See You Later Traitor
この前山下公園の花火大会行ったんだ
そしたらその帰りにワールドポーターズ前でDQNが大音量でDA PUMPのUSA流してた
車のトランク改造してでっかいスピーカー取り付けててさ
それが原因でぼくはDA PUMPが大っ嫌いになったんだ
俺達が遺跡を出ると、外はすっかり夜の闇に包まれていた。
樹海には民家も街灯も、暗闇を明るく照らす文明の利器はなく、唯一の光である月光も樹木と霧に阻まれ地上までは届かない。
入口から少し離れたところで焚き火がポツンと燃えていていたが樹海の生み出す闇の中ではどうしても頼りなく、炎すらも黒に吸い込まれている。
その赤い点から松明片手に慌ただしく駆け寄る仲間が1人。
あからさまに落ち着きない様子からは誰もが不穏な予感を抱くだろう。
「リーダー、こっちです。」
俺は数名の仲間を引き連れ、案内されるがまま木々の間を抜け、地表を這い回る根に注意し、足元にすがりつく霧を踏みしめ進んでいく。
一体お次はどんなサプライズが用意されているというのか。
外装は宝箱に仕立てたビックリ箱か。フクロウ頭のジャックか。
今更なにが飛び出してこようと先程のショックには勝らないだろう。
ふいに、風景が切れた。
斧を知らぬ木々も、無秩序に伸びた草林も、地表を這う霧も、みんなある地点を境にいきなり去ってしまった。
自然を押しのけて視界いっぱいに立ち塞がっていたのは、冷たい石壁だった。
風景写真をハサミで半分切り取って、代わりに市街の風景をテープで無理矢理ひっつけたようだ。
木々や岩を避けてグネグネと蛇行した箇所もあり、障害物を除く暇もなく急ピッチで築かれたことを意味していた。
もしやと嫌な予感を覚えた地図担当が慌てて地図を確認し、秒でその表情を曇らせていく。
乱暴に地図をもぎとると、なるほど確かに曇らずにはいられない光景が広がっていた。
新たな部屋が入口を囲むように築かれていたのだ。
さらにまたその部屋を新たな部屋達が囲む。そしてさらにその部屋達を新たな部屋達が囲む。
端では黒点がリアルタイムで石壁を積み上げていた。
あいつが拘束を脱してから何分だ?多く見積もっても10分程度だ。
たったこれだけの間によくぞ成し遂げられたものだ。
この広さなら白鯨を三頭丸ごと並べられるだろう。
ステータスを戦闘や装備ではなく建築技術に全振りしたに違いない。
これがハニカム構造もどきの正体か。
最初は1つの部屋だったのかもしれない。最初は宝物庫だけだったのかもしれない。
まず哀れな最初の被害者がそこに誘い込まれたとしよう。
当然逃げようとした。
ハンマーを常に持ち歩いてるプレイヤーも少なく、通常武器でコツコツと頑張って壁を叩き続けたのであろう。
この世界の物理法則は「リアル」を謳ってる割には狂ってる。
上位の強力な武器をもってしても木材製の壁にすら苦戦する。
爆発魔法もあるにはあるが、対物レベルをポンポンぶっぱなすまで到達するのはごく一握りだ。
強者揃いの我が荒狼も生憎持ち合わせてない。
彼もしくは彼らがようやく脱出できた頃には食料は尽き、既に死に体の状態だろう。
そんな被害者の前に現れたのは陽光ではなく無慈悲にも石の壁。結局外になど出られずそこで力尽きた。
部屋一つぶち破るだけで一苦労なのに、その先に湧き出た部屋まで相手する余力は残されていない。
外から仲間や通りすがりの親切なプレイヤーが助け出そうとした、とする。
しかし空き部屋を挟んでいるせいですぐに囚人の元へはいけない。
ヤツが間の部屋に入り込めば外からの妨害に恐れることもなく一人安心して修復作業を続けられる。
独房に面した部屋を解放しといて、助けようと入ったミイラ取りをミイラにできるかもしれない。
