あつい。
○ 2020/07/19
今日も暑い。
無毛猫の肌をした赤子がのそのそと這う。赤子は横たわった男へ近付くと男の顔を二度三度と叩いた。ぺちりぺちり。ぺちり。男は起き上がり。赤子を抱えると部屋を出た。別の部屋にいる女達の所へ行くために。赤子を抱えて連れていったのは赤子を女達に押し付けるためである。体良く押し付けたなら。皆幸せになるはずである。根拠もなく幸福の何足るかも知らず、疑いもなく行ったなら男の目も覚めるだろう。よくできた夢に過ぎないと。
○ 2020/07/20
ハレ。
日差しが強い。すっかり夏か。
Rafał Olbiński.
mandingueiro.
Siegfried Zademack.
特別定額給付金がとうとう来た。
有意義に使いなさい。催眠術で前世を認識しなさい。来世を認識しなさい。どうだろうか。
そのような旨の発言を浴びせられ僕は嘆いた。僕がそんなことに興味があると思われていたのか。いまだに。
生まれる前も死んだ後も知ったところでどうにもならない。今のままでは次で恐ろしい事になると知ったところで今を変える気もない。次は幸福そのものだとしても今が幸福に感じるわけでもない。
たとえ変えようとしても僕は変わらないだろう。
変えようとして変えられるなら今のようになってはいない。
既にその工夫は何年もうんざりするぐらいしてきたのだから。
○ 2020/07/21
夢と現実が滑らかに繋がる。衝撃を介して。夢の中で横たわっているとどさりと覆い被さるものがあり、どきりとする。左の耳に囁かれる言葉これ貰うっぴ。左肘を覆い被さる何かに打ち付ける最中に目が覚めた。肘は虚空を通り抜けた。夢の中と同じように横たわった現実。覆い被さられた重さと振動が皮膚に残響し左耳に囁かれた言葉がこびりついている。そのままだ。右を下に横臥したまましばらくじっとしていた。少しして時間を確認。午前四時四十四分。群青の部屋。
見る夢だった。病院だろう。感覚は曖昧。脈も皮膚もあるのかないのか分からない。ぼんやりとした視覚とぼんやりとした聴覚がうろうろする夢。興味もなく空いている寝台に寝転がった。異界の医療に関わるのは御免だ。寝てしまおう。じっとしていた。どうせ刺されても何も感じない。そこへ誰かが近付いてくる。そばでじっと止まる。それでもじっとしていた。そこへどさり。急に皮膚に感覚が戻る。見る夢は触る夢に変わった。夢の中で感覚の変容が起こったのだ。これは恐ろしい事だ。その瞬間まではありふれた夢だったのが、突然心不全を引き起こしかねない生々しい感触の夢へ移行したのだから。眠りながら目覚めたのだ。起きる事もなく。
倉庫に客だ。
入国管理の役人だ。何故。不法滞在者の違法風俗摘発の張り込みだという。それが入国管理の管轄なのかは分からないが。その男は首から下げた黒い手帳を開き身分を提示した。そんなちらっと見せてられても瞬間記憶能力を持ってないので読めない。これも現代に残る儀礼の一種だろうか。白髪頭の180㎝近くある身長。よく日焼けして仕事ができそうだか苦労をしてそうな役人だ。白色半袖のYシャツに灰色のスーツズボン。ネクタイはしていただろうか。
ちょうどうちの倉庫の二階から見える建物を監視したいのだという。なるほど。僕はこの建物の所有者ではない旨を伝えた。
男は倉庫の前で車を止めて張り込んでいる。
○ 2020/07/22
今日も暑い。夢もみない。
痙攣者は開脚前屈をする。毎日する。可動域を保つために。さもなければたちどころに筋固まり可動狭まり苦痛に喘ぐ。
嫌いなものは開脚前屈です。
毎日する事は開脚前屈です。
代えのないのは開脚前屈です。
痛くとも固くとも辛くとも、やるべき事は開脚前屈です。
閉じる。漏らさぬように。血が沸き立ち濁らぬ様に。
静かに一人で隔離されている。育む為に。別れる為に。手放す為に。満月を待って。
