二つの世界と二人の私
どうも初めまして!蒼榛です!
今回のこの作品は、10年前に書いたものを根本から見直して書き直したものです!ジャンルでいえば百合にあたるのかな……?
正直、あまり文章力には自信ありませんが、ぜひ読んでいってください!
視界がぼんやりと明るくなる。意識が覚醒するときというのは突如としてやってくるものである。
頭に少し痛みがある。今のところその程度しか認識できない。視界もまだ安定しておらず、目の前の状況もよくわからない状態だ。何かを考える気も起きない。……どうやら、思考回路がまだつながっていないようだ。
数秒ほど経っただろうか、正直感覚がはっきりしていないのでどれくらい時間が経ったのかよくわからない。ただ、だんだん意識がはっきりとしてきている。視界もだいぶ開けてきた。
ここは……?
ここで、自分の目に見えるものが、いつも見慣れている天井ではないことに気づく。
茶色の木目模様。いや、凹凸があることを考えると、多分ログハウスかな?
体を起こして周りを見渡してみる。照明器具のようなものは見つからない、ただ横にある窓からは日差しが降り注いでいる。なんでだろう、木々のぬくもりを感じるその家は、とても自分がいるべきところではないように感じた。
体を起こし、出口を探す。ここはどうやら二階らしい、階段を探しそして降りる。途中同居人と思われる人がいた気もするが、あまりまだ頭が働いてないため、そこまで気にする余裕はなかった。とりあえず、外に出たい。今はそういう気持ちだった。
扉を見つける。木で作られたその扉に鍵のようなものは見当たらなかった。恐る恐るドアノブに手をかけてみる。するとガチャという音がして何の抵抗もなしに開いた。
外を見渡す。そこには、自分の想定していた何者とも違う景色が広がっていた。
(白い……)
辺り一面銀世界とは、こういう時に使う言葉なのだろうと思う。数秒の間呆然とその景色を一見したのち、白い絨毯に一歩踏み出した。その途端意識が暗転した。
バっと体を起こす。一瞬ここがどこなのかわからなくなる。けど、さっきとは違って視界ははっきりとしている。
いつもの部屋、いつもの景色。……どうやら、夢だったようだ。
しかしまあ、我ながらなんであんな夢を見たのか。心当たりはあるといえばあるが。
もう一度寝たら、また同じ夢を見れるのではないだろうかと思い、二度寝しようか考えたが、時計に目をやるともうそんな時間的余裕はなかった。
急いで身支度を整え、部屋を出る。いや、正確に言えばここは部屋ではなく洋服を収納するところである。自分にはそもそも部屋など与えられていない。
下に降りると、すでに食事を始めている義兄弟が二人、一人は自分の一つ下で一人は一つ上だ。ちなみにみんな中学生である。二人ともあまり口数は少なく、あまり話しているところを見たことない。この家庭内では。
ここ、鏡野家ではほかの家と比べて一つ大きな違いがある。それが私だ。私は、もともとこの家の人ではない。子供のころ、確か五歳くらいの時だったと思う。両親を交通事故でなくして親戚であるこの家に引き取られたのだ。ただこの家庭でいう母親に当たる人、つまり今キッチンで調理している少し傷んだ黒い長髪の女性はあまりいいように思ってないようだ。未だにお母さん呼びをすると露骨に嫌がられるので、京子さんと呼んでいる。
今日も右側の椅子に二人が座っており、食事をとっている。左側の二席は空席だ。そして、右側にはおいしそうな料理が並べられているのに対して、左側には何も置かれていない。パンやおかず、皿でさえもない。つまり、「あんたに作ってやる料理などない」という意思がここに働いているのだ。私は、机の真ん中に投げるように置いてある袋から、食パンを取り出し、口にくわえる。自分には、これだけでも許されているだけマシだと最近は思えるようになった。
あとの二人だってあまり褒められたものではない、先ほどもいったように、家では私とほとんど口もきかなければ、義母のそういう態度に対して何も言わない。二人とも母親との関係悪化を恐れているように見える。この家庭での一番の権力者は義母なのだ。(ちなみに義父は単身赴任中。)あと、私のせいでそうなったのかは知らないが弟の方はアニメ、兄は勉強に身を挺すようになってしまい、部屋にこもりがちになってしまった。
そんなことを考えているうちに、食パンを一個食べ終わる。そして席を立とうとすると、目の前に無言で五百円が置かれる。これが、義母から許されている一日に使うことができるお金だ。それを素直に受け取って、席を立つ。誰も一言もしゃべらない、それが私たちの食卓だ。
