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Welcome To The J  作者: Pの幻肢痛
ケースA
8/9

ステージ・ファイト

中学の頃、授業中隣の男子にふざけてチンコ触られてフフなんていうかその下品なんですが勃起しちゃいましてね

そこまでならまだなんとかなったんだけど、運悪く先生がぼくの名を呼んで前に出ろとか抜かしだしたんですよ

そしたら女子が「勃起してるぅ!w(迫真)」って


やっぱ女ってクソだわ(なろう作者特有のヘイト発言)


 唸り声がやみ、ついに扉が口を開く。

 そこへ我先にと雪崩込もうとした間抜けドモを止め、まずは使い捨ての斥候1人また1人と入れる。

 そうして異常がない事を確認すると、次にヤツと看守を押し込む。

 ヤツだけを入れれば内側から閉められかねないし、かといってヤツを殿にすれば外側から閉じ込められてしまうからだ。


 使い捨てで挟み撃ちにする形で俺を先頭に残りが続く。



 内部は一見すると埃を被った使われてない倉庫のようだった。

俺ら以外で視界に映るものといえば高く積まれたチェストの塔。

これが広い部屋いっぱいを埋め尽くし、1人が通れる分の最低限の通路が葉脈のように通っていた。

 ライトを置くゆとりすらないようで、光源は入口から差し込む光だけだった。


 リアルで同じ風景を見ても出てくる感想は臭いきつい狭いはやく出たいだが、ここでは違う。

 目に映るものが宝の山だ。この絶頂モノの光景を前に興奮しない者がいるだろうか? (反語)


 しかしここで先走ってはいけない。

 今すぐ宝箱の中身を確認し、片っ端から袋に詰め込みたいところなのは理解できるし俺だってそうしたいが、こういう時でこそ逸る気持ちを抑え冷静かつ慎重な行動を心掛けなくっちゃあいけないんだ。


 ドロップアイテム関連での揉め事。これは厄介。

歴史を紐解こうとすればVRもMMOも飛び越えネトゲ以前まで遡る必要があるし、なんなら対人要素の誕生日が同時にこの問題の誕生日でもあると言っていい。


 目から血ヘド吐きながらの長時間プレイの末、ようやく強力ボスを倒したとしよう。

 これまで武器や装備を整えるためあちこち駆けずり回り、感情を殺してレベリングに励み、何度もエンチャントに失敗し、魔物を狩り、ディスプレイに穴が開くほど攻略サイトや動画見て勉強した。

 それでもギリギリの戦いだった。1秒でも気を抜いたり判断を誤れば即ゲームオーバーだった。緊張と興奮でどうにかなりそうだった。


 そしてやっと勝ったッ!勝ったのは俺だ!俺の努力と執念が勝ったんだ!


