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竜騎士  作者: 海星
2/6

見合い

見合いか。


ボクと見合いする男は可哀想だな。


ボクは高校時代文化祭でクラスのリア充達が座興で女装していた時、それを遠巻きに見ていた。


「似合わねー!」とか「お前、思ったよりも可愛いな!」とかリア充達がキャッキャ言ってるのをボクは横目で見ていた。


『異世界ハローワーク』の岡嶋さんは確かボクの魅力を上げたとか言ってたよな。


でも所詮ゼロは何倍してもゼロなんだよな。


この理屈はおかしいか、魅力は足されたんだよな。


かけ算で考える方がおかしいんだ。


そのくらいヲタクは見た目の話になるとネガティブになるんだ。


まあ約束してたんなら見合いには形だけでも出席しないとセッティングしてくれた両親や知人の顔を潰してしまう。


ふと思う。


相手はどんな人なんだろうか?


「ママ、見合い相手ってどんな人?」ボクは母親に聞いた。


・・・ちょっと待て。


『ママ』だと?


自然に口から『ママ』という言葉が出てきたから危うく流しちまうところだった。


まあ百歩譲って母親の事を『ママ』と呼ぶのは良しとしよう。


しかし母親を『ママ』と呼ぶという事は父親を『パパ』と呼ぶという事だ。


・・・イヤだ!


せめて『お父さん』と呼ばせて欲しい。


16歳の娘さんの呼ぶ『パパ』など援助交際相手だけだろう。


・・・偏見かも知れないが。


そんな風に頭の中で悶えているボクの気持ちを知ってか知らずか母親は呆れながら言った。


「何を言っているの?


あなたの見合い相手は容姿端麗な大富豪じゃない。


知らない人はいないわよ?」


そうか・・・女だったら、こんな良い物件はないって話なのか。


そう、あくまで女だったら。


ボクは良い男だろうが金持ちだろうが男に抱かれる気も結婚する気もない。


本当に危なかった。


もしボクが見合いの後に目覚たとして、もしこの娘さんがこの結婚話にその気になってしまっていたとしたらボクは男と結婚しなくちゃいけなかったんだ。


いや、それだけ良い男で大金持なら相手は引く手数多だろう。


考えようによってはボクが断ったとしても結婚したい人が沢山いる人なら後腐れなく何の遠慮もなしに見合いを破談に出来るというものだ。


相手がボクを選ぶなどという事はあり得ないけど。


つーかいい加減自分の顔を見たい。


岡嶋さんは「魅力をある程度上げた」と言っていたからそこまで酷い見てくれではないはずだ。


それとも竜に好かれる見てくれって事だろうか?


という事は爬虫類系の顔って事だろうか?


卵を殻ごと飲み込みそうな顔って事だろうか?


竜は鳥に近いんだっけ?


恐竜は下に向かって足が生えてるけど、トカゲやワニみたいな爬虫類は横に向かって足が生えてる。


恐竜や竜みたいに下に向かって足が生えてる生き物は鳥か哺乳類しかいないんだっけ?


恐竜も竜も卵を産むから哺乳類ではない。


だから竜は鳥類なんだっけ?


そう考えるとインプリンティングだっけ?


生れたての竜に自分を親だと思わせたら竜をあやつれそうだな。


昔、女の人には全くモテなかったが、メス犬にはよく飛びかかられたのを思い出した。


「人間にはモテないけど他の生き物からはモテモテだ」そういう人の魅力は高いんだろうか、低いんだろうか?


考えてもしょうがない。


特に大きな不満はない。


しかし母親の「女の幸せは結婚だ」という態度に少し引っ掛かりを感じる。


そういう世界だしそういう時代なのかも知れない。


でも自分が女になって、そういう世界に転生すると理不尽さを感じてしまう。


どの時代のどの世界の女性でも男が思っている以上に不自由さを感じてるんじゃないか?