さて、舞台は学校へと移動する。私にとって学校は唯一の安らぎの場所といってもいい。とはいったものの、特に仲がいい人がいるというわけではない。義母の監視の目から離れられるということと、図書室があることが重要なのである。この二つが私の心に平穏を与えてくれる。皆さんお気づきかもしれないが、私は家の中ではあまりにも無力である。キャビネットのようなところが自分の部屋な時点で、寝る以外のほかのことに時間を費やすことなどほぼ出来ない。携帯すら与えられてない始末だ。だから、図書室は私には宝の山に見える。本を読むことで、現実から離れ空想の世界へと飛び立つことができる。その時間は私にとって一番楽しい時間といっても過言ではない。なので、学校では授業中を除くとほぼすべての時間本を読んで過ごしている。今日も放課後を迎えるまではそんな感じだった。ちなみに昼食はいつも購買部でパンを買って席で本を読みながら食べている。
放課後は、部活に入っているわけでもなく、友達もいないし、お金もないので、特に寄り道をせずに家へ帰る。図書室で本を読んでから帰ることは時にはあるが、あまり読みすぎて遅くなると何を言われるかわからないので、なるべく早めに帰るようにしている。
学校から、家までの距離はだいたい歩いて二十分くらいで、近い方ではあると思う。この間、私は妄想にふける。その内容は、その日に読んだ小説についてだったり、自分が別の世界に行ったらどうするかとかだったりする。別の世界といえば、今朝の夢のことを思い出す。あれは、多分自分の妄想が夢にまで影響してしまったのだろう。でも、本当に異世界があるのなら、早く私を召喚してほしい。
さて、そんなこんな考えているうちに、家の前まで着いてしまった。
「ただいまー……」
ここで一応、そう言ってはみたものの当然のごとく返事はない。とりあえず二階に上がり、自分の部屋としているところにバッグを置き、下に降りる。
リビングの方からは、義母と義兄弟の会話が聞こえる。
「今回のテストの結果はどうだったかしら?」
「うん、まあまあだったかな」
「自分もそんなに悪くなかったと思う」
そういえば、今日は定期テストの結果の返却日であった。この家では、今リビングの方で行われているように、定期テストの結果は義母に見せることが義務と化している。
「……まあ、これくらい取れとけば、大丈夫なんじゃない。二人ともよく頑張ったわね」
「ありがとうございます」
「へへ……、ざっとこんなもんですよ」
小耳に挟んだ感じ、二人とも点数はよかったようだ。
「で、美玲。そこにいるんでしょ。あんたのも見せなさい」
どうやら、帰ってきてたことには気づいていたらしい。しょうがないので、また階段を上り、先ほど置いたカバンの中からテスト用紙を取り出して下に降りる。
自分の成績は、正直言っていいとは言えない。今回は自分としては頑張った方だとは思うが、二人よりは多分下だと思う。この二人、兄はもちろんのこと、弟も成績に関しては悪くないのである。
「……はい」
恐る恐るリビングへ入っていき、テスト用紙を渡した。それを、いかにもいやそうな顔をしてひったくるように義母が受け取った。
この時、いつもよりは出来がいいので少し期待しているところもあったのだが、
「……何よ、この点数は」
やはり出てきた言葉はいつもと同じ罵倒だった。
「こんな成績じゃ、あんた将来どうにもならないわよ?」
「はい、すみません……」
「せっかく、この家に住まわせてあげてるんだから、もっと頑張りなさいよ」
「はい、次はもっと頑張ります……」
「そもそもね……」
その後も、私の子供のころはとか、両親の教育が悪かったんじゃないとか様々な罵詈雑言を浴びせられた。
五分くらい経っただろうか、体感では十分以上経った気もするが多分そんなものだろう。そろそろ我慢の限界かもしれない。返事もろくにできなくなってきた。
「……ねえ、さっきからちゃんと話聞いてる?」
こちらをのぞき込むようにしながらそう言う義母をみて、もう腹が立ってしょうがなくなった。
「うるさい……」
「ちょっと、何よその口……」
「うるさいうるさいうるさいうるさい!」
義母の会話を遮り、自分は叫んだ。そしてこの家から飛び出した。
……どれくらい走っただろうか、気が付いたら森の中にいた。空はまだほんのりと明るい。時間でいったら、十八時を回ったくらいと思われる。
衝動に任せて後先考えず飛び出してしまったが、はて、ここはどこだろうか。周りを見渡したところで、辺り一面木々が生い茂っており、特に何か目ぼしいものがあるかといえば、何もない。
とりあえず、このまま引き返すのも癪なので、前に進んでみる。少し進んでいくと、木々がしだいに少なくなっていき、開けた土地に出た。だが、特段何かあるわけではなく、生い茂っていた木がなくなり、長い雑草に変化しただけである。右の方を見ると木々の隙間から密かに街並みを見ることができた。無我夢中だったのでわからなかったが、どうやら結構な長い道のりを歩いてきたようだ。
少しの間、その景色を見渡した後に向きなおすと、ちょっと予想外なことが起きていた。
