編
5/35

レイミー家での日常

どうも蒼榛です!

今回も出来れば読んでいってください!

 レイミーの家に向かう間、私は彼女と沢山お話をした。

 今いるこの世界の話とか、こっちの世界での義兄弟や義母の話とか、ほかにも他愛もない話をしたりした。

 それでわかったことは、彼女の住む町(彼女は里と言っていた)というものは、一年の大半が雪に覆われているが、別の場所に行けばそんなことはないということ。それと、この町はさっきゲートにいた魔法使いによって栄えていた町であったが、今はもう衰退しているということ。だけど、義兄弟のおかげで食糧などは何とか確保出来てるし、いざとなったら帝都に買い出しに行くから大丈夫!……らしい。

 ちなみに帝都までは歩いて丸二日はかかり、その道中にはオオカミなど獰猛な生物が生息しているところがあるから、なかなかにハードな旅路になる。っと義兄弟から聞いたという。(本人は行ったことないらしい)

 じゃあ、レイミーはいつも何をしていたのか尋ねると、家でのんびり過ごすか、ゲートの入り口がある丘で一人で遊んでいたという返事が返ってきた。本人曰く、「そろそろ遊び相手が欲しかったんだよね~。だから、ほんと美玲が来てくれてうれしいよ!」とのこと。……どうやら、私は遊び相手としてこの世界に連れて来られたようだ。


 そんな貧しい状況の家にこれからお世話になっていいのかと少し引け目を感じながらも、私はレイミーに手を引かれながら、家の中へ入っていく。


「ただいまー!」


 この挨拶ももう聞きなれてた感がある。


「お!おかえり。遅かったじゃねーか」


 顔を見るなり、レイミーに話しかけたのは、グルースだ。彼は彼女曰く常に元気な性格で、それとかなりの女好きらしい。


「なんでまだ起きてんのよ」


 最初のテンションが嘘のように蔑んだ目でグルースを見ている。本当に感情の起伏が激しい人だ。


「そりゃー帰りを待ってたからに決まってんだろ」

「はぁ……。私明日までに帰るとは言ったけど、ほんとに今日中に帰って来るか保証はなかったのよ?」

「いやだって、お前約束は破らねぇタイプだろ?だから、安心して待ってたぞ」

「……もういいわ。私の負けよ。で、何か食べ物残ってる?」


 レイミーは分が悪いとみると、直ぐに話題を切り替えた。何というか、このグルースという人は口が達者である。


「おう!そこにウォーウルフのシチューの残りが置いてあるはずだぜ」

 

