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愚者ラーフル 1  作者: 茅咲水香
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悪魔アニン

9.悪魔アニン

 その場所で戦闘が起こっていた。たくさんの戦士が襲いかかり、一人の悪魔を追い込む。いくつかの刃は当たるのだが、当たった瞬間に砕け散るのは刃の方だった。

「魔法を!」

 声が飛ぶ。いくつかの魔法が悪魔に飛んでいくが、さほど効果はない様子だった。

「どうすりゃいいんだ、こんな相手。」

「嘆くな、せめて街の人が避難するまで、ここで押さえつけなければ。」

 一人の戦士が悪魔を捕まえる。しかし簡単に振りほどかれてしまう。力の差は歴然だ。「無駄よ、無駄。人間なんぞに負けるか。」

 悪魔が高笑いする。一人の戦士の頭を掴み、破壊する。触れるものを破壊する悪魔。戦線は崩壊していった。

「あー、無駄無駄。やめておきな。」

 突然、戦士たちの反対側から大きな声が響く。

「君たちは下がりなさい。」

 旦那が革を筒状にしたもので声を出す。いわゆるメガホンというやつだ。

「止まれ、悪魔よ。」

「なんだ、人間。我の邪魔をするのか。」

「偉そうな悪魔だな。止まれと言っている。」

「なぜ、我が人間の命令を聞かなければいけない。」

「話があるからだよ。」

 旦那はメガホンのままで言った。悪魔とは距離を取っている。旦那の後ろには、コルネットとパイン。パインは馬に乗ったままだ。「命令だ。そのまま魔界に帰れ。」

「お断りだ。我はこのまま気のままに破壊し続ける。」

「おまえの存在で悪魔界が迷惑しているのだ。四の五の言わずに帰れ。」

「悪魔界に?それこそ知ったことではないわ。」

「まあ、確かに戻ったら小悪魔でしかないお前にはつらいことだろうがな。」

「我はこの世界で最強だ!」

「お前がこの世界の理を壊してしまったからな。」

 旦那が頷く。悪魔は引く気はないようだ。

「名を呼ぶことを許されぬお方の命令だ、魔界に帰れ。」

 とたんに悪魔の体が震え出す。

「何をした?」

「三呼の令。」

「わけのわからんことを、ええいこんな魔力破壊してやる。」

 悪魔が全身に力を入れ直す。そのまま震えを押さえるかのように力を入れて踏ん張る。「が、があああああ!」

 十分くらいその状態が続く。そのすきに戦士たちは武器を取り直しに下がっていった。「はああああああ、やあ!」

 バキン、とものすごい音がして悪魔が力を抜く。

「どうだ、破壊してやったぞ。」

「おお、凄い、凄い。」

 旦那は素直に褒める。

「だが、まだできるぞ。」

「もうさせん、そのメガホンを破壊してやる。」

 悪魔が魔力を放つ。旦那がそれに答えるように声を出す。

「避けよ。」

 声に当たった瞬間、魔力が脇にそれて地面を破壊する。

「本気で帰る気はないのだな、悪魔アニン。」

「名前を知っているとはな。何者だ?」

「愚者ラーフル。お前ごときが知っている名ではない。」

「確かに知らん。」

 アニンは半笑いで腕を振る。魔力の束がメガホンに注がれる。一瞬でメガホンは革くずになった。

「で、その愚者とやらが何ができる?」

「お主を滅することかな。」

「面白い、やってみろ。」

 アニンが駆けだして向かってくる。魔力を放ち、旦那とコルネットに向ける。しかし、旦那には当たらない。コルネットは何発か食らったが、何かを破壊された様子はなかった。アニンは立ち止まり、不思議そうな顔をする。「なぜだ?なぜ破壊できん?」

