2021/06/10から
○2021/06/10
乾いた空気。やや強い風。
なにをやるか。どうやるか。どこまでやるか。そうしていつやめるか。
やめどきというのがさっぱり分からない。
とろとろと日が暮れた。あるいは迅速に去った。
床でのたうつ。横たわる。またのたうつ。
出口もなくてぐるぐる回る。回るたびに冷えていく。
床に手を着く。床から手を離す。冷たくなる。
伏せて立って。倒立して立って。這って立って。
冷却されていく。回る回る。前から横を向き、後ろを向き又前を向く。一回転。逆回転。一回転。手を振る。足を振る。かいた汗は冷たい。気化する汗は冷たい。ふらふら歩く。凍えていく。円周を回る。休息する為に。冷えていく。動かなかった様に。
○2021/06/17
通り雨。
雨が降り、止んだ。進展もなく。冷えた空気。濡れた道。
ふらふら歩く。新しいことなく。どうしたものか。考えもせず。上を見る。群青になった空には月がみえた。まだ細い月もすぐに太くなるだろう。
萎えた気力。衰えた身体。展望のない自我。
いつだって時期が悪い。冴えた考えが浮かびやしないか、静かに待ってみた。待っただけ空白が続いた。
○2021/06/18
頭。
床に頭を着ける。手を着いて後、頭を接着。よっこらせ。足をあげる。勢いがつきすぎ壁に足が強く当たる。
湯が沸騰している。火を止めた。茶碗用意。茶漉し器乗せ。茶漉し器に茶葉を注ぎ、湯を投入。湯が茶葉を浸す水位まで注いだら、しばしまつ。死者への供物。
頭を下げる。床に着ける程に。体重を頭皮にあずける。あるいは床には着けずに身体からぶら下げて。頭部の筋肉の随意のありがたさ。ありがたい、ありがたいが、こんなもんかという気持ちもある。便利な小道具でしかない事への寂しさ。
○2021/06/20
グレイ・グー。
球状歯車機構。
○2021/06/24
月。
明日は満月。毎月やってくる夜。本当に明日かは確認していない。ひとづてに聞いた。満月がやってくる。丸くなった月が昇る。夜の影はちょうどよいか。
○2021/06/25
ティティヴィラス。
○2021/06/26
丸い。
透明な丸い存在。つるつると滑らか。わずかな光の屈折と反射。静かで明るく穏やかな空間。沈黙する心身。何も思わず。何も話さず。何もしない。何もされない。ただそれが続いた。誰もいない。誰もこない。唐突に終わるその瞬間までそれは完成されていて終わることのないもののよう。ずっとそうして在り続ける。ずっと。
○2021/06/27
なし。
今月の満月は延期。天候不順か。するかしないか。ぎりぎりの天気だったが、結局は延期。来月はどうなるのか。やってもやらなくてもさほどの違いはないのだろうけれども。
影が出ていくというのはきっといいことなのだろう。
○2021/06/29
六月。
六月もそろそろ終わりか。空気は夏の空気。七月の予定は未定。ムカデの大将もどうなっていることやら。ああ、空を眺めると雲も夏の雲をしている。集団で歩いている子供達が騒がしく進んでいる。誰も何もしないされない。道を進んでいると、どこからか猫の鳴き声が響いてきた。猫の鳴き声。猫を見なければいいな。猫には辛い記憶がある。
○2021/07/03
今から十五分。
今から十五分。待つ。水を手鍋に入れ、火に掛ける。卵を二つ水に沈めて。湯が煮たって音を上げて急かしても十五分待つ。茹で上がるまで残り。
ことこと。ことと。
卵が踊る。沸き立つお湯の内で。そろそろ五分はたったか。少しだけ弱火にほんのすこしだけ。ぶくぶく。ぼこぼこ。騒がしくなっていた音が小さくなった。後十分くらい。じゅっじゅっ。ぼここ。
十五分たった。
火を止める。そして放置。湯がぬるくなるのに任せる。
あつあつ過ぎるのは避ける。だらだらしているとさらに二十分たった。そろそろいいだろう。鍋から取り出すとしよう。
食べた。
お湯から取り出す。思ったよりあつあつな卵。一つ。もう一つ。台所の台の上に転がる茹で卵。一つは卵置きにはめて遺影の前へ。もう一つは棚の取っ手に軽く叩き付けて割る。割れたらぺりぺりと殻を剥がす。しばし殻を剥がす。終えた。かじりつく。ほんのりと塩気のする卵。うん、茹で卵だ。
