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Welcome To The J  作者: Pの幻肢痛
ケースA
6/9

REAL →to→ VR

高校の頃にさ、友達が「恋人がほしい」って言ってたからアドバイスしてあげたんだ

「ぼくに好きって言えばできるよ」って言ったら「ふざけんな」って

ふざけてないんだ


 「⋯⋯以上が君達の体験した全てか。」


 リーズはとある一室で事情聴取を受けていた。

 事情聴取、もとい尋問官は騎士のような出で立ちの女性。


 「はい、そうです。」


 「わかった。協力感謝する。」


 そう言うと、女騎士は扉に立つ騎士に合図した。リーズを玄関まで送れという意味だ。

 重苦しくどこか高圧的な雰囲気とプレッシャーに吐き気すら覚えていたリーズは一刻も早く出たかったが、あることを思い出して足を止めた。


 「あぁそうだ、1つ気付いた事があるんですよ。きっと初耳ですよ。」


 「なんだ、言ってくれ。」


⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯


 「⋯⋯少し信頼性と根拠に欠けるな。」


 「なら忘れてください。」


 投げやりげに吐き捨てると、今度こそ尋問室をあとにした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 2046年、いよいよ人は現実を直視することを諦めた。

 環境汚染、戦争、暴動、格差、不況、政府の機能不全、干ばつ、経済破錠、人口過剰に供給不足。問題はうずたかく積もっている。

 さながら晩秋に入り、肉体の至る所を病魔や癌に犯された老人のようだった。

人類ももうそろそろ寿命といったところなのだろう。


 どう頭を捻っても現実は一向に良くならない。

 個人が貧しければ国も貧しい。どこへ行っても世界はモノクロに映った。

そんな現実ならば首も吊りたくなろう、日本の自殺率は一時期韓国に追い抜かれていたものの、ガソリンをぶっかけられたことでフルパワーで燃え盛り、見事世界1位の座を手にした。


 そんな世界で爆発的なVRゲーブームが巻き起こったのはなんら不自然ではなく、当然の成り行きだった。


 狭く薄暗いキャンピングカーにいても一度ゴーグルを被ればそこには広大なテーマパークが広がっている。

 ここでは誰だってアニメに出てくるような美少女やイケメンやシュワルツネッガーのような筋肉男に変身できる。

 ここでは誰だって輝ける。

 ここでは夢や希望も幸福も、現実世界にはない全てが揃っていた。

 VRスーツがあれば痛みも快楽も味わえる。


 とうとう人類は現実を捨て、仮想空間というオアシスに逃げ込んだ。

もはや彼らにとってVRこそ現実で、現実はただの悪い夢に過ぎない。


 G社の某存在論的人間中心感覚没入型仮想環境ゲームが圧倒的な猛威を奮った陰で、ブームに乗っかろうといくつもの有象無象が現れては散っていった。

 「ウェルカム・トゥ・ザ・パラダイス・シティ」もその1つだった。

 「ドラゴンにAKぶっぱなして、タイガー戦車でこの世を蹂躙しようぜ!全てを創造しろ!」という15秒CMで知名度を上げ、奇抜なゲームシステムと自由度の高さから一度は集客に成功する。

 しかしいざ蓋を開けて見れば理不尽クソゲ。

 空腹、体温ゲージや武器の耐久度など余計なストレス要素に加え、一度死ねば装備も所持金もアイテムをオブジェクトもなにもかも消え去りゼロからスタートというシステムは多くのプレイヤーに殺意を抱かせた。

 結果「SAOのパクリのパクリ」「楽しくない〇耳〇」「〇〇〇〇」「Googleプレイで無料で公開しろ」「うんこ」「死ね」「面白いこと以外なんでもできるゲーム」「あああああああああああああああああ(省略)」など多くの評価を得る。


 散々な評価だが、上に経てば一方的に下々を蹂躙でき、いつまでも栄光を保っていられるため一部の人間には好評。みんなゆとりがないのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 イジー、デッドホース、スラッシュ、リーズもまたパラダイス・シティの住民だった。

