第九話 おはよっ、世界!!
おはようございます!
今日も一日頑張っていきましょう!
徹達と合流した蒼真一行は、宙を浮いている球体に入ったニアルの案内で《魔術の館》の巣窟を目指していた。
「《破壊の豪よ、忘却し切ったこの地に、もう一度、神の裁きを!!破壊の災!》」
空中で詠唱を完成させた黒いローブを被った男は、片手に木で出来た杖を持ち、もう一つの片手には紫と赤で装飾された異形の本を携えている。
彼の詠唱完成後、青く快晴だった空には黝く禍々しい雲がこの辺り一帯の一面を埋めるように現れ、上の方でバチバチと雷が衝突しあっている。
「なんか雲行きが怪しく……ッ!?
ま、マズイ!小雪、徹、走れ!」
空の異変に気付いた蒼真は、
雲の動きで通常の動きではないと悟ると、全力の回避を推奨。
恐らく、徹の速度は問題ないが小雪が危険。
彼は、走り始めた小雪を抱っこすると全力で一本道を突き進む。
「うおおおおおおお!
蒼真さん、それずっとやってほしい!」
___ギラッ。徹が睨む。
「すいません…」
小雪はぐったりと下を向いた。
「あの雲行きはきっと《破壊の魔法書》の十三番目に記載されている魔法…破壊の災で間違いない。
アレは広範囲迎撃追尾型魔法だから、早く雲の範囲外に出ないと半端ない破壊力の雷が俺らを追尾してくる!!」
_____とその瞬間。
雲から放たれた雷は白く青く雷光が如く速度で徹の背後、梓を狙って放出された。
「《不死鳥の業火よ、気炎万丈が如く、敵を穿ち、不死の炎を煌めかせよ!鳳凰烈火弾!》」
いつの間に目が覚めていたのか、
梓は詠唱を完成させ、雷と不死鳥を相殺させようと放つ。
____が、破壊の力は強大で不死鳥は少しの時間稼ぎにしかならなかった。
「チィッ…!
私の不死鳥ではあの雷は抑えきれないか」
「梓!魔力消費はよせ!
雲の範囲外から出ることさえすれば、アレを落とさなくても大丈夫らしい。
ただ、少しの時間稼ぎは出来たみたいだ。
ありがとう」
梓は安堵して再び、徹の背中で瞼を閉じて眠りについた。
男勝りな彼女だが、褒めの言葉に弱いのだろう。
"ありがとう"と言われた時、僅かに顔が赤くなって、それを隠すために彼の背中に顔を押し付けたように見えた。
「後少しで魔法の範囲外だよッ!!
大丈夫、あの魔法は一日に一度しか使えない魔法だから魔術師は諦めるか、別の魔法を使うかしかない。
……あの魔法書に記されている魔法で広範囲魔法はこの魔法しかないんだ。
つまり、ヤツは諦めるか、自分で追ってくるかしかないんだよ」
_____「その通り」
黒いローブを被った男は、彼らの行く手を阻むように一本道の真ん中に現れた。
「転移魔法を使えるのか……!」
「お前は使えないのか?
同じ魔術師なのに」
黒いローブの男はローブを脱ぎ捨てて、
姿を露わにした。
黒い修道服で全身を包み、袖口から僅かに出た手の肌の色は、絵の具の灰色を水で薄めたような色をしている。
それでいて、髪の毛は皆無。
スキンヘッドの頭は、肌の色だけでも不快感を与えるのに、さらに肌の色を露出する髪型になっていた。
「同じ魔術師でも、格好良さがまるで違うね…」
「小雪、それは主要キャラとサブキャラの違いだよ。
ほら、戦闘が始まるみたいだ。
俺らは木陰で日向ぼっこしていようか」
戦闘能力皆無の二人は、二人と少しだけ離れた場所に位置する太陽の日差しが直射で当たる木陰に腰を下ろした。
「ふむ……?戦闘は貴様のみだけなのか?
