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第八話 あいつ主人公だろ?もっと話せよ!

おはようございます!

今日も1日頑張っていきましょう!

_______翌朝。

樹々に垂れる朝露が眩い日差しで、宝石のように輝く朝。


一行は朝起床し、眠そうに覚束ない足取り新王都を目指す。

前王都の理想郷(アルカディア)は現在、魔王が拠点としている場所で、その広大な敷地は今まで人間が大きな存在であったと確信するほど。



「_______まあ、昔の王都に比べたら小さい場所かもしれないけどさ。

今の王都はそれなりに良い場所だよ、日差しが浴びれないのが残念なんだけどね」


何か意味深なことを言ったような気がして、

「それどういう意味?」と小雪が聞こうとした瞬間__________野球ボールほどの小さな火の玉が徹の背負っている梓に向かって飛んできた。



「_______怪我人を狙うなんて最低だな」



蒼真の白く、銀色に輝く剣で炎の球は軌道と形、速度を読まれてからに一刀両断されると、力を失ったように地面へめり込んだまま静止した。



「チッ…ずらからねば!そそくさ〜〜そそくさ〜〜そそくさ〜〜!」


その時、草むらから出てきた茶色いローブを被った小さな人物は大急ぎで逃走を図る。

これは小雪が感じたものだが、その人物はどことなく子供のような雰囲気があった。



「追うぞ!!」


「おう!」


「え〜〜〜!」


走り出した三人は、思いの外、素早い小さな人物を追う。



「スタスタスタぁぁぁあ!!

ヤバい、あの騎士、速い!」


全力疾走で追いかける蒼真は重い鎧を着ていてるのにも関わらず、まるで疾風の如き速度で小さな人物に追いつきそうだ。


「これでも喰らえ!!」


小さな人物は破壊された廃街に足を踏み入れると、近くに積み上がった瓦礫の軸を転ばせて、彼らの行く手を阻もうとする。



「こんなの俺を阻むものにすらならないな」



瓦礫ごと片手剣で斬り裂いて、目の前を走る小さな人物の背中のローブを____やっとの思いで掴み取り、上へ上へと持ち上げた。


「はあっ…はあっ…はあ。

ほら、白状しろ!!ウチの怪我人を狙った理由は何だ?」


「チッ……捕まっちまったモンはしょーがねえなー」


小人は茶色いローブを脱ぎ捨てると、盛大なまでにその素顔を見せつけた。

彼の容姿は、身長100cmも恐らくない程で茶色く整っていないボサボサとした短髪、見すぼらしい服を身に纏っている子供だった。



「あんたら、そこに居る女の知り合いか?その女、この辺じゃ有名な《魔女(ストレガ)》の《赤蓮の魔女(ロッソ・ウェネーフィカ)》だぞ!!


其奴が瀕死になってれば、襲わない奴なんて居ないぜ多分!!」


子供は自慢げに話を続ける。



「あんたらも知ってんだろ?

十年前の事件から始まって、人類にとって《魔女(ストレガ)》の信頼はゼロに近いモノだ。

少しでも魔法が使えれば、首に金をかけられるからな。

俺はその首を狙ったってだけよ」


"この子供が10年前の事件を知っている?"

恐らく、場にいた全員そう思った。



「あんたら、今俺の年齢のこと疑問に思ったろ…。


しょうがねえ、良いチャンスだから自己紹介してやんよ!!


泣く子も黙るニアルとは俺様のことよ!

因みに俺の年齢は25歳。

この姿はとある《魔女(ストレガ)》に変えられてしまってな」


"何様だよ本当に"

____と、蒼真は思った。



「成る程、理由は分かったよ。

懸賞金を狙ったってことな。


泥棒鼠(こそどろ)》のニアルってのは、君のことか。

丁度良かったよ、俺、君を探してたんだ!」



ニアルの顔色は突然、青くなった。

そして思い出す。

自分を追って、王都の騎士が嗅ぎ回っているという噂を。



「____さあ、数週間前に奪った魔法書を返してもらおうか!」


「____残念ながら此処にも俺の手元にもねえよ。

俺は客に売っただけさ」


蒼真の顔つきは恐々しくなり、

片手に携さえた剣をニアルの首筋に当てて__


「誰に売った!!

