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鏡写しの幻想世界(ファンタジーワールド)  作者: 蒼榛(あおはる)
過去編
17/35

新しい世界が出来るまで

どうも蒼榛です!

これは、ファンタジーワールドの始まりの話です。

ストーリー構成上では、別に読まなくても問題ありませんし、短編小説として読んでもらっても大丈夫です!

ちなみに私の好きなアーティストであるfhánaさんの曲名がいくつか隠されてます。

ぜひ、探してみてください!

「ママ―!!」

 燃え盛る炎を前にして私は叫んだ。

「出てきてよ!!ねぇ!!!」

 どんなに叫んだところでその声は届かない。

 目に映る真っ赤に染まったその建物は無情にも跡形もなく燃え去っていった……


 これは、私がまだ小さかった頃の話。この記憶は今でも鮮明に脳裏に残っている。私にとってそれは人生の分岐点。それは私という存在、観念、思想すべてが塵となって飛び散った瞬間だった。


 それから、大体10年くらい経った。その後も私の人生は波乱万丈だったといっても過言ではない。

 母親を亡くしてからしばらくして、世界中で萬栄し始めた感染症。外に出ることさえ許されない世の中。今まで出来ていたことが出来なくなった日常。それでもなお、収まらない感染者数。

 人々が体を防護服で包むようになったには、もう3年以上も前の話。そこからやっと感染者数は収まりを見せ始めた。

 今となっては、落ち着きを見せているその感染症はこの国で万を超える死者を出してしまった。ちなみにだけど、その中には私の父親も含まれている。

 

 まあ、そんな過去に起こってしまったことは置いといて、今の私はというとペンタブを前に「う~ん……」と唸っているわけで。

 絵を書く。それが私の趣味であり仕事だ。今年の春にオンライン授業尽くしの専門学校を卒業し、晴れて社会人となった私はとあるゲーム会社に就職し、キャラデザを担当する部署に配属された。母親と同じアニメーターを目指してたので、家でずっと絵を描いて過ごしてきた私にとってこの職は、ある意味最適かもしれない。作業は、基本的にこの自室のパソコンとペンタブで行う感じだ。未だに会社には行っておらず、仕事は全て自室でするといった今の時代では当たり前となった労働スタイルで、私は会社から与えられた課題をやっていた。その課題とは、「キャラデザを一人で完成させる」というものだ。ジャンル、容姿等は自由で、オリジナルなら何でもいいということ。


「ダメだ、全然思いつかない」


 昨年通販で買った高いゲーミングチェアに思いっきりもたれかかる。天井に視線を上げて途方に暮れる。

 これは多分だけど、仕事というか新人研修の一環と思われる。まあ、つまり実力テストのようなものなのだろう。

 

 正直、何でもいいという指示が一番困るのだ。考えがまとまらずどのジャンルで描こうかすらはっきりと見いだせない。それに、元々私がなりわいとしていたのは既存キャラを描くことで、(それでSNSとかでちょっと有名になっていたところはある)オリジナルキャラを描いたことはまだ一度もなかった。改めて描いてみると装飾品とか服とかを一から考えなければならないので、本当に骨が折れる。


「無理、一旦気分転換しよ」


 そう独り言をつぶやいて、私は外へと飛び出した。

 私の住む街は、古き良き街並みが広がる観光地としても有名だったところである。だった……そう、だった街である。今となっては、老舗の和菓子屋もご当地品を売ってる古くからのお土産屋も全て閉店している。どれも経営破綻または店長がお亡くなりになったとかで店を閉めてしまっている。そもそも、人々は外出するということをほとんどしなくなってしまったのだから、こうなるのもしょうがない趣旨がある。

 旅館とか、料理屋とかも軒並み撤退しており、観光客なども今や存在しないといってもいいほどの人数なので、この奇麗な街並みを悠々と歩くことが出来る。こんな景色を自由に誰にも邪魔されずに見ることが出来るようになったのは、唯一に救いと言うべきか。