「え……?」
そこには、城が建っていた。先ほどまで何もなかった場所にだ。
(記憶間違い……?いや、確かに何もなかったはず……)
どんなに気が動転していたとしても、そこにあるものを見逃すということはないはずである。それもこの背丈を大きく超える大きさの建物を。つまり、自分が横を向いている間にこの城が出現したということになる。おかしな話だ。
少しどうしようかとその場で右往左往したが、行く場所もなければ帰る場所もなかったので、中に入ってみることにした。
恐る恐る扉を開けると、そこにはだだっ広い空間が広がっていた。天井はとても高く、自分の身長の五倍はあるのではないだろうか。まず一つ言えることは、この場所が普通ではないということだ。外見は、確かによく結婚式場として使用されることがあるものと同じだったのだが、中はそれとは大きく違う。まず壁、地面、天井すべてが氷のような材質で形成されている。まるで、大きな氷の塊を何個も積み上げて作ったかのようだ。そして、灯りのようなものは見当たらないのに建物内はとても明るく保たれている。
「おや、こんなところに客がくるなんて、珍しいね」
奥の方から女性の声がする。部屋の奥には大きな氷の椅子があり、そこには誰かが座っているのがここからも確認できる。
「ようこそっととりあえず言っとこうかな。ここは、二つの世界を繋ぐ橋渡しとなる場所。氷柱回廊だ」
椅子に座ってた人は、椅子から降りたのちにこちらを向いてそういった。
「アイシクルゲート……?」
「あー、その名前はさっき適当につけた名前だからあまり気にしないで」
「はぁ。で、ここは一体なんなんでしょうか……。二つの世界を繋ぐとか言ってましたけど……」
「ああ、言った通りだよ。ここは、君たちが生きている世界、そして」
金髪のロングヘアで身長が一般的な女性より少し高めであるその人は、自分から見て左前にある氷を指さした。そこに、映像が映し出される。
「これが、もう一つの世界。私は、これを幻想世界って呼んでる」
「ファンタジーワールド……」
私は、その映像が映されている氷に近づく。そこには、真っ白い雪に覆われた小さな集落が映し出されていた。
(あれ、これって……)
なぜかこの景色に見覚えがある気がした。
「興味津々だねー、ちなみに私が見せることができるのはここだけだけど、この世界は、とても広い。人がたくさん住む帝都だって存在する」
私は、今日読んだ小説の内容を思い出す。まさに、その小説のような世界がここには広がっているのではないだろうか。
「ほかの場所は映せないんですか……?」
「うん、私の魔法はこの集落のどこかを映すのが限界なんでね」
「なる……ほど……」
今、魔法とか聞き捨てならない言葉が出てきた気がするが、それよりもだ。なぜ見覚えがある気がするのかが気になってしょうがない。その答えは次の瞬間わかることとなる。
その映像に映し出されている集落の家の一つの扉が勢いよく開く。そこから出てきたのは、
「……私??」
なんと、家から出てきたのは、私だった。いや、正確に言えば私の容姿によく似た人物なんだと思う。画面越しで詳しくはわからないが、多分身長も同じくらいで、体形も一緒だ。
(そうだ、昨日の夢……!)
昨日見た夢を思い出す。最後に見た景色は辺り一面真っ白で、所々に今見える高床式のログハウスのような作りの家が何個かあったことを記憶している。つまり、今ここで見ている映像の世界と一致する。
(てことは、私はあのそっくりさんと入れ替わってた……?)
夢の中で体に違和感を感じなかったのは、今映っている彼女と入れ替わっていたとすると合点がいく。
「お、その子君そっくりだね~、あれがあちらの世界の君か。君と違って、元気そうな人だ」
画面を見るのに集中していたため気づかなかったが、この建物の主?と思われる人物がすぐ横に立っていた。
「あちらの世界の私…?それはどういう意味ですか?」
「そうだね、簡単に言えばこの世界で生きている人は、見た目が君たちの世界の人と基本一緒なんだ。つまり、自分と同じ容姿の人が必ず一人いることになる。で、そこに映っているのが、あちらの世界の君ってことになる」
「じゃあ、あれはもう一人の私……?」
「そう、だけど厳密に言えば違う。なぜなら、生きてる環境も違えば性格も違うからね。ほら、元気に走ってどこかへ向かっていっちゃた。君はそういうことはしないだろう?」
確かに私はあんな風に元気に走りだしたりしない。いや、今日は走ったけどそれはそれ。
別世界の私は、どこまでも走っていって、どんどん遠ざかっていく。
(羨ましいなぁ……)
私は、その映像から目を離すことが出来なかった。
目を開けると、なぜか外で仰向けに倒れていた。雲が多いが少し青さを感じる空は見ていて気持ちいい。
……じゃなくて、外?なんで?
