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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

気がすみました?もう絶対に奪わせません!

作者: はるか

 

 幸せだった私は9才の時に死んでしまった。




 頼もしく見識のある伯爵であった父、美しく優しい母。そんな二人の間に生まれ愛されて育った私は最高に幸せだった。ある嵐の日に家族3人の乗った馬車が崖へ転落し神様の悪戯なのか私だけが生き残り、父の弟である今の義父に引き取られたその後の人生は思い出したくもない程辛いものだった。



「アメリア!アメリアはどこ!?」


 バタバタと屋敷の中を駆け回る足音が響く…この声は義母であるグラン伯爵夫人の声だわ。あぁ、もう嫌な予感しかしない。


「はい、アメリアはここにおります」


 このまま黙っていても事態は酷くなるだけなのでなるべく早いうちにと部屋から飛び出したけれど、やっぱり伯爵夫人は酷い形相だった。


「呼ばれたらすぐに出てきなさい!あなたの持ってるルビーのネックレスを今すぐ私に渡しなさい!」

「ルビーの…?でもあれは母の形見で」


 パンッ!


「つべこべ言わないの!疫病神を拾ってあげたのは誰だと思ってるの!?あなたの両親のものは土地も、家も、何もかも!私達のものなのよ!」


 打たれた左頬がジンジンと痛いし、口の中は切れて血が出ているのかサビのような味がする。母の形見のようなとても大切なものであってもこの人に奪われてしまうのは分かりきったことだわ。


「はい、すぐに持って参ります」

「お母さま!ネックレスはまだぁ?今日のドレスには絶対ルビーなのよ」

「ジャクリーン待っていてね、すぐに持っていくわ!」


 両親の死後、父の弟が私を養女として引き取り私の大切な何もかもを奪ってしまった。わずか9才の私には何が行われているかなんて全く分からず、言われるがままにサインをすると私に残されたはこのズル賢い義両親と意地の悪い義妹だけとなった。親しい使用人は解雇され、新しい使用人は逆鱗に触れないよう私の事は空気のように扱ってる。

 義両親は私に義父(チチ)義母(ハハ)と呼ぶことを許さずグラン伯爵、グラン伯爵夫人と呼ばないと容赦無しに頬に平手打ちがとんでくる。事故で生き残ったのが私だけだった事を理由 に"疫病神"と呼ばれ知らない人から見たら使用人のような…いや、それ以下の扱いを強いられている。

 義妹のジャクリーンに至ってはそんな両親を当たり前として育ってしまったので、仮にも義姉である私を姉とも思わず私の持つどんな小さなものでも欲しがるわがままで卑しい娘になってしまった。

「お母さまアメリアの付けているリボンがほしいわ」「お母さまアメリアの持ってる本がほしいわ」「お母さまアメリアの部屋を私の部屋にしたいの」等とありとあらゆるものを。

 最近はグラン伯爵が外に愛人をつくり家まで与えて溺愛しているようで、全く屋敷に帰ってこなくなった。その鬱憤を晴らすかのように私への風当たりも厳しくなっている。


 グラン伯爵夫人とジャクリーンは私からルビーのネックレスを奪い取ると意気揚々と馬車にのり何処かへ出掛けてしまった。太陽が地平線へと隠れる時間なので今日は夜遅くまでパーティだと思う。ジャクリーンももう15才、きっと嫁ぎ先探しに懸命なんだわ。でも、クセのある赤毛で顔にはそばかすだらけ、髪の毛で隠しきれないエラと目は何故だか魚のように離れているし鼻もぽてっと押し潰されたようで…何よりあの年で酒焼けしたみたいな声はどんな男性にも良い印象を与えるのは難しいと思う。…って、人の容姿をけなしてはいけないわよね。


 父が亡くなり現グラン伯爵が領地を引き継いでからというもの、収益が思わしくないとぼやいていたのは知ってる。そりゃあ仕事もせず遊び呆けているのだから当たり前よね。だからこそ余計ジャクリーンには良い結婚相手を探したいのだろう。



