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鏡写しの幻想世界(ファンタジーワールド)  作者: 蒼榛(あおはる)
雪の里編
14/35

五感共有

どうも蒼榛です!

今回は少し長めですが、ぜひ読んでいってください!

 日差しが空から強く照り付けている中、私たち二人はゆっくり着実に帝都への道のりを歩んでいた。

 永遠に続くかに思えた筋トレについての話は、ここでやっと終わりを迎え、少し安堵感に満ちていたその頃、そろそろ休憩を挟もうかということになった。


「ここで休憩してもいいが、もう少し進んだ方がいい風景が味わえるから、そこで休憩しようと思う」


 今現在、私とルドーがいるところは、軽い上り坂となっている。そこまでキツイ坂という訳ではないが、だいぶ長い間登ってきた気がする。そして先に見えるのは、十段ほどの木の階段で、その先がどうなっているのかはここからは確認できない。周りはピンク色の花を咲かせた名前のわからない植物が生い茂っている。これでも充分綺麗だと私は思うが、はて、この先にはどのような景色が広がっているのだろうか。


「この先には、何があるの?」

「……まあ、見てからのお楽しみだ」


 ルドーは、それしか答えなかった。口で説明するより見た方が早いということか。


 階段を上り始める。一段、二段、三段……一段登るごとに少しずつ景色が広がっていく。六段登ったところで、私の足音は一気に弾んだ。

 視界が一気に広がる。そこはまるで天国を思わせるような景色だった。見渡す限り広がる色鮮やかな花たち、その中にある一本の大きな木。風がそよぐと甘く朗らかな香りが私たちの身を包む。それらは、今まで私が人生で抱えてきた廃れた心を浄化していくかのようだった。


「綺麗……」

「だろ?じゃあ、休憩としようか」


 そうして、私たちは一本のそびえ立つ木の下で休憩を取ることとした。と言っても、休憩時間でやることなどほとんどなく、本当に体を休めるだけだ。強いて言えば、乾パンと道中で掬った水があるのでそれを食べるかどうかってくらいかな?

 

 でも、今回はそれ以外にもやりたいことがあった。それは、もちろんレイミーと五感共有することだ。

 

 この景色を見てまず最初にこみ上げてきたものは、彼女にもこの景色を見せてあげたいと思いだった。それは、別れる前の彼女が望んだことであり、そして必ず彼女が今欲しているものであると私の中で確信している。


 ということで、まずは通信魔法で話しかけてみることにする。


『レイミー、聞こえる?』


 なるべく興奮を抑えて言葉を送る。ここで、思わせぶりなことをしてしまうと期待値が上がってしまって、感動が薄れてしまうかもしれない。


『うん、聞こえてるよー。今度はどうした?』

『えーと、今ちょうど休憩に入ったから』

『はあ。こっちはやっと今、山を登り終えるところだよ』

『山……??』

『そう、山。こっちの道は登山コースでね、ずっと上り坂でもう足が限界だよ』


 どうやら、あちらは相当険しい道だったらしく、通信魔法で伝わってくる声もそこはかとなく疲れが見える。


『まあ、でも景色は結構いい感じかなー。これは頑張った甲斐がちょっとあったかも。あ、遠くに帝都っぽいのものが』


 こう聞いているとあちらの景色もなかなかのものだと思われる。それは好都合だ。


『……ねえ、今がチャンスじゃない?』

『それ私もちょうど思ったところ。さすが私たち。気が合うね』


 頭の中で彼女のニヤリと笑う姿が浮かぶ。それを想像して私も自然と笑顔になる。


『ちょっと待っててね!グルースと話してくるから!』


 そう元気な様子が窺える声色が響いたところで一旦、通信魔法は途切れる。話ってなんだろうか、もしかしてこのことを話すのだろうか。


……いや、彼女のことだ、こんな面白い能力のことをこんなところでばらすことはないだろう。多分あれだ、休憩を取るとか取らないかとかを話しに行ったんだと思う。


『おまたせ!今、グルースとここで休憩取ることにしたから、いつでも大丈夫だよ!』


 やはり、そういう話をしていたようだ。ここ三週間くらい彼女と生活を共にしていく中で、彼女のことをだいぶ理解出来てきたということを改めて実感する。そして、それはそれだけ多くの時間を彼女と過ごしてきたということでもある。


『わかった。で、どっちから共有する?』

『うーん、じゃあ私から!』

『りょうかい』


 そうして私は目を瞑り、五感共有をしようと試みる。


 五感共有をするためには、まず相手のことを強く意識する必要がある。ここら辺は通信魔法を使うときと似ている。しかし、通信魔法と大きく違う点として、相手のことを強く想う必要がある。これのコツを掴むのにはなかなか時間を要した。漠然と相手のことを考えるだけじゃダメで、相手に対しての明確な願いを心に載せる必要がある。だから私は、目を瞑り強く願う。


(レイミーともっと強く繋がりたい……!!彼女の今感じているものを一緒に感じたい……!!私の精神を、どうか彼女のもとへとお送りください!!)