昨日の夜は普通に寝床で寝た。うん、間違いない。記憶にある。そのあと、あ、少しだけ夢を見てた気がする。よく覚えてないけど、上が白い天井で、すぐ横には何か白色の上着と、黒くて短いスカートが置いてあった気がする。まあ、そのあとすぐ寝なおしたからそれしかわかんなかったけど、
「てか、寒っ!」
全身に体にまとわりついていた雪の冷たさが広がってきた。うん、死ぬほど寒い。
「とう!」
掛け声とともに、足に力を入れてジャンプ。なんとか立ち上がることに成功する。
「さてと、とりあえず家に入ろう」
私は深く考えるのをやめ、家の中に戻った。
私の家庭は、ちょっと特殊である。まあ、簡単に言えば私がこの家に借りぐらししているといった感じか。私の両親は、5歳くらいの時に父親が狩りの途中の不慮の事故で、その一年後、母親が謎の疫病にかかって亡くなった。んで、行き場に困った私をこの家の人が引き取ってくれた。最初は、両親を亡くしたショックで、あまり打ち解けられなかったが、今となってはもう
「おーい、元気か野郎ども!」
こんな風に野郎扱いするまでになった。ドアを思いっきり開けたせいか、キッチンにいた義母が目を大きく見開いてこちらを向いていた。
「あら、朝から元気だねぇ。レイミー」
少し時間を置いたのちに、義母はこちらに振りむいてそう優しい声で言った。この義母には、とてもやさしくしてもらっている。少し頼りないところはあるけど、人情味あふれるいい人だ。
「グルースとルドーは?」
「まだ上で寝てるねぇ。それよりも突然うつろな表情で外に出て行ってわたしゃ焦ったよ」
「え、そうなんだ。全く覚えてないや」
なんと、自分は自発的に外に出て行ったらしい。全く記憶にないが。
「じゃあ、二人を起こしにいってくるねー」
そういって、二階に駆け足で上がる。この家は、少し高床式の住居である。理由としては、地面からの冷気を少しでも和らげるためにそうしていると聞いている。家は少し離れたところで生えている針葉樹林を利用した家である。少し肌寒さは感じるけど、炎の魔道具を利用した暖炉によって何とか寒さをしのいでいる感じだ。家の構造としては、二階建てというかロフトのような感じになっていて、階段を上った先にちょうど四個くらい布団が敷けるくらいの広さの空間が広がっている。一応落下防止のために丸太を半分に切ったものをしきりとして使っているが、ちょっと身を乗り出したら下に落ちてしまいそうで、なかなかにスリル満点だ。
とか考えてる間に、二階である。そこには掛け布団を思いっきり蹴っていびきをかいているグルースと、逆に布団を抱きかかえているルドーがいた。
「おーい!起きろー!朝だぞー!」
思いっきり大声を出して、起こしてあげる。なんて優しいんだろう。
「おーい!聞こえてないのかー!??おーい!」
「うるせぇ!頭に響くから今すぐそれやめろ!」
布団を蹴飛ばしていかにも寒そうだったグルースがすごい勢いで起き上がって抗議の声を上げた。
「お、起きたかグルース、どうだ?私の目覚ましは。気分いいでしょ」
「いや、むしろ最悪だ。頭ガンガンするぜ……」
頭を右手でかきむしりながらグルースはそう答える。
「っはは、で、ルドーはまだ起きてないのか?よーし、」
といったところで、
「待て待て、たぶんもう起きてるから大声は出すな。てかこれ以上近くで騒がれたらマジで耳が逝く」
といって、グルースがルドーの体をゆすると、確かに目をこすりながらムクっとルドーが体を起こした。
「ちっ、狸寝入り決め込もうとおもったんだが。そんな大声出されたら、逆に起きたくなくなるからやめてくれ」
そう文句を言いながらも、立ち上がって身支度を始めようとするところは、案外真面目なルドー君である。
「じゃあ、自分は下降りとくから、準備出来たら降りて来いよー」
そう言って駆け足でまた一階へと向かう。
まあそんな感じで、今日もいつもと変わらない朝を迎える。
朝食を食べ終わったあと、私は外にいた。なぜかって?家の中にいてもやることがないからである。グルースとルドーは、いつものように食糧確保でもしに行ったのだろう。私は、そういう野蛮なことはごめんだ。
私には、お気に入りの場所がある。そこは少し人里から離れたところにある小さな丘だ。そこから見える一望することが私たちの里は、本当に小さくて、頼りなく見える。というか実際に小さいのだ。少し前までは、この世界で一二を争うレベルの大魔術師の拠点として栄えていた里だが、今現在その魔術師さんは行方不明となっている。その恩恵を失ったこの町は一気に衰退してしまった。もともと人口が多い方ではなかったものの今となってはそこからさらに半減し、家の数からして十世帯くらいしかもうない気がする。
そんなことを考えているうちに丘にたどり着く。ここは、なぜか魔獣とかも一切寄り付かなければ、建物も木々もない。つまり何もないのだ。この何もないという空間が私の心を落ち着かせてくれる。
「びゅーん!」
少し町を眺めた後に、手を大きく横に広げて走り回る。こういうことをするあたり、私はまだまだ子供なのかもしれない。
「いてっ!」
その時、突然頭を打った。
「はえ……?」
前を見るが、何も見えない。ほうほう、なるほど……?