 そういえば、こんな私に残されたものはまだあった!親しい友人と、素敵な婚約者が。


「いたた…喋ってる途中で平手打ちなんだもの、口の中を切ってしまったわ」

「大丈夫?ほら、見せて」


 屋敷の裏口に出て井戸の水で口をゆすいでいたらいつも通り幼馴染のレオナルドが生垣から顔をだした。レオナルドは隣の家に住んでいるモートン伯爵の三男で私の両親が亡くなったあともこっそりと悩みを聞いてくれ、励まし、仲良くしてくれる大切な友人だ。

 まぁ、隣の家といっても互いの家の庭は広く屋敷は離れているから、こうも毎回私が裏口に出ると現れるのにびっくりするけれど貴重な話し相手なので喜んで受け入れている訳なのよね。


「あぁ、まだ血が止まらないね。待ってね」


 そう言ってレオナルドが私の左頬に手を添えるとほわっと暖かな光が頬のまわりを包み、みるみるうちに痛みが引いていく。


「はい!治ったよ」

「ありがとう、レオナルド!あなたが居なかったら今頃私の顔は左右非対称に歪んでいたわ」


 レオナルドは1000人に1人と言われる魔法が使える人間のひとりなのだ。魔法が使える人間は身分や血筋に関係なく産まれると言われていて、特に強い力を持つ者は王都へ行き魔道士という超人気職業に就くのが望ましいとされている。そんな貴重な魔法を昔から平手打ちされたり、蹴られたり、物を投げつけられて怪我をする私のために使ってくれてる。


「アメリアは美しいから妬まれてるんだよ。きっと」

「…お母様に似たのが運のツキってやつかしら?でもこの顔のおかげで鏡を見ればお母様に会えている気がして嬉しいの」


 私は美しいブロンドの髪の毛に初雪のようなキメ細かい肌、青空を切り取ったような深い水色の瞳に、神様の贈り物としか言いようがない素晴らしい配置のパーツを持つ母譲りの美貌を授かっていた。そんなにひけらかすものではないけれど、こうも毎回レオナルドに「可愛いね」「美しいね」と言われ家の中ではあのジャクリーンを見て育っているのだもの、自分を美しいと言ってもバチは当たらないわよね。


「レオナルドの魔法の力も素晴らしいわ。それにあなたもモートン伯爵譲りの高身長とその顔立ちでそろそろお嫁さん候補が押し掛けてくるんじゃないの?」


 レオナルドの魔法が使える人間特有の美しい黒髪をさわってみる。黒い瞳には私が写りこんでる。互いにもう17才だからいつ結婚してもおかしくないのよね、特にレオナルドは魔法が使えるのだからお嫁さん候補は引く手あまただろうし。


「どうだかね。そういえば、マーカスから手紙は来た?あと半年でアメリアも18才じゃないか」

「そうね、やっと18才になるのね」


 マーカスは私の婚約者で王都に住むオルブルク伯爵の長男だ。父が学生時代にオルブルク伯爵と親しくしていた事から幼少の頃に婚約を結んでいた。マーカスが私のひとつ年上で両親が健在の時は毎年夏に避暑をかねて遊びに来てくれていたからレオナルドと三人でよく遊んでいたっけ。最後に会ったのは両親の葬儀だったから8年も会っていないし、手紙すら届いてない。でも、私が18才になったら迎えに来るという約束は健在なはずなんだけれど。


 目を閉じて思い出すのは10才のマーカス。明るい茶色のふわふわした猫っ毛にモスグリーンの瞳だったわ。オルブルク伯爵はやせ形でダンディーな方だったのできっとマーカスも素敵な青年になっている事だろう…と寂しいとき、挫けそうになったときは思い出して心の拠り所にしていた。


「アメリア…俺、来週には王都へ行くことが決まったんだ」

「え!?王都へ…じゃあ魔道士になるのね?」

「そうなんだ、先月受けた試験の結果が昨日手紙で届いたんだ。合格だった!俺は三男だし、父も所詮地方伯爵だから自分の生活は自分で切り開いていかなきゃいけない。だから、俺は…王都へ行くよ」


 レオナルドが魔道士の職に就くだなんて大変名誉なことだから笑って喜こばなくちゃいけない。笑顔でおめでとうって言わなくちゃ!…なのに、涙が頬をつたう。それはレオナルドも同じで互いに涙を手でぬぐってなんとか笑った。


