退治されるもの
3.退治されるもの
「移動補助の呪文なんてのがあるんですね。」
「結構便利だろう。」
旦那たち一行は高速で山の中を移動していた。
「敵性反応はこっちですね。」
パインが告げる。そちらに移動して五分もたたないうちに、一行の前にモンスターが現れた。
「わかるかな?」
「グリフィンですね。しかも怒ってます。」
「これこそ敵というものだよ。」
怒っているグリフィンが足の爪で一撃を加えようとする。それを余裕でパインのバリアがはじき返す。
往々にしてグリフィンは人間型の生き物が好きではない。多くの場合、自分を狩りに来るからである。
「こいつがゴブリンたちを追い出した?」
「かもしれん、違うかもしれん。」
バリアに守られながら旦那が答える。
「とりあえず、こいつは人に危害を加えるだろうな。」
「討伐リストにも入ってますね。危険ランク3。見つけたら討伐すべきレベルです。」
「いくらになる?」
「銀貨五枚ですね。」
「ふむ、そんなものか。」
旦那は残念そうに言う。銀貨五枚もあればしばらくは遊んで暮らせるレベルなのだが。「パイン。風切り羽と爪を採取。」
「また何か作るのですか?」
「うむ、ここで手に入ると思っていなかったんでな。手早く頼む。」
「はい、旦那様。」
パインは頷くと宙に飛び上がる。つられてグリフィンが羽を広げる。その状態で、麻痺の呪文を唱える。グリフィンの動きが止まり、喉の奥から恨めしそうなうめき声を絞り出す。パインは気にせずに、近づいて風切り羽を抜き、足の爪をカッターで切り裂く。それをいったん、旦那のところに持ってくる。
「これでいいですか?」
「十分だな。」
旦那はそう言うと、懐から小型のクリスタルを取り出す。無色透明のクリスタルは台座につけられていた。
「吸い取れるといいんだが、無理なら殺してもらうよ。」
「はい。」
旦那がクリスタルを回すと、光の束がグリフィンに降り注ぐ。グリフィンは嫌がるように体を揺すろうとするが、麻痺していて体が動かない。そのまま光の中に消えていってしまう。
「何をしたのですか?」
コルネットが尋ねる。
「秘密だよ。」
旦那がさらりと答える。
「これで討伐は終わりだ。帰って報酬でももらうとするか。」
「何か、私が聞いていた討伐とは違う気がします。」
「私が他のものたちと同じことをしなければいけない理由がないからな。」
旦那は受け取った風切り羽と爪をポーチにしまいながら答える。
「旦那様、あと二つ敵性反応があります。」
「ん?親子連れだったのかね。」
「一応、こちらを避けている感じがしますが。」
「なるほど、母子を守るために、怒り狂っていたのか。」
「討伐しますか?」
「クリスタルには余裕があるから大丈夫だ。」
「了解です。」
「調査官殿には姿を確認してもらわなければいけないからな。こちらに追い立ててこい。」
「はい。旦那様。」
パインは頷いて山陰に飛んでいく。程なくして二匹のグリフィンが飛び出してくる。魔法を撃ちながら、旦那のいる方へ誘導していく。
「確認はすんだかな?」
「はい、間違いなく二匹います。」
「銀貨十五枚ならまあ、文句はないかな。」 懐からクリスタルを2つ取り出すと軽く回して二匹の方へ向ける。先ほどと同じように光の束が二匹を包む。悲鳴を上げながら、光の束に飲み込まれていくグリフィンを見ながら、コルネットは、自分の前任者がなぜおかしくなったのかを少しだけ理解した。恐れられるモンスターが抵抗できずに消えていく。こんなチートじみた光景をみせられては、普通の感覚ではいられないだろう。
「帰りはテレポートだ。どうだい、調査官なんて楽な仕事だろう。」
「命がけの仕事と聞いていたのですが、あまりのことについて行けてません。」
コルネットが正直に答える。
「命をかけなくていいのは間違いなくパインのおかげだよ。」
旦那はそう言うと戻ってきたパインの頭を撫でる。
「パインは本当に、私の役に立ってくれるなあ。」
「ありがとうございます。」
「おまえがいてくれないと、この世界は面白くないからな。」