右手を恐る恐る伸ばしながら、少しずつ歩いてみる。すると、
(!!)
指先に走る僅かな感触。間違いない、ここには見えない何かがある。
「これは、楽しくなってきたぞ……!」
私は、その見えない何かを確認するため、両手を前に出しながら、感触を確認していく。感触としては、なめらかというよりかは少しごつごつした感じで、上に向かうほど感触が少しずつ遠ざかっていく感じがするので、もしかしたらドーム型の建物なのかもしれない。
その後も、右往左往と動いては感触を確かめていく。なるほどなるほど大体形状がわかってきた……気がする。
その時、今までとは違う感触に触れる。
「ん……?」
これは、ちょっとした突起物のようだ。そして、さっきまでのごつごつした感じとは違うすべすべな感触。そしてとても冷たい。
「これってもしかして……?」
私はそのつるっとしたものを右手で握ったのち、右に回した。
ガチャ
何かかが開く音がした。やはり、これはドアノブだ。私は、そのドアノブと思われるものの付近に体を押し当てて、強く前に押した。すると、体はその奥へと吸い込まれていった。
中に入ると自然と扉が閉まる。扉の奥に広がる空間はとてもシンプルだった。やはり、予想通りでドーム状の建物であったその中身は、壁一面白いレンガのような作りとなっており、これが多分外のごつごつしてたものの正体であろう。そして、床は透明な氷みたいなもので構築されているが、全く滑らないのが少し違和感を感じる。前を向くと、自分のちょうど向かい側に自分が立っていた。
(え……?)
もう一度言う。向かい側に自分が立っていた。
(鏡……?)
最初にまずそれを疑う。実際、向かい側の形状もこっち側の形状も全く一緒で、違いはない。なので、鏡である可能性は否定できない。しかし、鏡にしては反射している感じがあまりにも少ない気がする。なんというかその間に鏡があるという感覚がないのだ。それと、さらに言うと向かい側の私にも少し違和感を感じる。
(私、こんな表情してるっけ……?)
確かにまっすぐこちらを見ているのだが、どこか不安そうな表情をしている気がする。
(……とりあえず、確かめなきゃね)
私は、真ん中付近まで歩いてみる。すると、私に合わせたようにもう一人の私も歩く。それは、確かに鏡写しのように見えなくもなかった。
もう一人の自分との距離が、あと少しとなったところで、私は、左手を頭の横付近に挙げてみる。すると、もう一人の自分の手も一緒のところに同時に伸びて、お互いの掌が重なる。
そこには、体温があった。
そして、次の瞬間、もう一人の私は私のその左手を握ってきた。
(!?)
私が少し驚いて、後ずさりをしたのをみて、私の右手も手に取ったかと思うと、そのまま私の体は右に引っ張られた。
思わず、体を反転させる。そして、私達の立ち位置が入れ替わった。
すると、彼女は手を離しこう言った。
「ごめんなさい」
そして、私が入ってきた入り口から外に出て行った。
(なんだったんだ?今のは……)
あまりにも一瞬の出来事に少し面食らって数回、目をぱちくりとした。ここで、私の行動は二つに絞られる。
一つは、このままもう一人の自分を追いかける。
もう一つは、反対側の扉を開けてみる。だ。
一瞬悩んだ。だけど結論はすぐに出た。
(彼女のあの表情の理由を確かめないとね)
私は、迷うことなく向かい側の扉を開けたのだった。
やった。やってしまった。
私は今、私の知らない世界に立っている。そう、そっくりさんがいた世界にだ。なぜこちらの世界にいるのかというと、先ほど彼女とうまく入れ替わることが出来たからである。まさかこんなにあっさり成功するとは思ってなかったので正直少し驚いている。私があの建物にたどり着いた日に、彼女も同じところにたどり着いたのは果たして偶然なのか、運命なのか。とりあえず、今日私はツイている。これで、あの忌々しい世界から逃れることが出来たのだから。
後ろを振り返ってみる。とりあえず、彼女が引き返してくるような様子は見られない。
さて、何をしようか。私は丘をゆっくりとした足取りで歩きながら考える。
「とりあえず、町へ向かってみようかな」
いつもよりテンションが高いせいか、思わず声に出てしまう。しかし、周りに人はいないしそんなことはどうでもいいのだ。
町へと向かう道は、だいたい覚えている。なぜなら、ずっと彼女を見ていたからだ。ちなみに、今の私の服装は彼女と同じ服装である。あの建物の中にいた人物に、魔法で取り繕ってもらったのだ。魔法ってすごい。……そういえばあの人の名前聞くの忘れたな。
そんなことを考えているうちに町が見えてくる。だが、ここで一抹の不安を覚える。
(私に、出来るのかな……?)