入った瞬間、バコン!だ。アナログ式ネズミ捕りみたいに新たな捕虜を得られる。
あと、今回の俺らのように木と霧に紛れて囲むとかな。
故意か自然かは知らんが、そうして生まれたのがハニカム構造もどき。
まるで密集した泡の鎧だ。例え表面の泡をはらわれても、奥から次から次へと泡を生産していけば絶対に逃げられない。
外からの侵攻に対しても同様だ。
このアルカトラズは勝手な「脱獄」も「侵入」も許さない。
難攻不落とはまさにこいつの為にある言葉なのだろう。
しかしこちらは大軍だ。さっき8名ほど死んだが、まだ17人いる。
「分散して破壊すりゃいいだろ。」
「壁に気付いた時からずっとやってますよ。
まぁ、他にも見てもらいたいものがありましてね、見てもらえればわかりますよ。」
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壁に沿って目的地へ向かう最中、いくつか策を投げかけた。
俺がパッと思いつく程度のものだから連中もとっくに試してるだろうが、少しでも可能性にすがらずにはいられなかったのだ。
案の定俺が口開く度に「うるせー知ってんだよカス」「それくらいもう試したぜ」な顔を見せてくれた。
「上は攻めたのか?階段を設けるとかして登れないのか?」
「地図見てくださいよ。あいつ、いつの間にか鉄製の天井まで作ってやがんスよ。」
壁を抜けて、泡の森へと足を踏み入れた。
「じゃあ下は?」
「地図見てくださいよ。すぐ掘ったところで壁にぶちあたりました。塀をくぐることも無理そうです。」
無理矢理壁を崩して進路を確保したようだが、ところどころ発破の跡があった。
「おい、爆薬には限りがあるってのに、バンバンぶっぱなすな。」
爆薬は高価だ。手間も金も素材もバカみたいに食われる。
だからなるべく温存し、大規模な拠点を襲撃するにしても一回使えばいい方だ。
それをこのたった何分間で4つも使われた。二部屋抜けるためだけに4つもだ。
これから立ち塞がる部屋は10や20を覚悟しなくっちゃあいけないだろう。
俺達の置かれた状況を照らし合わせ、問題点を挙げたが返ってきたのは嫌気をまとった答えだった。
「地図見てくださいよ。使わざるを得なかったんです。」
「それはわかるが、一部屋爆破したところでまだいくらでも湧いてくるんだぞ。」
「地図見てくださいよ。使わざるを得なかったんです。」
普段なら撃ち殺すところだが幼児みたいにナンデナンデ連呼する俺にも非はあるし、今頭数を減らすのはまずい。
素直に地図担当からもぎとった。
「⋯⋯なるほど。」
さっきは細かいところまで気を回せずにいたが、今になってようやく気付けた。
まったく頭が痛くなる光景だ。
三部屋挟んだ先にある目的地の部屋には青い点が3つあった。ピンボールみたいな挙動でしきりに室内を駆け回ったり、一心不乱に壁に張り付いたりを繰り返してる。
ネズミ捕りにやられたんだ。
奥まで連れ込んどいて、バコン。3人はまとめて捕虜に。
そしてなんとかして脱出しようと悪戦苦闘している。
切り開かれた道を進んでいくと、突き当たりにぶちあたった。
そこに何人かの仲間が必死に壁を崩そうと群がっていた。
「爆薬を使わざるを得いほど切羽詰まった状態だったんです。
リーダーの言う通り、こいつらのために全部捨ててやる覚悟はまだないけど。」
確かに、仲間が捕えられたとなれば一秒でも早く助け出さなくてはいけない。
しかしこちとら山狩りに来てるんだ。装備は防寒仕様だし、遭難も想定して余分に食料を持たせてる。
ありえないくらいすぐ腐るステーキじゃあないぞ。
缶詰だ。3日は持つ。
だから爆薬を使うほどタイムリミットは迫ってないはずだ。
