2020/10/07 から
○ 2020/10/07
虚構。
霊媒は気安く瞑想でもしたらどうかと言った。
催眠療法を試してみたらどうかととも言った。
全ての発言は気安く陳腐で使い古されていた。
そこに発見も衝撃もなく、当然進展もない。
雨が降っている。雨足は強くなりつつある。
既に詰んで後はまいりましたと宣言するだけなのか。
アスファルトを足音が移ろう。水が流れる音がする。
○ 2020/10/08
物は試し。
○ 2020/10/09
砂利と粉。
朝。寝床から細やかな振動を感じた。それは僕にそっと触れた。振動が僕に伝わる。柔らかな振動が僕を包む。霊媒に言えば喜びそうな出来事。だがそれがなんだというのだろう。心地よい一時だった。確かにそうだ。素晴らしい体験だった。全くその通り。だがそれが何処かへ繋がっているのか。常々行っている痙攣が粗く拙く感じる程の繊細な振動を感じた。しかしそれをどう自分の技術に生かせばいい。手掛かりなぞどこにもなく。ごく稀にやって来て去って行く。残るのはその記憶のみ。その体験から抽出されるのは無だ。自分の行うのは児戯。まがいもの。天心から遠く真空に至らない。
○ 2020/10/10
這う。
足先と手のひらのみを床に付ける。顎は床に近く。よっと。手のひらを前進。右。体は揺れて。足を連れて。左。ゆさゆさと。少しずつ。
初めは腕が床から離れず。次は一歩目で。次は足が出ず。次は二歩で肩が痛み。全てで筋肉痛だ。胸から肘の内側までの痺れ。床にべしゃりと胸腹を落下させる。少しずつそれが遠ざかる。間隔が開く。ゆっくりゆっくり這うことを学ぶ。
○ 2020/10/11
調子。
開脚前屈からのうつぶせ。開いた脚は閉じる。平泳ぎのように床で伸びる。これで大分戻したぞ。這うのも五歩まで行ってすこし余裕がある。痔も痛まない。壁にも気持ち楽に座れる。調子がいいのか。珍しい事もあるもんだ。そう思っていたら顔を出すと言っていた霊媒がちっともこない。これは今日も来ないな。うまく行きすぎると反って怖いからな。きっとこれぐらいでいいんだ。
○ 2020/10/12
げふ。
ぱきり。乾いた音がする。足元を見ればかなぶん。踏んでいた。死んでいたのか。即死したのか。ピクリともしない。
倉庫の中。何処から来て入ったのか。外へ持って行く。箒とちり取りで。バケツがある。水と植物が入っている。そこへぽちゃり。浮くかなぶん。さらばかなぶん。蓮の葉の横で漂え。
○ 2020/10/13
繰り返し。
あやふやな枠の中で。くるくる回る。
直線の先鋭化と衰退を避け続ける。
過激に成らず。陳腐に成らず。溶けて消えず。
うろうろと柵の中。小さく彷徨く。
○ 2020/10/14
のど。
のどの調子がよくない。乾いてきたせいか。
○ 2020/10/15
影。
影などというのは蝶とすれ違うようなもので、そこから何かを抽出しようというのは困難だろうと思う。綺麗な蝶がてふてふ。滑空し羽ばたき滑空し何処かへ飛んで行く。そこから一体いかなる道理を導き出せるだろうか。人生に花を添えるような素晴らしい何かを見いだせるだろうか。不可能とは言わない。ただ僕にはできそうもない。
霊媒は影が何やら協力して新しい何かを作り出せるという話をする。だが、何ができるのかという事は言わない。何かができるのだ。何もできたためしはないが。何かができるのだという主張は力強い。力強くしかし空しく響く。いつものように。僕の影は蝶とすれ違うようなものであるという主張は受け入れられた事はない。
○ 2020/10/16
夜。
腕の痛みは和らいできたがまだ親指が少し痛む。
せっせと十歩ほど這ったからか腕が痛んだ。
霊媒は気を練れと言うが、気を練るとは何かがトント分からぬ。全く分からない。そもそも気とはいったいなんだ。それをどうすれば練った事になる。どうそれを検証する。さっぱりだ。さっぱりなので棚上げしてしまおう。できるならずっと。
リチャード・バックミンスター・フラー。
Richard Buckminster Fuller.