 

 さて、そんな私が今歩いて向かっているところはというと、家から一番近くにある図書館である。昔からあるとても大きなその建物で、私はいつも何か面白そうなもの、言わば宝物を探しに出回っている。まあ、つまるところ暇つぶしだ。

 

 家から歩いて15分、その間に何かアイデアとか浮かばないかと期待しながら歩いたが、そんな都合のいいことは起こらず、気が付けばすでに入り口前だった。

 私は、軽くため息を付きながら中へと入る。そこには、案の定人っ子一人もいる気配がない。受付も機械で行っているため、平日の昼過ぎということもあり本当に私以外に一人もいないといった感じだ。人がいないと本を奪う輩が現れると心配すると思うが、ここには高精度カメラがいたるところに設置されており、それをリモートで監視している従業員がいるのでセキュリティー上の問題はない。

 あと、一応言っておくがこれは決してサボりではない。インスピレーションを呼び起こすために必要なことなのだ。だから、決して仕事をサボっているわけではない。


 さて、今日はどのコーナーを探索するか……。


 キャラクターのデザインを考えるんだから、参考になりそうなファンタジー系の本を置いている所へと向かってみる。そこは、現在地から見て左奥へと進んだところだと森の絵が描いてある地図を見て確認する。人一人としていないので、逆に物音を立てるのもどこか憚れるところがあって、抜き足差し足でそこまで移動する。なんかこれだけでも少しテンションが上がる。


 よし、無事目的地へと到着。私のお目当ての本はどこかな?


 私は、棚の一番上から一番下まで一つ残らず、何か面白そうなタイトルがないかと目を通していく。

 昔からあるような冒険譚を綴った物語や、神々の戦いを描いた神話、少し前に流行った主人公が異世界転生するライトノベルなど、ほんとに年代を超えた数々の作品のタイトルが並んでいる。その中で面白そうなものを何個か手に取っては戻す。そんなことを小一時間やっていた時、ふとある本に目が留まる。


 タイトルがない……??


 その本は、見るからに他のものと比べて年季が入っており、周りは茶色の皮で覆われていて、所々に金色の模様のようなものもあり、まさに異彩を放っていた。

 中身を開けてみると、アルファベットの羅列が並んでいる。どうやら、この本は外国産のようだ。


 とりあえずこれ、持って帰ってみるか……


 あからさまに怪しげなその本を私は抱えて、受付へと持っていく。


「スキャン開始……この本は、現在登録されていません」


 本の貸し借りはこのように自動音声とスキャナーで行っている。実は本を指定されたところに置くことで、その本が何なのかを機械が読み取ったあとに、貸し出すかどうかを画面で選択するといった感じだ。しかし、今回借りようとした本はどうやら元々この図書館になかった本のようだ。誰かがいらなくなって適当に本棚にしまったのだろうか。


 どっちにしろ、手間が省けたってもんよ


 この図書館には、時々こういう風にいらなくなった本をひっそりと置いていく輩がいる。今回も、そのパターンであろう。

 私は、手続き不要と解釈し、それをバックの中にしまって、図書館を出た。


 その後、家に帰って何のアイデアも浮かんでないことに気づいて、また迷宮の中に迷い込んだが、その時の話は今は割愛する。


 まあ、そんなこんなで何とかキャラデザを完成させた頃には、もうすっかり夜になっていた。働いた時間を素直に(いや少し上乗せして)上司に報告して、今日の仕事は終わりだ。って言っても、この会社残業代ほとんど出ないから上乗せしたところであんまり関係ないんだけど。


 さーて、今日は疲れたしもう寝るか


 私は、ベットの上に仰向けになり、スマホをいじる。そして、適当にSNSで「おやすみ」とつぶやく。ついでに、タイムラインの確認やニュースサイトを少しばかり見てみるが、それと言って面白そうな話題もない。むしろ、現政権の批判や誹謗中傷など見ていて嫌な気分になるものばかりだ。ほんと、いつからこの国はこんなに腐ってしまったのだろうか。