それは、いうならば彼女への成り代わりである。今、彼女と私は入れ替わっているのだから、当然彼女を演じることが必要となってくる。まあ、自分が無理やり実行したことなので、入れ替わっているというのもなんだかおこがましいのだが。でも、この状況を説明するよりは、その方が断然楽だし、そもそも別の世界の存在をあまり知られたくはない。
(私は、変わるためにここに来たんだ。だから、頑張らなきゃ。)
彼女のためにも、全力で。
町のなかにゆっくりとした足取りで入っていく。心臓の鼓動が少しずつ早くなっていく。このまま家に着いた時には、ぶっ倒れてしまうんじゃないかって思考が頭をよぎったとき、
後ろから誰かに背中を叩かれた。
「うっす、どうした?そんなゆっくり歩いて」
振り向くと、よく見る顔の人がそこに立っていた。だが、彼は自分の世界にいる人、つまり優とは、別人物だ。
「え、いや、な、なんでもないわよ、優」
「すぐる?何言ってんだ、俺はグルースだぞ?」
そうか、こっちとあっちでは名前が違うんだ。って言ってる場合じゃない。
「あ、そうだったね、グルース。うん、そうそうグルースよグルース」
慌てて名前を連呼してしまった。
「うーん??」
今の反応をおかしいと思ったのだろう。私の前に向き合うと、少しかがんで私の顔をジーっと眺め始めた。……顔が近い。
「なんか、いつもと髪の分け方逆じゃね?」
「え?あと、えっと、これはちょっとしたイメチェンのつもりで」
気づかなかったが、どうやら私と彼女の髪形は微妙に違うらしい。そんなこと気づかなかった。どうやら思っていた以上にこの世界と自分の世界は違うようだ。
「それと、なんか表情硬いぞ。なんかあったのか?」
こっちの優、じゃなくてグルースが私のことを心配してくれている。あっちではこんなことありえないことだ。
「うん、大丈夫。と、特になにもなかったよ」
平静を保っているように演じようとするが、どうしても声が微妙に震えてしまう。
「??なあ、ルドー、レイミーの様子がちょっとおかしいんだが」
グルースが向けた視線の先には、ルドーという透とそっくりな人がこちらに向かってきた。ちなみ透とは、義兄弟の兄のことであり、優は弟のことである。
「ふん、様子がおかしいのはいつものことだろう」
「いや、今回はほんとにおかしいんだって。そもそも俺たちにこんな表情今までに見せたことあるか?」
どうやら、こっちの私は義兄弟の前ではこんな暗い表情を見せなかったらしい。けど待って。彼女が丘の上で見せてた表情は……
思わず私は、二人の反対側である丘の方を向く。近くに人影はなかった。
「後ろになにかいるのか?」
「ううん。ちょっと自分が歩いてきた道を確認しただけ」
「なんだよそれ、ほんと今日のお前面白いな」
グルースが軽く笑う。今の対応はよかったのかな?
「……確かに、ちょっと様子がおかしいな」
その時、ルドーが時間差で答える。少しの間、私のことを観察してたのだろう。
「そ……そんなことないよ?」
「それだ、いつものお前なら『そんなわけないじゃん!何言ってんだよ』っとかいって笑い飛ばすはずだ」
鋭く突き刺される指摘。確かにその通りだ。だけど、私にそれができるほどの度胸はない。
「どうした?辛いことがあったなら聞こう。それとも、もっと別の理由があったりするのか?」
何かをほのめかすような最後の一言に、私は思わず震えあがった。
……もしかしてバレてる……??