 瞬間、意識が飛んだような感覚に襲われる。この感じは、上手くいった証拠だ。閉じていたはずの視界がいつの間に開いている。そして、景色が広がる。その景色はもちろん私が見たことのない景色だ。


『どう?うまくいった!?』


 今、自分が見ている景色を見ている人から通信魔法が飛んでくる。なんというかとても不思議な気分だ。


『うん、うまくいったよ……ちょっと肌寒いね』


 山の上なせいか、風が冷たくて強い。私がいたところと比べると体感温度が全然違う。 

 

『えー、感想それだけ?もっと言うべきことあるんじゃない?』


 不満そうな声が頭の中で響く。声は、私の身体の方に飛ばされているはずなのだが、直ぐ近くで喋っているような感覚に近い。

 不意に見えている景色が上にいく。どうやらレイミーが立ち上がったようだ。そうすれば、私が景色をよく見ることが出来ると読んだのだろう。実際、座っているときよりも沢山のものが見えるようになった。


『どう?なかなかいい景色じゃない!?』


 レイミーの目線でこの世界を見る。彼女の言った通り、高いところから見下しているその景色は、なかなかに絶景だと思う。草木が風でそよいでいる中、一本の黄土色の線がまっすぐに伸びている。そして、その先に見えるものは大きな塀に囲まれている街だ。真ん中に大きく長く伸びる建物を中心に、沢山の建物が建っているのがここから見てもわかる。あれが所謂、「帝都」というものなのだろう。ということは、真ん中にあるものは王家が住む城というところか。


『うん、いい、いいと思う。こんな高いところから何かを見たことなんてなかったからとても新鮮』

『ふーん?なんか思ったより冷静な反応ね。もう少し驚いてくれるかと思ったのに』


 ……ごめん、だってあっちの景色の方が私にとって衝撃的だったから。


『じゃあ、次は私の番ね。さあ、戻って戻って』


 しばらくの間景色を眺めていると、少し不満そうな声でそう言う声がした。


『うん、わかった』


 私は、意識を自分の体へと戻し、目を開ける。こうすることで、五感共有は自然と解除されることになる。


『戻ったよ』

『おっけー、今からそっちに行くねー』


 レイミーは、独特の表現で五感共有を行うことを宣言する。私は、彼女が目を閉じて私のことを想っているところを想像する。その心は果たして何を想うのか、それを知りたいと強く思った。


『あ、景色がだんだん見えてき……』

  

 そこで言葉が途切れる。元気だった声が突然消えたので通信魔法が切れたのかと疑ったが、そうではなく言葉を失っているだけだとすぐに思い直す。


『……すごい、何これ』


 やはり、途切れた反応は花びらを強く揺らす風と共に戻ってきた。


『すごいでしょ!この景色を先に見ちゃったから、さっきは微妙な反応になっちゃったんだ、ごめん』

『ううん、謝る必要なんてないよ!確かにこの景色見た後だと、私の見てた景色は確かにちょっと霞んじゃうかもね』


 それから、どれくらい無言の時間が続いただろうか。彼女が次の言葉を紡ぐまでの間、私に聞こえる音は風で葉っぱ同士が擦れて鳴る小さな音だけだった。


『ねえ、私さ。今すっごい感動してる』

『うん、私も』

『でさ、私、美玲に一つ言ってなかったことがあって』

『え、な、なに?』


 唐突な話題の変更に驚きを隠せない。


『私さ、最近ちょっと様子がおかしくなかった?』

『あ……』


 これは、もしかしなくても私が人工呼吸未遂を起こした後のことを言っているのだろう。前にも言ったように彼女の態度はあれ以降一変して、私と常に距離を取るようになっていた。


『うん、どこか私を避けてる感じがした』


 私は素直にそう伝える。

 

『やっぱり、そう見えてたよねー。ほんとごめん。なんかあの後から美玲のことをどうも避けるようになっちゃって』

『えーと、それは私と一緒にいるのが嫌になったってこと?』


 恐る恐る聞いてみる。これでそうだって言われたら、一生立ち直れる気がしない。


『違う違う!そんなわけないじゃん。そんなわけないんだけど……。何というか、美玲のこと見てると、ちょっと胸のあたりがちょっとざわつくというか、そんな感じになるから近くにいるとどうも落ち着かなくてね?ほんと、なんでなんだろう?』

『それは……』


 これを私が答えていいのだろうかとどうしても躊躇してしまう。それにその言葉を口にすることは私自身にもちょっと恥ずかしいことでもある。


『あ……あの時の感触が忘れられない……とか……?』


 しどろもどろになりながらも何とか答える。


『あの時?ああ、唇が触れ合ったときの?確かにそれはあるかも。でも、だからって何でそれがさっきのに繋がるの?』


 彼女は本気でわかってないのか、それともわかることを無意識に拒んでいるのか。ここで曖昧に答えても彼女の追求は続くだろう。なので、私は彼女が抱えているモヤモヤしたものを振り払うために次の言葉を選択する。


『もう一度したいって思ってるから……じゃないかな。あの時の感触をもう一度味わいたいって。だから、私を見たり近づいたりすると落ち着かないんじゃない?』

『……なるほど』


 どうやら、納得してくれたようだ。しかし、この後に続いた言葉に、私はもうどうにかなってしまいそうだった。


『じゃあさ、確かめてみようよ。次会ったとき』

『え……?』

『いや、むしろ定期的にしようよ!唇合わせって言えばいいのかな?なんならもう今すぐしたい!今から急いで帝都に向かうから、そっちもなるべく急いでね!』

『それを言うならキスって言った方が……じゃなくて!え、それ、本気で言ってる?』

『もちろん!そのキス?って行為でこの胸のわだかまりが解消されるなら、いくらでもするよ!実際、なんかそれ聞いてちょっと納得してる自分もいるし!』

『はあ……』

『じゃあ、通信魔法と五感共有、そろそろ終わるね!早く再開できることを楽しみにしてるよ!』


 それで一方的に話は切断された。私はため息をつきながらゆっくりと立ち上がる。

 ここでふと私の中であるもう一つの説が浮上したが、それは杞憂だと直ぐに思い返し、伝えようとはしなかった。

読んでいただきありがとうございます!

次回も10日後くらいに更新予定です!

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