気長に叩き続ければいずれ壁は壊せる。
現に、おびただしいヒビが全面にまとわりつき今にも崩れそうではないか。
疑問を口にすると、「見てればわかりますよ」とまた無愛想な返答がぶつけられた。
「今にも壊れそうでしょう。今にわかります。今にやってきます。
地図を見ててくださいよ。」
思わせ振りなセリフに従い見てみると、黒点が猛スピードでこちらに近付いてきているのがわかった。
さっきまで遠く離れた反対側で増築に精を出していたはずなのに、次々と部屋を抜けあっという間に俺達と捕虜との”間”に滑り込んでしまった
きっと100m走は8秒代だろう。
ヤツの接近を察知した仲間達の動きはより一層激しくなり、表情には焦りと恐怖が浮かび上がった。
どうしたってんだ。と口を開く前に埋め尽くされたヒビが見る見るうちに塞がっていった。
必死にハンマーを振るう仲間達の努力を嘲笑うかのように傷一つない壁に仕上げると、満足したのかヤツは引き返して行った。
「これの繰り返しだ。爆薬でもって一瞬で片付けるしかなかったんですよ。」
こりゃ一筋縄ではいかないな。
三途の川に堕ちた気分だ。
今のところ、ヤツが直接前に出て攻撃してくるような様子はない。
たぶん前述の通り戦闘にはあまりステ振ってないのだろう。
決して姿を見せず逃げ、モンスターを利用し、餓死を狙うことからわかる。
初期装備なのも装備作りに力を入れてないからだろう。
その代わりヤツは足やら建築やら修復やらにスキルポイントぶちこんでいるんだ。
実にイラつく。呪われろ。
「あと一歩ってとこまできても、ヤツが飛んできて我々の疲労を浪費にしちまうんです。
分散しても同じですし、そのうえ捕虜の二の舞を恐れて動きが鈍くなってます。」
「ピッチングは?担当がいただろう。」
「そいつならさっき殺されたって通知が来ましたよ。あんたが内部に連れて行ったんでしょう。」
そうだった。宝物庫をこじ開けるために同行させたんだった。
そして確か宝物庫に取り残された者の中にいた気がする。
どうしたものか。
「切り捨てます?」
「別に切り捨てる必要も理由もないだろうが。」
切り捨てない必要も理由もないが。
プロフィールを確認したが、なにか特筆すべき技能を持っているわけではなかった。
彼らは拘束魔法やら地図作成やらピッチングやら爆破やら索敵やらもろもろの分野に特化させた専門、ではなくただの兵士だ。
こいつらが死んだところで兵士ならまだまだ残ってるし、ピッチング担当ほどの打撃にはならない。
しかし今いたずらに頭数を減らすのはまずい。
またいつフィンク・スパイダーといったモンスターをけしかけられるかもしれないし、ハンマーの持ち手は多いに越したことはない。
それにどの道壁は壊さなくっちゃあいけないし、ならそのついでに連中を助けてやってもいいだろう。
「よし、仲間を集合させろ。」
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入口を囲んで築かれた最初の牢獄。
この中心をベースキャンプとして、我々は集合していた。
その数俺を含めて14人。全員レベル70以上の上位プレイヤーだ。
言い訳するようだが本来なら、狭い宝物庫での不意打ちという不利すぎる状況でなければフィンク・スパイダーくらい楽勝のはずだった。
上位エリアの上位プレイヤーを狩ってる上位プレイヤーだぞ。強いに決まってるだろ。
クソ初心者が混入していたせいで「全員」ではなかったが、そいつは先程おっ死んでくれたおかげで今なら堂々と名乗れる。
俺達は全員プロだ。まともに戦えば向かうところ敵なしよ。
問題は今回の敵は絶対まともに戦ってくれない点。