「わ……私は……!」
言葉に詰まった。私にここでレイミーを名乗る資格はあるのか。そんな思考がよぎったのだ。
「私は……?」
頭の中がごちゃごちゃしてきて、視界が少しずつ暗くなってくる。
……ああ。やっぱり、入れ替わるなんて無理だったんだ。
「あなたは美玲。自分の名前も名乗れないようじゃ、この世界でも生きていけないよ」
その時響き渡った声は、私とよく似た声だった。
扉を開けると、そこにはよくわからない空間が広がっていた。
「なんだここ?」
思ったままのことを思わずつぶやいてしまう。
「なんだこことは失敬な。ここはとっても重要な施設なんだぞ。」
どうやら、ほかにも人がいたらしい。前にはでかい氷の椅子があったのだが、どうやらそこに誰か座っているようだ。
「よっと」
ステップを踏んで、椅子の後ろ側から正面に移動すると、そこには長髪の女性が座っていた。
「わたしレイミー=ミラーていうんだけど、あなたは?」
「私の名前かい?私の名前はサリーだよ。サリー=ミーシィア」
……なるほど、そういうことか
「……伝説の魔術師さんがこんなところでなにやってるんですか」
そう、彼女は私たちの里を拠点としていた大魔術師さんである。
「何って、君たちの里の監視だよ」
そう言うと私たちの里の様々なところが氷の壁に映し出される。
「え、これどうやってるんですか!?」
「簡単な魔法だよ。君たちの家の屋根とかに設置してある魔道具を利用した監視システムさ」
どうやら、私たちの里で起こっていることは彼女、サリーにはすべてお見通しということらしい。
そして、その映像の中には先ほど私と入れ替わるようにこの里に入っていった私に似た人物も映っていた。
「ねえ、あいつはなにものなの?」
私は、彼女を指さす。
「ああ、彼女かい?彼女は、もう一つの世界で生きてきた君だよ」
ふーん、……はい?
「え、ちゃんと意味が分かるように説明して」
「だから、もう一つの世界の君だって。こっからまっすぐ行った扉の先には、君たちが生きている世界とは別の世界が広がっているんだよ」
驚愕の事実である。
「つまり、ここは……別世界への入り口ってこと?」
「そうだよ、ここは二つの世界を繋ぐ場所。氷柱回廊だ」
サリーはドヤ顔でそういった。
……頭をいったん整理しよう。まず、ここは別世界への入り口にあたるところで、先ほど私と入れ替った人物は別世界の私であるそうだ。そして、サリーはここで私たちの世界の監視およびこのゲートの見張りをしているということになる。
そこで、私の頭の中に疑問が生じる。
「ねえ、なんであっちの世界の私はあんなことをしたの?」
すると、サリーは少し困ったような顔をして、
「なんでだろうね?まあ、でも見た感じではかなり気疲れしてる様子ではあったね」
確かに私と入れ替わるときの表情もどこか冴えない顔をしていた気がする。
映像に目を移す。そこには、ゆっくりと歩く彼女の姿が映し出されていた。その表情はやはりどこか暗い。
「これは、あくまで推測だけど、彼女は元いた世界で相当ひどい目にあってたんじゃないかな?それで、とうとう耐え切れなくなって逃げてきた。そして、運よく別の世界に行く機会を得た結果が、これなんじゃないかな」
何かを察しているかのように語るサリーは、本当はすべてを把握しているのではないかと思わせるようなものがあった。
「ふ~ん……」
とりあえず、私は彼女を観察してみることにした。自信がなさそうに歩く彼女は、少しずつではあるが里の方へと向かっている。その時、見知った顔が彼女へと近寄ってくる。
「あ、グルースだ」
私の義兄弟の弟であるグルースが声をかけるが、彼女はその行動に難色の色を示している。
「ちょっとおびえちゃってるじゃない」
突然、知らない人に後ろから軽くどつくように話しかけられたのだからそれはビビるだろう。それにしても少しビビりすぎな気もするが。
そのあとも何とか会話をしているが、どこかぎこちない。グルースは、まだ彼女を私だと思っているのか、ガンガン話しかけている。それに気圧されてどんどん萎縮していく。これはとても良くない流れだ。
「あーもう、見てられないわ」
私は自分が来た扉の方へと向かう。
「あれ?別世界の方を見に行かなくていいのかい?」
クルっと振り向いて、私は少しめんどくさそうな顔をした。
「それは、またあとの機会に。今は、あれを何とかしないと。」
実を言えば興味がないわけではないが、今は今すぐにでも彼女のところへ向かいたかった。
「あれって、もう一人の自分のことかい?」
「そうそう、あのまんまじゃ絶対いいことにはならないと思うから。」
「別にほっといてもいいじゃないの?」