「じゃあレイ、手伝いますから身支度を済ませてしまいますよ」母親が言う。


『レイ』か。


確認しなくても16年間生きてきた体が『レイ』は自分の名前であることを認識している。


ガノタにとって『レイ』は名前でなく名字だ。


『アムロ・レイ』とか『テム・レイ』とか・・・。


名字も名前も『レイ』なら『レイ・レイ』という事でカプコンの格闘ゲームに出てくるキョンシーの女の子みたいな名前になる。


しかし『レイ』という名前は「まぁいいか」と思わせる名前だ。


某世紀末救世主伝説でも『レイ』は男のキャラとして登場する。


『花子』と呼ばれるよりは『レイ』と呼ばれたい。


それに何か『レイ』ってちょっと恰好良い。


名前か『レイ』なら名字は?・・・と思ったが、異世界で庶民に名字はないらしい。


そのかわり偉い貴族は長ったらしい名前と名字がついているようだ。


名前に由来などはあったりなかったりで『レイ』は野に咲く花からとった名前らしい。


『レイ』は日本で言う『オオイヌノフグリ』のような質素な可愛らしい花らしい。


今は『オオイヌノフグリ』みたいな名前じゃなくて良かったという事だけを思っている。


だって『フグリ』って『金玉』の事だぜ?


まあとにかくアムロ・レイもソーラレイも全く関係ないようだ。


異世界にガンダムは存在しないので当たり前といえば当たり前だが、ボクはガンプラのない世界で生きていかなくてはいけない。


こんな事になるならネットで買った『アナベルガトー専用ゲルググ』を作っておけばよかった。


「そのうち作ろう」って思っていて、もう二度と作れなくなってしまった。


「ソロモンよ、私は帰って来た」というのはガトーの名言だが、ボクはソロモンにも日本にも二度と帰れない、いやソロモンには行った事がないから『帰る』というのは変か。


ボクは日本ではどういう扱いになっているのだろう?


死んだ事になっているのだろうか?


失踪した事になっているのだろうか?


ボクは自分のアパートのコタツの中で「もういくつ寝るとお正月だねー」と思いながらミカンを食べていたはずだ。


失職中ではあったがそれまでまじめに働いていた事もあり、ハローワークで失業保険を受け取りながら、求職活動をしようと思っていた。


ボクに死んだ自覚はない。


気付いたら『異世界ハローワーク』にいたのだ。


何が起こったかわからない。


しかしわかっていることもある。


それは異世界にはゲームもテレビもネットもないという事だ。


岡嶋さんは「暮らしやすい世界」と言っていたけど、ガンプラもネットもない世界で暮らしやすい訳がない。


身支度がだいたい終り、薄化粧をする段階でようやく鏡で自分の顔を見た。


普段は素っぴんで化粧はしないらしい。


ボクは頭の中でレイに「化粧のしかたを知っているか?」と聞いたら「化粧した事もないし知らない」という返事が返ってきた。


異世界の鏡は銀を磨いた物だ。


つまり鏡は超高級品だ。


なので手鏡は本当に小さい。


ガラスで作れば安く、簡単に作れるのに・・・などと考えてもガラス製品を作る技術が異世界にはないようだ。


手鏡で自分の顔を見る。


うーん・・・鏡の表面には無数の傷がついているし、くすんでいるので正直自分の顔がおぼろげにしかわからない。


母親が言うには「レイ、とっても綺麗よ」との事だが、実の娘に「オメー二目と見れねーブスだな」などと言う母親は見た事がなく、信じて良い訳がない。


綺麗であるにこした事はないが、別に今回の見合いがまとまらなくたって別に構わない。


つーかまとまって欲しくない。


ボクは軍隊に入ってドラゴンライダーになり、その後竜騎士になるんだ。


別に竜騎士にそんななりたいかと言われると正直どうでも良い。


でもせっかく女に転生したのに、竜騎士にならないとちょっと恰好つかないじゃん。


しかも異世界じゃ女の幸せは結婚だと思われてるみたいだ。


軍隊に入らないなら、ボクは結婚しなきゃならないだろう。


男と結婚する気がないボクは軍隊に入るしか道がないんだ。


ボクは身支度を済ませると見合い会場に向かった。


どうせ破談になるんだ、ボクは気楽に構えていた。


・・・見合いって何をしゃべれば良いんだろう?


「ご趣味は?」とかだろうか?


