第3話
俺達みたいな奴(詳しくは避け、大雑把に言えば魔法が見えない、効かない人間のことだ)が沢山いるという情報を出すのは問題があると思ったからなんだろうけど、前に俺達を知っている奴に会ったことがあったんだよな……意味がない気がする。
「まあ、魔法が効かなくてもそんなにすごい事ではないさ。むしろ、楽にまほう魔法で強くなることが出来なくて苦労した。」
俺がそう言ってもアリアンは、そうだとしても、一生懸命勉強した魔法が効かないのは、理不尽だというような顔をして、黙って聞くのみだった。
この様子だと魔法が効かない奴が俺以外にも沢山いる、ということを伝えたら、更に落ち込みそうだな。
「……もう、この話は終わりにして、早いとこ冒険者登録を済ませたいんだけど?」
俺がそう言うと、アリアンはまだ納得出来ないような顔をしながら「分かりました」と、ため息を吐きながら言い、登録の流れを説明してくれる……前に。
「先に冒険者という職業について説明しておくわね。そもそも冒険者の歴史は古く、今のように魔物を狩ったり町での問題を解決したりするようになる前、冒険者はその名の通りーー」
「そこの説明はしてくれなくて大丈夫だから! 登録の流れだけ説明してくれ。冒険者の歴史については最近聞いて知ってるから。」
話に割り込んでそう言うと、アリアンは少し残念そうな顔をした。危ない、また長くなるところだった。
それからすぐ、登録の流れについて説明しようとしてくれたのだが……。
「冒険者登録には、受付から持ってきたこのすいしょ……すみません、そちらの横に水晶がありますので取って貰えますか?」
アリアンがソファの横に手を彷徨わせた後、そう言ってきたので、無言で横にあった水晶を持ち上げた。すると水晶の下にあった小さな台も付いてきた。少し戸惑ったが、とりあえずテーブルの上に置いた。置いた水晶をよく見てみれば、水晶は青く落ち着きのある光を、自ら放っていた。
なるほど、下から見えた明かりはこれか……。
「ありがとう、この水晶は冒険者登録を行う際に必要な道具なんだけど、メリアさんから、貴方がこの水晶を使って冒険者登録をすることによって、冒険者の仕事の一つである魔物が見えて、攻撃も出来るようになると言っていました。」
これはすでにメリアから聞いていた通りだな。
俺が、そもそも冒険者になるとして、どうやって俺達の性質上見えない魔物を倒せばいいんだと訊いた時に言ってくれたことだ。その上、なんと登録をすれば俺も魔法が使えるようになるらしい。
……その代わり、魔物の攻撃を受けるようになるし、魔法の攻撃も受けるようになるというデメリットがあるとも言われたがな……。
「その辺りのこともメリアから事前に言われたよ。それで俺の性質が無くなっても別にいい。元々俺が勝手になりたいと言ったことだから、文句は言わないよ」
「そういえば、まだどうして冒険者になろうと思ったのか訊いていなかったわね」
「あー、それはな、誘われたんだよ。冒険者になって見ないか? ってな、言われた時は入ろうって気は無かったんだが、美味い物が食えるとか、新しい世界を見ることが出来る、きっと気に入るはずだ。と言われてな……」
「そんな誘い文句で貴方固有の性質を捨てる気になったの!? 勿体無い……」
「一応、また俺の性質は戻せるって聞いてるから、気に入らなかったら戻すことにするよ」
前に一回、この道具を使って、性質を失った後でも、無事性質を戻すことが出来たという事例があったらしいから、大丈夫なはずだ……最悪戻せなくなっても、それは仕方がない事だと割り切ろう。
「戻せたら良いわね。」
何故かアリアンに諦めた顔で言われた。
……なんだか不安になるな。
「それじゃあ、早速登録を……この水晶の台にセットするカードを用意するので少し待っていて下さい」
そう言うが早いか、アリアンはそそくさと部屋を出て行った。
カードを用意するのは忘れてたのか……。
先ほどの不安感を紛らわせるために窓を見た。すると、ふと思い出したのは、さっき落ちた時の背中の痛みだった。
全く、窓までよじ登った時は崩れなかったくせになんであの時足場にしてた木が崩れるんだ。
そこまで考えて、思考に割り込むようにして足場にしていた木が崩れる前に言った事が一瞬頭に浮かんで煙のように消えていった。
『貴方を殺して、緊急依頼の報酬金を盗み、ついでにこの信じられないくらいボロい建物の放火とを、順番通りにやりたいので――』
……俺は何も悪い事はしてないんだけどな、こんなことが起きるようなことをした覚えも無いしな〜、ほんと、身に覚えは無いんだけどナ〜可笑しいナ〜……そもそも本気じゃなかったし……ね?