地図担当1人、爆破担当1人、回復職2人で残りを大きく分類すると兵士。
これからこいつらを2つに分ける。
「捕まっちまった3人を助けたい者は俺と来てくれ。
そうでない者は向かい側の壁を攻めろ。」
実にわかりやすい分類方法だ。
仲間だし助けたい、どうせ壁壊して進むんだしついでに助けたい、リーダーについて行きたい、といった理由ですぐにほとんどが前に出た。
できれば半々にしたかったが、まぁいいだろう。
順調に事が進み、さっそく動こうとしたところに異を唱える者がいた。
地図担当だった。
「ね、これ見てよ。捕虜がいる側を攻めてもいいんだけどさ、こっちの方が部屋数多くなってんだよ。」
見せつけられた地図の通り、遺跡は形を変えていた。
捕虜のいる面だけ圧倒的に多く泡を盛られており、ここから脱出するとなると比較的ちと難易度上がると見れる。
「じゃ、助けたらトンボ返りするってのはどうだ。」
1人が言って
「無駄じゃあねーか。だったら俺は出口に行くぜ。」
1人が答え、自陣から離れた。
「無駄に爆薬捨てたくないし、俺も向こう行くよ。」
と壁破りの要である爆破担当まで離れた。
「食料は残り三日分もあるんだぜ。仲間を助けるゆとりくらいあるだろ。」
「三日分あろうと一ヶ月分あろうとこれじゃあ埒あかないよ。
たかが兵士に費やしてる時間なんてないよ。」
気が付くと半数以上が「見捨てる派」に移っていた。
「ねぇリーダー、カワイソーだけど切り捨てようよ。
ここから出るってだけでも可能かわかんないんだよ。余計な感傷はよそうよ。
それにあいつらも食料は持ってんだよ。ほっといても勝手になんとかするよ。」
「じゃあほっとけ。俺は助けに行く。」
この時点で賛同者は絶望的だった。
いや、こんな根拠も説得力もない茨の道を選んでくれた同行者が2人もいる分、希望はまだ残ってると考えるべきか。
残ってくれたのは柊斗と藍という、3人と親しかった者だ。
もはや救助を選ぶのは無駄な感情や感傷でしかなく、論理的な選択ではなくなったということなのだろう。
正直俺も捕虜が死んでもどうでもいいと思ってはいる。
さっき俺は仲間を踏み潰して宝物庫を抜け出したんだ。今更善人アピしたところで既に遅いし、熱血漢になりたいわけでもない。
じゃあ何故わざわざ助けに向かうのか?
「俺はリーダーだ。だから助けに行く。」
雨霰と投げかけられる不満に疑問に懐疑心。
こんな根拠もクソもない答えをぶちかましたんだ。それを一身に受ける覚悟はできていた。
それでも俺は「リーダーだから」と繰り返す。気が狂ったと思われたかもしれない。
俺がリーダーだから、それだけでわざわざ危険が伴おうと寿命を捨てるハメになろうと助けに出向く意味がある。
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「じゃあなリーダー。達者でな。」
最後の挨拶にしては胸糞悪かったが、まぁ仕方あるまい。
俺と柊斗と藍の3人を残して、みんな行ってしまった。
地図担当がいないのでダンジョンの変化もヤツの動き、扉の先にいるモンスターを察知できない。
爆破担当がいないのでスタミナを投げ打って壁を叩き続けるしかない。
回復職がいないので戦闘を余儀なくされた際苦戦が予想できる。
あとで殺して奪うつもりの食料を連れて、申し訳程度にすぐ当てにならなくなる地図を残して、連中は向かいへ行ってしまった。
「行くぞ。」という俺の呟きじみた命令を合図に、我がチームは動き出した。
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それから現時点にかけてなにか特筆すべき出来事はない。
相変わらず捕虜は囚われの身で、相変わらず壁は崩せない。