閑葛藤。
○ 2020/07/23
親父は田舎に帰った。
癌治療もおもわしくなく日に日に少しずつ弱る親父は田舎に帰った。日に日に少しずつ弱る親父。それは癌治療がうまくいってないからだろうか。それともただの老化なのか。それともまた何か別の思い煩う事があるのか。例えば無職の息子の事とか。日に日に少しずつ弱る。日々の雑事を全て自分でやっている親父。朝起きて夜寝るまでにする全てを一人でやっている。僕が消耗品の買い出しを率先する時もある。切らしているのに気付けば。日に日に少しずつ弱る。それ以外は似てない親子だと感じる。僕達は。
○ 2020/07/24
今日も暑い。湿度もそこそこか。
○ 2020/07/25
なし。
夢精でも体感の変化はある。へたばった、くたびれた、だらしない。そういうのだ。そしてそういうのが適量を超えた時、痙攣を阻害する。
しかもそれらは柔軟性に寄与しない。筋がだらけているのだから伸びやすくなればいいものをちっとも伸びない。日頃より伸び難くさえある。
○ 2020/07/26
薔薇色の回顧
○ 2020/07/27
詐欺師の。
詐欺師の口を慎まなければならない。詐欺師でないのなら。
詐欺師の様な放言を厳めしく禁じねばならない。
まったく詐欺師の様な事を言ってはならない。たとえ詐欺師であってもぎりぎりまで控えねばならない。逃げられる故。
詐欺師でさえその様に謹み深くあるのだからして、詐欺師でないのならなおさらである。
というような事を事あるごとに霊媒に言っていたら。詐欺師呼ばわりすると言われた。心外である。
秘伝の誘い。
他県、○県のどこそこに僕が高校生の頃お世話になった先生がいるという話を聞いた。僕は驚いた。その先生は当時既に老人だったのだ。とっくにお亡くなりになっていると思っていた。もしかするとぎりぎり戦中世代の人だ。生きているだけで驚きだが、いまだにせっせと居合いを工夫して何やら凄い秘伝を編み出したとか。嘘臭い話をされた。伝授させてやると添えて。21世紀に昭和感がみなぎる。断った。
○ 2020/07/28
奏功
倉庫の便所の尻を拭くための紙がすごく減っている。
こんなに使ったかな。前日にこんなに減っていたかな。気のせいか。気のせいさ。誰かが勝手に使うなんてするわけない。さりとて、気になる。
今日も待ち惚け。そろそろ日付も変わる。
隣の隣の市まで本を買いに行ったら擦れたのか尻が痛い。痔に悪いのだろうか。三時間程歩くのは。
相変わらず新型の肺炎は猛威を振り撒いている。減ってきたかなと思ったら振り返して。いつになったら収まるのか。待ち遠しいかぎりだ。
○ 2020/07/29
赤子。
死んだ赤子の写真を思い出す。父親と思われる男が悲痛な表情をして抱き抱えている。叫んでいるのか。誰かを呼んでいるのか。それともただただ嘆き悲しんでいるのか。写真からは判別できない。その写真の男がその子の父親なのか本当のところは分からない。ただその嘆きを父親と思った。取り乱した様を父親と感じた。ぐったりとした赤子。添えられた文章から赤子の死亡が分かる。
道を歩いているとふと思い出す。赤子。脈絡もない悲しみ。
神々の偉大さは赤子を救いはしなかった。
赤子が巻き添えで死ぬということがありふれている。
車を大量に積んだ船が事故を起こした。出発前の祈願を怠ったからとの噂。
何故。船に事故を呼び込めるなら、人を殺す船を止めてくれなかったのか。何故。母に抱えられた幼子を殺す機銃や飛行機を止めてくれなかったのか。何故。戦争のためのあらゆる不道徳を看過したのか。
それが出来ないのならせめて人心に良心の呵責を思い出させてくれ。止まる為に。
そして残念ながらそれすらも出来なかったであろう事例が探せば見つかるだろう。
見付けたくないので探しはしないが。