城塞都市カレー
2.城塞都市カレー
カレーは5つの城塞が固まったような形をしている都市である。城塞の中に街を作っているので、広さはかなり広い。昔は魔王から街を守るために城門には鍵がかけられていたが、今は門戸は開放されている。多くの市場があり、今では交易都市としての機能が高い。 男とパインはカレーの近くに居を構えているので、必要な用事はカレーで済ませる。たとえば冒険者ギルドに行く時などである。「旦那、今日も冒険かい?」
ギルドのメンバーも知った顔が多いので、男には気楽に話しかけてくる。
「キルタス。今日は仕事に行かなくていいのか?」
「カエル狩りに行ってきたんでね。しばらくは金に困らないよ。」
「それはよかった。」
キルタスと呼ばれた男は、笑ってエールの入ったグラスを持ち上げる。どうやら今日は飲んで過ごすらしい。冒険者ギルドの階下は冒険者が飲食する場所になっている。簡易寝室もあり、ここで暮らしているものも少なくない。少し金に余裕が出てくると、せめて布団のあるところで寝たいというものだが、固い寝台とも呼べない板の上で寝るのが好きなやつもいると言うことだ。
男、つまり旦那とパインはギルドの2階に上がっていく。そちらは喧騒とは無縁で、いかにも事務的な場所だ。ギルドに雇われた、冒険に行くには年を取り過ぎた傭兵たちが守っている。並の冒険者なら簡単に押さえつけられてしまうだろう。
「簡単な用事なら、通信で済ませてしまえばいいと思うのだがな、ローザ。」
旦那はカウンターにいる女性に声をかける。ローザは申し訳なさそうに頭を下げる。
「今日ばっかりは来ていただかないといけなかったので。旦那に専属調査官がつくことになりました。」
「ほう、新人研修かい?」
「簡単に言うとそういうことです。」
ローザは否定しなかった。
「ギルドで調査しきれなかったモンスター退治を任せると言うことか。」
「旦那たちの力をお借りしないといけないのです。」
「それは任せてもらってもいいのだが、金はしっかりもらうよ。」
「調査官の報告で、きちんと支払いいたします。」
ローザが即答する。このあたりは予想される範囲の反応だったのだろう。
ちなみにカレー周辺の国では、最低単位が銅貨である。銅貨1枚で一食済ますこともできる。空腹にはなると思うが。銅貨は百枚で鉄貨と同価値になる。鉄貨一枚で日本円にしておよそ一万円になる。鉄貨は千枚で銀貨一枚、銀貨は十枚で金貨と同価値である。他にもプラチナ貨という、あまり流通していない硬貨もあるが、こちらは銀貨五枚の価値である。
「調査官が最初の仕事なので、あまり難しくない仕事を受けてもらえますか。」
「言ってみろ。」
「街道にゴブリンが出現していると報告がありました。もし集団でいるなら迷惑になるので、退治をお願いします。」
「報酬は?」
「ゴブリン一匹につき鉄貨一枚です。」
「これはまた安い仕事だな。やる気にもならんが、さっさと済ませてしまうか。ここには世話になっているしな。」
旦那は笑って引き受ける。数が少なければ普通の冒険者に頼むような仕事だが、ゴブリンも集団となると数人の冒険者だけではたち行かなくなる。値段の割に合わない仕事と言うことだ。
「まあ、新人調査官の仕事としては妥当なところでは無いかな。」
「それでは紹介します。コルネット、こちらへいらっしゃい。」
部屋の奥で座っていた女の子が立ち上がってやってくる。
「コルネット=ヴァインです。よろしくお願いします。」
いかにもまじめそうな顔で、事務的に自分の名前を告げる。
「ラーフルだ。気楽に旦那と呼んでくれるとうれしいね。」
「いえ、そういうわけには・・・・・・。」
「これは命令だよ、コルネット。私のことは旦那と呼ぶこと。異論は認めない。」
「わかりました。旦那様。」
「様はつけなくていい。これから一緒に仕事をしようというのだ。それとも私にお嬢ちゃんと呼ばれたいかね?」
「わかりました。旦那、でいいんですね。」
「物わかりがよくて助かるよ。」
「パインです。旦那様のお世話をしています。」「戦うのは主にパインの仕事だ。仲良くしてやってくれ。」
「旦那様の命令であれば。」
パインは頷いて握手を求める。コルネットが慌てて手を出すと、パインはにこやかに言う。
「よろしくお願いします。コルネット様」