叩く。ヒビができる。ヤツが来る。ヒビが塞がる。
延々とこれの繰り返しだ。
かれこれ丸一日やってるが、壊せた壁は未だに一部屋分だけ。
重労働から体力の消費が激しく、食料の消費もまた激しい。
トガリネズミみたいに食っては動き、動いては食ってたせいだ。
この調子じゃあ一日早く尽きるかもしれない。
「リーダー、その、すみません。あ、いや、ありがとうございます。」
申し無さげに柊斗が言う。
こいつの目には俺が『仲間を救い出すためなら危険をも顧みない勇壮な仁将』に映ったに違いない。
宝物庫の出来事を見ていないからこそ抱ける幻想だ。
もしこいつがあの場にいたら、友達を見捨ててでも俺との行動を避けるだろう。
「団員を守るのが俺の務めだ。さ、早く3人を助けよう。」
実を言うと確実な脱出の策はある。だからこの道を選んだ。
しかしそれまでの道が途方もなく長い。
物理的にはなんてことない距離だが、あと一歩のところで治っちまう忌々しい壁が邪魔して一向に辿り着けそうにない。
憂鬱を顔に貼り付け、炭鉱に放り込まれた産業革命時代のガキの気分で作業する俺達に、場違いな陽気な声が届いた。
別可動部隊からのチャットだ。
『やぁリーダー、調子はどハウディー?』
『そっちと同じだよ。クソッタレ。』
『へぇ!じゃあそちらもあと薄皮一枚ぶっ壊せばシャバなんですね。』
どういうことだ。
得意の人海戦術でも敵わなかったあの修復スピードにどうやって競り勝ったというのだ。
確かに向こうの方が人手は多いが、それでなんとかなるなら俺達はとっくに脱出できてる。
どんな手を使った。
ヤツらが言うにはこうだ。
①まず壁の前に爆弾を設置する。
②壁を叩く。
③壁壊したら爆弾回収する。
それだけ。
『⋯⋯それだけ?』
『それだけ。ヤツが壁を治すため近付こうものなら即爆破する。
壁ごとヤツを吹っ飛ばせるし、運良く生きててもすぐ殴りかかりに行ける。
だからヤツは一切近付けないし邪魔できない。驚くほど順調に進めましたよ。』
単純だがスゴク効果的な方法なんじゃあないか?
現に賽の河原の鬼を寄せ付けることなく、彼らは石塔を築き上げた。
あと1つ石っころを積めば勝利だ。
まさかこんなにも急に事態が好転するとは思わなんだ。
『わかった。よくやった。こっち来て手伝ってくれ。』
策はお蔵入りとなり少々シナリオを変更する必要ができたが、ともかくこれでハッピーエンドだ。
3人を助け、我々も助かり、のちのち装備を整えてお礼参りに出向くとしよう。
すっかり安堵しきった俺だったが、次の言葉には思わず耳を疑った。
『あぁ⋯⋯その件だけどさ。こっちで審議した結果悪いけどアンタらは置いてくことになった。
早い話囮になってほしいんだ。』
『⋯⋯どういうつもりだ。』
『フゥ~~~~⋯⋯、なぁ”元”リーダー、「マングローブ」って知ってるか?』
質問に質問で返しやがったが、この際もういい。
マングローブというと東南アジアとか沖縄とか熱帯で川床に根張って生きてる植物群だ。
『知ってるけど、それがどうした。』
『じゃあどうやって塩沼で生存できてるかは知ってるか?塩水に漬かった植物はフツー死んじまうよなァ?
どうやって塩に耐えてるか知ってんのか、おい。』
知らないがそれがどうした。そう言う前にシンキングタイムは終わり、ウンチク自慢が再開された。
『知らねーだろうから教えてやるぜ。
マングローブの連中はな、一枚の葉っぱ塩分を集中させることで生き残ってんだよ。
選ばれた一枚だけが黄ばんでって、そして最後は枯れ落ちるんだ⋯⋯。こうやって全体が生き残ってる。
だからよくよく観察してみるとどの樹にも必ず黄色い葉が見つかるんだなァ~~~。』
『あっそ。もう満足したか?
