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愚者ラーフル 1  作者: 茅咲水香
7/10

北へ

7.北へ

「ローザ、頼みがあるのだが?」

「どうしたの、旦那?」

「コルネットを貸してくれ。」

「コルネットなら旦那の専属調査官なのだから、どこへでもついて行きますよ。」

「ちょっと遠い国へ行くんでね、しばらく借りることになる。とりあえず、これで貸してくれ。」

 旦那はそう言って銀貨を一枚取り出す。

「長くなりそうなんですか?」

 カウンターの上に置かれた銀貨をしまいながら、ローザが聞く。

「下手をすると長くなる。うまくいけばもっと短くてすむのだがね。」

「具体的に何ヶ月とかは言えない感じですか。」

「ラップランドに行くのだ。簡単にはいくまいよ。」

「え?」

 ローザの手が止まる。

「ラップランド?噂でしか聞いたことのない国ですけど実在するのですか?」

「実在しなかったらいけないだろう。」

「それはそうですね。それは長くかかりそうですね。とりあえず、今日はコルネットが休みなので、明日また来てください。」

「理解した。」

 旦那は階段を降りていった。


「と、言うことなんだけど、行ってくれるわね?」

「私、旅行なんてしたことないですし、どうしたらいいか分かりません。」

「移動のことについては、旦那が考えていると思うから、あなたは向こうに着いてから、冒険者ギルドの手続きをお願いするわ。他の国から来た冒険者の照会の時間短縮になるから。たぶん旦那のお願いしたいことはそれだわ。」

「私が役に立つのでしょうか?」

「役にたってもらわなければ困るわ。カレーの代表として頑張ってちょうだい。」

「重荷過ぎますよ。」

 コルネットがへたり込む。自分が行くしかないのは分かっているが、カレーから遠く離れるのは不安でしかない。ほとんどのことはカレーで用事が済んでしまうからだ。

「お話、終わった?」

 パインがカウンターの向こうから顔を出す。

「旦那様が言い出したことだから、決定ですよ。」

「拒否権はないのね。」

「何で連れて行くのかはよく分からないけど、たぶん何か考えがあってのことだと思うわ。」

「パインは何も聞いていないの?」

「悪魔退治だってことだけは聞いてます。」

「悪魔?」

 コルネットが青ざめる。

「悪魔になんて・・・・・・私何も役に立てないと思うわ。」

「それでも付いてきて欲しいんだって。」

 パインはそう言ってコルネットの手を取った。

「お願い、コルネット。」

「わかったわ。ついて行きます。でも、今日いきなりってのは・・・・・・。」

「旦那様は三日後に出発するって行ってました。あと、これを渡してくれと。」

「これって・・・・・・収納ポーチ?」

「必要なものはこれに詰めておけってことだと思うの。」

「こんな高いもの・・・・・・。」

「最後に準備金。鉄貨十枚。着替えとかかっておけって。」

「旅行中に着替えなんてできるのかなあ。」

 旅行に行くのにはできるだけ荷物を減らす方が、いざというとき困らない。賊やモンスターに襲われた時逃げやすいからだ。そんな中で着替えとか悠長なことは言っていられない。できるだけ身一つの方がいいに決まっている。それを、収納ポーチを渡すくらいだから、思ったより長くなるかもしれない。保存食や水筒も必要になるだろう。これは覚悟を決めなければいけない。三日でできる準備派なんだろう、コルネットの思考が始まった。


 旦那とパインはいつもの服装だった。旦那はスーツ。パインはメイド服。普段と何も変わらない。ただ、コルネットはそうはいかない。旅行に行くのだからスカートはないだろうと思い、ジャケットにパンツ、底の低い靴を履いていた。