お前はあの魔法書がどんなものか分かってるのか?!」


「あんな本に何を縋ってんだよ。

王都の連中はそんなに読書好きなのか?」


ニアルの小馬鹿にした態度に怒りを覚えた蒼真は彼の首元に剣の刃を押し込む。

斬れる寸前で力を込めて、止めると彼は恐れ慄いたのだろう。


涙目でこう言った。



「わ、悪かった!!

あの本は《魔術の館(ウィッチ・クラフティ)》という団体に売ったよ!!


高値で買い取ってくれるってことで!!」


ニアルが言った後、蒼真は手を離し、彼を地面へと叩き落とすと鞘に剣をしまって彼の手に手錠を掛けた。



「魔法書窃盗は最悪の刑に準ずる犯罪行為だ。よって、貴様は今から俺が管理し、王都まで持っていく!

《穢れた罪人、世界を混沌に陥れし最悪の悪魔よ、我が光を以って、蹂躙されるがいい!

光の拘束壁(ライトニング・リストレイント)!》」


彼の詠唱後に紡がれる小さな球体の防壁は、ニアルを包み込むと宙に浮いて彼を拘束した。防壁に出たいという気持ちで触れれば、光魔法が球体の中で自動的に発動され、対象を痛めつける拘束魔法の一つだ。




彼らは廃街から出て、元の森の道へ戻ると、小雪が困惑した表情で、蒼真に問いかけた。



「……ところで、蒼真さん。

僕、魔法書のことをよく知らないんだけど魔法書ってなに?」


「嗚呼、魔法書は《魔女(ストレガ)》が自分の魔力を本として形に残したものなんだ。

だから、魔力を持っていない人間でも魔法書さえあれば、圧倒的な力を手に入れることが出来る。

故に、魔法書を一般人が使うのは大変危険と言われていて、王都の図書館で厳重に保存されているよ。


魔法書はこの世を生きている《魔女(ストレガ)》の数だけあるんだけど、

《魔女》が魔法書を作れる回数は一度のみ。

つまり、一生涯に残す子供のような存在だと言われているよ。」


へぇ〜、と少しだけ興味を持った小雪は、今回盗まれた魔法書についても問いかける。



「今回盗まれたのはどんな魔法書なの?」


「うん、それが《破壊の魔女(ディストラクション・ウィネーフィカ)》っていう魔女の破壊目的であれば、何でも出来るっていう王都の図書館で管理されている中でもかなり危険度の高い魔法書なんだよ」


《破壊の魔女》一度は耳にしたことのある《魔女》で間違いはないのだろう。

数年前に亡くなったことで有名度は下がったかもしれないが、《魔王》に仕えていた《魔女》の中でも気性の荒い性格で前王都を破壊し尽くしたのはこの《魔女》だ。


徹が思い出し、辛そうな表情で話し始めた。



「今俺らが歩いていた森の麓にある街を全て破壊したのはあの《魔女》だしな。


そいつなら俺は出会ったことがあるよ。

昔住んでた村を壊滅させた《魔女》だ」



「そう。その《破壊の魔女》の魔法書が、今、ニアルの言う《魔術の館》と言う場所にあるのなら、取りに行く必要があるな。


……ニアル、案内しろ」


ニアルは睨みつけられると、恐れ慄いたように額に大量の冷や汗を流しながら彼らを道案内しようと声を紡いだ。



__________数十分後。



「《魔術の館》なんて場所、聞いたこともないぞ。本当にあるんだろうな?」


「あ、ありますよ!!

《魔術の館》は組織名なんです。


ここいらであれば有名な方ですよ!!」


後ろを歩いている徹へ、そのままの疑問を伝える____


「魔術の館?聞いたことねえな、この辺に住んでんだけど」



「元盗賊で魔法を使える《魔術師(ダンテ)》が仲間と共に立ち上げたらしくて、王都陥落を狙って魔法書を集めてるらしいです!!」


必死に説明しても、横目で睨まれるだけの犯罪者ニアルを可哀想な目で見る小雪。


その視線に気づいたニアルは、

"あいつ主人公だろ?もっと話せよ!"と思念を送った。



「王都陥落ねえ。

人類同士が争っても意味はないのに、

何故変な欲に炊かれた馬鹿はそういうことをするのか…!」


「まあ、人の考えなんてそれぞれだからな。

俺らはそう思っても、盗賊の成り上がりじゃあ、ロクなこと考えられねえだろ」


徹と蒼真が綽々と話を続ける中、小雪は半分眠った状態で彼らについて行っていた。

主人公なのに台詞数が圧倒的に少なく、

付いてきているのに居ないようなレベルの存在感の無さ。

最早、それだけでいえば天才級だ。


「小雪、もっと話せよ。

そうしないとお前、このままじゃ、蒼真が主人公みたいになっちまうぞ!」


「いいねそれ!!