 ゲームなので当然死んでもリスポーンできる。ただしなにもかもを失ったレベル1の状態で。


 未だに立ち直る事のできず、丸一週間魂がこの世に存在していない――ゲーム用語で言い直すとログインしていないスラッシュを除いた3人はあの後さっそく再会した。

 そして街のカフェでサイコ野郎に対する罵倒大会を開催していると、いきなり横から水を差された。

 水を差した男は「青亀の夢」というクランの者だった。

 青亀の夢といえばパラダイス・シティでも一二を争う強豪クランだ。

逆らうわけにもいかず言われるがままに彼らの拠点に連行され、一人一人尋問を受けた。

 これが事の経緯だ。


 リーズが青亀の夢の建物から出ると、仲間達が出迎えた。


 「どうだった?ってまぁ⋯⋯内容は同じか。」


 とイジー。


 「延々と街から出てからの出来事を何度も何度も語らせやがって、これだから過激派自治厨は嫌なんだ。」


 デッドホースの言う通り青亀は陰で過激派自治厨の蔑称を冠していた。

 民度はマッドマックス並でPKは横行し、下層は上位プレイヤーに怯えるのみ。

 この状態をなんとかせんと善良プレイヤー (自己申告)が集まり生まれたのが青亀なのだが、いかんせんやり方が過激で好かれていないのだ。


 「ちょっと、連中の本拠地の玄関で言うことはないでしょう。とりあえずカフェに戻りましょうよ。」


 イジーが「名案」、デッドホースが「確かに、連中の臭いが伝染っちまうぜ」と賛成した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 俺達が席に着き、しばらくヤツについてあーでもないこーでもない言ってると、唐突にリーズが爆弾をぶちこんできた。


 「ねぇ、ヤツは女だよ。」


 「そらまた突飛な。」


 デッドホースが横で5秒程思考停止し、やがて狂ったように笑い出す。気持ちはわかるよ。


 気を引き締める必要がなくなり、リーズの口調は砕けていた。

 そこから飛び出たのがベイツ・モーテルの主は女の子だという奇天烈極まりない学説。

 しかしリーズのことだから単なるウケ狙いではないはずだ。


 「私にはわかる。ヤツは私と同類だよ。性別を偽ってる。」


 読者諸君に対してはかなりいきなりなカミングアウトだが、リーズはいわゆるネカマって人種だ。

 女性アバターを使い、女の子のフリをしてゲームを楽しむ。

 動機は色々。

囲われたい、貢がれたい、ただただ騙したい、違う自分になりたい、どうせなら可愛い女の子になりたい、とそれぞれだ。

 リーズはというと「違う自分になりたい」派らしい。別に貢がれたりとかは興味無い。


 彼 (彼女)の熱意は半端でなく、徹底的に女性の仕草や癖を観察し、試されても切り抜けられるよう女性誌を漁り、ボイチャに誘われてもいいよう完璧な女声をも習得したいわばネカマガチ勢だ。

 前時代のネトゲならチャットだけだが今の時代はVR。

 ちょっとした動きすらも反映されるので少しの油断も許されない。

バーチャル世界でネカマをするには、身も心も完全に女にならなくっちゃあいけない。


 俺もデッドホースもスラッシュもみんな騙されたよ。俺なんて告白しちゃった。

 実は今でも本当は女なんじゃあないかと疑ってる。


 「リーズは男が女と偽って、ヤツは女が男と偽って、正反対じゃあねぇか。わかるのか?」


 「私はとことん女の動きを研究したんだよ。

 姉や女友達に頼み込んで観察して、鏡や録画を見てどこかおかしいところがないか確認しまくって⋯⋯おい、引かないでよ。今更でしょ。

 そういうわけで私は女の要因には敏感だよ。ねぇだから引かないでって、なにその顔。ぶち殺すぞ。」


 結果彼は女以上に女になった。仮に女性に追求されてもバレやしないだろう。


 「で、ヤツが女の動きをしていたと?」


 「そういうこと。わかりやすいのだと髪を気にしたり、立ち方だったり目線だったり語尾だったり⋯⋯。

 そうそう、歩き方も大事だね。女性は骨盤が広いから内股になりやすいんだ。」


 「なんの為に男のフリなんてしてんだ。自衛か?」


 「案外アバターに興味ないだけかもね。」


 確かに、ヤツは青のジャケット、黄色のベスト、そして黒のパンツと一言で言えば初期装備だったし、プレイヤー名もなかった。


 「まぁ、とりあえずヤツは女だよ。有り金全部賭けていい。」


 「へぇー、死んだばっかでいくら持ってんだよ。」


 「一番安いポーション程度なら買えるよ。」


 と言いながら笑いながらこれ見よがしに髪をかき上げたその動作は、どこからどう見ても女そのものだった。

 やっぱり本当は断るためにネカマと嘘をついたんじゃあないかと未だに信じていたい俺がいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 青亀のクランマスター「オーシャン・ジャイブ」は再び書類に目を通すと卓に置いた。

