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第1話



「依頼達成を祝って、乾杯!」

「そこの人、ちょっとうちの店に寄ってかないか?」

「今日はオークの焼肉が安いよ〜!」

「昨日は大変だったなぁ」


 そんな町の人々の声があちこちで聴こえてくる。


 はあ、もうそろそろ日が暮れそうだなぁ。人も多くなってきたし、酔っ払いもちらほら出てきた。屋台も段々出てきたみたいだし、さっさと用事を済ませて久しぶりにあそこの串焼きでも食べよう。


 そんなことを、全体的に灰色で貧相な服装に編笠を被った姿のライドリーは考えて再び歩き始めた。


 うーん、久しぶりに王都の町に戻ってきたがやっぱりすごい賑わってるな、前に一緒に来た商人がこんなに活気があるのは地方の特産品が大体此処に集まるのもあるが、冒険者が集まってくる事が大きな理由だとか訳のわからない事を自慢気に言ってたっけなぁ……おっと、さっきの所を曲がるんだったか?


 そう思い、先ほど通り過ぎた角を曲がり、しばらくまっすぐに進んだ。人気はあまりなかったが、そこそこ広い道だった。


……よし、到着かな。あのちょっと心配してしまうような自称情報屋が言ってた冒険者ギルドとかいうのは。前まで冒険者ってなんだ? そこらへんを冒険と称して探検しに行く子供のような呑気な仕事のことか? と思って小馬鹿にしていたが、まさか俺自身が冒険者という奴になる日が来るとはな……それはともかくとして……本当にここで合ってるんだよな? これは……さすがにあの自称情報屋が間違えて違う場所と間違えたんじゃないのか? と疑うわ。


 でも、今まで自称情報屋が情報を間違えたことはなかったし……確か『広場の中心にある石像の顔が向いてる方向だよ』って言ってたか、多分俺の後ろの広場にある女の石像のことだろう。あの石像の顔を向けている方向はこっち、つまり今見た建物で間違いないという訳だ

 そう考えて石像の前まで歩き、先ほどの古くさい建物を見れば、

……ん? よく見たらだいぶ朽ち果てているけど、あれは看板か。読みにくいが冒険者ギルド王都コローラ支部と書かれているのか? だとするとここであってるな。しかし、あの自称情報屋の言ってた通りの見た目だが、信じられないな。


 そう考え、目の前の建物の扉を見ると。


 あれっなんか扉の真ん中に【受付終了】っていう貼り紙があるな、その右には営業時間って書いてある貼り紙が……どうやら明日まで開かないようだな。

 ということは今入っても人はいないか……はあ、また明日来るのは効率が悪い、もとい面倒なんだけどなぁ……畜生。


 諦めきれず、窓に誰かいないかを確認してみたところ――


――おや、二階の窓に仄かな明かりが見える、ということは人がいるはずだよな、もしかしたら職員がまだいるかもしれない……よし、入るか!


 貼り紙を無視して両扉を押し建物の中に入ろうとした、すると。


 ガタンッ……えっ、開かない……確認の為もう一押し、ガタンッ……もしかして引き戸? ガタンッ……まさかとは思うけど、スライド式とか? ……音すら出ないな。


……ということはもしかして……鍵、あるのかよ、まさかこんなところに鍵があるとは思わなかった。


 あの自称情報屋が言ってたようにあまりにも古くさくて信じられないくらいボロい建物だったから鍵なんてないと思ってたよ。


 そう考えた後、建物から少し離れて全体を見渡した。

 改めて見るが、なんなんだこれは、蔦が伸びていて、使われている木が木屑だらけのボロボロで……壁にあるこれは血か? まあなんかここでしょうもない争いがあって血がここに付いたんだろう。


 うーん、俺は詩人とかじゃないからこったことなんて言えないが、あえて言うならばここは鬱蒼とした森の入り口かな? なんか入ったら二度と戻ってこれない、そんな感じがするな。

 まあ年季が入った感じでこれはこれでいいかもしれないが、廃墟にも見えるな。

 それはいいとして、窓にはガラスがあるようだ。なんでこんな古くてボロくさいうえにどんよりとした建物に……らしくないけど、まあここには鍵があるんだし、窓ガラスがあってもおかしくないと納得しておこう。……それでもなぁ、何で窓ガラスだけはやけに綺麗なんだ! 新しくつけたんだろうけど、違和感が物凄いわ!

