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2020/12/15から


 ○2020/12/15

 役にたたない。

寒い。倉庫にて跳ねる。弾性をもってひょこり。ひょこり。

寒い。模造刀を手に跳ねる。ひょっひょこ跳ねる。

寒い。前足で跳ねる。へそから上を使って前方に投射される自らの肉体。片足立ち。跳ねる。片足立ち。


 ○2020/12/20

 ひよこひよこ。

あいかわらず進展もなく。浮かされたりうなされたりしつつ過ごす日々。こつり こつり と音が夜更けに側頭を叩く。眠りに入れずに嫌な時間だ。寝たら寝たで、池に落ちる。自転車で坂を下り、止まりきれずに落ちる。池から上がると足元にはぬるりとしたいかにも水棲な生き物が楽しげに足下をちょろちょろとしている。文字化けした難読漢字の校名の門とにらめっこ。何処だここは家に帰りたい。そうして目覚める。


 飛んだり跳ねたり。

飛んだり跳ねたりしろというお達し。

三十四番目の影は寒さが好きな奴で、雪山に行かないかという話がでる。当然行かない。そうして倉庫でひょこひょこと跳ねる。運動をせよという事なのだろう。ありふれた動き。とるに足りぬ基礎。片手に刀、胴に振、片足に立ち、ひょこひょこと跳ねる。振り上げ振り下ろされる刀。寒さが好きな影はどこか。どこにもない影を楽しませる間抜けな躍り。

疲れたら手を変えてまた始める。十回。十五回。前進。後進。大きく跳ねて。小さく跳ねて。速く跳ねて。緩やかに跳ねて。目的など忘れて、ひとしきり跳ねる。


 腕立て。

頭には帽子。毛糸のだ。手を着いて床に伏せる。足先。手。そこへ額を加える。じわり額に加重する。首は緊縮。手はほんのり楽になる。床を押す。額は床を離れ加速。勢いそのまま押し放ち手は床を離れる。足を置いた一瞬の滞空の後に着床。肘関節を曲げ衝撃を逃がす。減速しつつ額も着床。右主体と左主体を交互に以下繰り返す。


 ○ 2020/12/24


 齟齬。

一人でいる。新しい事もなく。親父殿は入院。

年末は霊媒も忙しく話もとんとない。

三十四。三十五。三十六。このあと三つで何かしら変わると霊媒は言った。満月と影。年末の満月で三十四が出たならば、後二つ。

 出来ると言われた事は何一つ出来るようにはならなかった。見えないモノを見、聞こえないモノを聞き、触れぬモノを触り、ない香りを嗅ぎ、虚空を味わう。肉体からの遊離。

全く出来ない。当たり前の事だ。出来ないのが当たり前なのだ。体の使い方の工夫をしているのであって、体から逸脱しようとはしていないのだから。

今から憂鬱だ。影が出揃って。どうだ。とたずねられたら、正直に言うべきだ。言うべきだが、やっぱりがっかりされるんだろう。何もありませんでした。今までと変わらずに。

鼻息が思わずもれる。正直は美徳か。損な美徳だな。正直。


 ○2020/12/25

 ぬくぬく。

ぬくぬくと暖まって過ごせとのお達しあり。

倉庫には暖房器具が存在しない。さてどうするか。

うろうろと歩く。うろうろ。

一通り運動する。柔軟体操。倒立。床を這う。

 素振り。素振り。素振り。親指がだるくなる。手袋をする。素振り。とことこ歩く。振る。振る。振る。右で左で、持ち変えて、振る。腕が熱を持つ。さらに振る。肩からぱきりとぱきりと音が立つ。振る。なんの意味がある。言葉が浮かぶ。振る。向上もなく闇雲に振る。前腕がだるい。すみにある鞘をひっつかむ。納刀する。


 ○2020/12/27

 ひっそり。

ひっそりとした時間だ。一人。今年を振り返る。

新しい事もなく。今年を過ごした。

しかし全く同じではなかった。やっていた事がほんの少し進んだ。開脚前屈で胸が床に着いたり、前屈で床に手を着いたり、倒立で壁に尻が着いたりした。尻が壁に着くときには開脚もした。後屈も、後屈はさほど変わらないか。頭を床に着いて腰を着けないように横転。横へすすむ。

わずかな変化ばかりと。

基礎の更新は夢のようだ。かなわない感じの。


 ○2020/12/29

 腕立て。

今日も腕立てをする。霊媒は言った。昔を思い出せ。

ひたむきに練習した若い頃を、没頭した日々の事を。

遠くの幸せに少しずつ近付いていると信じようとした日々。

汗を流して、息を切らして、マメを潰しまたマメができて固くなるように、進んでいるのだと信じようとした。まだ分からなくともいつかきっと分かると信じようとした。

十年前を。二十年前を。思い出す。

そうして思う。だからなんなんだろう。

思い出した所で。忘れていた訳ではない。わざわざ思い出さなかっただけだ。これといって有用という事もなさそうだから。なんの取っ掛かりにもならない。腕立てをする。額を着けて。顎を着けて。床に伏せる。そこから手首を浮かせる程度に押し上げた。一瞬の浮遊。着地。衝撃を逃がす、あるいは受け止める。逃がすなら続行。受け止めるなら終わりだ。

腕立てをする。繊細さも、奇妙も、不思議もない。単なる腕立てを、せっせと行う。休み休み行う。

僕は間抜けだ。何もいらない。腕立てをしている。


 ○2020/12/31

 からから。

雪に降られた。ふわふわの雪。湿った雪。風に吹かれて横殴りに上着に積もる。腕が寒い。昨日の満月が嘘のようだ。空模様はすっかり冬。ご機嫌に雪を吹き付けてくる風。

自覚がでる予定まで。残り三十五、三十六番影。

自覚がでる。これまでも何度となく自覚がでるよと言われてきたが、でたためしはない。薄暗い。そのたびに自覚とはと自問した。今もしている。新年まであと二時間と少々といったところ。自覚とはいったい。

 影は役に立つ。そういう主張を霊媒は伝えた。僕の手足となって働くと臆面もなく言い切った。僕は言った。:ふうん。じゃあ僕の願いに協力してくれるんですか。

霊媒は言った。:しない。

役に立つ。手足となって働く。そうまで言って願いには協力できない。僕の願いが気にいらないというならそれならそれでいい、他所で頑張ればいいのだから。願いは気に入らないし協力もしないが、役に立つ、手足となって働くというのがよくわからない。役に立つとは何をさしているのか。手足とはいったいなんなのか。不思議でならない。無理強いなんてしやしない。勝手にしている。僕もそうしている。では、わざわざ寄り添う必要があるのだろうか。最短で後二ヶ月。どうせ何もないだろうが。何もなかったを洒落た言い回しで文章にした方がいいのだろうか。

 よいおとしを。


 ○2021/01/01

 新年。

新年明けましておめでとうございます。

参拝客のやや少な目な境内。マスク必須。貼り紙にて告知。

例年より少な目な境内にて順番待ち。家族連ればかりだな。

そうして一人参拝を終えた。

 帰り際、急に天候が回復した。青空がのぞく空。西日はきいろくやわらかな光で街を照らしていた。新年になったんだなあと思わないでもない。いや思わなかったか。思い出は美化されてそれらしさを装う。何事もなく満月が過ぎた。そして次の満月を待って過ごす。2021年の始まり。

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