 そう指さしたキッチンの上には、確かに木のお椀が一つ置いてある。


「あれ、私のだけか」


 どうやら、自分のものはさすがに用意されてなかったらしい。まあ、ここに来るとは言ってなかったし、自分も思ってもみなかったので、当たり前と言えば当たり前なのだが。


「ああ、えーと……そこのそっくりさん。名前はなんだったっけ?」

「美玲よ。一回聞いたんだから覚えなさい」


 レイミーが、私の代わりに即座に答える。


「はは、すまねぇな。あんときはちょっと状況が状況だったんでな。で、そこの美玲ってのは今日うちに泊まる感じか?」

「そのつもりよ。ね?美玲」


 そう言って私に微笑みかける。


「……うん」


 これが、私がこの家に来てからの第一声であった。


「おい、今無理やり言わせなかったか……?」


 初めて出す声だったので少し掠れたような言い方になったせいかそう誤解されてしまう。


「はぁ?そんなわけないでしょ。ね?美玲」

「うん」

「さっきからうんとしか言ってないんだが」

「初めての場所で緊張してるだけでしょ。ね?美玲」

「うん」

「おいおい」

「さっきからうるさいわね。ね?美玲」

「うん」

「さっさとそのでかい図体をどかしてほしいよね?美玲」

「うん」

「わかったわかった!じゃあ、俺は先上がっとくから、お前らも早く寝ろよ!」


 そう捨て台詞を吐いて、グルースは階段を上がっていった。

 私たちは、その様子を見届けた後、少しの間見つめあって、


「……クスッ」

「……ぷはっ!」


 同時に噴き出した。


「見た?あのだんだん顔がこわばっていくの。どんだけダメージ受けてんのよって感じよね」

「うん、なかなか面白かった」

「だよね!」


 その時、レイミーのお腹が鳴る。


「あ、そういえば私、お腹空いてたんだった」

「忘れてたの!?」

「う、気が付いた瞬間全身から力が……ガクッ」


 自前の効果音とともにその場に座り込むと、私の方に目配せをしてきた。


「はいはい、持ってきますね」

 

 私はキッチンにある木の深皿を手に取る。もう冷めてしまっているが、確かに中には肉入りのシチューのようなものを見ることが出来た。私はそれと横に置いてあった同じく木で作られたスプーンを手に取り、彼女に渡す。


「ありがとね、じゃあはい、口開けて」

 

 少し疑問に感じながらも素直に口を開けると、そこに何かが突っ込まれた。


「んんっ!?」

「どう?おいしい?」

 

 目の前でスプーンが口から抜けれるのを見ると、どうやらシチューを口の中に放り込まれたようだ。私は、口内に入ってきたものを舌を動かして確認する。それは、ほんのりと甘く滑らかな食感だった。


「うん、おいしい」


 正直に言うと、私はそんな世の中で言うおいしいものをあまり食べたことがない。だから、味の評価は他人より甘めだと思う。


「そう、ならよかった。じゃあ、もう一口」

「ちょっと待って」


 私は急いでレイミーの動きを制止する。


「どうしたの?」

「レ、レイミーがお腹減ってるんだから、レイミーが食べるべきだと思う」

「いいよいいよ、ちょっとくらい。ていうか美玲だって何も食べてないでしょ?」

「私はその……慣れてるから」

 

 そう、私は夕食を食べさせてもらったことはほとんどなかったのだ。だから、これくらいのお腹の減り具合など問題にならないのである。


「何それ?それ絶対良くないよ。ほら、もっとあげるから口開けて口」

 

 スプーンで口をつつかれる。しょうがないので口を開ける。


「はい、食べ終わった?じゃあ、もう一口ね」

 

 その後も、彼女のスプーンは私の方に運ばれ続け、結局ほとんどを私が食べる羽目となった。

 シチューを食べ終わった後、私たちは二階に上がると、グルースはすでに眠りに落ちており、もう一人の……ルドーっだったっけ?もとっくの昔に寝てますよって感じで寝息を立てていた。


「美玲は……そうね、私の布団で一緒に寝る?」

 

 唐突な問いかけに一瞬たじろぐ。当たり前の話だが、自分用の布団など用意されていない。つまり、今レイミーに言われた通り、布団に一緒に入るか、地べたで寝るかのどっちかしか選択肢はないのである。しかし、いくら建物の中だといっても外が雪景色になるほどの気温の低さである。さすがに、何もなしで寝るのは危ない気がする。そこで、私はそのお申し出を受けることにした。


「……うん」

「だいぶ返事までに時間がかかったわね。まあ、なんとなく何考えてたかわかるけど」


 そう言うと、先にレイミーが布団に入り、布団をポンポンと叩いて私を誘う。


「お……お邪魔します」


 布団の端ギリギリのところでレイミーに背を向けた形で横になる。


「何遠慮してんの。ほらほらもっとこっち寄りなさい」


 不意に左手を引っ張られる。私の身体は抵抗する力もなく、レイミーの方に体を半回転して近づく。すなわち、至近距離で顔を見合わせる形となった。


「ね?こっちの方が暖かいでしょ?」

「そ、そうですけど」


 確かに布団の中にしっかり入れているのと、何よりレイミーの体温を感じるのでとても暖かい。だが、私自身誰かとこんなに密着したことがないせいか、少々居心地が悪い。


「なーに緊張してんのよ、目の前に見えるのは自分と同じ顔でしょ?そんな気にすることないって」

 

 言われてみればその通りではあるが、体に伝わる体温、近くで見られているという圧が私の調子を狂わせる。


「ああ、もうしょうがないなあ。よっと」


 今度は私の身体を抱き寄せてきた。私の頭がレイミーの胸のあたりに収まる。


(!??)


