第十五話 この世界では生きていいんだ……!
おはようございます!
今日も一日頑張っていきましょう!
「な……なんでよ優吾さん…!!」
灰色の吹雪漂う場所で俺が見たのは、
俺の方を笑顔で眺め、口からの吐血も気にせずにただただ、満足して仰向けに倒れた雪代さんの姿だった。
俺は、この時間を忘れられない。
_______数時間前。
いつもの下水道では、長きに渡って下水も流れなくなった地上のお陰か、安定した生活が送れるようになってきている。
その為、マリアが廃墟となった喫茶店から様々なキッチングッズを持ち出して料理にも食材にも困ることはなかった。
「マリア〜〜、今日は一段と綺麗に見えるなあ!!」
「あんた……ちょっと飲み過ぎよ!
久しぶりのお酒だからって調子に乗ってると!」
久々のお酒に酔って、真っ赤な顔でマリアに怒られている雪代を見る俺。
普段と変わらない風景、これが満足の景色。
「な〜んだよ、蒼真!!
ニヤニヤしやがってよお〜〜!
こんのっ!やろうっ!!」
髪をワシャワシャと乱される、
俺は嬉しかった。
数ヶ月前であれば、こんなことはあり得なかったのに。
「……今日は三人で飯を食って、一緒に寝よう!!
このくそったれな世界に終止符を打ってやるぜ!みたいな気持ちでな!」
「うん!」
マリアは薄々感づいていた。
彼の楽しげな瞳の奥底にある真実を。
_______夕食後。
「ごちそーさまでしたー!」
三人で楽しく笑顔で手を合わせ、晩餐に終止符の手向けを行った。
すると、早々に古びた布団を三人分、床に敷いた雪代は蒼真を真ん中にして、マリアと挟むように寝転がる。
「……じゃあ、寝ようぜ!!
起きたらきっといい朝が待ってる!!
おやすみ、蒼真」
「……優吾さん、おやすみなさい」
俺は目を瞑り、深い眠りに落ちた。
明日も楽しい生活が待ってる。
二度と来ない生活に夢を持って。
「マリアもおやすみ。
寝ろよ、俺は外の空気吸ってくる」
「あんた……」
「なんだよ、綺麗なオカマ顔が台無しだぜ?そんなに涙堪えてよお、大丈夫。
俺はどこにも行かねえさ。
お前らに居場所作ってやりてえんだ。
マリア、ありがとな」
彼はそれだけ言い残すと、地上へ登るための梯子を登り去っていった。
「あの馬鹿……!!
あんたがこんなことしても……私達は素直に喜べないわよっ!!
……蒼真ちゃんは、私達の子供みたいね。
ずっとこの生活が続くのなら、
それが良かった。
でも、世界は残酷ね。
私達、《魔術師》の運命は人類を守るために死ぬこと。
最高に良い男だったわよ、ゆーちゃん」
_______マリアが祈りを残す頃。
彼は地上に登り、この日までに準備してきた魔法陣の軌道を行う。
そのための詠唱で自分の人生に終止符を。
「《空よ、大地よ、海よ、森よ!
生命を生み出す、世界の理よ!!
この非力な魔術師に力を貸してくれ!
私は、他人に認められることが怖かった。
裏切りを恐れ、でもそれは私の甘えだ。
私の半分も生きちゃいない少年が、世界に認められず、裏切りも恐れていない!!
私は弱い人間だ。
力ばかり持っていても、役に立たなければ意味はない。
だが、私にも出来ることはある!
世界を創り出すこと!
私の人生は最高に楽しい毎日だった!!
もう、悔いは……いや、沢山蒼真の笑顔が見てえよ。もうそれも叶わない。
でも、良いんだ。
蒼真、ありがとう。
俺は世界を創り出せる男だぁぁぁ!!》」
彼の長い長い詠唱が終わる頃、六つに配置された魔法陣が結び合って大きな魔法陣を展開させよう。
それはこの世界を包み込む、大きなものに。
擬似世界を創り出すためのコピー状態。
_______だが。
「何をしようとしてやがる!!
《魔王》様の計画に嫌な兆しが見えるね〜!
この無防備な体勢、死んでもらうよ!」
彼は両手を広げ、魔法陣に魔力を送り込んでいる。
今、魔物と戦う余力なんて残されてもいない彼が絶体絶命で終わりかと思った瞬間。
_______一閃の光が魔物を切り裂いた。
「大切な戦友が未来を創り出そうとしてんのに、俺が何もしねえなんざあり得ねえ!
《破壊の魔術師》が所以、新木場平八郎が見参してやったぜ!!
この侍、お前が魔法を完成させるまで一ミリたりともここから動かん!」
新木場の鋭い攻撃に魔物は次々と一刀両断され、倒されていこう。
そして、彼の魔法が完成という道を辿った瞬間。
「……この先の未来は私が約束する!!
この世界に争いなど認められない!!
私がこの世界の創始者だ!!
空間創作魔法-極伝!!擬似世界創作!」
彼の口からは大量の血液が溢れ始め、
脳内はマグマのように溶け出し始めている。
彼は願ってしまった。
この瞬間にもう一度、蒼真の顔が見たいと。
だが、その願いは叶えられない。
そう思った瞬間だった_______
「な……なんでよ、優吾さん!!」
ああ、蒼真。
お前はもう生きていいんだよ、縛る理由も縛られる理由も貶される理由もない。
俺が創り出した世界には争いなんてねえんだ。だから、お前はこれで笑顔で生きれる。
一人でも立ち上がって生きていけんだ。
俺はそれをこの目でそばにいて見てやりたかった。
でも、もうこの言葉も伝わらない。
俺は、本当にお前のことが大好きなんだ。
雪代は彼の方を向いて、口から吐いた血液のことなんか気にもせずに笑顔を見せ、前のめりに倒れた。
……その瞬間の戦慄は今でも忘れられない。
大切だった人間が目の前で死んだ。
その時はなんでなのか理由も分からなかったけど、後々マリアに聞いた。
それでも、俺は納得できなかった。
優吾さんの残した空間魔法の結晶は、
新木場さんが預かってるみたいだけど正直、どうなるか分からない。
でも、俺は信じたい。
この言葉を……。
この世界では自由に生きていいんだって!
遅くなりました、申し訳御座いません。
家の諸事情により、一時期小説から離れてました。
ですが、もう大丈夫です。
戻ってまいりました(゜∀゜)
前の通り、気怠げ勇者こと「けだゆう」の投稿は毎朝六時に行います。
これからも「けだゆう」をよろしくお願いします(゜∀゜)
略した理由……気怠くて(笑)