しかしこの野郎に聞く事は決まっている。


ニュータイプとニュータイプはひかれ合う。


同じようにヲタクとヲタクもひかれ合う。


コイツは間違いない。


ボクと同じ転生者だ。


そしてボクと同じヲタクだ。


「好きなモビルスーツは?」ボクはおもいきって聞いてみた。


普通ならまずは名前を聞くだろう。


だがボクは「転生したのかとうか」の方が気になった。


「うーんとキュベレイかな?」男は言った。


キュベレイだと?確かにキュベレイは美しいフォルムだ。


だがキュベレイとバウンドドッグだけはモビルスーツの中でも別枠なのだ。


こういうヤツはジムの無骨な格好よさを理解出来ないに違いない。


ボクとは一生わかりあえない。


まあそんな事はどうでも良い。


コイツが転生者である事は確定だ。


もうひとつどうしようもなく気になってる事がある。


コイツのどこが容姿端麗だ?


秋葉原周辺にこんなヲタク沢山いるじゃねーか!


目の前の男はボクを見て「うはっ!キタコレ!」とか何か微妙に古いネットスラングを使ってる。


恐らくコイツが異世界に来た頃流行っていたネットスラングなんだろう。


コイツに2ちゃんねるとニコニコ動画が凋落したって事を教えてやりたい。


でも「時代はYouTubeだ」とか言っても一昔前のネットユーザーは信じないだろうな。


ボクは直球で「アンタ日本から転生してきたんだよね?」と聞いた。


男の目は泳ぎ滝のように汗をかいた。


「ななななな何を言っているのかな?」


「隠さなくてもボクも日本から転生してきたんだ」ボクは包み隠さず真実を述べた。


一つ男は溜息をつくとポツボツと告白した。


「私は日本には戻りたくない。


私は日本で本当にモテなかった。


二次元のキャラを『嫁』と言っていたが嫁の声の人は普通にリア充の男と結婚した。


私と金抜きでコミュニケーションする女は日本にはいなかった。


しかし異世界に転生してからは違う。


転生した先人が印刷技術と製紙技術と製本技術を異世界に伝えた。


そして先人達は活字媒体を支配し異世界の人間を洗脳した。


『キモヲタこそイケメンである』と。


その洗脳に多くの年月が費やされた。


そして異世界ではキモヲタこそイケメンであると思われているのだ」


美的感覚など主観的な物であり時代と共に移り変わっていくものだ。


日本でも平安時代は下ぶくれの顔の女性が美人とされたらしい。


昔ロシアでは太っているほうが健康的て美しく見える、と結婚前の女性は無理矢理太るまでジャガイモを食べさせていたらしい。


アフリカの少数民族は美人の条件は『首が長い事』と鉄の首輪飾りをいくつもつけ、首を長く見せているという。


つまり美醜の感覚はその世界、時代、地域によって違う。


転生した先人達はその美醜の基準を操ろうとしたのだ。


先人達のせいでどこからどう見ても『キモヲタ』としか言いようがない目の前の男がこの世界ではキャーキャー黄色い声援を若い女の子から受ける男なのだ。


しかも目の前の男は大金持らしい。


男は異世界の王都に下水道管を張り巡らしたらしい。


今から四千年前、モヘンジョダロじゃ下水道の原形があったらしいし、異世界に下水道を作るのは不可能じゃないのかも知れない。


考え様によっては下水道があればコレラやペストが蔓延せず、多くの人命が助かるかも知れない。


つまりコイツが救世主になるかも知れない。


男の見た目で小太りでチョビヒゲを生やした赤いオーバーオールを着た水道工の呼名は『マリオ』かと思ったら『マサオ』と言うらしい。


日本でマサオと言う名前かも知れないが、こちらで呼ばれていた名前があるはずだ。


男が男に普通に転生した場合、人格は別れないらしい。


というか、人格が別れるケースなどマサオは聞いた事がないようだ。


コイツは権力と財力でこちらでも『マサオ』と名乗れるように改名したとの事だ。


他の転生者の情報をマサオは集めているらしく、色々ボクに教えてくれた。


マサオは見た目はどこからどう見てもキモヲタだけどけっこう良いヤツかも知れない。


・・・と思っていると「これ以上の情報が欲しいなら私の嫁になりなさい。お前を第一夫人にしてあげます」と言った。


第一夫人だと?


このキモヲタ、もしかしてハーレムを作るつもりか?


ふざけんなよ?


コイツの驚く顔を見て見たい。


「ボクは日本では男だったんだ。『竜騎士』を希望したら女性になっちゃったけど」とマサオに言った。


「それは一体どういう御褒美だい!?