少しニヤッとしながらサリーはそういった。確かにそれも一理ある。彼女は赤の他人だし。……けどね
「私は、私と同じ顔の人が、あんな暗い顔をしてるのがどうしても気に食わないの。だから、ちょっと喝入れてくる。てことで、じゃあね」
そう言って、走りだそうとする私に
「一ついいことを教えてあげる。彼女の名前は、美玲だ」
大きな声でサリーはそう言った。それにはどういう意図があったのかは後にわかることとなる。
丘の上から里へは、歩いていけば五分ほどかかる。しかし、下り坂なので二分で着くことが可能だ。なぜかって?今私が履いている靴のおかげだ。
「機能開放」
足に魔力を込めると、両足の靴裏から白く透明な円形の物体が広がる。そして、私は下り坂に向かって飛んだ。
そう、この円盤のようなもので下り坂を滑って降りることが可能になるのだ。少し練習が必要だけど。私は、いつも帰るときにこれを使っているので慣れている。ちなみにこれもサリーの発明である、ほんとサリーは天才だ。
そうこう言っている間に、もう姿が見えてきた。ちょうど里の入り口付近にいたおかげでこの状態で近くまで行ける。
彼女たちとの距離が、数十メートルとなったところで私は権能を解除する。どうやらまだ三人とも私の存在には気づいてないらしい。
「私は……」
彼女がそう呟いているのが聞こえる。その声は、相当追い詰められているようだった。
(さーて、どうしたものかね)
答えは、至ってシンプルだ。
「あんたは美玲。自分の名前も名乗れないようじゃ、この世界でも生きていけないよ」
自分を見失っているのなら、誰かに名前を呼んでもらえばいい。そうどこかで聞いた気がした。
「あ……」
美玲がとても驚いた表情でこちらを見る。こいつにはあとで談義するとして、
「おいてめぇら、二人こぞって女の子いじめてんじゃないよ」
少し威圧するようにそう言うと、グルースが慌てた様子で、
「いや、いじめては決していないぞ!?てか、お前がレイミーか?」
といったので、さらに言動に力をこめる。
「ええ、そうよ。え?見分けつかなかったの?あんたらの目、もしかして節穴なの?」
「おお…これはいつものレイミーだわ。ルドーは気づいてたのか?」
突然話を振られて、呆然としていたルドーがビクッと反応する。
「いや、レイミーではない可能性もあるとは思っていたが、まさかほんとにこんなそっくりな奴がいるとは思わなかった」
まあ、普通はいないよね。双子でもなければ
「というか、さっきの『この世界でも』っていうのはどういうことだ?」
さすがルドー、聞き漏らしてくれないなぁ。
「ああ、そうそう、美玲は別の世界から来た人なんだ」
「…マジか」
「嘘だろ!?」
さすがの二人も驚きを隠せないようだ。対する当人は、(え…言っちゃうんだ…)って顔でこっちを見ていた。
「ということで、私、ちょっとこいつと話があるから、二人は先帰ってて」
啞然とした表情で突っ立ている彼女の手を引っ張って丘へと歩き出す。
「お、おう。暗くなる前に帰って来いよ?」
「それは、保証できないけど、う~ん……明日までには帰ることは約束する」
そう言って、手を挙げて彼らとは別れた。
「で、なんでこんなことしたのかな?」
丘を登りきり、二人で横並びに腰かけたのちに、私は笑顔で美玲にそう質問する。
「ご……ごめんなさい」
完全に意気消沈してしまっている。
「あーもう、謝らない謝らない」
そう言うと、押し黙ってしまった。このままじゃ埒が明かない。
「でも、ほんとびっくりした。まさか自分の知らない世界にもう一人の私がいるなんてね」
私は、いったん話題を変えることにした。
「わたしも、びっくりした」
美玲もそれに乗っかる。けど、まだうつむいたままだ。
「ねえ、あなたの目には私はどう映った?」
私は、顔色を窺いながらそう尋ねる。そうすると、少しこっちを見たあとすぐに目線を下に向けて、
「とても、羨ましいなって思った」
と静かに答えた。その意図を確かめるために「なんで?」と聞くと、少し困ったような顔をして、
「だって、すごく楽しそうだったから……。私もああなれたらいいなって。見ててすごい思った」
どうやら、美玲にはそう私のことが映ったようだ。そして、その言葉によって今までの行動に合点がいく。
「あ、それで入れ替わろうって思ったのか」
驚いたように美玲がこっちを見る。一瞬何かを言いかけたが、結局また下を向いてしまう。
「はい……。そうすれば、私も変われるかなって、でもダメでした……」
今にも泣き出しそうな顔でそう答える美玲を、私は後ろから軽く抱擁した。
そして、一言つぶやく。
「ねえ、ちょっとお話しない?」
読んでいただきありがとうございました!次回は一週間後くらいに更新予定です!