……少し取り乱したが確認はしっかりしないとな、えーと……窓ガラスは上下二枚で別れてるみたいだな。あれは最近見た開け閉めが出来る窓と似てるな……古い建物の、やけに綺麗なガラスに最新の技術があるというのは、物凄く違和感があるがな。


 取り敢えず二階から入れそうだけど、入ったら入ったでやっと仕事が終わったのにって迷惑そうな顔されそうだから気が進まないなぁ……でも、明日また来るのも嫌だし――そうして考えを右往左往させていたが、しばらくして――ここで長く考え続けるのは駄目だ、人が見てたら怪しまれる……よしっもう二階の窓から入るか! 扉から入ろうとしたときはこんなこと考えなかったし、それにお前はのんびり考えるより先に行動してから改めて考えろって教官言ってたし……なんか言われたこととは少し違う気がするけどな。

 職員が居なかったら結局明日になるが、明かりがあるんだから職員もいるだろ。


 よし! そうと決まったら……っと、その前にこの辺りに人はいるかな、先に確認するの忘れてた。

 そう思い、辺りを見渡すと。

……ちょうど今3人来たか。親とその子供かな? 仲良く談笑してる……ってなんか強そうなおっさんの方がこっち来た。


「お前さん、この辺りじゃ見かけねぇ顔だが、何者だ?」


 細かな傷跡がある怖い顔のおっさんが更に威圧感のある顔にして強い口調で聞いてきた。

 武器は背中にある良く手入れされてる剣みたいだな、しかし……なんで警戒されてるんだろう? っとそれよりも何者ねぇ。


「えーと俺は……うん、別に怪しい奴ではない。ちょっと今は全体的に灰色の貧相な服装の上に、この編笠はこの辺りじゃほとんど見ないだろうから怪しいと思うが、俺は平凡な一般人さ。」


……無駄に笑顔で胸を張って言ってやった、特に意味はないが気分だよ気分。いやぁこの怖い顔おっさんの後ろにいる普通の顔立ちの子供がこっち見てなんか怯えてるから、最初は人見知りしてるのかと思ったが、ふと今自分がどんな格好をしているかと考えて気がついた。そりゃ怪しまれるわな。


「一般人? 盗賊じゃないのか?」


 盗賊って


「確かにお前はこの格好を見た事がないだろうからそう思っても仕方がないだろうが、俺を勝手に盗賊扱いするな。」


 編笠の紐を首に掛け、後ろに追いやりながら目の前のおっさんを軽く睨みながら、静かに責めるような口調で言った。

 全くなんて失礼な奴だ。しかもこいつこの格好で盗賊じゃないの!? って感じで困惑してるみたいだし腹立つ、なんで俺があんな野蛮人と一緒にされにゃいかんのだ。


「え〜っと、なんか、すまんな。確かにお前が盗賊っていうのは雰囲気的にもおかしいよな。」


 そう言うと目の前のおっさんは納得したようにうんうんと頷いた。

 一応俺が盗賊ではないということは納得したようだが、なぜだろう……盗賊よりも弱そうな奴って馬鹿にされた気がする。

 しばらくして、おっさんは再び、さっきよりは軽めだが、こちらを問い詰めるように聞いてきた。


「まあ、お前が盗賊じゃなく冒険者だってのは分かったが、何故こんなところにいるんだ。このギルドの酒場なら、酒場の親父が今日は確実に人が多くなるから場所を移動するって話をって話を城門の近くで酒場の従業員が言っているのを聞いているはずだぜ、その証拠にそこ扉にちゃんと酒場に関しての貼り紙があるだろ。」

 そう言っておっさんはギルドの扉を指差した。

「いや、そもそも俺は冒険者じゃないんだ。それと、ここにはさっき来たんだ、その時はあの扉の受付についての貼り紙だけ見てな、それで――」

「待て待て、それじゃあお前、冒険者じゃねぇくせにここに来たって事は、昨日終わった大規模な緊急依頼中にここに来ていて、今更ここに冒険者登録をしに来たってことか?」


 ありゃ言ってなかったのかな?