 スマホを半分投げ捨てるようにして、ベットの横で弾ませて目を閉じる。意識を失うまでにはそう時間はかからなかった。



・・・



 眩しい日差しとともに、朝目覚めるとそこには見知らぬ小さな男の子が目の前に立っていた。


「やあ、やっと目覚めたかい、キミ」


 抑揚のない、感情を感じない声だった。

 ああ、夢かこれは。そうに違いない。


「ちょっと、二度寝しようとするんじゃないよ」

 

 かけ直した布団を直ぐにひっぺ替えされてしまう。


「ちょっと今、夢から目覚めるのに忙しいから後にして」

「いや、これは夢じゃないよ。現実だ」

「それ本気で言ってる?じゃあ、今から私の頬思いっきりビンタして」

「うむ、承知した」


 すると、表情一つ変えないその少年は私のすぐ横に立ち、何の躊躇もなく私の右頬をひっぱたいた。


「痛ぁ!ってことは、マジで現実!?」

「そうだ。早く認めたまえ。というか、キミ。ビンタで夢かどうか見極めるなんて、そんな古典的な方法試すのは、今の時代貴様くらいだぞ」

「はいはい、てか、そっちこそそんなちっこい体してそんな喋り方するの、全然似合ってないぞー」

「ふむ、貴様は少し勘違いしているようだから言うが、私は君より全然年上だぞ」

「は、は、は……御冗談を」

「冗談ではない。なぜなら、私はもともとそこにある古びた本なのだからな」

 

 ……やっぱ、これ夢じゃね?


「よーし、寝よう。早く現実に戻らねば」

「こら、また二度寝しようとするんじゃないよ。起きたまえ」


 さっきより軽いが何度も両頬にビンタする。


「痛い!わかった、わかった、起きるから」


 そう言って、寝起きでまだうまく動かない思い体をベットからを起こす。


「で、さっき言った自分は本だーってどういうこと?」

「そんな間抜けな物言いはしたつもりないが、つまり、そういうことだ」

「いや、全然わからないんですけど」

「じゃあ、手始めにその古びた本を開きたまえ」


 言われた通り、昨日図書館から持って帰った本を開いてみる。すると……

 全てのページが真っ白になっていた。


「あれ?昨日までちゃんと字で埋め尽くされてたはず……」

「うむ、その通り。昨日まではそこに物語、ストーリーがあった。そして、それがこの僕だ」

「……ちょっと何言ってるかわかんない」


 私は、本を閉じてその少年を外に出そうとする。

「やめたまえ。そんな関わりたくないものを見るような目で私を見ながら、首根っこを掴むのはやめたまえ」

「じゃあ、ちゃんとわかるように説明しなさい」


 とりあえず、地面に戻してあげると少しだけ考えるような素振りをして、その少年は口を開いた。


「言った通りのことだ。僕という存在を作り上げていた物語がそこにあって、そこから僕は飛び出してきたのだ」

「僕という存在を作り上げた……?つまり、あんたはその物語の主人公ってこと?」

「そうでもあり、そうでもない。僕は、その主人公という器だけではなく、その物語そのものの属性も持ち合わせている。端的に言えば、僕は人の殻を被ったストーリーだ」

「はぁ……」


 やはり、何言ってるかよくわかんないけど、これ以上聞いても多分意味ない気がするので聞くのを辞める。


「そして、貴様には新たにこの本に君のための物語を書いてもらいたい」

「私のための物語……??」


 話が唐突すぎる。私に小説を書けと?