 さーてさっそく努力の報酬を受け取ろうではないかとモンスターの死骸に近付く。

すると陰から何処の馬の骨かもわからんウジムシが駆け寄り、ドロップアイテムを漁ってきた。


 あなたならどうする?俺なら殺す。なにがなんでも殺す。

例え相手が仲間だろうとトップランカー集団だろうと殺す。

例えゴミしかドロップしてなかったとしてもそのゴミの為に全身全霊をもってぶち殺す。

 そして俺の成果を奪い返す。我が努力を踏み台に甘い蜜だけかっさらおうなどと人をナメくさった考えをもつド腐れルーターはPKでもって償わせなくっちゃあいけない。


 報酬の横取りや独占は大罪に値するし、仲良しパーティーでも容易く殺し合いに発展する。重要で厄介で繊細な問題なんだ。


 だから慎重にいかなくてはいけない。

一人一人が勝手に行動するのではなく、一つ一つ確認し共有していくんだ。

 さまなきゃ、元より荒くれ者の寄せ集めでしかない俺達はあっという間に崩壊する。


 「早く開けてくれよ!」


 「よし、じゃあまずはこいつからだ。」


 中腹まで来ると、とりあえず目の前にあった宝箱に手をかける。

 焦らす必要はないし、俺も今すぐ見たい。一気に蓋を開けた。



 「ね、ね!なにがあったの。はやく教えてよ。」


 目に驚愕の感情を宿し見開く俺に、入口付近の地図担当が我慢できず叫ぶ。

 他の誰かがいじってるチェストは横から中身を取ることも覗き込むことができない、それもこの世のルール。

俺が輝かしき成果の名を呼ぶかチェストを譲らない限り、中身は謎のままだ。

 反応からしてとんでもない光景が、目を疑うような絶景を想像していることだろう。

確かにその通りだ。俺は今とんでもない光景に目を疑っている。


 しかしまだ希望に縋っていたい。わずかな可能性に賭けて最両端の仲間に怒鳴る。


 今すぐチェストを開けろ。はやく確認しろ。中身を見ろ。


 困惑しながらも、言われなくても待ってましたとばかりに目を輝かせる仲間達。

しかしすぐにその目も俺と同じ目となった。

 もうわかった。全て理解した。


 「テメェ〜〜、こいつぁどういうことだ。やってくれたよな⋯⋯おい⋯⋯。」


 「なんのことはわからない。私はただ開けただけ⋯⋯。

 拠点も倉庫もあなたたちのもの⋯⋯。拠点のドアも倉庫の電動扉も全てあなたたちのために開けた。」


 たぶん、俺の声は怒りと焦りとで情けなく震えていたと思う。


 「『カラッポ』じゃあねーか!」


 我ながら実に情けない間抜けなセリフだ。まぁ非常時となればこんなものだろう。


 情けない間抜けなセリフも、他の事態を呑み込めずにいた仲間に非情な現実を突きつける分には大いに効果があった。

 愉快で陽気なレイダースごっこは一瞬で剣呑な空気に押し流される。

 宝物庫はただのハッタリだった。宝など最初からなかった。ただの時間稼ぎに過ぎなかった。


 もういい。これで殺さずにいる理由は消え失せた。宝物庫はないが、少なくとも経験値は得られる。


 「チクショーーーッ頭きたッ!こいつにブチ込むことに決めたぜ!」


 今回の情けない間抜けなセリフは俺じゃあない。使い捨ての1人だ。

俺が言いたい事とやりたい事を代わりにやってのけようと、白刃を抜いてくれた。

 さらに俺とヤツと間に立っていた看守も構えた。こいつもまた怒りをぶつけたいのだ。


 「てめーもうおしまいだぁーーーーッ」


 まず使い捨てが感情に任せて剣を振り上げる。

狭い通路で獣が振るう攻撃など予想出来ていたが、だからといって回避は不可能だった。

高々とかかげられた剣は外からの灯を受け白く輝く。

 俺とヤツの間に立つ看守の頭が邪魔ではっきり見れないのが残念だ。


 途端、輝きが途絶え、使い捨ての肉体は光の集合体となって消えた。

 死んだのだ。哀れな持ち主はまだやり直しがきくが、剣が耀くことはもう二度とあるまい。


 地べたに落ちた剣の寿命は短い。誰にも拾われず見向きもされなくなった彼は人知れずロストしていった。

 

 わざわざ下を見つめる者などいなかった。そんなゆとりはなかった。

 この状況で誰がみみっちいポン刀を気遣ってやれるだろうか。

俺も、看守も、地図担当も、ヤツですらも、その場にいた生きとし生きるものはみな頭上に釘付けだった。


 ただ1人、使い捨てを一振で惨殺した殺人鬼を覗いて。


 誰もが上を見上げた。犯人の正体も凶器もわからないが、狭苦しい通路で1人を狙ってキルするなら、地の利を得る他ない。

 もし今俺が俺を殺したければどう動くか?PKerとしての経験に基づいた判断だった。


 そしてそいつと目が合った。


 高く伸びたチェストのビル群、その谷間から夏日星がしっかりとこちらを睨んでいた。

 灯か?天井の隙間から漏れ零れた光か?いいや、違う。


 錆び付いた稲先が看守を貫いた時、俺達は異形を目にする。


 そいつの名はフィンク・スパイダー。

 槍が引き抜かれた先でこちらを除くのは、頼りない光に横殴りされたフクロウの頭。

 全身を覆うけばけばしい桃色の羽毛。

 丸っぽくどこか愛嬌のある頭部。

 羽にハート型に縁取らた顔。

 黒く輝く小粒ながらカミソリのような鋭さを放つ瞳。

 