「ああ、そうだよ、その緊急依頼ってやつが終わった後に、今更その冒険者登録というやつを仕方なくやりに来たんだ。」

「なんだよそういうことかよ、てっきり依頼の報酬の金を全部取ろうとしてる盗賊かと思ったぜ……警戒して損した……。」

 そう言っておっさんは肩を落とした

 ちょっと申し訳ないな……初めから何しに来たのか言えば良かったか。

「まあいい、そういう事ならまた明日来い、そこの貼り紙にも書いてある通り今日はもう登録の受付は終わってる。それと、疑って悪かったな、それじゃあまた今度お前が冒険者になって、機会があればまた会おうぜ。」


 そう言うとおっさんはこちらに手をしばらく振りながらまだ俺の方を少し警戒している様子のおっさんの家族の方に向かって歩いて行き、おっさんが女と子供に何か言うと女の方は安心した様子で子供の方は安心したようだが、まだ親以外の大人は怖いのか女の後ろに少し隠れるようにして、こちらに軽く頭を下げて、歩いて行った。


……それだけかい! でもまあ考えればあのおっさん達からしたら俺が盗賊の類じゃなかったら別にいいんだろうけどな。


 そんな事を考えているとおっさん達はそれほど歩かず、近くの家に入って行った。

 空き巣かな? まあ盗賊だと思われた事に対する仕返し的な冗談はさておき、あのおっさん共が入った家って冒険者ギルドの向かいっ側かよ! ――なんか羨ましいな。


 まあいい、とりあえずここは人通りが少ないんだろうな、結局話してる途中でもあの強そうなおっさん達以外見なかったし、冒険者ギルドが開いてないのも理由の一つだろうが。万が一この道を通って来たとしてもここに住んでる奴だけのはず。ということは人に目撃されて不審者と思われる可能性も低い!……のか?……壁登ってるとこを見られたら、不審者と思われるだろうか? ……少なくとも俺は空き巣かと思うだろうな……ということはダメじゃないか……。それに、あのおっさんが言ってたみたいに報酬金を盗む輩がいると考えてを見張る奴がもしかしたら……。

 そこまで考えると同時に急いでさっきより注意深く辺りを観察したが、誰もいない。あるのは来る時に見た槍を天に突き上げた様子の女の石像のみ。


……まあ見つかって不審者と思われてもすぐに逃げれば問題ないはずだ、一応足には自信があるしな。


……よし! 早速二階の窓に入ろう…か……な……あああ、入るとしてもどうやってあそこまで登ろう……都合よくいい感じの足場になりそうな木があるわけでもないし、壁は……木で出来てるが、定期的に改修工事とかしてないのか? ボロボロだから足かけたら崩れそうだなぁ。登る時に危ないから建て替えればいいのに――見た目を冒険者ギルドっぽく見せるためにも――まあここをよじ登ろうとするのは俺くらいだろうが。


「 まあ、ここで考えても仕方がないし、とりあえず登るか。」


 先ずは手を掛けてっと、痛っ木片が刺さったか、これは抜くとして少し血が出たな、適当に唾でもつけとけ……よし気を取り直して木片が刺さらないよう、手を横に軽く滑らせるようにして、横に倒しながら、よじ登ろう。


 幸い足場にしている木は崩れずに済んだが……木片が邪魔くさいな……おっ、やっと窓まで来れた。人はいるかな〜? ……居た! 人影があった、良かった〜って喜んでる場合じゃないな。あのおっさん達が来る前に確認した通り窓にガラスがあるんだが、まさかこのガラス窓……開閉出来ないのか!?


 片手で窓ガラスを触って上、下と続いて横に動かそうした時に気がついたが、そりゃそうだわ、開閉式の窓ガラスなんて最近発明されたもんなんだから、こんな古くさい建物の扉に鍵があるからといって、さすがに開閉式の窓あるわけないわ……クソッわざわざ窓ガラスを上下二枚にしてつけやがって、紛らわしい。


 それにしても困ったな、窓から入れないとなると……。そう考え部屋の中を見た。

 部屋の中では俺から見て右で座ってるほとんどの人がみれば美人だと答えるであろう金髪で綺麗な女が無表情に机にある書類に淡々と何かを書いている。

 ここにある書類を扱っているんだからここの職員で間違いないはず、あの人に下の扉の鍵を開けてもらって、今日中に冒険者登録を済ませたいんだが……声をかけて迷惑そうな顔をされると考えると、声をかけづらい……。でも、ここまで来てしまったんだから……声かけるしかないだろ。


「すいませーん、受付終わって、書類仕事してるところ申し訳ありませんが、なんとか今日中に冒険者登録をしてくれませんかー」


 周りの家にあまり聞こえないように大きな声を出す――これが難しい!


