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2020/11/16 から

 ○ 2020/11/16


 うえあ。

髪を刈られる。今回は二束ほど縛り刈られ、後はバリカンで少し長い坊主頭。

髪が長いのが気に入らない方々。かといって剃り落とすのもそれはそれで嫌だという。区別がつきにくい極端な髪型を嫌がるふしがある。人間の顔なんて区別がつかんのだろう。分からんでもない。印象に左右されて別人のように感じる事はままある。

それにしてもどんぶり飯が胃に持たれて、目に来る。

水道水を飲んで、休む。



 ○ 2020/11/17。

 細い下弦の月を眺めながら帰路を行く。

倉庫へ。ひとごこちついたなら、床を這う。うっほうっほ。這う。弾む様に。行ったり来たりする。うっほうっほ。

運動よ斯くあれ。自然でほどよく促すのだ。健康を。うっほうっほ。暖まったらまたひとごこちつく。次はより低くちょこちょこと這う。ちょこちょこ。


 ○ 2020/11/20


 虚構。

虚構につくすのか。虚構が促すのか。そこかしこに虚構がある。実際上。実際下。練り込まれて不可分かの様に。虚構に取り巻かれている。故意に。あるいは知らずに。実際に寄り添う虚構。

対立する人々。離合集散は常。ねじ曲げて保つ虚構不壊の結束。誘導があり、短と長を競わせ、誰もがそうする事を転がす。そうするべきだ。誰もがそうするからだ。

そうしないならば(ニエ)として供される。

ああ。まったく。極々一部の全体のためにどれだけ繰り返されるのだろう。


 ○ 2020/11/24


 むかで。

霊媒の頭にムカデが降ってきたんだそうだ。

僕は自分の話があるかとたずねたんだ。返ってきた話がそのムカデの話だった。落ちて終わりでなく飼っていたそうだ。殺すなという直感に従って殺さなかったそうだ。ペットボトルに入れて。落ち葉とかも入れて。放置。何日か何十日かとにかくそろそろ死んだかと思う位たってから覗いたらでっかいムカデになっていたんだそうだ。

その話のどこが僕に関係するのか僕は理解できなかった。

霊媒にたずねたら霊媒もよくわかってなかった。

なんなんだよこの話は。

だれだよ僕に関係するとかホラをふいたのは。

そもそも殺すなとは飼育しろといういみではないだろ。

逃がせ。捨てろ。自然に帰してやれよ。それは殺した事にはならないはずだろ。それに殺すなって話のくせにペットボトルに入れてそろそろ死んだかじゃないだろ。殺すなはどうなったんだよ。めちゃくちゃ過ぎる。頭おかしなってるよ。

化かされるのは狐とか狸までにしてくれ。虫にまで化かされているとは。

取って付けたみたいに霊媒は言った。:お前、飼うか。

僕は言った。:捨てろ。

僕はまた言った。:そのムカデを僕がよろこんで飼うと思うんならだいぶ頭がおかしなってるよ。

なんでそうおもったんだ。

霊媒は言った。:影と違って実体があるから。

僕はこの話が僕に何の関係もないと結論してもいいだろうと思った。


 ○ 2020/11/27


 のぼせ。

腹の調子がすぐれず。腹痛。

昨日、虫を逃がした。羽をばたばたとはばたかせた虫を窓から外へ。夕暮れだった。空はほとんど群青色で西の遠くに少しだけ太陽の明かりがあった。曇りガラスの窓にうつるぼやけた夕日。ばたばたと窓へ当たり続ける羽虫。倉庫の二階はからっぽで蛍光灯の明かりはこうこうとしていた。走光性を持っているのか持っていないのか。外へ行こうとする黒くはっきりしない虫。羽音はカナブンのようだし、羽ばたく輪郭は蛾のようだ。しっかりとはみなかった。じろじろと間近で見て飛び掛かられたらと思うと怖かったから。ああ、どうにも体調がすぐれない。蛍光灯にまとわりつかない羽虫になんて関わりたくない。明るい室内から薄暗いぼんやりとした沈みかけの夕日へ向かう虫。