パインはにこにこしながら旦那に撫でられ続ける。
「コルネット様。グリフィン退治の報告も、よろしくお願いしますね。」
「え、ええ。わかってるわ。」
コルネットは困惑しながら答えた。
正直カレーの街に戻ってきてからもコルネットの気持ちは晴れなかった。ほっとしたのは事実だが、自分は調査官として役に立てているのかどうかわからないからである。
「あなたは、旦那たちが何を討伐したのか報告してくれればいいのよ。」
とローザが言ってくれたのだが。
「旦那はね、お金にならないことはやらないのよ。」
ローザはコルネットに言う。
「おかげで、危険生物を放置することが結構あったのよ。こちらとしても、確認できない魔物に賞金は出せないもの。」
「私がいると、賞金が出るから?」
「正式な調査官の報告なら、事後でも賞金が出るわ。あなたの前任者は臨時の調査官だったので、賞金に関する知識が低かったのよ。」
「私だって、そんなに知識があるわけではないのですが・・・・・・。」
「いいのいいの。あなたがモンスターマニアになれって話じゃないから。とりあえず、報告書を見たけれど、辺りからモンスターが消えたことは間違いないわ。だったら正式にお金を渡せる。」
「何をしているのかは理解できませんが。」
「私だって理解できないわ。」
ローザは肩をすくめる。
「ただ、この街で一番の腕利きであることは間違いないわね。ランク3の魔物を三匹も退治するなんて、普通の冒険者では難しいわ。」
「一匹でも部隊を派遣するレベルの魔物ですよね。」
「そんなのが近所にいなくなっただけでもよしとしなきゃ。」
ローザは笑って言う。
「ほら、階下では旦那が恒例のお祭り騒ぎをしているわ。あなたも参加してらっしゃいな。」
「旦那はいつもこんな感じなのですか?」
「だいたい、討伐から帰ってくると、一晩貸し切りにして宴会しているわね。生きてることを実感したいからだって。」
「わかりました。私も行ってきます。」
コルネットは頷いた。
旦那は大勢の冒険者に囲まれてにこにこ笑っていた。今日は旦那のおごりなので、店内の誰もがにこにこしている。他人の金で酒が飲みたいとはよく言ったものだ。
「旦那、お酒は飲まないのですか?」
コルネットが旦那に尋ねる。
「私はお酒にめっぽう弱くてね。最初の一杯だけで十分なのだよ。」
「私も付き合いますね。」
コルネットが水の入ったボトルから注ぐ。「酒が飲めるなら飲んだ方がよくないか?」
「私もあまり得意な方ではないのです。」
「そうか。」
旦那は軽く頷いてそれ以上酒は勧めなかった。
辺りでは旦那をたたえる声が上がっていた。酔っ払いなんてそんなものだ。酒を奢ってくれるやつがいれば、よく言ってくれる。ただ飯を食わしてくれるやつには友好的になる。隣でパインが必要以上にくっついていなければ、誰かが絡んできてもおかしくない状況なのだが、さすがにパインの独り占めタイムを邪魔すると殺されかねないので、遠巻きに騒いでいる。
「あたし、コルネットとなら仲良くできそうな気がする。」
パインが呟く。
「珍しいな。パインが女性を認めるとは。せっかくだ、私からもお願いする。コルネット、パインと仲良くしてやってくれ。」
「は、はい、もちろんです。」
コルネットは慌てて返事をした。パインが無垢な眼でじっと見つめる。
「コルネット、美人?」
「はあ?」
コルネットは突然の発言にびっくりして声が裏返る。旦那は笑ってパインの頭を撫でる。
「ああ、美人だと思うが、私にとってはパインが一番だぞ。」
「ん・・・・・・、わかりました。」
パインが頷く。
「なんか、私わけのわからないうちに振られてる感じがします。」
「そんなこと、ない。」
パインが否定する。
「ただあたしが確認したかっただけ。あたしだって相手が美人かどうかくらい判断できる。」
「褒められているのかしら。」
「間違いなく褒めているよ。」
コルネットの問いに旦那が答える。どうやらこの少女に自分が気に入られたらしい、コルネットの理解はそこまでだった。