 しかし、そんな俺の声に対する女職員の反応はなかった。


 気付いていないのか? そのまま書類を書く作業をしてる。これ以上大きな声を出すのは危険だろうし……一応もう一回声をかけてから、この窓叩くか。


「すいませーん、貴方を殺して、緊急依頼の報酬金を盗み、ついでにこの信じられないくらいボロい建物の放火とを、順番通りにやりたいので、今すぐ下の扉を開けてくれますか? ……痛みを感じないよう一瞬で殺してあげますから。」


……ちょっとした脅し文句を言ってみたが、やっぱり聞こえてないみたいだなぁ。表情をピクリとも変えずに、さっきと同じようなペースで淡々と作業をしている。


 仕方ない、窓ガラス叩こう。 ガシャン、ガシャン……気付け〜〜〜〜!


 4回目……5回目――ガラスにひび入ってないよな――おっ、やっとこっちに気付いたか。ちょっと驚いた顔をしてこちらを見ている。


「下の扉を開けてくれますか?」


 女が驚いた顔から、一気に何を言ってるんだろう? という顔になる。

 これは……窓ガラスを叩く音は聞こえるが、声は窓ガラスに遮られて届かないということかな?


 そう考え、どうしたものか……と思ったその時、ミシッ!……ミシッ!……という音が足元の木から響いた。


 マズイ! と思った時には既に遅く、足元の木は崩れ、一瞬の風を感じた後、地面に叩きつけられた。




「グアッ……グーイデ〜〜」


 なっ……なんとか、頭は打たずに済んだ……でも、背中と腰が痛い! ……ちょっと涙出てきた。


 しばらく、地面に寝転びながら、痛みに耐えた。


「 ああ、なんとか、痛みが、引いてきたなっ……」


 まだ痛いけど。

 その時何処からか明るい声が聴こえてきた。


「いやあ、今日は良くやったぞクラウ、弓もなかなか上達してきたんじゃないのか。」


 人が痛みを必死に耐えている時に……何処からだ?


「ありがとう、父さん! 父さんが言った通りにやってみたら、的に当たるようになったよ!」


 明るい少年の声がギルドの向かいの家から聴こえてきた。

……さっきのおっさん共が入って行った家からか……呑気なこった。


「それはなぁ、クラウ、お前が天才だからさ、大人でもこんなに早く上達はしねぇ」


 痛みで気付かなかったがさっきのおっさんの声じゃないか、それにしてもこれは……親バカかな? っとそんなことよりもギルドの扉は……やっぱり開いてないな。


「今日はクラウの成長を祝って、私が料理を作ろうかな?」


 新しく女の声が聴こえてくるが無視だ無視、先に窓ガラスの方を確認しないと……俺が落ちたことを心配したのか、はたまた、死んだかどうか確認するためか、職員の女がこちらを窓越しに見下ろしてる。


「いっいやだな、カレッタ、俺だってクラウの成長が嬉しいんだから、俺に作らせてくれよ」

「そっそうだよお母さん、お母さん、依頼に行く時の武器の手入れとか、準備で疲れたでしょっ、僕はお父さんに作ってもらった方が、良いと思うなっ」


 んっ?なんかおっさんとクラウって名前の子供が急に焦り始めたような……


「そう……でもあなたにいつもご飯を作ってもらうのが申し訳ないの多少私が疲れていても今日はクラウを祝う為、いつも美味しい料理を作ってくれてるあなたの為にもご飯を作ってあげたいの、お願い。」

 そのカレッタという名のさっき見たであろう女の声を聞いて、おっさんが何か考えているのか沈黙がしばしの間訪れた。

「……うーん、そっそれじゃあ俺とカレッタでご飯を作るっていうのはどうだ?」

「それなら……そうしましょうか♪」


 俺の気のせいじゃなければ父親とクラウは母親カレッタの作る料理を恐れている感じがする。


 そう考えたとき、窓ガラス越しの女が窓に何かをしているのが見えた。

 何してるんだ? そんな風に思っていると突然、下の窓ガラスが上に上げられた。


……まじか……あの窓ガラスにも……鍵付いてるのかよ!




――違和感しかないわ




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