第十六話 俺は《魔女の子》だよ
おはようございます!
今日も一日頑張りましょう!
それから数週間の時が経ち、
優吾の残した白く丸い球体の結晶を持った新木場と、俺とマリアはとある廃村へ向かった。
球体の結晶を疑似世界を創り出すことが出来る魔法の結晶らしい。
その空間を廃村の地下に創り出す予定らしい。
その為には廃村の地下に空と光で結ばれる魔法陣を作り出し、守り抜かねばならない。
少しでも邪の存在が魔法陣に入れば終わり。
当面は、マリアが守ってくれるそうだが、どこまでの魔物が襲ってくるかわからない。
ので、俺も一応呼んでいるらしい。
でも、正直、剣を振るう覚悟がない。
俺如きに出来るものだろうか?
分からないが、その時は来てしまった。
_______新木場が結晶体を地下に投げ入れる。
すると、青白い光が廃屋を貫通し、空へと向かっていき、雲と接触すると無数の光に変わって世界の端と端までを観測し始めた。
現在の世界ではなく、平和だった頃の世界を、取り戻すが故に。
「……ほう、すごいわね。
新ちゃん、この間の魔物を私らが倒せばいいってことでいいのね?」
「ああ、そうだよ。
蒼真は剣に慣れないかもしれないが、これは最後のプレゼントとして受け取れ。
優吾の愛剣……《白銀の剣》だ。
特殊な武器だから使い方は後で説明するが、とりあえず、今は剣で使え!」
剣で?不思議な言い回しで、疑問を抱くが気にしてもいられない。
マリアが手に黒い手袋を嵌めると、集まってきた複数の魔物に向かって突っ走った。
「おらぁぁぁぁぁああ!!」
マリアの拳は魔物ではなく、地面に振り下ろされる。
すると_______突如として現れる尖った結晶の礫は魔物を串刺しにし、行動力を失わせた。
これが、《創造の魔術師》の実力だ。
「……マリア、凄い!!
お、俺も頑張らないと!!」
蒼真も魔物に向かって叫びながら突進し、
剣を振るう。
「……ぐあっ!!
ダメだ、全然当たらない!!」
「蒼真ちゃん、私達知ってたの。
貴方が《混沌の魔女》の息子だってこと。
でもね、大丈夫よ。怖がらなくても、
今、その力で私達を護れるのよ。
だから、解き放ちなさい!
蒼真!」
「……マリアありがとう。
分かったよ、俺やってみる。
「《炯然月華、月の光に華が舞い、邪気を祓う鉄槌となれ!!
光輝の剣!》」
彼の剣からは眩く黄色い光が立ち込めると、
剣を振るうことで巨大な斬撃として一気に解き放つ。
横に振るった剣からの斬撃は光の速度で群がる魔物を一気に一刀両断した。
「……ゆーちゃん、願い叶ったわね……」
ぐすん。と涙を流すマリアを傍らに、
俺は消え逝く斬撃の光を浴びて、自分の力に自信を持った。
_______それから三年後。
人類が世界を取り戻してから三年経ったある日、新木場の下で忠誠を誓っていた蒼真は王国騎士の一団、《円卓の騎士》に属することを命じられる。
すっかり大人になった蒼真は、
マリアや新木場からの剣の稽古によって瞬く間に《理想郷》での戦闘経験は上がっていた。
そんな蒼真が楽しげに《円卓の騎士の界隈に足を踏み入れ、親しげな友人を作ったことでまた事件が起こる。
「……蒼真ぁ、こっから飯行くか?」
「西木くん、いいの?」
同期で騎士団に加入した西木という茶色い髪の青年は、鼻の上のそばかすがトレードマークのお調子者だ。
騎士団に入団してからというもの、すぐに蒼真と仲良くなり、一緒に稽古なんかもしている。
「……あったりめえだ!!
んじゃ、飯行こうぜーー!」
「うん!!」
二人で王国近くのレストランに入った。
沢山、料理を食し、二人でたわいもない話をした後。
その帰り道に、西木は蒼真を路地裏に連れ込んだ。
二人きりで話がしたい、と言ったためだ。
何を改まって?
と蒼真は疑問を浮かべている。
「俺、お前と同期で入れてよかったよ。
こんな想い、もう出来ないかと思ってた。
過去の話、していいか?」
西木が話し始めると、
蒼真は黙って頷きながら彼の目を見て話を聞き始める。
「俺さ、家族が居たんだ。
でも、あの日以来、全員死んじまった。
必死に生きようとして、頑張ったんだけどなあ、無理だった。
父と母と妹が二人。
可愛かったんだけど、もう会えない。」
カタコトで紡がれる彼の過去と、自分の過去を照らし合わせてみるが合わない。
俺がしたのは幸せを奪われたのではなく、奪い取った方だ。
「蒼真の家族は?」
「俺も両親を失ったよ。
一人っ子だから……」
すると、彼は空を見上げて強く叫んだ。
「俺は!!混沌の魔女を許さねえ!!