「いやいや、無理無理。私小説とか書くの苦手だし」

「別に架空の話を書く必要はないんだよ。日記のようなものでも良ければ、自分の趣味嗜好を綴ってもらっても構わない」

「なるほど……、なら出来なくもないかも」

「それを書き終えた時、私はその物語を文字通り体現する。どうだろうか。いい話だと思わないかい?」

「う~ん、この流れ。どう考えても怪しすぎる……。大体、こういうときって最終的にとんでもない災難が待ってるんだよな……」

「いいじゃないか。どうせキミはどうしようもない退屈な生活を送っているのだろう?」

「うっせえわ!よっしゃ、やったろうやないかい!」


 安い挑発に乗ってしまった私は、その日から少しずつその本に書くものについて考え始めるのであった。


 そんなことがあった土曜日もあっという間に過ぎ、日曜日を迎える。

 その日曜という大切な休みの日は、結局のところこいつ……謎の少年の服とか日用品を揃えている間に終わってしまったのはもう言うまでもないだろう。


「僕は、別にこのままでよかったんだが」


 あらかた買い終わった後に、家で待機していた大きなTシャツ一枚だけ着ているこやつはそう言うが。


「そうもいかんのよ。世間体的にも」


 実際、Tシャツ一枚のショタが家にいるって、私がショタコンだったら事案が発生していてもおかしくないからね?私がショタコンじゃなかったことに感謝しろよ?


「とりあえず服着て。これとこれ」


 適当にサイズが合いそうな服を買ってきたので、それを投げて渡す。すると、少し不思議そうな顔をして「ふむ」っと呟いた。


「しかし、これは世間一般で言う紳士用とやらではないか?」

「いや、何言って……」

 

 短髪で抑揚のない低い声で一人称が『僕』だから、勝手に性別は男だと思っていたが、もしや


「あんた、女の子なの?」

「ああ、その認識で間違いないよ」

「……マジか」


 驚愕の事実に啞然としたが、女の子と聞いて少し安心している自分もいた。

 


 それから、月、火と二日経過したが、大きく変わったことは起きなかった。強いて言うなら、家にずっと小さな少年、ではなく少女がいるだけだ。あ、いやそれだいぶ大きな変化だわ。


「僕のことは気にせず気楽に過ごしたまえ。僕はもとより飲み食いしなくても生きていける身なのでな」


 そう言って、私の部屋のベットにずっとちょこんと腰かけている。彼女は時折、私が買っている本を読み漁ったりして暇を潰しているよう程度で本当に何もしない。ただ、そこにいるだけって感じだ。あと、寝るときは本の中に戻るようで、私が消灯すると本に手を触れて姿を消しているのを昨日目撃した。ほんと、現実なのこれ……?


っとっと、そんなこと気にしている場合ではない。結局、あの時苦労の末描き上げた作品は没となってしまい、またもう一度描き直しているだから。


「なーにが、『新人はまずは描いて覚えろ』よ。こっちはもう描くことだけに関してはそこら辺の人よりも全然ベテランなんですけど」


 そう文句を言ってはみるものの、実際のところキャラデザを描くことに関しては素人だ。今の状態の私に実用的なキャラを描く能力はないと私でも思う。

 新しいデザインを考えてから既に二日目。まだ、ろくな進捗もなくペンをくるくると回している。


「あ、そうだ。あんた、ちょっとモデルになってんない?」


 後ろに如何にもファンタジーから来ましたって存在がいたではないか。すっかり盲点だったわ。


「別になってやらんこともないが、何をすればいい?」

「そのまま本を読んでいれば大丈夫。後はこっちが適当に仕上げるから」

 

 それを聞いた少女は、「そうか」と小さくつぶやいた後に直ぐに目線を本の方へと移した。私はそれを必死に観察して、目の前の画面に描き込んでいく。

 しかし、こいつは無駄に顔がいい。髪は茶色のショートヘアで、顔はスラっと細い顔で、ちょっと凛々しい感じだ。体に関しては、ちんちくりんって言葉が適していて、凹凸がなく身長も低いため、小学生にどうしても見えてしまう。しかしまあ、本人の話によると1000年以上は生きているらしいし、ほんと謎な存在である。


