南の街オセロ
8.南の街オセロ
オセロでの冒険者登録には三日を要した。まず、コルネットが正式な調査官であることを証明し、二人が冒険者ギルドに所属していることなどを説明する。冒険者ギルドとはいえお役所仕事である。コルネットがいなければ一月ぐらいはかかっていただろう。
「うむ、無理を言って付いてきてもらったかいがあるな。」
「私の場合は仕事ですからいいですけど、馬はしばらく見たくないです。」
コルネットはうんざりしながらいう。三人が借りているのは、台所付きの宿である。自炊できるので便利なようだが、パインには、火力が弱すぎるといわれてしまった。もちろん、その辺は自前の火力でなんとでもしてしまうから問題はない。
「悪魔が出ているのは、ラップランドの中心辺りらしいな。」
「はい。ラップランドというのは正式には国名ではなく、地域名ですね。地方の豪族がそれぞれ城を構えて地域を押さえている。そうした城と城との連合体のようなものです。この地域には三十近い城があるようですね。」
コルネットが返事をする。パインは旦那の背中にくっついたまま離れようとしない。食事が終わって片付けも済んでしまったので、やることがないのだ。
「オセロのギルドでは、もう十近い城が崩壊していると言われていました。悪魔には一つの城から金貨百枚の賞金がかけられているそうです。」
「一つの城から?」
「二十七の城からですから、金貨二千七百枚と言う破格の賞金ですね。」
「なんだ、もう少し高いかと思っていたが、そうでもないな。」
「十分高いですよ。金貨十枚で国家予算並みなんですから。」
「国家予算というのは意外と安いんだな。」
「よほどの軍事大国でなければ十分な額ですよ。」
旦那は意外そうな顔をする。
「役職持ちなら銀貨一枚くらいもらってるだろうに。私が普通に考えると、金貨十枚でやっていけるのは不思議だなあ。」
「戦争用品以外はそれほど高くないですからねえ。武器や防具は金貨一枚でも安い方ですけど。」
「稼いでいる冒険者なら、もっと金を出すだろうなあ。」
「旦那様はもっとお金が欲しいですか?」
「金は欲しいね。やりたいことが自由にできる程度には。」
パインに向かって微笑みながら旦那は言う。
「だからしっかり稼いでおくれ。」
「分かりました。」
パインの腕にぎゅっと力が入る。期待されるのは悪くない、そんなところだろうか。
「地図は買ってきたので、現状を教えてくれ。」
「詳しいことは、明日もう一度冒険者ギルドに行かなければいけないとは思いますが、もう、九つの城が落とされています。悪魔は現れると、ゆっくりとすべてのものを破壊していくようです。立ち向かった兵士たちの武器防具も破壊し、何人もの兵士の命を奪っているとか。」
コルネットは地図上の城に九つの×をつける。
「冒険者ギルドでも噂になっており、何人もの冒険者たちが挑んでいるそうです。」
「では、私たちの出番はないかな?」
「いえ、今のところすべて返り討ちに遭っていると。冒険者たちもすべてを破壊されて、命からがら逃げ帰っているようです。」
「冒険者に死者は?」
「いくつかのパーティは帰還の連絡がないそうですが、逃げているのか死んでいるのかは不明らしいです。」
「では、そろそろパインの出番でいいな。」
旦那は笑う。
「勝てるのですか?」
「勝てぬ勝負はしない方がいいな。」
「あたしは、旦那様が勝てというなら、勝つまでです。」
「確かにパインは見たことがないほど高レベルだけれど、たった一人で勝てますか?」
「一人ではない、三人だよ。」
「あれ?それって私が入ってませんか?」
「コルネットにも一応パーティを組んでもらう。ちょっとギルドカードを貸してくれ。細工をするから。」
「旦那は悪用しないと思いますけど・・・・・・。」 コルネットが不安そうにカードを渡す。
「では、お休みだ。コルネット、パイン。」
「お休みなさいませ、旦那様。」
「ああ、コルネット、よくパインを見張っててくれよ。でないとこいつは私に襲いかかってくるからな。」
「旦那様?!」
旦那はいたずらっぽい顔をして部屋の中へ入って言ってしまった。奥の小さな部屋で一人で寝る、手前の広い部屋で二人が寝る、と決めたからだ。
「襲うの?」
「襲いません!」
パインは恥ずかしそうに言う。
「一度やったら、すごく旦那様に怒られました。」
「やったんだ・・・・・・。」
コルネットは感心した顔で頷いた。
「で、どこにいるかは分かりそうかね?」
「フィンの街で暴れてる情報が入ったのが一週間ほど前ですね。」
コルネットがギルドで答える。
「では、まずそこへ行ってみるか。」
旦那は気楽に言う。
「テレポート屋がないので、馬を使うことになるがな。」
「またですか。」
うんざりした顔のコルネット。
「今回はパインの後ろにしがみついていくかね?」
「そっちの方がいいです。」
「だ、そうだ。パイン。私は荷物でいい。やってくれ。」
馬に旦那をバインドでくっつけると、パインは馬に乗り、コルネットを引き上げる。自分の腰にコルネットがしがみついた状態でバインドをかけて落ちないようにする。
「いきますよ。」
馬は一気にかけ出した。
フィンの街、と言うか城はすでに崩壊していた。辺り一面がれきの山。生き残った人はすでに逃げているのであろう。死体がいくつか転がっている。装備品をつけていないので、兵士なのか一般人なのかは分からない。そこまで破壊されているのだ。
「まあ、これは一般人だろうな。」
「無差別ってことですか。」
「さあね、悪魔のすることだからな。」
旦那は笑って、地面に落ちていた銅貨を拾う。
「硬貨までは破壊しなかったのかね。」
「興味がないのかもしれませんね。」
「お二人は怖くないのですか?」
「なにが?」
「こんな力を持った悪魔に対峙することについてです。」
「この程度の悪魔なら、パインは勝つよ。」 旦那がこともなげに言う。パインも頷いている。
「まだ見てもない相手に油断しすぎでは?」「調査官らしい意見をありがとう。」
旦那は頭を下げる。
「だがな、別に無策でやっているわけではないのだよ。一応策は考えている。」
「旦那様、追跡可能です。」
「よし、行くか。」
馬に引っ張られながら、旦那は言った。