「おめでとう、レオナルド!」


「ありがとう、アメリア!」



 ◇◇◇◇◇



 レオナルドが王都へ行って数カ月、グラン伯爵が帰ってこないのと、ジャクリーンの花嫁修行がうまくいかないからか、私への風当たりも益々厳しくなっている。

 ジャクリーンの練習のためにと私のベッドシーツまでもが刺繍布として持っていかれて古いぼろ切れを敷いたベッドで寝てるし、毎日ひどい歌声が屋敷中に響き渡り、下手くそなダンスのステップで家が揺れるようで大変居心地が悪い!しかも、ついに「お母さまアメリアのドレスが欲しいわ」と、私の数少ないドレスまでもがジャクリーンに奪われてしまい最近では2着のドレスを交互に着回してるおかげで裾は何度直してもすぐにボロボロになるし、色褪せてきているし…本当に最悪だわ。天国のお父様とお母様はさぞかし嘆いてる事だろう。


「アメリア、アメリア!!」


 また今日も朝からグラン伯爵夫人のかなきり声が屋敷に響く。ても、心なしか今日はなんだかあまり怒っていないような…?まぁ、どうせいちゃもん付けてまた怒られるのよね。はいはい、今日も私でストレス発散してください。


「はい、何でしょうか?グラン伯爵夫人」


 ボロボロのドレスをつまみ上げ挨拶をして顔をあげると珍しく夫人の顔は興奮し肌はテカテカと、目がギラギラと輝いていた。


「アメリア、あなたのオルブルク伯爵のマーカス様との婚約は破棄になったからね!」

「婚約破棄!?」


 普段は淡々とほぼ無表情で夫人の嫌みを聞き流しているからか、珍しく私が驚いた顔をしたらしてやったりと気を良くしたみたいでぺらぺらと喋りだした!


「マーカス様からアメリアは最近どうだとお伺いの手紙が来たから毎日家にこもって鬱々とした老婆のような暮らしをしてますって返信しておいたのよ。ついでに妹のジャクリーンは明朗快活で頭がよくマーカス様にお似合いですからアメリアよりジャクリーンと話を進めませんかとお伺いしたら、ではそのように。との事なのよ!ホーッホッホ!お気の毒様ね。疫病神だから仕方がないわね。マーカス様に何年もお手紙の返信をしないからこうなるのよ!」


「手紙がきていたなんて…聞いてませんけどっ!?」


「あらぁ?うっかりアメリアに渡すのを忘れてたかしら?まぁ、もう過ぎたことよ!」


 睨み付ける私をよそに夫人は高笑いを上げながら去っていった。


 はあぁ!?手紙来てたの!?それよりも私が外に出られないのはこのボロボロのドレスのせいだし!仮に出掛けようとしても、あなた達親子が馬車で出掛けるときに私を連れて行こうともしないからこんな田舎で徒歩でどこかに出掛けられる訳もなくて!っていうかジャクリーンが明朗快活で頭がいい!?騒がしくってお馬鹿の間違いでしょう?未だに母国語しか喋れないのを私は知ってるのよ!刺繍だってガッタガタだし…

 って、いくら私が文句を言っても何も変わらないのよね。あぁ、この諦め慣れた自分をどうにかしたい。誰かにこんなに弱気な私を叱咤してもらいたい…。


 ふと、夫人の部屋の扉が開いていてテーブルに置かれた一枚の肖像画が目にはいった。誰もいないのをいいことに覗いてみるとそれはジャクリーンの肖像画だった。きっとこれを何枚も用意して婚活に励んでいたんだろう。そこには赤毛のジャクリーン…ジャクリーン!?

 髪の毛は赤毛でかろうじてジャクリーンだと思われる肖像画だけど肌のそばかすはひとつもなく現実より二倍大きく輝く瞳は本来の位置よりも真ん中にきていて鼻はスッと高く、見慣れたエラもなく卵形のつるんとした輪郭に…


「って!詐欺じゃない!!!」


 ついひとりで大きなツッコミをしてしまった。

 それより何より!ジャクリーンの胸元に輝くルビーのネックレスは私の母の形見だ!!絵の中であってもジャクリーンにつけていてほしくない!塗り潰してしまえるなら今すぐに筆をとり塗り潰すのに!!