思ったより強い力で握られて、コルネットが当惑する。」
「・・・・・・よろしくお願いするわ。パインさん。」「あたしも、さん付けで呼ばれるのは慣れてないので、パインと呼び捨ててください。」
「わかりました。高レベルの冒険者と聞いていたので緊張しています。ご迷惑をかけないように気をつけますのでよろしくお願いします。」
旦那がローザを見る。不安そうな顔でローザが見ているのを見ると、にっこり笑って、
「命を落とさない程度にはさせる。本人が無茶をしなければな。」
「よろしくお願いします、旦那。」
ローザが頭を下げる。
「さてと、安い仕事に出かけるかね。コルネットは準備はいいかい?」
「大丈夫です。」
コルネットは緊張した声で答えた。
街道を歩きながら、旦那がコルネットに尋ねる。
「ゴブリンについてはどのくらい理解している?」
「短期間で成長する魔物で、集団で狩りをして暮らしています。主に山岳地方で生活していますが、平野部に降りてくることもあります。ゴブリンリーダーと呼ばれるものを中心に活動し、集団の規模は三十程度。レベル三十まで育った冒険者なら相手ができるくらいかと。」
「街道に出るゴブリンについてはどう思うかね。」
「おそらくははぐれゴブリンかと。多くて五匹程度でしょうから、駆け出しの冒険者でも問題ないのでは無いでしょうか。」
「その通り。で、その依頼を私にしてきたことについてはどこまで理解できたかな?」
コルネットは少し考える。
「私の力不足ですか?」
「最終試験のようなものだろうな。調査官としてやっていけるかどうか。」
旦那は笑いながら言う。別に馬鹿にしているわけでは無い。優しく見守るような態度である。
「死なぬ程度になってくれよ。」
「旦那様。索敵出ました。距離約二キロ。反応数・・・・・・。」
「数を数えるのは調査官の仕事だ。報告しなくていい。」
旦那はパインの頭を撫でながら言う。
「いくら数が多くても、パインが負けるはずは無いだろう。ただ、今回は死体を残す程度にやってくれ。」
「全力は出すな、と?」
「ぎりぎり倒せる範囲でいい。」
「余裕ですね。」
コルネットが感心したように言う。
「まあ、当然だな。」
「もうやってしまいますか?」
「あれで隠れているつもりなんだから、ゴブリンというのは頭が悪いわな。」
変わらぬ足取りで旦那が呟く。このままだとゴブリンの真ん中に飛び込むようなものだ。
「何匹いるかわからないところに、そのまま行くのですか?」
「コルネットは数を数えられるのかな?」
「まあ、二~三匹しか見えませんけど。」
とたんに旦那が笑い出す。
「見えているなら問題ない。このままいくさ。」
ゴブリンが辺りから飛び出してくる。三匹程度だ。
「食い物をよこせ」
「嫌です。」
パインが前に出て答える。
「なら、食い殺す。」
とたんに、周囲からわらわらとゴブリンの集団が出てくる。とっさのことでコルネットには数が把握できなかった。というのも、出てきた瞬間に、ゴブリンたちが火だるまになったからだ。
「終わりました。一匹残しておきましたけど。」
「話くらいは聞いてやるかね。コルネット、君は数を数えておいてくれ。」
「はい・・・・・・。」
呪文の詠唱なしで、これほどの大魔術を使われたので驚いていたコルネットが我に返る。
旦那はゴブリンリーダーの倒れているところに行く。もはや瀕死で生きているのが奇跡に近い。
「おい。なぜ盗賊なんて割に合わないことをやっている?」
「オマエニハ関係ナイ。」
「どうせ死ぬのだから素直に話しておけ。」
「オレハ死ヌノカ。」
「間もなくな。」
「ドウセ山カラ逃ゲテキタ身ダ。」
「山に何か出たのか。縄張り争いにでも負けたのか。」
「言ッタトコロデ、オレタチガ帰レルワケデハナイ。魔物ガ襲ッテキタダケダ。」
「ふむ、感謝する。」
「死体の数を確認しました。二十七です。」
コルネットが報告する。
「意外と少なかったな。まあいい。」
旦那はあっさりという。
「我々はこれから山に行こうと思うのだが、ついてくるかね?」
「山に何かあるのですか?」
「ゴブリンが山から逃げてきているのだ、何かあるに決まってるさ。」
旦那はわくわくした様子で答える。
「パイン、死体は集めて灰にしろ。それが終わったら、山へ行く。」
「わかりました。」