○2021/07/06
道をあるいていると。
ラーメン屋だった所が工事現場になっている。幕を張り、がんがんと音を立てて破壊している。店舗を新しくするとは思えなかった。きっと閉店してしまった。
その少しまえの産直センターも閉まっていた。自販機も撤去されて、閉店するのかもしれないと思ったばかりだった。
見慣れたものが急速になくなっていく。
知っているものが少なくなっていく。
一度も入らなかったラーメン屋。
一度だけ入って、後は外の自販機だけを使用していた産直センター。
次の店舗はないのか。あるのか。
軽自動車を貸し出していた小さな店は空っぽ。
横目に見て、進んだ。
○2021/07/10
しっけ。
今日も蒸す。雨の日々。つかのまの晴れ間。あい変わらず疫病が世間を騒がす。そうなるといい話しというのも自分のところまで垂れてこない。みな忙しい。神々さえも。
吐き出される鼻息が医療用覆面の内でこもり顔の皮膚が湿り気を帯びる。鼻毛が伸びるのが早くなったのは年齢のせいだけではあるまいと訝しげ。白い雲の間から覗く薄い青空。なんともふるわない。鼻から溜め息を盛大に漏らした。新しいこと。新しいことか。思いもつかない。もう一度鼻息を漏らした。少し頬が湿った。
○2021/07/11
ひょろり。
暑くなり、細った様な気がしてくる。
入眠時心像がまたたく。
ぐねぐね。床に手を。床に頭を。降りて着く。回る回る。
文字にしようかと思った事柄が文字になる前に消え失せる。
思い付いた事柄はさほどでもなかったのか。思い出せない今では確認もできない。次に浮かぶのは遠いいざというとき。
いざというときとは。今、ただ今だけがいざ。
椅子の上で身を捩った。
あれ。
老境に差し掛かった歌手がテレビの中で力強く歌い上げる。
あれも昔は若造だった。よく知りもしないでそういった。それに返答がある。老けていると言いたいのか。今は老人だと。
昔は若造だったから今は老人なんだ。昔に中年だったらとっくに墓の下だ。才能があるとか、運があるとか、積み上げたなにがしかがあろうが、死んでしまえばそれまで。
若いっていうのは宝だ。
すぐに必ず失われるとしても。
若いっていうのはいいものだと思えるのはきっと幸福だ。
○2021/07/12
五つの扉の向こうからやって来るセネガル人。
○2021/07/17
がらっぱちな。
○2021/07/18
今日も暑くなっ。
日が沈む。今日も暑かったな。日射しがぎらぎら。熱風が吹き、汗が吹き出しただろう。ふらふらと歩いた。
何もない。何もない。穏やかなだけの日が過ぎて行く。
血ダマ。
倒立して頭が大きな血ダマになったように感じていた。そう感じなくなったのはそんなには昔でないだろう。それでもその時には既に三十代になっていたかもしれない。
後屈して橋。頭と手と足。床に。こうした状態で頭皮に痛みを覚えなくなったのはそんなには昔でないだろう。それでもその時には既に行き詰まっていたかもしれない。
手首も肘も肩も、それらのどこにも鋭い痛みを覚えなくなったのはそんなには昔でないだろう。それでもその時には既に飽き飽きしていたかもしれない。
全て遅すぎた。ほんの少し進むときにはいつもそう感じる。あまりにも遅れて来た。では、進むべきではなかったのか。そう自問する。それに答えもせずに。
一万六千五百一手。
三手。吐いて吸って吐く。一手目、吐いて整える。二手目、吸って先手にて整えた筋をうっすら伸ばしより小さな張りに移行。三手目、吐く。そっと吐く。吸うのか吐くのかどうする。あたかも吸い始めるかのよう。あるいは吐き始めたばかりで吸い始める。混線し戸惑い滞留する。それをそっと吐くととりあえず表現する。頭部は揺さぶられ、腹筋を揺るがす。張られた腹筋は振動する。簡素な仕掛けの様に。風鈴がなる仕組みのように。
残りの一万六千五百一手から三手を引いた手順は割愛。
○2021/07/22
三十八。