第三の位置。
○ 2020/10/17
今日もこれといってなし。
ぺたぺたと這う。すぐに肩が痛み。中止。身長分前進。
毛糸の帽子被り、額を床へ。頭頂を床へ。うつぶせでごりごり。前後に揺れる。首を練る。新しい何かを。どこに。新しい何かを。ありもしないものを。逆さに振っても出ないものを。認識していない何かを探している。本当に。形だけでなく。本当に。次の何かを。本当に。
○ 2020/10/18
それにつけても金の欲しさよ。
○ 2020/10/19
Open is man.
○ 2020/10/20
さらばへる。
○ 2020/10/21
今日もこれといってなし。
せっせと床を這う。ぐんぐん進む。歩幅も広く、足は腕に近くなりイモリのよう。せっせと壁へ向かって歩む。三人分位は進めたか。壁へ倒立。腹側へ一当て二当て反発して尻が壁へ、壁から空へ。ゆらゆら行きつ戻りつ。腹で空を叩く。
柔軟体操もちゃんとやった。痙攣は底を流れた。痙攣の上であるいは痙攣を含んで。曲げて伸ばして放った。
○ 2020/10/23
だるだる。
のしのしと這う。手を付く位置を広めにして歩幅をひろげる。足も腕に近く引き寄せる。わしわしとすすむ。床を登る様に這う。ぐんぐん進む。肩がだるい。床から少し遠くなった。
霊媒は意識と肉体との分離を説く。脳の後作動に過ぎないのではとも思うが思うだけに留め黙る。月もじわじわと満月に近付く。三日月を眺め次の影を思う。三十二番目。変化はありやなしや。出離はなるかならぬか。つきがしっている。
○ 2020/10/24
今日もこれといってなし。寝る。
対比された事柄を眺める。糞便と飛び回り群れる蠅達と寄り添う一匹の犬と一匹の猫。遠くと近く。穢と浄。短と長。あからさまな誘導。言うまでもなく選ぶならどちらかもうお分かりですねといった風情だ。何がしたいんだお前ら。おもわずこぼれた言葉に猫の口角がつりあがった様に見えた。きらきらと光を反射する綺麗な毛並みの猫が不気味に感じた。言葉など発するべきではなかった。言葉など知らぬように突っ立ていればよかった。意識など無いように。
霊媒は話をしてみろという。
あからさまな誘導にのって話をしてみろという霊媒に僕は言った。:僕は はなすきはない。僕は休む為に寝る。
眠るのは怪しげな何処の誰とも知れない何かと話すためではない。霊媒の話で十分なんだ。何も言うことはないし、何か聞くこともない。ゆっくり休ませてくれさえすれば。
眠りに要るのは休息であって驚きでも発見でもないはずだ。
今までそうだった。これからもそうあってほしい。
そう願う。
○ 2020/10/26
這う。
せっせ這う。円周は難しい。一周出来ず。
直線には慣れてきた。前進よし。後進も腕が疲れるがよし。
速度をあげる。歩幅がやや狭くなる。息があがる。心拍も早くなる。苦しい。床から少し遠くなる。
こうして息があがるまで這うと二本の脚で地を蹴って走るのは優れた運動だとつくづく感じる。
霊媒に新しい技は と訊かれた。
そんなものほいほい出てこない。基礎の向上。基礎の刷新。新たな運動形式。そんなもの僕にはない。何だってどっかに既にある。存分に床を這って疲れた体を休めながら考える。
新しい技だと言って倉庫の床をそこそこの速さで、小走りより遅くゆっくり歩くよりは速く這えば満足するだろうか霊媒は。
この這うというものに体を暖める程度の運動量と強度があったのは幸運だと思おう。そろそろ冬になりつつある。ストーブももうここにはないのだから。