《王都騎士の世界取り戻すよ、絶対!》に変更し……」


「だから、やめろってのが聞こえないのか?あぁん?」


頭を下に押さえ付けられて、痛みに耐える小雪は"申しません"とまでは言わず、必死に"ごめんなさい"と謝罪の言葉を告げた。



「……囲まれてるな。

数は複数」


森の小道から少しだけ広い野原になると、入口と出口を複数の気配で塞がれて、野原を遮り、四角い正方形に留めさせている樹々の間からも複数の反応を感じた。


蒼真の気配察知能力では、噂に聞く《魔術師(ダンテ)》の姿はないが、一人だけ一回り大きな斧を持った大男が居るようだ。



「君らは俺が合図したら全力で走って!

此処は俺が引き受けるよ。」


彼は、野原の真ん中辺りで剣を鞘から引き抜き、地面に突き刺した。



「ふ、複数の敵に囲まれては勝ち目がない!目的はなんだ?金か!!


それであれば、置いていく!

せめて命だけは!」


泣きべそをかくような弱々しい声を、彼は突然として吐いた。


__________すると、森の中からは複数のモブ集団が現れ、武器をギラつかせながら蒼真の近くに寄ってきた。

その中でも一際大きく、巨大な斧を持っている男は地面に刺してある剣を手に取り。



「なかなかの上物だなあ!!

てか、お前、気配察知だけは優れてるんだなあ!!


だが、俺ら《魔術の館》の縄張りに入っちまったお前らが悪い!

持ってるもんを全て出せ!!」


____男が威張った瞬間。


「今だ!行け!!」


徹と小雪は合図に合わせて、全力で出口へ向かう。



「あぁん?させるわけ_____」


____刹那。

一人の少年は、閃光が如く速度で徹達へ弓矢を向ける盗賊の集団を(ことごと)く瞬殺で殴り飛ばし、大男の振りかぶった斧を鎧を纏っている片手だけで止めた。


「んぬ……?!」


大男に全力のアッパーカットを与え、彼の頭上へ飛び上がると、上を向いたままの顔面にかかと落としをお見舞いする。


_____瞬殺。

弓矢を持った兵士と斧を持った大男以外の兵士は、腰を抜かしたように膝をガクガクさせて彼に剣の矛先を向ける。



「……その剣はお前らみたいな心が汚れきった人間が触っていいものではない____身の程を弁えろ!」


大男が落とした自分の剣を片手に持つと、

彼は残党に詠唱で手向けの言葉を。



「《炯然月華(けいぜんげっか)、月の光に華が舞い、邪気を祓う救いとなれ!

光輝の剣(ルーメ・スパーダ)!》」


彼の剣に眩いばかりの黄色い光が灯り、

剣を横へ振り斬った。


_____直後。

横に広がった黄色く眩い光の斬撃が彼らの上半身と下半身を簡単なまでに斬り離し、後ろの木々をも斬り倒す。


心地の良い風も吹かない湿った空気の野原には、赤く鮮血な血液が池のように溢れかえる。

彼は憤怒の感情を剣と一緒に鞘にしまい込むと、出口に着いたであろう徹たちの後を追って走り去っていった。



________彼の力を見届けた木の上に現れし、黒い影。



「ほう。アレが《光輝騎士(スヴィエート・シュヴァリエ)》の実力か。


凄まじいな、これほど広大な森の一部分を一振りで全て一刀両断か。

流石、《魔女の子》よ」


黒い影は空気と混じるように消えた。


音もなく、不可もなく。


静寂に飲まれるかのように。



ご拝見ありがとうございました。


最近暑いですが、皆さんは熱中症にならないように気をつけてください(笑)


ブックマークと採点等ありがとうございます!

大変励みになっております!


また、これからも「気怠げ勇者の世界取り戻すの面倒くさ〜い」をよろしくお願いします!

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