 これで今月17件目だ。今月に入ってから恐ろしいスピードで犠牲者が増えつつある。


 ベイツ・モーテル。

 確認できているもので最初の被害は10ヶ月前。

 とある小規模パーティが閉じ込められたのが始まりだった。

 ヤツのやり方は至ってシンプル。閉じ込めて飢えと寒さで殺す。ただのそれだけだ。


 その際ヤツは周りに急ピッチで小部屋を増設する。

 やっとこさ壁を壊し牢獄を抜けたと思ったら、そのさらに先にも牢獄が現れれば誰だって絶望する。いわば二重の牢獄だ。

しかも外からの救援を防ぐ役割も果たす為脱獄は困難極まる。

 この増設を繰り返した結果巨大迷宮へと成長していったと言う。


 最初の記録では難易度の高い、上位プレイヤーでも気を抜けば命を落とすダンジョン「ミスティ・マウンテン」麓の樹海に根城を構えていた。

 樹海という性質に加え、訪れるプレイヤーの数からあまり目立った被害はなかった。

 極たまに運の悪いパーティが罠にかかるくらいだった。


 ところでヤツはことある事に「渡り」をする。

 いくつもの部屋からなる何重もの壁、トラップ、そして湧くモンスターによってモーテルは難攻不落の様相を呈してはいたが、流石に大規模クランが報復に来ると分が悪いと踏んだのか、早々拠点を捨てるそうだ。

 そして新天地で再びモーテルを築く。

大規模な報復を受ける度に遷都をするもんだから気付けばサーバ中に無人のモーテルが遺跡のように転がっている。

 我々の調査によると発見された遺跡の数は20を越え、今でも現在進行形で報告が舞い込んでくる。


 今月になって爆発的に被害が増えたのはその渡りが原因だった。

 事故か故意か、比較的街に近い森に姿を現したのだ。

インブルームやフィンチ・スパイダーといった強力な上位モンスターこそいるものの、街から近いこともあって採取場として踏み込むプレイヤーはそう少なくない。

 そんなプレイヤー達が、ちょうど件のパーティーのように犠牲になっている。

 もちろん黙って見過ごす選択肢はない。過激派自治厨という不名誉ながら的を得た蔑称は伊達じゃあない。

 すぐさま討伐隊を組み急行するも、モーテルは既にもぬけの殻の化していた。


 捕えられていたであろうプレイヤー達も消えていた。しかしプレイヤーカード曰くまだ死んではいない。

 そのプレイヤーのフレンドに頼み念話を試みたところ、どうやら紅蓮の鏡でどこかへ輸送されたそうだ。

 無人の遺跡と取りこぼされた僅かな遭難者を置いて、ヤツは他のモーテルへと高飛びした。


 と思いきや翌日にはトンボ帰りし調査中のメンバーを幽閉し、かと思えばいつの間にやら築いていた新拠点に移ってはと、その行動は神出鬼没。


 新たな犠牲者を増やさぬよう見張りをつけてもそのよそで新たなモーテルが築かれているのだから埒が明かない。

もう少し警戒範囲を広げたいが、我々は蔑視の対象故狩場の独占行為と捉えられかねない。


 掲示板機能を利用して注意喚起はしたものの全てのプレイヤーが確認しているとは限らず、網を抜けた哀れなプレイヤーが今回のように地獄を見る。



 はっきりいって、ヤツの近頃の動きは異常だ。

 警戒心が強く慎重な性格からすぐに遷都をしていたのではなかったのか。

 しかし今のヤツは明らかにこの森に固執している。なにがなんでも離れたくないという思いが感じられる。

 そうでなければ1つの森に4つも5つも築いたりしない。

全力で逃げるためその場に留まり続けていればそれは本末転倒だ。


 なにか狙いがある。危惧を抱きながら私はある書類を手に取った。

 ミスティ・マウンテンでの最初の記録だ。黎明期から紐解くことで、全体に隠された思惑が見えてくるかもしれない。

そいつに卒アルの白いとこにハーケンクロイツ書かれた

たぶん卍描きたかったんだと思う

あと変熊とか書かれたよ

かわいいね

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