決めた!私は君を娶るよ!


君の母上に連絡を入れるね!」キモヲタは興奮気味に言った。


全くボクの意見は無視らしい。


この異世界において女の意見など軽視されている上に、大富豪の発言力は強い。


「一時の感情で結婚相手を決めて良いのか?


もしかしたらアンタにもっと合う転生者が現れるかも知れないよ?」ボクは焦りながら興奮気味のマサオを宥めるようにいった。


「いやそれはない。


おかしいと思ったんだ。


異世界に転生するのは無職の男のヲタクだけなんだ。


何で女性が転生者なのか不思議に思ったんだけど・・・そっかー、竜騎士を希望したのか」マサオがしみじみと言う。


マサオに情報提供した異世界転生者の中には『異世界ハローワーク』で転生者の選出基準の説明を受けた者もいるらしい。


『異世界ハローワーク』は日本の公の機関だ。


つまり日本は「キモヲタの無職の野郎いらねー」と異世界に追放しているのだ。


そりゃそうだ。


リア充や女が日本から来ているならマサオみたいな男は片隅で目立たないようにしているだけで大金持になんてなれないだろう。


日本の方が文明が進んでいる上に、日本で水道業者であった経験を生かし、異世界の都市に陶器の水道管を網羅して大金持になったのだ。


陶器で下水道管を作ったのは瀬戸物の釜焼き経験のある日本から来た男だと言う。


そいつらはどいつもコイツも異世界に来る前、日本にいた時は無職だったらしい。


そして漏れなくキモヲタだ。


ボクはショックを受けた。


ボクは廃棄物として異世界に捨てられたのだ。


異世界は無職で溢れた。


異世界では無職の多さが社会問題になり「異世界に追放する際に手に職をつけよう」と『異世界ハローワーク』で希望職種につけるようにステータスをいじるようになったらしい。


しかしステータスを得たキモヲタ達は天敵である『リア充』のいない世界で勢力を伸ばしはじめる。


キモヲタ達は金を得て地位を得た。


そして民衆の意識を操作し「キモヲタにあらずは人にあらず」という常識が異世界にはびこった。


マサオ達キモヲタはハーレムを建設しようとしている。


マサオはレイをハーレム要員第一号にしようと考えているのだ。


レイは全身に鳥肌が立った。


いますぐここから逃げ出したい。


しかしマサオはレイにとってせっかくの情報源だ。


どうしようかレイが考えているとレイに一つのスキルが思い付いた。


ロマンシングサガでスキルを思いつくと吹き出しが出てそこに電球が表示されるが、イメージとしてはそんな感じだ。


スキルの名は『思わせぶり』だ。


『思わせぶり』とは相手に気があるような態度で、相手に何かを与える訳ではなく相手に財産や情報を供出させるという『ドラゴンライダー』のゴミスキルである。


『思わせぶり』の良いところと言えば「低レベルでも使えるし、覚えられる事」だ。


そして『思わせぶり』は日本でもキャバ嬢などは覚えている女が多いスキルで転生したての者でもすぐに使えるのがメリットだ。


ボクはスキル『思わせぶり』を発動させつつマサオに言った。


「結婚したいとか、したくないとか・・・そんな事は考えられないかな?


今は転生したばっかりで右も左もわからない状態だし。


もし落ち着いたら結婚の事を前向きに考えてみようと思う。


でもまずは『ドラゴンライダー』にならなくちゃ。


あなたとの結婚の事はその後ゆっくり考えます。


だからあなたにお願いがあります。


軍部に知り合いはいないですか?


いたら紹介してもらえませんか?」


嘘はついていない。


ドラゴンライダーになった後結婚の事を考える。


主に結婚の断りの口上を考える。


何でボクが男と結婚を考えなきゃならんのさ。


ボクがそんな事を考えていると知らないマサオは喜んで武器屋の男を紹介してくれた。


武器屋を経営している男は転生者で秋葉原の『武装商店』の常連だった男だ。


ソイツが扱う武器は異世界にない物、例えばボウガンや強弩などがあり、ソイツの武器屋は帝国の御用達になっているのだ。


つまりソイツは帝国軍に太いパイプがある。


こうしてボクはドラゴンライダーになる足掛かりを得た。

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