「旅行は初めてか?」

「はい。」

「まあ、緊張するな。まずはテレポート屋に行って、どこまで行けるか聞いてみよう。」

 旦那は普段通りの口調で告げる。テレポート屋は街の南の外れの方にある。そこまで歩いて二日と行ったところか。カレーの中を歩くだけでも、小旅行である。

「ああ、金は私がすべて出す。コルネットは口を出さないでくれ。」

「え?でもそれじゃ悪いですよ。」

「こっちが無理を言って連れ回すのだから、必要経費だよ。」

 旦那は軽く言ってのける。

「とりあえず出発しよう。」

 旦那はそう言って歩き出す。その後ろにパインとコルネットが並んで歩く。一時間に一度休憩を挟みながら、六時間くらい歩き通す。「さすがに、これ以上は無理だろう。今日はこの辺で宿を取ろう。」

 旦那がそういったときに、コルネットはほっとした。正直もう足がぱんぱんで疲れ切っていた。宿に入ると、ベッドの上で倒れ込んでしまう。そうしていると、パインが料理を持って部屋の中に入ってくる。

「旦那様にお食事を取っていただきました。コルネットさんと一緒に食べるように言われたので、ご一緒していただけませんか?」

「パイン、あなた疲れてないの?」

「このくらいは平気です。いつもはもっときついですから。」

「高速移動の呪文で何とかなればいいのにねえ。」

「人や建物にぶつかってかえって遅くなりますから、街中での高速移動はやめた方がいいですね。鶏肉のソテーと茹で野菜です。パンもありますので遠慮なく言ってください。」

「どこで料理したの?」

「共用の台所がありましたので、そこで作りました。必要な道具はもって歩いてますので。」

「台所がないところだったらどうするの?」「それでも料理はできますから。」

 コルネットは疲れた体を起こして、テーブルに並べられた食事を見る。確かにおいしそうだ。コルネットも自分で料理するが、遙かに丁寧に作られていることが分かる。

「美味しいわね。」

「そう言っていただけると嬉しいです。」

 パインは嬉しそうに答える。

「疲れた体に効くようにスパイスを多めにしてあります。食事を取ったらゆっくり休んでください。」

「悪いけど、そうさせてもらうわ。」

 コルネットは素直に甘えることにした。


 二日目、やっとの思いでテレポート屋に到着する。

「北にはどこまで飛べる?」

「うちからだと、フィーンまではいける。そこより北はねえな。」

「なら、そこでいい。三人で鉄貨三百枚、そういう計算だな。」

「まあ、どこに行くにも魔力が変わるわけでもなし、一人百枚なのは同じだよ。」

「では頼む。」

 三人は、その夜はフィーンの街で宿を取った。


 三日目。フィーンの街を出たところで旦那が言う。

「ここからラップランドまでは一ヶ月くらいかかる。そんな時間は短縮したい。それは理解できるな?」

「高速移動の呪文ですか?」

「それでも疲れることには変わらんだろう。騎乗用モンスターを使う。」

 旦那が見覚えのあるクリスタルを出す。少し回すと、光の束が出てきて、中から普通より大きな馬が出てくる。確かに三人くらいなら乗れそうだ。

「私、馬に乗れませんけど。」

「操縦はパインがやる。私たちは荷物扱いだよ。」

 旦那は意地悪そうに笑う。

「パイン、私とコルネットをバインドで馬に括り付けろ。それが済んだら、私のいうとおりに馬を走らせろ。」

 そこからはあっという間だった。早足で歩く馬に揺られていくつもの町を通り抜ける。郊外では高速移動の呪文をかけているようだった。乗り心地は、最悪。だがバインドで縛り付けられているため、降りることも文句を言うこともできずに、コルネットは三日三晩地獄を味わった。


 七日目。ようやくラップランドに入る。大きめの街を見つけて、パインが馬を止める。「もう、馬はこりごりだわ」

「私もそう思うね。」

 旦那が笑う。

「まずは、宿を取ってゆっくり体を休めよう。そうでなければ、ほんとに倒れてしまう。」

「三日間はあたしが保全の魔法をかけていたから、飲まず食わずで平気だったけど、食事くらいちゃんと取った方がいいですよね。」

「私はこの体の痛みが治まるなら何でもいいわ。」

「そんなの魔法でなんとでもなる。パイン治療してやれ。」

「はい。」

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