 あぁ、マーカスはこの肖像画を信じてしまったのかしら?私が手紙の返事も返さない失礼な女だと思っているのかしら?今すぐに違うの!本当は…と訴えたい!

 …でも私にはそんなことができないのは分かってる。せめてジャクリーンが居なくなることで私をいじめる人間が一人減る。そうプラスに思っていなければやっていけないわ…。



 ◇◇◇◇◇



 それからの数カ月、私はほぼ脱け殻状態でジャクリーンの嫁入り準備を手伝わされていた。きっと今取りかかってる刺繍もジャクリーンがほどこしたってことになるんだと思う。こんなの、すぐにバレてしまうのにバカみたい。

 たまに使用人や夫人とジャクリーンがここ数年病に臥せっていた国王様の病気が治って国中お祝いの祭りで賑やかだ!なんて話しているのが聞こえたけれど、そんなの全く私には関係ない。気づくと私の誕生日まであと二日となっていた。あぁ、本当なら今頃私はウキウキとこの家を出る準備をしていたはずなのに…。


 何で私は…どうしてあの事故でお父様とお母様と一緒に…何故私を置いていってしまったの!?


 ぼんやりと刺繍をしていたらいつの間にか私の部屋…と言っても物置部屋に粗末なベッドが置いてあるだけなんだけど。 とりあえず部屋の入り口にニヤリと気持ちの悪い笑顔をたたえた夫人が立っていた。気味が悪くて…いや、驚いて全身の毛が逆毛だったようにぞわっとした!


「アメリア、熱心にジャクリーンの手伝いをして偉いわね」

「あ…は、はい…」


 どうしたんだろう?夫人が私を誉めるだなんてそろそろ天変地異が起こるのかもしれない。早く森に洞窟でも掘って隠れた方がいいかしら?


「急だけどあなたを妻として引き取りたいって方がいるの。まぁ、どっかの年寄で老後の面倒を見てもらいたいんでしょうけど!疫病神を引き取ってくれるって言うし、更に我が家に援助をしてくれるって言うから受けておいたわ。二日後よ!支度なさい!」


 それだけ早口で言うとさっさと出ていってしまった。

 え?今何て言った?私と結婚したい人がいるの!?ちょっと待ちなさいよ!何で詳しく聞いてこないの!?せめて名前!!ジャクリーンが無事嫁に行ければ私はどうなってもいいって事!?…まぁ、そうよね。

 動揺して刺繍針で指を指しちゃったじゃない!先端から赤く滲む血をぱくりと舐める。


「…レオナルドに相談したいっ」


 レオナルドからはこの半年1通の手紙も来ていない。もし来てたとしても意地悪な夫人が私に渡さず処分している可能性もすごく高い。だけど、だけど…心の拠り所だったマーカスもいなくなって私には本当に何もなくなってしまった。

 レオナルドに話したい事がたくさんあるのに…。久しく流していなかった涙がじわりと流れ出た。どんなに意地悪されても耐えていたのに!レオナルドの事を考えると、とめどなく涙が溢れてくる。


 名前も顔も知らない誰かに嫁いだらまた私には幸せな日々が訪れるの?この家より酷い所なんてなかなか無いわよね?夫が親子ほど…もっと年の離れた人で老後の面倒が目的であっても私に優しくしてくれるかしら?

 そうであれば私は頑張れる…きっと。



 ◇◇◇◇◇



 私の誕生日当日になった。

 奇妙なことに今日ジャクリーンはマーカスの元へ嫁いで行き、私も何処かの誰かの元へ嫁いで行く。


 今日だけはマシなドレスを着て…ってこれ元々私のでジャクリーンに奪われたドレスだわ!!荷物は小さな鞄に母の形見も父の形見も全てとられてしまったので両親の日記帳だけを詰めて、迎えが来るのを二階の窓から外を眺めて待っている。

 片やジャクリーンは、赤毛をグリングリンに巻いて頭には王都で流行ってるという鮮やかな鳥の羽を突き刺し、似合わない乙女チックなピンクのドレスを着て大量の荷物を背に玄関先で迎えの到着を今か今かと待ちわびている。


