壱章 痛み
事件が起こった翌朝、ツバサはいつもの部屋で朝を迎えた。
いつもと何ら変わりのない朝、しかしツバサの調子は少し変わっていた。
「痛っ・・・・・・」
起き抜けに目に鋭い痛みが走った
「風邪か?・・・なんかしったっけ?」
色々な考えを巡らせたがそれ以降痛むことはなく結局気にしないことにした。
自室を出て一階へ下り朝食を取るためにリビングへと向かう。
その向う途中で聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あと運ぶものありますかー?」
(うわ・・・・・・この声って・・)
「あ、おはよう、相変わらず起きるのが遅いわねー」
寝間着姿を見てバカにする彼女。幼馴染のあかり。毎朝何故か家に来ては家事などを手伝う世話好きだ。
「うるせーよ・・・てか、毎朝来るなよ・・・・・」
「ツバサ!折角アカリちゃんが来てくれてるのになんてこと言う・・の・・よ・・・・」
母が説教途中で何かに気付いたのか語尾を弱めた。
「母さん?」
ツバサが頭をかしげるとアカリもそれに気づきハッと声を漏らした。
「なんだよ・・・」
「ツバサ、痛いところ無い?」
「あ?特に無いけど?」
「じゃ、じゃあかゆいところは?」
「ねえよ。なんだよ、顔に何かついてるのか?」
アカリの質問の意味が分からず聞き返していると母が口を開く
「いいから洗面所で顔を鏡に映してきなさい!」
「えー?」
「早くしなさいって!」
「わかったよ・・」
訳も聞かされないまま洗面所に向かい鏡で自分の顔を確認する
「・・・え?ど、どういうことだ?これ」
鏡に映っていた右目の眼球は真っ赤に充血しており、まぶたもまた真っ赤になっていた。
「な、何これ?はぁ?いやいや。何これ病気?」
触ると少し痛むがそれ以外に症状はなかった
「大丈夫?なんともない?」
後ろから心配そうにアカリが声をかけてきた
「ああ・・・少し痛むけど何ともないよ。たぶん寝てる間にぶつけたんだろ」
「本当にそれだけ?アレルギーとか夜更のしすぎとか」
「だから大丈夫だって、心配しすぎだってよ」
「むー・・・・・・で、でもそのままじゃ目立つしせめてこれでも使ってよ」
そういってバックから眼帯を手渡してきた
「・・・お前本当準備いいよな。普通眼帯なんて持ち歩かないぞ」
「そう?昔から怪我してばっかのあんたの世話してたら嫌でも色々持ち運ぶようになるわよ」
「けっ、はいはいそうですね。すみませんでした~」
世話好きな奴め。昔からそうだがガキの頃からの付き合いのアカリは俺の世話役だった。無茶して怪我してばっかの俺をいつも治療してくれていた。それは高校に入ってもそれは続いていて大きくなっても世話好きは止まらなかった
「何よその返事、まあいいいわ。学校終わったらすぐに病院に行ってね。それじゃまたあとでね」
「う~す」
―――学校
「よ、おはようっ」
ツバサの顔を見た友達が心配そうに訪ねた。
「おはようって、どうしたんだ片目?」
「これか?そうだな。さっきそこで悪魔と契約しとまってな。そん時に片目を・・・ぐ、み、右目が・・魔力が!!」
「何だそれ、お前そんなキャラ設定だっけ?」
「おう。今日から邪気眼スタイルだ」
「お、おう・・・それで、何かあったのか」
「・・・ここまで言わせておいてその反応だとさすがに恥ずかしいんだが」
くだらないいつもの日常がいつものように始まった
片目が使えないと焦点がいつもとずれるため授業が受けずらく過ごしづらかったが、痛みもないためそれ以外に支障はなくあっという間に放課後がきた。友達と別れを告げいつものごとく帰り道が同じなツバサとアカリは世間話をしながら、帰り道にある病院へと向かう
「そういや担任が言ってたけど、昨夜銀行強盗があったんだって?」
「う、うん。夜遅くだったけどね」
朝のHRで担任が言っていた何気ない世間話を思い出した。
「お前の兄も災難だな、折角の休みだってのに深夜に呼び出しくらうなんてな」
「まあ、それが仕事だからね。しかたないよ」
事件の捜査指揮をとっていたアカリの兄は刑事だ。休暇で休んでいたが緊急の呼び出しで現場に向かっていた。早くに両親を亡くしてから兄が親代わりに育てていた
「それで、その事件解決したのか?」
「一応ね。犯人の自殺ってことで解決になったって兄さんが言ってた」
「強盗してすぐ自殺ってのも不思議なもんだよな」
「それも単独犯らしいからもっと不思議なのよね。グループ内の仲間割れとかもでもないし誰かに襲われた形跡もないらしいしの」
アカリの兄によると自殺した犯人の近くには盗んだ金が一枚も盗られてなくその代わりに黒い羽が数枚落ちていたという
「ま、解決したなら別にいいさ。俺らには関係ないしな」
「そうね・・・あ、ほら。話してるうちに病院が見えてきたわよ」
「ああ、じゃあな」
「ええ、また明日。必ず行くのよ?」
「目の前にあるのにさすがに帰らねぇよ」
ツバサと別れたアカリは数分後自宅の玄関で一際目立つ黒い羽根が落ちていることに気付く。
「きれいな羽ね・・・なんでこんなところに?」
一瞬捨てようとも考えたがきれいな羽を目の前に捨てるのを躊躇していまいひとまず少しついた汚れを落とすことにした。
アカリの自宅前にはある程度広い庭があり隅っこには蛇口があり普段花壇の手入れをする際に活用されていた。
羽根を蛇口から出る水で洗い始めた。すると、羽根は崩れるどころか美しさが増し始め、今度はどこか神々しさまで感じるほどになっていった。
「すごーい・・・それにますますきれいになった!」
アカリは綺麗になった羽根を自室に持っていき、額に入れ一種のお守りとして部屋に飾ることにした。額にいれじっくり見るとますます美しく見えてきた
(一体なんの鳥の羽かしら。黒いのに綺麗だし)
綺麗な羽に心を奪われながら考えたがまったく思いつかない。その羽の主が自殺した強盗が見たものと同じとは知らずに・・・