逢いたくて・・・・・
あの日、あなたに出会ったのは、雪の降る寒い日だった。
あなたは立ち止まり、クリスマスのイルミネーションに見入ってた。
私は仕事で移動の途中だった。
後姿が、あなたにそっくり。
そんな事を思いながら、追い抜くときに声をかけられた。
「そのまま、無視していくつもりか?」
正直、驚いた。
声も出なかった。
「えっ?」
「久しぶり、今仕事中?」
やっぱり、本物だった。
私の前から姿を消して3年。
仕事の都合で、海外を点在していると風の噂で聞いた。
「えっ、うん。」
「いつ、終わる?その後の予定は?」
いつも突然だ。
まるで嵐みたいに、私の心をかき乱す。
ふらっと3年前に"出張にでる・・・・"と言い残して出て行った。
最初のうちは、出張を信じてた。
1年が過ぎる頃には、さすがに長いだろって疑いだした。
2年が過ぎる頃には、何かの事件に巻き込まれてるのか心配になった。
そのうち、彼の職場関係の噂で、海外に拠点を置いて仕事をしてると聞いた。
逢う事があれば、絶対に文句を並べてやると心に決めてたのに・・・・・・
3年も経てば、思い出となっていい事しか覚えてない。
「この書類を届けたら終わりだけど・・・・・」
「久しぶりに、飲みに行かないか?」
「いいけど・・・・・・・」
「じゃぁ、終わったら電話して。」
そう言って、彼は電話番号の書かれたメモを渡して、雑踏の中消えて行った。
嵐の去った後は、心の中まで空っぽになっていた。
書類を本社に届ける間に、いろんな事を考えた。
「何年か経って、ふと街中で出会ったりしたら、自分に自信を持ってる女性でいて欲しい。
人間の価値は、成長したか否かだと思う。」
彼の口癖だ。
私はどうだろう?自分に自信はあるの?
3年前より成長してるの?
女性として魅力的になってるの?
文句を言ってやると意気込んでたくせに、そんなことばかりが頭の中でまわってる。
自分磨きのために、私はいったい何をしてきたんだろう?
ただ毎日、彼の写真を眺めては
「元気でいるのかな?」
「逢いたいな・・・・・」
なんて思ってた。
私は、彼に相応しい女性なんだろうか?
自信も無くなった頃に、書類も届け終わり任務完了。
渡された彼の番号に電話にかける。
「もしもし、仕事終わったのか?」
「うん、今どこ?」
「おまえん家の近所の公園。」
「えっ?」
「って言っても、3年前の住所だけど・・・・・・引越した?」
「してないけど・・・・」
「じゃぁ、早く帰ってこいよ。日本は寒いよ。」
そう言って電話が切れた。
途中で、食料を調達して私は急いで家に帰った。
公園のブランコで彼は待っていた。
「この辺、変わったな・・・・・・・・」
「3年もすればね・・・・・うち、来る?」
「あったりまえじゃんっ、ここで呑んだら凍死するよ。」
笑いながら、二人で家に向かった。
久しぶりなのに、普段通りの空気が流れてる。
3年というブランクも全く感じない。
「3年も、いったい何してたの?」
「いろいろとね・・・・・・」
あまり話したくなさそうなので、無言のまま歩いた。
鍵を開けて部屋に入る。
私は即効部屋の暖房をつけた。
「部屋は変わってないでしょ。適当にくつろいで・・・・・」
彼に背を向けてコートを脱ごうとした。
その時、急に彼に抱きしめられた。
「っどうしたの?」
「逢いたかった・・・・・・・・」
そう言うと、彼は私の首筋に顔をうずめて力強く抱き締めた。
どれくらい時間が経ったろう?
3年という時間を埋めるように、私達は求め合った。
私の身体に触れる彼の手の感触。
優しい気持ちにしてくれる彼の唇。
忘れてた熱い思いがよみがえる。
3年前に急に姿を消して、恨み言を山のように言ってやるつもりだったのに・・・・・
彼の腕に包まれて、幸せな気分に包まれて・・・・・・・・・・
私は眠ってしまった。
久しぶりに、夢を見ないでぐっすり眠れた。
まだ彼の手や唇の感触が残る・・・・・・・・・
目覚めてみると、彼の腕に包まれて眠ったはずなのに、彼がいない。
携帯の履歴から、彼の電話にかけてみる。
5度目のコールで繋がった。
「もしもし、今どこにいるの?また出て行っちゃったの?」
暫く無言が続く。
昨日は彼が出たのに・・・・・・・
一度耳元から話して、発信番号を確かめる。
やっぱり、昨日の彼の電話で間違いない。
「もしもし?」
こっちの不安が伝わったのか、やっと声が聞こえた。
「もしもし・・・・・・・・」
あれっ?
彼の声じゃない。
「英語はしゃべれますか?」
なんで?彼はどうしたの?
「はい。あなたは?」
「この携帯の持ち主と知り合いですか?」
「ええ・・・・何かあったの?」
「実は・・・・・事件に巻き込まれ、彼だけが身元がわからなかったんです。」
「えっ?嘘っ・・・・・・・いつ?どこで?」
慌ててテレビをつける。そんな大きな事件の報道はなく、平和な朝の番組が流れてる。
自分でも、夢なのか現実なのか区別がつかない。
「身元の確認の為、こちらに来れますか?」
本当に彼なの?
昨日はあんなにしっかり、優しく抱きしめてくれたのに・・・・・
信じられない・・・・・・・・・
「ええ、でも、どこに・・・・・・・・」
その後に言われたのは、どこかの外国の地名だった。
私は日本にいてるのに・・・・・・・
そんな話をすると相手も驚いていた。
彼の腕の力も、唇の感覚もまだ残ってるっていうのに・・・・・・・・・
パスポート片手に、空港へ急いだ。
チケットが買えるのか、カウンターで確認してみる。
そこで、現実に引き戻された。
「お客様、ただ今現地ではクーデターが起きてまして、大変危険な状態なのですが・・・・・」
「えっ・・・・でも、身元確認の為来てくれって言われて・・・・・」
「恐れ入りますが、ご確認をさせていただきたいことがございます。」
そう言って、カウンターの裏の小さな部屋に連れて行かれた。
いくら説明しても理解されず、彼の携帯にかけて直接話をしてもらった。
結局、飛行機に乗れた。
彼の元まで10時間ちょっとのフライト。
彼に会いたいとは願っていたけど・・・・・・・・
願いが強すぎて、彼が逢いに来たのかしら?
でも、まだ彼の感触が私の身体のいたるところに残ってる。
信じられない・・・・・・・・・・・・
夢なら、早く醒めて。
変わり果てた彼の姿に逢う前に・・・・・・・・・・
読んでいただいて、ありがとうございます。
今後の参考にしたいので、よろしければ感想をお願いいたします。