 彼女の心臓の鼓動を頭で感じる。すると、自然と落ち着きを取り戻す自分がいた。


「母親が生きてた時よくこうしてもらってたのよ。どう、落ち着いた?」

「うん、ちょっと」


 私は、レイミーの顔を見上げる。その顔は、同じ顔なはずなのに私なんかよりとても大人に見えた。


「お、お姉ちゃんって呼んでもいいですか?」

 

 自分の口から思いがけずそのような言葉が発せられた。え、待って私今何って言った?


「え……」

 

 さすがのレイミーもちょっと困惑している。やばいやばい、訂正しなきゃ。


「いいよ。うん、いい!すごくいい!むしろそうして!いやー、正直に言うと妹欲しかったんだよねー」


それから何か妹のことについて話し始めたおかげで、訂正する機会は完全に失われてしまった。


「じゃあ、そろそろ寝ましょ。おやすみなさい」

 

 少しだけ話すと満足したらしく、そう言って彼女は目を閉じた。


「あ、うん、おやすみ。お、お姉ちゃん」

 

 自分から言い出しといてなんだが、やっぱりちょっとこっぱずかしい。でも、レイミーがとても嬉しそうだから少しだけ続けてみようかな。

 その後、あんなに落ち着かなかったのが嘘のようにすんなりと眠りに落ちることが出来て、自分も驚いた。


 次の日の朝、目を覚まして体を起こすと、少し先に起きて座りながら背伸びをしていたレイミーと目が合った。


「あ、おはよう!よく寝れた?」

「おはよう、うん、結構」

「そう、じゃあさっさと降りて朝食食べましょ」


 朝から元気だな、いや、純粋にお腹が減ってるだけ?

 手を引かれて降りてる途中、まだ男二人は寝ていることは確認できた。


「お義母さーん!おはよーう!ご飯出来てるー?」


 階段を降り切ると、レイミーは大きな声で手を挙げながら元気よくそう告げる。


「はいはい、出来てるよ」


 キッチンの方からいい匂いがする。これはチーズの匂いだろうか?それに少し香ばしい匂いも含まれている気がする。何が来るのか予想しながら待っていると、レイミーの義母にあたるその人が、そそくさと席に座った私たちの前にその料理を置く。グラタンだ。