「君ってさ、1000年以上生きているっていう話だよね?」


話もせずに黙々と書かせてもらうのもあれなので、もう一度確認がてら尋ねてみる。


「うむ、その通りだ。私は、新たな物語が書かれる毎に生まれ変わってきたのだからな。この本に書かれた物語は1000を超える。時に10年くらい生きた時もあれば、一日で生まれ変わったときもあったな」

「へえ、それって前の生きてた時の記憶とかも残ってたりするの?」

「うむ、転生する前の記憶というものは多少ではあるが残る。なので、今でも私は1000年前の言語や生活様式をある程度再現できる。うろ覚えではあるがな」

「ほうほう、つまり君は生きた歴史書でもあるという訳か」

「まあ、そういえんこともないな」


 なんかこいつ、思ってたより価値のある存在に思えてきた。


「でさ、そんな長い間生きてきて、退屈じゃなかったの?」

「そりゃ退屈さ。だから、毎回誰かに見つけてもらうたびに、新しい物語を書いてもらうんだ」

「……それで、退屈は紛れるの?」

「少しは。物語には人それぞれの個性が宿るからな。だから、私の性格も価値観も変わってくる。それを知ることがとても楽しいんだ」

「ふーん……」


 そうこう言っている間に、結構描けた。……だいぶいい感じなのでは?

 実物をもとにキャラを描いたのは実を言うと初めてだったので、少し不安ではあったが案外上手く行くもんだと、自分自身に感心している。ちょっと誇張表現も入っているが、いい男の子が描けたのではないだろうか。


「おい、勝手に性別変えてるんじゃないよ」


 軽くのぞき込まれて、予想通りのツッコミが入るが、まあ適当に流しておこう。


 その時描いたキャラは、会社の中でも結構いい線までいったらしい。……と願いたい。



 

 そんな感じの日常を送りながら、気が付いたら一か月程時が過ぎていた。今となっては、モブキャラ程度なら少しはデザインを任されるようになった。けれど、まあ思っていたよりこの仕事退屈だなって思い始めている自分もいる。というか、なんか思ってたのと違う。もっと、皆と話し合ったりする機会があると思っていたが、顔合わせは最初だけで、それ以降は常に一人作業である。話をする機会なんて全然ない。


 さて、物語の方はどうなったのかというと、実はもうそろそろ書き終わるところだ。

 ここでネタ晴らしをさせてもらうと、私がここに書いたものは小説ではない。私がここに書き記したのは私が想像した架空の世界だ。私にそもそも小説を書くという力量はなく、とりあえず書き始めたのがこの世界の設定。自由に魔法を使うことが出来て、それでいて大きな対立もなく帝都を中心に国民全員が楽しく生きていけるような世界。本には、魔法の設定やら使用する通貨とか、帝都がどういう構造なのか、周辺にはどんなものがあるのかなど、事細かに書き記している。そして、今もう書くネタが尽きようとしている。


 私は、世界を変えるという夢を持っていたことがある。母親を奪い、行動の自由すら奪われ、最終的には父親さえ死へと追いやったこの世の中を。しかし、私は無力だった。世界を変えれるほどの行動力もなければ、頭の良さもなかった。だから、私は想像した。この世の中ではない世の中を。ありもしない別の世界を。それを考えている間だけは僅かではあるが幸福感を感じることが出来た。想像はどんどん膨らみ、気が付けばこうやって本一冊を埋めるほどになっていた。そして今、私はその想像の世界へと行けるチャンスを手に入れた。理想の世界へと飛び立つチャンスを。


「こんなもんかな。さて、書けたよー物語」


 タンスに向かって声をかける。すると、その中で息を潜めていた少女がひょこっと顔を出す。


「ふむ、思っていたより早い完成で僕は少し驚いてるよ。どれどれ……」

 