満足したなら、今からテメーらの喉に呼吸根ぶっさして川床に沈めに行くぜ。
大好きなマングローブと一体化させてやる。』
『ホホホ、お前は地図持ってないから間抜けなことにまーだ気付いてねーみたいだけどよォ~。
来た道引き返してみろよバ~~~~カ!』
一応藍に指示を出してベースキャンプへ向かわせたが、おおよそ予想はつく。
入口を塞ぎやがったんだ。
『俺の言いたいことまだ理解してねーのか!
テメーは「選ばれた一枚」なんだッ!
全ての負債をおっかぶって俺らの為に枯れ落ちろ!』
調子こいた低脳丸出しの穢らわしいセリフを合図に、一斉に通知の濁流が発生した。
流れてくるメッセージは全て『クランメンバー:〇〇さんがクランを脱退しました。』だ。
鏡を見るまでもなく、自分の血管が浮き出てピクついているのがわかる。
自分が優位に立ったと思って切り捨てる気だ。
裏切るのも不意打ちもバカにするのも、この俺をナメた行為は許さない。
死でもって償わせてやる。
『テメーについてったら宝物庫の連中みてーにいつ踏み台になるかわかったもんじゃあねェーーー。
ナメやがってこのビチグソが!俺が上だ!わかったか!テメーのくだらない指図は二度と受けねェッ!』
クズの分際で図に乗りやがって。
思いのままに呪いの言葉を吐いてやってると、藍が戻ってきた。
案の定封鎖されていたようだ。作業に夢中で気付かなかったが、ベースキャンプへの道は石ブロックの山で完全に塞がれていた。
『そこで朽ち果ててろ!今度踏み台にされるのはお前の方だ!俺らは絶対にここから出る!
出るのはこの俺だけだ!テメーは残って死ね!』
押してダメなら引いてみるとしよう。
『さっきからしきりにここから「出る出る」って喚いてるが、ここに入る以前を忘れてやしないか。
ヤツを見っけて、ネズミのオモチャ与えられたアホ猫みたいに追っかけ始める前の話だよ。
覚えてるか、え?
収穫の分配タイムだったよな。
今日の全ての収穫を一度俺に預けて、誰になにを押し付けるか話し合ってたところだ。そこにヤツが現れた。
だから今、全収穫を持ってるのはこの俺なんだぜ。』
流石に宝物の山を引き合いに出されれば少しは躊躇うかと考えた。
しかし連中の脳ミソはヒルギの芽程の大きさもなかったようだ。
『無駄だアホめ。
ここからの脱出に比べりゃシケた一日分の儲けなんざ尿瓶の底に滴る小便ほどの価値もねえ。
まぁ、どうしても貢ぎたいんなら、お前が死んだあとまたここを襲って回収してやるよ。』
とことんこの俺にババを押し付けるつもりだ。
『ま!とにかく俺達は逃げさせてもらうよ⋯⋯せいぜい時間を稼いでくれ!』
クソッタレなセリフを最後に、チャットは切れてしまった。
そばの柊斗が今にも泣きそうな顔で訴える。
これからどうするかって?無論決まっている。
仲間を救い出して俺達も出てそれからあのドブネズミドモの喉仏毟ってやる。
しかしその前に1つやらねばならぬ事がある。
「柊斗、藍、お前ら確か14だったな。」
放心した様子で首吊り人形のように頭を振る2人。
確認も取れたことだしさっそく始めるとしよう。
「よし、じゃあ今からミュートをオンにしろ。フィルタリング機能もだ。
今からCERO-Zの呪詛を叫ぶ。」
その後数分間、迷宮中に俺の絶叫が木霊した。
でもぼく単純だからUSAゲームとか歌ってみたとかのおかげで見事に手のひら返し
やっぱ第一印象で一方的に決めるのはよくない
それにほらラ・バンバと似てるし