そんなんでよく生き残ってこれたな」
確かにそうだ。
優れた王都騎士と言えども限界はある。
だが、まだ蒼真には余裕が見えた。
「……何故、貴様は雲を見ただけで魔法名と対処法が分かった?
まさか、この魔法書のページ、全てを記憶してるとでもいうのか?!」
男の言葉にニヤリと笑みを浮かべ、
彼は肯定した。
「そうだ。
俺はこの世に存在する魔法書、3200冊を全て記憶している。
勿論、《世界暦書》もな!」
___男は戦慄した。
一つの魔法書に書かれている魔法の数は恐らく五十を軽く超えている。
其れを3000冊分覚えている?と。
____あり得ない。
男は詠唱を以ってその嘘を阻もうと、
手向けを_____だが、魔法の最大の弱点とも言える詠唱失敗は確定的だった。
「《死者の手向けに……》」
「破壊の魔弾はさせない!」
一気に間合いを詰め、男の詠唱の邪魔にと、飛び上がり顔面へのハイキックを放つと、これを腕で防御した男は一定の距離を保とうと必死に後ろへ後退する。
「何故だ!!
まさか、本当に詠唱だけで魔法が見抜かれるのか!?」
「遠くに離れるのは構わないよ。
俺の魔法で斬り捨ててやる!!
《炯然月華、月の光に華が舞い、邪気を祓う救いとなれ!
光輝の剣!》」
今回も横振りに剣を振り切ると、
男の転移が間に合わないくらいの速度で斬撃は放たれた。
眩く黄色い光は、邪気の全てを祓い、斬り捨てようか。
「その魔法は俺には効かない!!」
"何かしてくるのか"と疑問に陥るが、
そんなことはなかった。
男はすぐさましゃがみ、匍匐前進の姿になると、斬撃に頭スレスレで避け切った。
「あっ、危ねえ……!」
「光の速度で飛ぶ斬撃を予知して、
回避しただと…?!」
匍匐前進の体勢から立ち上がる男を見つめ、剣を鞘にしまう蒼真。
____丁度、そのタイミングで。
……僕は言ってしまったんだ。
男の逆鱗に触れる一言を。
「髪の毛あったら禿げてたね」
____瞬間。
破壊の魔法書を片手に、男は空中を浮遊していこう。
先程とは違う禍々しい光を放ちながら、上へ上へと上がっていく男の表情は憤怒そのもの。
「私は髪の毛がないわけじゃない!!
こういうオシャレ髪型なんだよ!!
そこの小僧の言葉を悔やめ!
私の本気を見せてやる!!」
男の魔力が強大なまでに上がっていく様を、蒼真は見届けるしかなかった。
自分が言ったことを忘れたのか、徹に肩を叩かれても全く目を覚まさなくなってしまった小雪を含めた三人を守るのは自分の役目。
だが、彼は次にどんな魔法が来るのか耳を澄まして聞いていた。
魔法書に載っている魔法であれば、詠唱を少し聞いただけで把握することは可能。
それが突き止められなければ、動くことは危険だ。
「《高貴なる全ての闇よ、明るき世界に混沌を、闇の力は破滅の力なりて!
破滅の雷撃!》」
____この時、男が唱えた魔法は蒼真の思考回路の中には組み込まれていなかった。
だが、何となく嫌な予感はするので鞘から剣を抜き、詠唱準備を。
「死ねえええええええ!!
この頭を馬鹿にしたやつは死ぬって私の中で決まりがあるのだ!!」
男の杖からは黒く白い雷が放たれ、蒼真は其れを相殺しようと魔法詠唱を対象に手向けようか。
____直後。
男の創り出した白と黒の雷は、彼の前から消えた。
「……消えた!?
……ッ!!ぐぁぁぁぁあああ!!!」
蒼真は魔法の詠唱を途中で破棄すると、
辺りを見回す。が、何もない。
男の方を見あげようと視線を移したが瞬間、
痛絶な痛みが彼の全身を襲った。
骨と肉の間に電撃が走り、声にもならない声がその痛みの壮絶さを物語っている。
「ふはははははは!!