 本の中に入っていく。どうやらそうすることで読むことが出来るらしい。

 数秒間、中に入った後にそそくさと姿をまた現した。


「これは面白い。まさか登場人物なしの世界観だけを書いてくるとは」

「いやぁ、それがなかなか小説を書けるほどの技量がなくてね。ずっと思い描いていた世界観とやらを書いてみたわけよ。どう、なかなかいい感じでしょ?」

「まあ、悪くはないが……これだと、自分の存在も消えることになってしまうね。……これで完成だというのならの話だが」

「え?……ああ、そうか」


 彼女は自分のことを『物語そのもの』だと言っていた。つまり、世界観しか書いていないこの本だと、彼女は世界を形成する役割になってしまうだろう。そこに意思はなく、体もない。すなわちそれは彼女は消滅の一途をたどることとなる。


「一人でも登場人物が書いてあったら、それに成り代わることは可能だったが、この世界人一人として特徴が書いてないではないか。これでは、成りようがない」

「え、書いてあるじゃん。『この世界の住民は、全員現実世界の性格が反転した性格をしている』って」

「僕に数知れずの役者を演じろと?さすがにそれはキャパオーバーだ。そもそも僕の力ではここに書いてある世界を創造するだけで精一杯だ」

「あー、そもそも論ね。なるほど……でも、ちょっと申し訳ないけど、これ以上手を加えるつもりはないよ」

「……そうかい。なら、しょうがない。ふむ、これはなかなかにやってくれたね」


 当然、怒るか取り乱すかすると思っていたけど、少女は案外冷静だった。それどころか笑みを浮かべているようにも見えた。


「で、キミはどうするんだい?」

「ん、何の話?」

「キミのことだから、自分が想像したこの世界を易々と見逃すつもりはないだろう?」

「ほうほう、なかなかに勘の鋭い少年だね」

「僕は女だ。そしてキミよりかなり年上だ。何度言ったらわかるんだ」

「ははは、その見た目なのが悪い。今度生まれ変わる機会があれば、もっと女らしい恰好をするんだな」

「……善処しよう。で、話を戻すよ。キミは、もうこっちに居座るつもりはないっという解釈でいいのかい?」


 ストレートな質問だ。もう、彼女には私が考えていることがわかっているようである。


「うん、だってそこに書いたのは私が待ち望んでいる世界だもん。行きたくないわけないじゃん」


 私はこの世界を見捨てる。それをすることに若干の後ろめたさのようなものを感じる。でも、それでも……


「私は行くよ。憂鬱向こう側を探しに」

「……そうか、じゃあ、この本に触れて。今から、私の力をお見せしよう」


 少女は何かをぶつぶつと唱え始める。すると本が光を帯びて、宙に浮き始める。

 少女の口が止まる。すると、彼女の体も光り出して……


「あ、そうだ」


 消えていく体をこちらに振り向かせて思い出したかのように間抜けな声を出すその顔は、なぜか安堵に満ちていた。


「ありがと、これでやっと僕も幾千回のループから解放されそうだ」


 最後に今までに見せたことのない満面の笑みをこちらに浮かべた。その瞬間、辺りが光で満たされる。視界が真っ白になって何も見えなくなる。 

 

 あ、お別れの言葉言うの忘れたな。


 何時間その状態が続いただろうか。気が付くと、私は芝生の上に横になっていた。

 体を起こして、景色を見る。そして、私はニヤリと笑った。


「Hello! my world!! こんにちは、私の世界」




 最近、巷で少し話題になっている失踪事件がある。それは、戸羽菜々失踪事件だ。突如として姿を消した彼女の部屋に残っていたのは、一つの日記帳だった。それの最後に記されていた文章が、これだ。


「以上で私のこの世界での記録は終わりです。これからは、新しい世界で生きていきます。もし、この世界に飽きを感じたら、『僕』を見つけてください。では、さようなら」


 彼女が本当に別世界に行ったのか、それともどこかで自殺を図ったのかはたまた殺されたのかは、誰も知る由もない。

読んでいただきありがとうございます!

ゲームクリエイターがどういうことをしているのか詳しく知らないので、結構適当です。

色々と間違ってるかもです。すみません。

次回投稿は、前回投稿した内容の続きとなります!

一応、あと二週間を目途に書いていますので、お待ちください!

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