 どう見てもフクロウだが、これがただのモリフクロウやメンフクロウならどれほどよかっただろうか。

 しかしこの世界の生き物はカマキリでさえも馬二頭繋げた巨躯を誇る。


 俺よりも大きく広い顔面が、グッと鼻先が触れ合うほど寄ってきた。

鉤のようなクチバシに2つの空気孔から肉食動物特有の腐食肉の悪臭をまとった熱い鼻息が吹き付ける。

 喉をゴロゴロと鳴らし、ついで化け物は言った。


 『ハ、ハ、ハぃィィ⋯⋯チチチ、チ、チィィぃィィぃぃぃズゥゥゥゥ⋯⋯!!』


 人語を話す異形。これほどまでに悍ましい光景はない。

 生物学や進化論的に説明するとヨウムやコトドリ、インコのように舌と鳴管が発達していてあらゆる音を模写する習性があるため。

 メタ的に説明するとプレイヤーの恐怖を煽る目的でそうデザインされた為にフィンク・スパイダーは話す。

 トラウマになりかねないし、俺も何度見ても慣れない。

ご意見・ご要望フォームにちらほらと殴り書きさるる悲痛な叫びは開発者の期待を見事叶えている。


 『は、はイぃ、チィ〜ずぅぅ⋯⋯!ハい⋯ちィぃず⋯⋯!』


 こいつの音声模写能力はコトドリには勝らない。完全再現には何度かの練習とチューニングが必要だ。

 今がチャンスだ。


 使い捨てと看守が殺され、それに挟まれたヤツが無事なのには論理的理由がある。

 二人は剣を抜いていたからだ。

 視覚聴覚が非常に発達し、さらに光り物――特に武器類に目がないヤツの前で光る刃だとかメイスだとかを見せるのは自殺行為だ。


 今ならまだ間に合う。反射的に二人殺ったものの、敵の多さに攻めあぐねている今ならまだ間に合う。

 とりあえずはここから出ることだ。

狭く暗い倉庫内で戦えばまず死ぬしかないが、広く明る部屋で戦えば勝てない相手じゃあない。


 だから俺は口に手をやりさっきのセリフを囁こうとした。


 「おい、武器は抜かずゆっくりと出ろ。絶対に金属は見せるなよ。銃もやめろ、大声もやめろ。」


 と言うつもりだった。俺の「おい」にフクロウがオウム返しの返事をし、恐怖と緊張に冷静さを失ったバカが発砲さえしなければきちんと言い遂げられたはずだった。


 確か仲間の紹介で入団したヤツだ。

始めたばかりでスキルも武器もレベルもなければ知識もないペーペーもペーペーだが仲間のリア友ということで入れてやったヤツだ。

 山に入る前出現モンスターの注意点だって話してやったし、こいつ自体多くのエリアに出現する割りと普遍的なモンスターだ。

 なのにやりやがった。やらかしやがった。


 『テテ、テッテェメェェェモおおォオオおシぃまいぃダアァあァァアぁァァぁああ!!!!』


 怒りの咆哮をあげ、フクロウの首が高速で回転する。

 まるでエンジンだ。まるで扇風機だ。まるでドリルだ。まるで嵐の日の風車だ。

 黒い瞳は線を引いて円となり桃色の円盤を彩る。

 中心の黄色はクチバシだ。

 生き物とは思えない機械じみた挙動でグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルと、音をあげて回り狂う。


 先日のアップデートで追加された明らかに正気じゃあない威嚇モーションに俺を含め全員が凍りついた。

これが「さっさと失せろ」という意味の威嚇ならまだよかった。しかし残念ながらこれは獲物の思考と動きを硬直させるための威嚇だ。


 暗黒から飛び出たチェーンソーが間抜けな初心者の肩を撫で、捕食者のスイッチは完全にオンへ振り切られた。

 これでもうこちらは敵と認識されたわけだ。

暗闇の中、頭上から降り注ぐフクロウの恐怖に為す術もなく怯える俺達はもはや狼じゃあない。ネズミだ。

 俺達はたちまち捕食者の座を引きずり降ろされてしまったんだ。


 「走れ!」


 と叫ぶ俺の頭を、後ろから跳んできたなにかが踏む。

一瞬意識が朦朧としたがはっきりとその正体がわかった。ヤツだ。

 手枷足枷で四肢を制限されながら因幡の白兎よろしく1人、2人と頭を踏み出口に向かって跳ねて行った。

 スキルやパラメータにものを言わせた跳躍力やバランス力や反射神経、そして長年の丹念と経験がなせる荒業だ。

 そのまままた1人踏み、1人飛ばし、フクロウが放つ刀やら槍やらチェーンソーやら銃弾やらといった多彩な攻撃を空中で身体を捻って躱す。

 最後の鮫の顔面を蹴り抜き後ろへ吹っ飛ばすと、その勢いでとうとう光の中へ溶けてしまった。


 やばい。閉じ込められる。


 そう思ったところでヤツは止められない。すでに開閉スイッチは押されている。


 さらにクソッタレでまどろっこしいのが顔面蹴られたヤツが倒れたことだ。

このせいで我々は将棋倒しとなったのが非常にまずい。

 クソ狭い通路で横へ避けることもできず、倒れても前の者が起き上がらぬ限りこちらも起き上がれない。

 俺は直前で垂直に跳び、今は亡きSASUKEのスパイダーウォークよろしくチェストに四肢を突っ張って事なきを得たが前にいた連中は全員漏れなく倒れ込み無様にもがく他なかった。