「コルネットは破壊できんよ。」

「ええい、うるさい!」

 連続して魔力をコルネットに打ち込む。しかし何も破壊されない。

「人体を破壊する魔力を食らって無傷だと?」

「言ったろう?コルネットは破壊できないと。」

 コルネットは旦那が返してくれたカードに『コルネットは破壊されない』と書かれていて首をかしげた。意味が分からなかったからだ。だいたい、他人のカードに書き換えができる人間なんて見たことない。ただのいたずらだろうと思っていた。しかし、自分の目の前で魔力が霧散していく様子を見て、ようやく意味を理解した。コルネットは、破壊の悪魔に対しては無敵になっているのだ。

「これって?」

「おしゃれだろう。」

 旦那が笑う。本当に、何をしでかすか分からない男だ、と言われていたことを思い出す。機嫌さえ損ねなければいい人だが、何をされるかは予想できない。

「分かっただろう。悪魔程度では私にはかなわない。」

「貴様にはなぜ魔法が当たらない?」

「コルネットを盾にしているからな。」

「旦那、本気ですか?」

「嘘だよ、コルネット。」

 明らかに嘘をついている顔で旦那が笑う。「ええい、理解できん。我に破壊できぬものなど・・・・・・。」

「魔界では珍しくなかったろうに。」

「この世界で我に破壊できぬものなどない!」「いい加減、諦めて帰ったらどうだね。」

「貴様らを倒して、この世のすべてを破壊し尽くしてやる。」

「やれやれ、お前のようなものがいるから悪魔の長も困るんだよ。」

「奴に何ができる。」

「長が何かすると世界が滅ぶのでね。それはしないだろう。」

「奴の部下はすべて追い返してやったわ。」

「だが、私には負ける。私の剣にな。」

「剣など破壊してみせる。」

「では、食らえ。」

 旦那が腕を振る。その瞬間、パインが呪文を唱える。

「万能極大呪文。」

 それはコルネットが聞いたこともないような呪文だった。瞬間辺りが爆風に巻き込まれる。残ったのは倒れた悪魔だけだった。

「馬鹿な・・・・・・我が一撃だと?」

「言ったろう?私の剣にお前は負けると。」

「剣じゃないじゃないか、呪文だろ。」

「私の剣はパインだ。他の何物でもない。」

 旦那はアニンに近づく。すでに肉体が消滅しかけている。

「我は死ぬのか?」

「馬鹿な奴だ。本体で現世に出てくるなど。消滅したら、復活できんぞ。」

「嫌だ、我は破壊するのだ、この世界も、魔界もすべて。」

「すべてはお前の見た幻想に過ぎん。諦めてすべての世界から消えよ。」

「嫌だ、そんなのは嫌だ。」

「悪霊となられても困るのでな。」

 旦那はポシェットからユニコーンの角を出す。

「聖なる気に包まれて消えていけ。」

 そう言うと悪魔の心臓に角を突き刺す。

「消える・・・我が消える。」

「同情はせんよ、愚かなる悪魔よ。悪霊にもさせん。すべての世界から消え去ればよい。私もすぐ、お前のことなど忘れてやる。」

「嫌だ、嫌だ・・・・・・。」

 アニンはそう言いながら世界から姿を消した。

「悪魔の消滅を確認しました。討伐完了です。」 コルネットがおそるおそる声をかける。旦那はユニコーンの角を拾い上げると、しまいながらコルネットに笑いかける。

「調査官の仕事、ご苦労さん。」

 旦那はパインに向き直る。

「よくやった。今回も合格だな。」

「ありがとうございます。旦那様。」

 パインは嬉しそうに笑う。

 剣を取って戦士たちがようやく出てくる。「あの・・・・・・悪魔は?」

「我々が退治したよ。安心せい。」

 旦那が気楽そうに言う。ここから先の後始末はコルネットの仕事だ。

「ここから一番近い冒険者ギルドはどこにあるかな?」

「それならうちの城にもあります。」

「では、そこに案内してくれないかな。鉄貨一枚払うんでね。」

「はい、分かりました。」

 先頭を切って走ってきた戦士は、わけのわからないまま案内をすることになった。

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