 二階にいる私には、遠くからこの屋敷に向かってくる見慣れない二台の馬車がよく見えた。天気続きで乾いた道を砂ぼこりをあげながらやってくる。

 先頭を走る馬車は美しい白馬二頭が足並み揃えて、細かな美しい金の装飾を施した高級な白い馬車を引いている。

 後方の馬車は私はここ何年も乗ってないけど、我が家と同じでよくいる茶色い二頭の馬がよくある装飾もない普通の赤茶の馬車を引いている。


 よくよく見ると赤茶の馬車は御者一名に対し、白い馬車は二名の御者が高級そうな白い制服を着て乗っている。マーカスってこんなにお金持ちだったの!?子供の頃の記憶は曖昧なので驚いてる。

 二台の馬車は我が家の敷地内に入ってきた。私はお邪魔でしょうからジャクリーンが出発してから行けばいいわと、まだ座りながら様子を見ていた。


 先に到着した白い馬車の御者が降りると玄関先にいる夫人とジャクリーンに挨拶をした。さっそくジャクリーンが乗り込もうと重たいドレスのスカートを持ち上げ足を踏み出すと御者はおや?といった感じで顔をかしげた。


「私どもはアメリア様をお迎えに参りました。アメリア様はブロンドの髪をもつお嬢様だと伺っておりましたが…」


 御者の声は窓を開けて眺めていた私の耳にも入ってきた。お行儀が悪いけれど、誰も見ていないと思って窓枠に片ひじついて見ていたので盛大にずっこけた!


「え!?私…?」


 慌てて部屋を出て階段をかけ降りた。こんなときに家の中を走らない、とか階段は静かに降りるなんてのは無視よ、無視っ!

 珍しく家の中をバタバタと走る私に驚いたのか…いや、御者が私を指名したときからこの二人はこんな顔をしていたんだろう。目が点になるって本当なのね。と声をかけてしまいたくなるような見事な驚き顔を夫人とジャクリーンは私に見せてくれた。


 でもね、問題はお相手様なんだけれど…。


 私が玄関に飛び出すと御者が馬車の扉を開ける。すると、中から一人の男性が降りてきた。




「レオナルド!?」




 半年ぶりだけれど、どこか大人びた顔つきになったレオナルドがタキシードを着て、馬車から降り私の前までやってきた。


「アメリア、誕生日おめでとう。マーカスとの婚約が破棄になったと聞いて急いで迎えに来たよ!」


「え…何で?どうしたの!?この馬車!私を引き取りたい人って…!?」


「実は魔道士になって早々、国王様の病の原因が呪いだと突き止めて魔法で呪いを跳ね返したんだよ!そうしたら国王様が褒美として侯爵領をくださったんだ。これからも魔道士としての仕事は続けるけれど、家も使用人も全て整ったからこうやって堂々と迎えに来たよ!

 …と、せっかくのお祝いの日だから素敵なドレスに着替えなきゃね」


 驚く私にレオナルドは笑顔で話を進め、パチンと指を弾くと私の着ていたお古のドレスは美しい真っ白な…そう、まるでウエディングドレスのような純白のドレスに変わった!



「ずっとマーカスとの婚約があったから言えなかったんだ。アメリア、愛してるよ」



 "愛してる"そう言われて私の目からは大粒の涙がこぼれ落ちた!

 レオナルドに会いたい!話したい!ずっとそう願っていたのは寂しいからだと思い込んでた。違う、私は…レオナルドが好きだから、愛していたから会いたくて、会いたくてしょうがなかったんだ!

 マーカスとの婚約という約束があったから自分の気持ちに気が付かないように心に蓋をしていたけれどようやく気づいた。ずっと、私のそばにいてくれて常に気づかっていてくれたレオナルドを…愛してる!



「レオナルド…私も、愛してる!」



 思いきりレオナルドの胸に飛び込んだ!喜び泣きじゃくる私を優しく抱き締めてくれる。

 そのとき、つんとドレスが引っ張られた気がした。ちょっとねぇ、私今感動の再会と愛の告白でそれどころじゃないんだけど。


「お母さま!アメリアのこのドレスが欲しいわ」


 どうやらジャクリーンがドレスの裾を引っ張ってるみたい。あぁ!もうこんな時まで私のものが欲しい病!?そう思った時、体がふわりと宙に浮いた!