 「伏せて!」


 後ろからの悲鳴。一番最初に入ったため一番奥にいた使い捨ての1人の声だ。

 三人分遠くにいたし、俺が倒れなかったことで彼もまた無事で、上からの攻撃にも気付けたようだ。

 彼に従い即座に飛び降りると、すぐ頭上でトロール用の棍棒が踊った。

おかげで顔を潰されずに済んだが、おかげで下にいた仲間の顔は潰れた。


 将棋倒しも見方によれば好機ととれる。

さっきまでは肉壁を押し退ける必要があったが、今ではその肉壁は肉の床となってくれている。

 このまま一気に駆け抜ける。


 『はイ、チィィずゥ!』


 今までピョンピョンとヘイト稼いでくれていたヤツはもういない。

 だからしばらく動けないであろう足元の彼らより今にも逃げ出そうな俺に目をつけたようだ。クソ。

 降りかかる凶刃を剣で受けた後は躊躇い無く肉床を踏み抜いていった

この際足元の悲鳴は無視だ。俺さえ助かればいい。


 『はい、チィィズ。』


 切磋琢磨のチューニングの末、モノマネは高さも調子も抑揚すらもどんどん本物へと近付き流暢になりつつあるが、気にかけてやるゆとりはない。

 突然重機関銃の断続的な嘶きが響き、駆ける俺を弾丸が追ってきたからだ。

外れた弾は足元に衝突する。足元に衝突するということは、つまりそういうことだ。

カワイソーだし気の毒だが、構ってはやれない。


 映画なら走ってるだけで全部避けれるんだけどな。どうやら俺は主人公の器じゃあないらしい。

 肩に背中に踵に肘にと弾がかすめ、その一発一発がHPバーに確実に無視できないダメージを与えていく。


 それほどの距離もなく、トビラが閉じるまでそれほどの速さもないのでなんてこともなく外へは出られた。

 当然ヤツの姿はなく、見張りは床に倒れていた。

死んだわけではない。麻痺毒にやられたようだ。


 出口側にいたため早めに将棋倒しの難を逃れた二名が続く。

前で乗っかっていた邪魔な2人がいなくなったことでもがきながらようやく三番目が起き上がろうとして、棍棒にすり潰され光の粒と化した。

 倒れている連中は諦めた方がよさそうだ。倒れてない者を応援しよう。


 「おいマキ、はやく来い!扉はまだ半分開いてる!」


 さっき後ろから救ってくれた使い捨ての名を叫ぶ。しかしグズグズとなかなか動こうとしない。


 「なにしてんだバカ!はやく来いって、殺されるぞっ!」


 『バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ⋯⋯』


 使い捨ての代わりにフクロウが答えた。

どうやら悪い言葉を教えてしまったようだ。


 チェストをメキメキと崩しながらでかい頭を戸の隙間に押し付けだしたかと思うと、入り違いに重機関銃を突っ込んできた。


 全員反射的に死角に跳んで銃弾の雨を避けたが、身動き取れぬ見張り達はもろに食らってしまった。南無三。

 しばし無茶苦茶に弾を吐き出すと、逸物は倉庫へ引っ込んでいった。

 そして響く断末魔。地獄はこの場に顕在している。


 「マキ、生きてるならはやく来い。」


 銃弾を恐れて壁に背をつけ叫ぶ


 「仲間を踏めってんですか?」


 そうだ。


 「正直踏んだところで‘’8つの腕‘’を躱しきる自信はないというか⋯⋯」


 「じゃあ勝手に死ね!」


 今度半狂乱で頭を飛び込んできたのはフクロウでも機関銃でもなく、仲間の1人だった。


 1人でも戦力を潰したくなく、俺は迷わず身体は隠したまま手を伸ばした。

 

 「リーダァ!リーダァ!たす、たすけっ。」


 「助かりたいならとっとと扉から離れろ。」


 野郎、焦りからか自分の足が足に絡まってもつれてやがる。

手を掴んでやったのはいいがもつれ倒れたせいで出口を前にして止まってしまった。


 呆れながらもこちら側へ引き摺る。

爪先を残して全身を出した時、ふいにものすごいパワーで向こう側へ引っ張られた。

 フィンク・スパイダーに掴まれたんだ。俺達は夢中で引っ張ったが、圧倒的な体躯から膂力の前にはまったくの無力だった。

 