バカめ、この魔法は対象に見えない状態で当たる電撃を浴びせる魔法なのだ!!
これで私の魔法書計画を阻む王国騎士は戦えないな!!」
膝をつき、地面へ前のめりに倒れた蒼真は、剣も手離してしまった。
薄れてゆく意識の中、空中に居た男がこちらへ降りてくるのが分かる。
体も動かない。これで終わりか。
そう思った瞬間だった。
____いつもやる気のない人物が立ち上がり、男の顔面を自分の拳で殴り飛ばしたのは。
「……すやすや。ねむねむ。」
「……ッッ!?こ、小雪!?
お、お前、そんな力が……!?」
徹が小雪に駆け寄り、
力のことを聞くが返答はない。
それに、少しだけ違和感があった。
いつも気怠げに閉じそうで閉じていない瞼も、今は皮膚と同化するように閉じているのが分かる。
「まさか、眠っている?」
その答えも彼には言えない。
立ち方も歩き方も普通だが、今の彼には何処か"強さ"を感じる。
「蒼真!起きろ!
小雪が……おかしいんだよ!」
「……うぅ、うっ。
こ、小雪君が……!?」
痺れて動けないレベルの電撃を喰らっても尚、彼は気力だけで立ち上がった。
だが、もう戦うことはできない。
筋肉と骨の間が軋むように痛い、電流による痺れがまだ残っているのだ。
彼はゆらゆらと動く小雪を凝視した。
確かにおかしい。目を瞑っていて、本人の自我はないのに魔術師の飛ばされた方向を向きながら強烈なまでの殺気を出している。
「痛ってて…突然なんだ?
私の顔を殴り捨てたのは……」
男は起き上がり、目を瞑る目の前の少年を凝視した。
先程とは違う感覚に、疑問を感じる。
彼はこの疑問について頭の中で考えようとしたが、彼にそんな時間は残されていなかった。
「《大器晩成、眠りは人類を回復させ、眠りは人類に癒しをくれた。眠りとは、力の源、今ここに寝言を吐こうか!
眠りの剣!!》」
彼が腰に携えている普段使わない剣は引き抜かれた瞬間、横に振られ、巨大なまでの白い斬撃を生み出す。
白く蒸気のような斬撃は、慌てふためく男の体を通過し、空気中に消えた。
特に何も影響はないようだ。
"見た目"だけでは。
「ふはっ……ははははは!!
なんだよ、意味ねえじゃ……!!
ぐかー、すぴー、ぐかー」
元気のあった男は、暫くして眠ってしまった。
眠りとは人類にとっての平和、加護だ。
「眠りの加護を受けるのはどういう気持ちだ?
素晴らしいだろ。
そのまま、永遠に眠れ!」
小雪から放たれた一言は、魔術師を静止させた。
脈を打ち、生きるための生命線が完全に斬られていなかった彼は、等々、もう目覚めることはなくなった。
小雪のたった一つの所業によって。
「永遠にお休み……!!」
男に眠りを手向けた時、少年は、眠りから解放されよう。
開くことのない口と開くことが無かった瞼が開き、彼は一言紡ぐ。
「おはよっ……世界!」
元に戻った少年への情報処理能力が足りてない二人は、必死に考えようと、頭の中の脳味噌を必死に働かせ、彼の今の状態についての原因を急いだが、見つかるはずもない。
今ここに《眠り勇者》の誕生を稀しようか。
今日から毎日投稿が出来るかどうかさえも分からなくなります。
理由は仕事の忙しさから、寝落ちする可能性があるためです。
もし、寝落ちしてしまい更新ツイートを出せなかった場合、次の日に投稿できるように頑張ります!
そうならないように最低限の努力はしますが、
最悪の場合を考えてエタらないようにだけは必死になります( ´∀`)
今後とも「気怠げ勇者の世界取り戻すの面倒くさ〜い」をよろしくおねがいします!( ´∀`)