心の中で惚けていると、アリアンがカードを手に持って入ってきた。
「待たせたわね。……あの、どうかした?」
「ああ、悪い悪い、ついに冒険者登録を出来るのかと思ったら緊張してな……」
そう言われて納得したのか、「大丈夫よ」と声をかけ、先ほどの説明を続けてくれた。
なんとか誤魔化せたか……。
「このカードは一般的に冒険者カードと呼ばれていて、持ち主の身分を証明する物、所謂身分証ね。これ無しで冒険者を名乗っても信用はされないわ」
「確か、女神の加護とやらがそのカードに施されていて、偽造も女神の加護の付いていないカードはすぐにバレるということもあって、信頼性が高いからだったか。それと、犯罪歴を持つ奴のカードは犯した罪の程度によって、カードの色が黒くなっていくんだったよなぁ……」
それには、登録する前に犯した罪も含まれているという話なのだ。今までに殺ってきたことを考えると真っ黒になりそうなんだ。だが、それに対しての対策があるのかどうかは教えてもらえなかった。その時のことを思い出す。
それは王城への通り道を戻り、ギルドに向かって歩いていた時ーーつまり今日ーーだった。そのことは、大体のギルドについての説明もされた後に話されたことだ。
『……それって俺は大丈夫なのか?』
『駄目ですね! カードの色が黒くなることについてはどうすることも出来ません。諦めるしかないですね!』
この野郎ーーそう思い、横で他人事のように、楽しそうに笑っている端から見れば可愛らしい小さな女の子にメリアを睨んだ。
『冗談ですよ。だから、そんな怖い顔して私のようなか弱い女の子を睨まないで下さいよ』
そう言って、メリアはわざとらしく体を震わせていた。事情を知らなければ可愛らしい小さな女の子が男に襲われているように見えるだろう。
『何がか弱い女の子だ。大の大人を素手で倒すような力量を持っているくせに。……いやそうか、逆に言えばその程度の力量しか持ち合わせていないんだな。』
そう言った瞬間、メリアから拳が目にも止まらぬ速さで俺の腹に向かって飛んできた。しかし、メリアから拳が飛んで来るということはある程度予想はしていたので、なんとか体を捻って避けた。
拳が空振りしたところでメリアはハッとした様子で謝ってきた。
『あっすいませんつい体が勝手に動いてしまいました。』
そう言って困った顔で笑った。先ほど、恐らく本気で殴ってきた同一人物とは思えない。
『やっぱり自称情報屋、お前がか弱い女の子なんかだったらおかしいぞ。いきなりあんな速さで拳を飛ばしてくる奴はいねぇよ。しかも体が勝手に動いたとか、恐ろしいわ』
『それはまあ確かに……いや、暗殺者のライドリーさんと比べたらということですよ。それに、体が勝手に動いたのはライドリーさんが私を馬鹿にするようなことをを言ってきたからじゃないですか。それに、あれを避けたということは、事前に来るのが判っていたんじゃないですか?』
そう言ってジト目でこちら見てきた。
『ああそうだよ、判っていたから避けたんだ。それよりも、実際、なんとかなるのかよ。冗談だって言ってたけど』
そう悪びれもせず、正直に言えば、メリアは不機嫌な顔をした。
『さあ? どうなんでしょうね。ギルドに行けばわかるんじゃないですか? 私は知りません』って言って教えてくれなかったんだよな。
それで機嫌を取り直してもらって訊こうとしたところで、用事があると言って走って行ってしまった。……メリアが行った後、「久し振り〜」というメリアに似たような声を聞いた時は、思わずあいつのことが心配になったが、それはまた別のお話……。
話をギルドに戻そう。
「犯罪歴があると黒くなることを知っている、ということはその対策についても?」
「それについては説明してもらっていないんだ……何か対策はあるのか?」
「ええ、私が、貴方が登録をした後のカードに不可魔法を使うことによって、カードが黒くなることを避けられるわ。ただしーー」
直後真剣な顔になった。
「登録した直後からカードがだんだん黒くなって行くから早い方が良いわ。一度黒に変色してしまえば、二度と戻せないから」
「なるほど、分かった。ということは、登録完了直後にその不可魔法をかけるんだな」
「ええ、そういうことよ。早速始める?」
「ああ、頼む」
「それじゃあ、この水晶の上に手を乗せて、手を乗せたら自動で登録が開始されて、10秒後に登録が終わるから、それと同時に私が不可魔法をかけるわ」
ライドリーは頷き、水晶に手を乗せた。ーーすると、水晶からの青白い光が強くなっていき、だんだん眩しさに耐え切れなくなり目を閉じた。閉じた後もその光は瞼越しに見えていたが、やがて登録が終わったのか、瞼越しに光が収まっていくのが分かった。それを確認し、目を開けると、そこにはーー
「うん、成功よ。不可魔法がしっかり発動しているわ……? どうかした?」
アリアンがライドリーの呆然とした様子を見て気になり、声をかけたがライドリーには聞こえなかった。ただただ目の前にある光景に驚いていた。
馬鹿な……まさか、こんなことが……。
目を閉じ、再び目を開けたとき、部屋の様子は一変していた。そこには綺麗に掃除されている木のテーブルがあった、アリアンが座っている血のついていない綺麗なソファがあった。そこまで見て、ハッとして周りを見た。先ほどまであった埃や古くさいという印象が全く無くなり、暖かな印象を与える木造の部屋に様変わりしていた。
これは、俺が性質を失った影響か? まさかここまで変わるとは……凄いなこれ。
ーーまるでいきなり異世界にでも連れて来られたような凄さを今俺は感じている
あああああああ、これは駄目だ。この作品をもう一回書き直したくなってきた。今まで小説書いたことなかったのに書こうとした過去の自分に練習しろと言ってやりたい……話が全然進まない泣
一区切りしたらこれは一旦停止して練習の為に短編小説書こう……。