 「ひぃぃっ!切られてる!足が、足が!」


 状況を実況してくれたところでどうしろというのか。

 俺達にできることはひたすら引っ張ること。

実はもう1つあるが、おすすめはできない。


 「死ねェッ怪物!」


 さっき脱出したうちの1人が肩から手を離し、銃を抜いた。

腕の力に敵わないなら、腕そのものをへし折ればいい。一瞬でもひるめばこっちのものだ。


 そのアイデア自体はよかったが、いかんせんそのやり方が悪かった。


 引き金を引こうと扉の前に躍り出るなんて勇敢な――はっきり言うとバカな真似をしたせいで、バネに弾かれたように飛び出た刀に串刺しにされてしまった。

 間抜けめ。釣り餌に食らいついた魚ってわけだ。


 目の前で死人が出た以上、同じ手段を食うバカはいない。

撃つにしても壁撃ちだ。


 という考えを予想してか、刀は入口付近で踊り狂い床を舐め壁を引っ掻いてはこちらの接近を拒む。


 これぞ文字通り救いようのない状況と諦めかけた時、救いは内側からやってきた。

 突如刀の狂舞がやみ、「はいチーズ」を連呼しながら腕は彼の足から離れた。

好機とばかりに今度こそこちらへ飛び出す彼。


 理由はすぐにわかった。

視界の右上に無機質なフォントで『クランメンバー:マキ さんがフィンク・スパイダーに殺されました』と出た。

 近いうちに非表示モードが追加されるらしい目障りと好評の緊急メッセージ機能が、自殺志願者が最後に男を見せたことを告げていた。


 刀の栓が外れ、邪魔な頭が離れたことでまた1人出口に飛び込む者がいた。

 ヤツにバインド魔法をかけたプレイヤー、椿だった。

 そうだ、今こいつに死なれるのはまずい。ヤツを解放を許す事態だけはなんとしてでも避けたい。


 いそいで手を伸ばしたが、手遅れだった。扉はもうすでに通路よりも狭くなっていた。

 それでも彼は無理矢理突破しようと試みた結果、フクロウに惨殺されるよりもむごい最期を迎える。


 体を横にしてねじ込んだまではよかったが、悲劇はそこからだ。

 例え間に人がいようと閉門スピードは待ってくれなどしない。


 パラダイス・シティが全年齢対象ゲームであったことに今ほど感謝したことはない。

おかげで骨がバキバキと折れる音も、飛び散る体液も、ひしゃげミンチとなった肉も、余裕で嘔吐し深いトラウマとなる地獄のような拷問風景を見ずに済んだ。

 あるのは大ダメージを表す効果音だけ。


 しばし無駄に喚いたり可能な限り暴れたりと奮闘していたが電動扉に慈悲の心はない。


 怪物と死刑囚を残して扉は完全に閉じた。隙間から装備とともに光の粒が漏れた。

 内部から依然として助けを乞う悲鳴や断末魔、銃声にチェストが木っ端微塵になった音が響くがもはや手出しはできない。

 一先ず危機は去った。


 「扉が開く前ちゃんと確認したんだよ。その時は誰もいなかったんだよ、ねぇ。」


 生き残った者の中にこいつ(地図担当)がいたのが不幸中の幸いか。

 彼の言い分どーり確かにモンスターを示す赤点など存在しなかったはずだ。しかし内部ではフィンク・スパイダーが待ち構えていた。


 地図担当の「はい、チーズ」を聞いていたことから入る前からいたのは確実だが。

 そしてゾロゾロと入ってくる俺達を見下ろし様子を伺い、光と攻撃をスイッチに殺戮を開始した。


 騒ぎを聞きつけ向こうの部屋の見張りが駆けつけた。


 「なにがあったんです。マキやフランはどこに?高杉は?どこに行っちまったんで?」


 「そんなことよりはやく見せてくれよ。なにがあったんだよ、なぁ?」


 ヤツが消えたことに気付けないバカと状況に気付けないバカめ。


 「そんなもんは最初から存在しない。全て罠だった。」


 「初期装備のあいつは?」


 「フィンク・スパイダーをけしかけて逃げやがったんだ。」


 「よくわからないな、それで戦利品はどこなんだ?」


 ド低脳に理は通じない。

 無視して入口に残してきた仲間にチャットを送ろうとすると、ちょうど向こうから連絡が来た。


 『閉じ込められた。』


 『情報が早いな。10人殺られてその上あいつを逃した。』


 『⋯⋯そっちの事は知らない。とにかく戻ってきて。』


 一難去ってまた一難。悪寒を胸に俺達は出口へと走った。

書いてる間大阪にいた

やっぱりみなとみらいだね

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