「気安く私の妻に触れないでください」


「なっ…!だって、アメリアのものは私のものよ!!ねぇ?お母さま!」

「ジャクリーン!シッ!!こ…侯爵様の前なのよ」


 レオナルドは私を抱き抱えジャクリーンにこういい放つと、そのまま馬車に乗せてくれた。二人の顔は見えなかったけれど夫人の慌てるやり取りと初めて夫人に怒られたジャクリーンが驚きぽかんとしているのは容易に想像できる。

 そういえば、後ろにマーカスの馬車が待っているんだった!すっかり頭の中から消え去っていた。ジャクリーンもこれから嫁ぐんだからこれからは私のものを奪い取るんじゃなくて、マーカスに何でも買ってもらえばいいんだわ。

 私の乗った馬車が動くと赤茶の馬車の扉が開いて、驚きの声が聞こえた!


「ちっ、なんだよ。ブスじゃねぇか!」


 びっくりして涙目のまま外を見ると赤茶の馬車からは巨大なブタが…いや、人だ!肥に肥えた横幅が大きく頭の薄い男性の後ろ姿が見えた。


「アメリア、あれが今のマーカスだよ」

「えっ!??」


 引っ込んだ!私の感動の涙が全て引っ込んだよね。え?マーカス…私のひとつ年上だったよね?


「アメリアが随分とマーカスの事を美化してるから言えなかったんだけど…」


 レオナルドは言いにくそうに話してくれた。マーカスは確かに子供の頃は美少年だったけれど、わがままで口が悪くて私に対しても「おい、でこっぱち!」「女と遊んでもつまんねぇな!」などと悪態をつきまくっていたそうだ。え?そうだっけ?私、あまりの辛さに脳が嫌な部分を全て消し去って良いところしか覚えてなかったみたい。


 大人になったマーカスは口の悪さはそのままに、ぶくぶくと太ってろくに仕事もしないダメ貴族に成り下がっているらしい。借金も相当あるとか…。それじゃあ家と変わらないじゃない。何でジャクリーンと結婚を?と思ったらお互いに見栄っ張りでプライドが高く貧乏を隠して接していたため何も気付いてないらしい。どちらも相手の家に借金をどうにかしてもらおうと考えてるみたいだけど無理だよね、と。


「やだ、あと少しで私マーカスと結婚するところだったのね!」

「うーん、一応爵位を頂いてなくてもアメリアを奪ってしまおうとは思ってたんだけどね」


 そう照れ臭そうに言うレオナルドに私も恥ずかしくなって顔を赤らめた。


「ん?でも、今後レオナルドに援助してもらえるって夫人は言ってたわよ?あの人の事だから地の果てまで追いかけてくるわよ」

「そこはプロに間に入ってもらって援助はアメリアを引き受ける時の一度きりって書類にサインをしてもらってるから、夫人がきちんと確認しなかったのが悪いんだ。だから、今後は一切の縁を切るつもりだよ。それでいい?」

「…そうね、もう夫人の金切声もジャクリーンの下手な歌も聞きたくないわ!…まぁ、泣いて心から謝るなら仕事先くらい紹介してあげる…とか?」

「優しいね、アメリア」



 レオナルドは私の頭を軽く撫でてから「それよりも!」と、私の小さな鞄をとりポンポンと埃を払ってから手渡してくれた。ん?なんだか重くなってる?鞄を開けて───息が止まるかと思った!


「夫人に取られた…お母様の形見!」


 鞄の中にはルビーのネックスにダイヤモンドの婚約指輪、パールのネックレスに揃いの指輪と、その他にも沢山の形見の数々が入っていた!


「魔法で全部返してもらったよ。夫人にはバレないようにあちらにはイミテーションのものが置いてある。これらは全てアメリアが持つべき物だからね」


「ありがとう!レオナルド!!」


 何回、何十回、何百回"ありがとう"と言っても足りないくらい!嬉しくて強く抱き締めた!


「ありがとうもいいけど、愛してるのほうが嬉しいな」




「愛してるわ、レオナルド!」


「俺もだよ、愛してるよアメリア!」





 9才の時に死んでしまった私の幸せは、18才の誕生日に王子様のキスによって息をふきかえした。


 もう絶対に誰にも奪わせないわ。


思い立って書いてみました。はじめてのざまぁです。ちゃんとざまぁになってる…はず。

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