こ、殺してやる!!絶対にだ!!!」
何故だろう。
彼が言った言葉は自分に言われているような気がした。
そんなことはあり得ないんだけど。
「……はぁ、スッキリしねえなあ!!
やっぱり、忘れることは出来ないよな。
俺は永遠に忘れない。
魔女の恨みを、絶対にだ!!
んじゃ、そろそろ帰るわ。
おやすみな、蒼真。
また明日!」
彼は自分勝手に去っていった。
結局、何がしたかったのかは分からない。
でも、なんとなく察せるのは《混沌の魔女》に強い恨みを持って生きているということだった。
蒼真は家へ帰ろうと、一歩を踏み出した。
_______翌朝。
普段、喫茶マリアに寝泊まりしている蒼真はマリアに起こされる前に起きるのが日課。
だが、今日は違った。
「おはよう!マリア、朝ごはんは?」
「ちょっと待ちなさい。
蒼真ちゃん、そこに座って!」
朝からマリアは酷く真剣な表情で、
怒っているようにも見えた。
「……これは忠告よ。
貴方は王国に《魔法騎士》として登録されているのは分かっているけれど、
貴方の母親のことは言ってはいけないわよ?
この世界には沢山彼女を嫌な目線で見る人が沢山いるから、分かったわね!?」
「ああ、分かってるよ。マリア。
どうして、そんなこと言うの?」
マリアは真剣な表情を解き、
悲しそうな表情に切り替えると溜息をこぼして呟いた。
「貴方が愛用しているゆーちゃんの剣から混沌の光がたまに漏れているのよ。
だからね、魔法を使うのなら王国で配布された剣にしなさい!
そうでなければ、バレた時に苦しいのは自分よ!?」
蒼真はあの日から《白銀の剣》を使い続けている。本当の使い方も新木場から伝授してもらい、自分の魔力を流し込んで使う特殊魔法武器であることも分かった。
その魔力が血を引き継いで《混沌》であるならば、このまま普通の剣を使わないでおくとバレる始末になってしまう。
マリアはそう踏んだのだ。
「……分かったよ。
でも、次の実践稽古の時で最後にしてほしい!!
最後の光輝の剣を撃ちたいんだ!」
「……好きになさい。
私は忠告しただけよ。」
マリアの言葉は冷たかった。
凍てつくように。降り注ぐ雨のように。
_______その日の夜。
稽古が終わり、いつも通り西木と食事に行っていた時のこと。
西木は二人で話したいと言って、暗い路地裏に蒼真を連れ込んだ。
「……今日はどうしたの?」
「……ああ、俺さ、知ってんだよ。
お前が《混沌の魔女》の息子だってこと。」
視界と思考が同時に真っ白になった。
え?なんで?知ってるわけない。
俺が一番隠したい事実をなんで知ってるの?
何も答えられない、口から声が出ない。
「……だんまりってことは本当なんだな?
……こ、このっ、人殺し!!!!」
か、かまかけ!?
西木は力一杯に赤らめた顔を歪ませながら強く叫んだ。
「……やめてよ、西木。
俺は《混沌の魔女》の子供なんかじゃないよ。
前に言ったろ?
俺の両親は死ん……」
「嘘はやめろよ。
お前のお得意の愛剣使う時によ、滲み出てる黒いオーラはなんだよ?
俺は見たことがあるんだよ。
《混沌の魔女》の姿を!!
お前と同じオーラを纏ってた。
どういうことか説明しやがれ!」
もうダメだ。
バレてしまった。
だから俺は正直に言うことにした。
「……ああ、そうだよ。
俺は魔女の子だよ」
「あぁん?テメェ、やっぱりか!!
とうとう本性を現しやがったな!!
《魔女の子》!!」
「……俺だって生まれたくなかったよ、こんな腐った世界で、生きたくもなかった!!」
蒼真は悲しみの声を叫ぶ。
「……じゃあ、死ねよ。
お前なんか要らねえ!!
俺が殺してやろうか!!」
彼の目は血走っているように見える。
今なら何をされても驚けない。
_______だけど、あの人が教えてくれたから、俺は最悪の道を選んでしまった。
「……殺せるものなら殺してみろよ。
俺とお前じゃハッキリとした力の差があるのは知らないのか?
詠唱魔法はお前を簡単に斬り裂く!!」
「ちぇっ……!!
魔女野郎、覚えていやがれ!
この先、お前の居場所なんて無くしてやる!」
彼は走り去っていった。
_______それからというもの、蒼真に対する《円卓の騎士》での嫌がらせは止むことは無く、外の世界の住人にもよく思われなくなってしまった。
彼は《魔女の子》
世界を陥れた《混沌の魔女》の一人息子。
最悪の存在。だと、恐れられて。
遅れてすいません。
昨日の投稿は寝落ちが原因でできませんでしたが、今日は出来ました(゜∀゜)
それにしてもシノアリスのメンテナンスはとんでもないですね〜。
早くやりたいのに出来ない……おっと、こんなところでぼやいていては(笑)
それでは、次回もお楽しみに!!