見慣れない曖昧な黒い虫がばたばたと飛び上がり壁に止まったのを見たのは二日前の夜だったか三日前だったか。なんだか素振りの気が散るのですぐに止めて明かりを消したらばたばたと羽音が響いた日。羽音が一階までついてこなくてよかった日。


ここ二、三日夢見がすぐれない。

霊媒が寝付きも悪い。肋骨の辺りの神経が軽く痛む。

霊媒がムカデの話をしたせいかもとついつい思いたくなる。

ムカデの大将やってきた。

仲良く揃って行進だ。

悪いやつらを懲らしめろ。

ムカデの大将落ちてくる。


 ○ 2020/12/02


 ポトラッチ。

満月は過ぎた。何事もなく。自分をおいていった。

出ていくこともなく、肉の牢獄に納まって過ごした。

出ていけるはずでは、疑問は軽やかな笑みにぶつかり散った。

行きたいところがないようだから。

返答は善良にして無情だった。

事前の申請はなかった事になったのだ。

己の肩に立ちたい。それだけで十分だった。

山を越えるのも、海を渡るのも、要らない。

ただほんの少しでいい外へ出て行きたかった。

その願いは善良な方々にとっては無だった。

僕は取り残された。今までと変わらずに。


 ○ 2020/12/08


 そろそろ年末か。

相も変わらず尻が痛む。痔に優しくない季節だよ冬は。手すりの蝿が一瞬留まり飛んでいった。嫌いなものに頭を下げる毎日。賽銭には一円。投げ付けて響く衝突音。木と金。本殿に石碑に英霊社。三ヶ所を廻り投げ込む。しかしこの文章を打ち込んでいる今、今日はまだ行っていない。

ああまったく尻が痛む。嫌なことほど真っ先にやらねば、とてもやっていられない。行ってくるか神社。


 甥っ子の学校で新型肺炎が出た。

身近な所でとうとう患者が出るようになった。

倉庫にこもる日々にはあまり関係ないのかもしれないが、憂鬱な事だ。病気に怯えながら新年を迎えるのか。

まあまだ一月近くあるが酷い一年だったな。店も畳むはめになったし。すっかり空っぽの元店舗にも慣れてしまった。

こうなると人に会わなくても情報を得られるネットワーク様々だな。小説家になろうも読めるしな。

来年まで何事もなく過ごせるといいなあ。


 ○ 2020/12/12


 むかで。

百足の夢を見た。袋の百足が腕を這う。

百足、百足と百足の話をしたせいかそんなものを見た。その夢の腕の痛む事、痛む事。噛み付かれているのかとおもうほどだ。腕を這うだけでそんなに痛むかは実際に這われた事がないので所詮は夢という事になるかもしれないが。知りたいとも思わない。

そうして目が覚めても百足が部屋のどこかにいやしないか。百足が頭の上に落ちてきやしないか。気もそぞろになる。


やはり霊媒が百足を持ち歩かせようとするせいに違いない。毒はないとか言っていたが、毒がなくても百足を持ち歩けるものか少し考えてほしいものだ。わざわざ言わなかったが、じゃあ自分で持ち歩いてみろと言ったらきっと出来ないと言うに違いないのだから。


 百足の術を伝授との話もあったが、自分に足は二本しかないからと断った。その術の名はウツセミ。断ったので詳細は不明。それにしても百足が蝉の術を使うとはなんともよくわからない話だ。


 くだんの百足はそこそこ大きくなったのちしかるべきところに引き取られたそうだ。なかなかの大きさと喜ばれたそうだ。


 時々、百足を推挙しようという話を持ち込まれるが。不思議でならない。薄暗い倉庫に一人でいるのが哀れだなんだという話をされるが、それが百足を持てという話にどうして繋がるのかさっぱりだ。わかる人にはわかる話なのだろうか。


 ○ 2020/12/13


 今日も。

脛に枝を投げつけられ続ける夢を見た。目を覚ます。

顔を出すと言った霊媒は来なかった。家で過ごす。

次を探さなければならない。探さずに座った。

今日も思い出す。ついさっきを。あるいは何ヵ月か前を。または何年も前を。十何年も前を。同じように過ごす日々。

行った記憶をふと思えば、混線し今日も昨日もきっと明日も変わらずにぐるぐると同じ。入口も出口もなく同じ。

くたくたに座り込み、静かにしている。

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