とある休日
4.とある休日
「遊んでください。」
コルネットは頭を抱えていた。突然ギルドにパインが来たと思ったら、この台詞である。「旦那様が忙しくてかまってもらえないので、拗ねてたら、コルネットさんに構ってもらえと言われたので来ました。」
「あの・・・・・・パイン。私仕事中なんですけど。」
「いいわよ行ってらっしゃい。」
受付から振り返ってローザが言う。
「どうせ急ぎの仕事なんかないんだし。」
こう言われてしまってはもう言い返せない。
「じゃあ、行ってきますね。」
コルネットは自分の荷物を抱えて席を立つ。パインはいつも通りのメイド服だ。コルネットよりも背が低い。
「パインは何がしたいの?」
「あたし、同世代のお友達がいたことないからから、何していいのかわかんない。」
「そっかぁ。」
コルネットは意外そうに呟く。まあ、この若さでメイドなんてやっていたら、友達と遊んだことがないなんて言われてもおかしくはない。コルネットは普段自分が何をしているか考えた。
「お小遣いもらってきたからお金ならあるよ?」
「おいくらくらい?」
「鉄貨百枚と銅貨百枚。」
「多すぎるわ!」
どれだけ甘やかしているんだろう、旦那は。
「鉄貨二、三枚あれば十分遊べるから。」
「そう、そんなものなのね。」
パインは納得したように言う。硬貨二百枚もどこに持っているんだろうと思うけれど、きっと収納ポーチの中に入っているんだろうなあ、とコルネットは納得する。
ともあれ、パインとコルネットは街へ出かけることにした。
コルネットがパインについて納得したことは、意外としっかりしていることだった。あれも、これも珍しいと言って眺めることはなかった。どうやら、普段から見てはいるらしい。ドーナツも、買って半分コルネットによこしてくるところを見ると、かわいいものだ。ちなみに銅貨一枚で四個入りだった。
「ドーナツだけだと喉が渇くわね。」
「お水飲む?」
ポーチから水筒を取り出してパインが聞く。一口二口飲んで水筒を返す。パインはにこにこして、水筒をポーチにしまう。この際空中にドーナツが浮いていることについては突っ込まないことにした。
「ところでパイン?」
「なあに?」
「あなたいつもその服なの?」
「この世界にいる時はいつもそう。」
「この世界?」
「こことは違う世界もあって、その時には着替える時もある。」
コルネットには理解できない言葉だった。「着替えはするのね。かわいい服とかは着たことある?」
「この服はとてもかわいいと思うのだけど?」
「その辺は価値観の違いかなあ。よし、今日はパインのお洋服を買いに行こう。」
コルネットがしてあげられそうなのはその辺りである。程なく一軒の服屋に入る。この世界では基本的に服は手作りなので、量販店というものは存在しない。そこの店は女性ものの服を専門に売っている店だった。
「ひらひらの服ばっかりだねえ。」
「まあ、メイド服に比べたら薄っぺらいかもしれないけれど、こういう服もいいものよ。」 コルネットはそう言うと物色を始める。どうせパインに好みを聞いてもたいしたことは言わないだろうという勝手な思い込みからだ。
「パイン、着てみたい服とかある?」
「黄色、がいいかな。」
パインは隣で服を見ながら言う。そこからは、パインのお着替えタイムとなった。あっちこっちから服を持ってきてパインに着せて回る。
「あれもこれも似合っちゃうから楽しいわ。」
「そう、なの?」
パインは不思議そうに呟いた。
「あれ?旦那。今日は一人なの?」
冒険者ギルドでローザが声をかける。討伐受付が一通りすんだところで、旦那が歩いてきたからだ。
「午前中にパインを遊びに出したからな。」
「そういえば、コルネットに遊びに行ってこいって言ったわね。」
「すまないな、仕事中に連れ回してしまって。」「まあ、ここでの仕事なんて自分で休みを取らないと、毎日やることになるからねえ。私も十日に一回くらいは休みを取ることにしているけど。」
「それは働き過ぎだよ。」
旦那が笑う。
「私は一日働いたら三日は休むぞ。」
「旦那くらい稼げるようになったら私もそうしたいですよ。ここでの給料なんて、ずっと一日鉄貨二枚なんですから。」
「それは、給料を上げてもらうべきだな。せめて三枚はもらわないと、馬鹿相手にするのはつらいだろう。」
「そこまで上がったら楽でしょうねえ。」
ちなみにこの世界に労働基準法はない。事務所は事務員が気が向いた時に開き、閉じるが、一応毎日九時から五時までと決まっている。昼の十二時から二時までは休憩時間だ。だから実際働いているのは六時間と言うことになる。緊急モンスターが出たりすると無休で残業になるし、時間ぎりぎりに駆け込んでくる冒険者もいるので、時間通りに終われないこともある。ローザが鉄貨二枚なのは、ここの責任者をかねているからで、他の事務員は鉄貨一枚である。
「で、今日はどうしたんですか?」
ローザは片手間に書類を片付けながら言う。今日の業務はもう終わりだ。カウンターにクローズの札をかける。
「そろそろパインが帰ってくるかと思って迎えに来たんだよ。」
「相変わらず過保護ですねえ。」
「可愛くてしょうがないのでね。」
旦那が笑う。
「てっきり二階で時間つぶしているかと思ったんだが、外に出たんだな。」
「私が追い出しましたから。」
「その点は感謝する。お礼に一杯やっていくか?」
「ごちそうになります。」
ローザは遠慮しなかった。銅貨の一枚分くらいごちそうしてもらっても、特に問題はないだろう。
旦那と話をしながら三杯目のビールを飲んだ時に、ローザはコルネットが帰ってきたのを見た。隣に可愛い女の子を連れている。
「あれ?パインちゃん?」
「どうやらそのようだな。」
旦那がクスクス笑う。
「あ、旦那様・・・・・・。」
「お帰り、パイン。楽しかったかい?」
「半日着せ替え人形みたいになってました。どうですか、この格好は?」
パインの服装は黄色のブラウスに薄い緑のスカート、黄色のサンダル。髪の毛もいつものツインではなく長く下ろしている。
「うむ。パインは何を着せても可愛いな。」
「あ、ありがとうございます。」
パインがうれしそうに言う。
「ただ、その服装で戦闘をするといろいろ見えてしまいそうだな。」
「そこまで丈夫な服ではないので、すぐ破けちゃうと思います。」
「では、家に帰るまで大事に着ておけ。今度遊びに来る時には、その服で来るといい。」
旦那はコルネットに向き直る。
「コルネットはいい趣味をしているな。」
「え?」
「パインは胸が大きいからな。着せる服がなかなかないのだよ。」
「それは私も思いました。少し大きめの服を着ないと。今の服でも十分体のラインが見えてますが。」
「男の目を惹く服装だ。」
旦那はコルネットの頭に手を置く。
「遊んでくれてありがとうな。またよろしく頼む。」
「もちろんです、友達ですから。」
コルネットは返事をする。頭を撫でられたのはいつ以来だろう。
「おかげで私の方も納得するものができた。」「何か作ってたのですか?」
「まあ、保険みたいなもんだな。」
「盗賊ギルドが関係しているんですか?」
「いや、そっちの保険ではない。・・・・・・あまり意味としては変わらないか。」
「???」
「わからなくて構わんよ。」
旦那はケラケラと笑った