「おいしそう……!」

「でしょでしょ!うちのお義母さんの料理は最高なんだよ!」


 まるで自分のことのように自慢げに答える彼女を見て、義母との関係性の良さを窺える。


「朝から、元気だなーおい」

「全くだ。おかげで目が覚めちまった」


 そんなこんなしてる内に義兄弟が降りてきた。

「あ!おはよう!グルースにルドー!今日の朝食はグラタンだよー」

「お、グラタンか!いいじゃん」

「まあ、悪くはないだろう」


 二人が私たちの向かい側に座る。私の向かいがルドー、レイミーの向かいがグルースって感じだ。


「あ、」


 そこで気づく、大きなテーブルを挟んで椅子が二つずつ、つまり席が四つしかないことに。


「す、直ぐ退けますね……!」

「いいよいいよ、後で食べるから」


 近くまで来ていた義母に席を譲ろうとしたが、あっさりと断られてしまった。


「それよりもたーんとお食べ、あなたの分も用意してあるから」


 そして、私の前にグラタンが置かれる。ちなみに先ほど置かれたグラタンは、レイミーがもう食べ始めている。


「え、いいんですか……??」

「遠慮することはないよ、今からここで暮らすつもりなんじゃろう?」

 どうやら、そこまで見抜かれていたようだ。レイミーの義母の観察眼恐るべし……ってそこじゃなくて、


「あ、挨拶遅れました!私、鏡野美玲って言います!えーと、こんな素性もわからないような身ですが、どうかここに住まわせて頂けないでしょうか……?」


 席から立ち上がり、自己紹介をした後に頭を下げてお願いする。

「素性ねぇ……てっきりレイミーにそっくりだから、レイミーの親戚かと思ってたけど」

「ああ、それは聞いたぜ。確か彼女はぐほぉ!?」


 突然、グルースが会話の途中に奇声をあげた。どうやら、レイミーに足を思いっきり踏まれたようだ。


「そうよ、彼女は私の生き別れの妹よ。最近、色々と事情があって身のよりどころがなくなってしまってらしくてね?だから、私がここに連れてきたの。ってことでお義母さん、彼女と一緒に暮らしてもいいよね?」


 生き別れの妹として紹介したのは多分、彼女なりの配慮なのだろう。


「そうねぇ……このまま放っておくのも可哀そうだし、いいわよ」

「やったー!よかったね美玲!」


 席から立ちあがってガバっと抱きつかれた。最初の方の私だったら拒絶してたかもしれないけど、今なら彼女を受け止められる。


「うん、ありがと。お姉ちゃん」


 優しく、呟くようにそう言うと、体を震わせて喜んでいるのが全身で伝わってきて、私も少しうれしい気持ちになる。


「お前ら、あの一晩の間に何があったんだよ……」


泣き言のようにそう呟くグルースは、少し可哀そうな気もしなくもなかった。

食事が終わった後(グラタンはとても美味しかった)、グルースがレイミーの近くに寄って小声で話しかける。


「なんで、あんとき嘘ついたんだ?」

あ、ちなみに小声といったが、少し離れたところにいる私にも聞こえる程度の小声である。


「いやだって、突然別世界から来たんだーとか言ったら驚かれんじゃん?なんなら、信じてもらえない可能性だってあったし。あそこはああ言った方が得策だと判断したんだよ。そ、れ、に」


 三歩ステップを踏むように歩を進めて私の近くまで来ると、


「妹って言うのは公認だし?案外言ったこと間違ってないかもしれないよ?」


 後ろから私の両肩を両手を載せながらそう答えた。


「公認って、ほんとあの晩何があったんだ……」

「それはひ・み・つ♪」


 レイミーはとても楽しそうにグルースを弄んでいる。彼女はこう言ったが、別にそんな秘密にする程のことはなかった気がする。……いや、あるか。


「貴様ら、ほんと元気だな」

 

 後ろから声がして驚いて振り返る。そこにはルドーが立っていた。食事の時、ルドーは一人黙々と食べていて、会話には入ってこなかったので、存在を軽く忘れていた。ちなみにレイミーによると趣味は筋トレらしく、暇があれば体を鍛えているらしい。


「さっきからずっと思ってたんだが、なんか美玲を見ていると、昔のレイミーを思い出すな」

「え?」

「うげっ」


 驚いてレイミーの方を見る。なぜか彼女の顔は引きつっていた。


「今のレイミーからは想像が出来ないと思うが、出会った頃のあいつはほんと……」

「ストップストップ!!」


 慌てて止めに入るレイミー。こんなに取り乱す彼女を初めて見た。


「なんだ、別に聞かれて困るようなことでもないだろう」

「いやいや、ハズイから。それに、当時のことはあまり思い出したくないし」

「……確かに、あんまりいい思い出ではないかもしれないな」

「でしょでしょ!じゃあ、私たちはそろそろ出かけるね!行くよ、美玲!」


 突然手を取られて、体を引っ張られる。


「行くってどこに?」

「そんなの決まってるじゃない!ってことで、じゃあね、二人とも!」


 そうして、私たちはまるで逃げるように家を出ていくのであった。

読んでいただきありがとうございました!次回も来週中に更新予定です!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