遺伝子としては三十八位までは生きられる様になっているという文章をちらりと見た。僕は後二年くらいか。人間三十八年で一区切りつくということか。そう考えると十二歳から始めて八年、教わりながら二十歳までに最低限作り、二十歳からの十年、三十歳までに自分の工夫をして残りの八年で次の代に渡せばちょうどいいのか。いいのか。八年あれば伝わるものなのか。そういえば騎兵は四十まで生きていたら臆病者という言葉をどこかで見た気もする。いや臆病者ではなく幸運だったか。ばんばん死ぬ騎兵も仕込めるのなら多分仕込めるだろう。痙攣だろうとも。まあ、仕込めるからなんだというのかと言われれば、なんなんでしょうね。
という話。
○2021/07/23
恐怖を湛えた瞳。
重さ。
身体を支える。軽い方は軽く、重い方は重く。のし掛かる自重。みずからの身体を支えるという事への実感は逆さになればうんざりするほど得られる。四つん這いで移動しても得られる。床に近く移動するのはなかなかに疲れる。頭を床に着ける。三点で倒立する。腰や尻が常々支えている重みがのし掛かる。重労働だ。そのくせ座ってたり、突っ立っていたりしても重労働をしているようにはちっとも感じない。足腰には苦労を掛け通しだ。
意識もせずに。
○
NMDA受容体脳炎。
○2021/07/27。
延期。
七月の満月も延期。二ヶ月連続の延期も久方ぶりか。影はぬくぬくと過ごす。こちらの思惑と無縁に。
霊媒は夢を見た。蚯蚓の夢だ。蚯蚓の訴えを聞く夢。蚯蚓は言った。:自分達が土を良くしてます。なにもしていない百足の餌にするのは止めてください。
霊媒はもっともだと感じいった。きっと、百足の世話を初めた当初からうっすらとそう感じていたのだろう。百足は生きた餌を欲するのだから。
○2021/07/28
パックのお茶を鍋に二つほど投下し煮込む。茶色い。
しばらくし火を止める。鍋が冷えた頃合い。ペットボトルへ移す。漏斗を二つ重ね、そろそろと移す。移した。冷蔵庫へ。少し渋味が出たりもするが冷やしたならこんなものなのか。よく分からない。冷えていれば少々の事は素通りする。よく冷えたお茶を飲み干す。よく冷えている。
○2021/08/01
くるくる。
前から横、後ろ。また前。回る。踵に乗って。つるつると滑り。逆巻きにまた回る。踵に乗って。抱えた反発で主従を入れ替えて。後ろを向いて。勢いに乗って。腕が後ろへすっ飛んで、抱えて。くるりと回る。逆巻きに、また逆巻きに。時々、連続で同じ向きへ、くるくる。踵に乗って。
○
引用➡酒もタバコも女もやらず、百まで生きた馬鹿がいる
○2021/08/09
すし。
死んだ親父が夢枕にたつ。すしすし。と連呼する様は哀愁を誘うかと思いきやそうでもなく一抹のむなしさが胸に去来。再現の甘さに自身の脳の能力の低さを見る思いか。見た目はそのままだが、発言が駄目だ。それとも浄土の暮らしは素晴らしく楽で知能が低下してしまったのだろうか。聡明な父がすし としか言えなくなるとは時の流れは残酷だ。すしじゃすしじゃ。健康な肌つやが往時を偲ばせる。
○
寡頭制の鉄則。
○2021/08/14
盆。
迎え火が燃えている。雨と風に吹かれて。
くだらないと思う。旧弊な慣習。唾棄すべき過去。
そう考えながらコンロの火に木片を近付け燃やした。
先祖。死者。手順。
むなしさだけを抱える。死者に帰って来てほしいなんて思わない人間にとってはうんざりする行事だ。
親父は生前この時期には生まれ故郷に必ず帰っていた。それはここじゃない。死者になったら宗旨替えだろうか。
自分の家か。親父はここを自分の家と思っていたのだろうか。生まれ故郷ではないこの家を。
○2021/08/17
送り火は燃え尽きた。
五十分近く正座して念仏清聴。頭がおかしくなるかと思った。送り火だいうから行ったら、こんこんと念仏を聴かされる。節回しが繰り返されて終わりかな、と思うと続くというのが何度もある。終わりそうで終わらず、同じようで同じでない読経がいつまでも続くかのような感覚におちいる。足が痛む。足が痺れる。足が熱い。送り火とはなんだったのか。これは何なのか。ただただ耐えるだけの時間。二回くらいキレて退出しようかと思った。思うだけに留めたが危ないところだった。送り火はよく燃えた。




