カレーの一日
10.カレーの一日
「本当に、どうなるかと思ったわ。」
「旦那様のやることですから。」
「帰りがテレポートで本当に助かったわ。」
「馬はもうこりごりですか?」
「と、言いたいところだけど、仕事で使いそうだから、スキルを取ることにしたわ。」
「それがいいですね。」
コルネットとパインは、二人でカフェに入っていた。ちょっと遅い昼食。コルネットの休みに合わせてパインが遊びに来たのだ。
「パインは強いのね。」
「まだまだです。」
「冒険者にはカードがないのが残念だわ。あったら見てみたいのに。」
「死ぬとなくしちゃいますからね。あといろんなことでなくしちゃう人が続出するから、ギルド本部で登録して管理するだけになったんですよね。」
「ああ、それで見ればいいのか。今度仕事でパインのカード見せてもらおう。」
「恥ずかしいです。」
「何も恥ずかしいことはないと思うんだけどね。」
あのあと、金貨を受け取るために別な街に行き、額が額だけに、受け取りに時間がかかったのだが、そのあたりは旦那は気にしていないようだった。退治するのにかかった時間より、金を用意してもらうのに時間がかかる、一カ所の冒険者ギルドで用意できる額ではなかったのだ。数十カ所から集められるだけでも日数がかかり、それを数えるのにも手間がかかる。警護だけでもとんでもない費用がかかった。そんなことは旦那は最初から分かっていたようだった。しれっとして受け取ると、すぐにテレポートでカレーに帰還してしまった。どうせ、あちらの冒険者ギルドに知り合いがいるわけではない。だったらさっさと帰るのが得策だ、と言うことだった。
「旦那もわけがわからない人ですね。」
「旦那様のカードは見ない方がいいと思いますよ。」
パインは笑いながら言う。
「レベルのところに『嘘』って書いてありますから。」
「なにそれ?どういうこと?」
「旦那様のレベルは世界の理からは外れているんですよ。」
「九十九レベルですらないってことね。」
だとしても一切不思議ではない。コルネットは今なら納得できる。旦那はとんでもない力を持っている。魔法とは違う何か凄まじい力だが、自分がそれを理解できることはないだろう。
「私も、突然三十二レベルとかにされて、戸惑ってるんだけどね。」
「ああ、百レベルの悪魔を倒したから、経験値が入ったんですね。」
「おかげで見習いではなくなったけど、『見習いの文字がない』ってローザさんが悲鳴を上げてたわ。」
「旦那様がいじったからですね。」
「どうも、そうらしいわね。私には分からないけれど。カードを更新したら、コルネットは破壊されないっていう表記も消えちゃったし、手品かなんか使えるのかしらね。」
「カードの書き換えが手品なら便利でしょうね。」
「ギルドの幹部以外にできるはずないんだけどね。分からないわ。」
「その辺が旦那様の不思議なところですね。」
パインは全然不思議ではないようだ。
「旦那様が無茶苦茶なのはもう慣れました。」
「私はまだ慣れないわ。」
「そのうち、慣れるといいですね。」
「専属調査官としては、慣れるしかないんでしょうけどね。旦那はしばらくおとなしくしていそうなの?」
「面白いことがないか、探しているとは言ってましたけど。」
「なんにせよ、旦那の噂が広まってくるまでには時間がかかりそうでしょうね。」
「北国からの噂ですね。そうですねえ、こちらまで広まってくる頃には、旦那様の仕業だとは分からなくなっていそうですね。何しろ、見ていないところで悪魔が倒された、と言う結果しか分からないですからね。北の国を荒らした悪魔が退治された、と言うことがどれほどの噂になるか。」
「たぶん、尾ひれをつけて勇者の一団とかになってるでしょうね。私の名前が入ってないといいんだけれど。」
「コルネットさんは調査官ですから、噂になる側ではないと思います。」
「だといいわ。」
コルネットはため息をつく。
「なんにせよ、しばらくはスキルを取ったり、仕事をしたりで忙しいわ。いっぱい選択肢があって困ってるのよ。」
「嬉しい悲鳴ですね。」
「ねえ、パイン。旦那が私を連れて行ったのって、絶対お金のためよね。」
「それは間違いないですね。」
「お金のためにしか動かないって明言してたものね。」
「せっかく金になりそうなんだから、確実に入るようにしたい、とは言ってましたね。」
パインは笑う。
「でも、時間をかけたくなかったのも事実なんですよ。」
「え?」
「旦那様はあの悪魔を退治するようにお願いされていました。お金が全く絡まなくても、退治していたのは変わらないのです。」
「賞金なしで悪魔退治をしてた可能性があるの?」
「あたしたちだけで向かってたら、退治するまでにもっと時間をかけていたと思います。手続きで何回も往復しなくちゃいけませんでしたし。冒険者ギルド同士がもっと連携があればいいのですが・・・・・・。」
「確かに遠い国とはあまり連携はとれていないわね。」
「システムがワールドワイドじゃないのは仕方ないことなのです。世界が広すぎますから。旦那様はコルネットさんの力を信用していますよ。若いのにしっかりとした仕事をするって。」
「若いって言っても、もう二十歳だし、パインの方が若いんじゃないの?」
「あたし、二十三ですよ。」
「ええ?私より年上だった?全然そうは見えないんだけど。」
「童顔なのと髪型で若く見えますよね。相手を油断させるためだって言ってました。」
「うわー、完全に騙されてたわ。これからはパインさんって呼んだ方がいいかしら。」
「呼び捨てでいいですよ。コルネットさん。」 パインの笑顔はどこか嬉しそうだった。
シリーズとしてはまだ続きますが、これでだいたいの世界観はつかめたんじゃないでしょうか。
書いている本人が一番迷ってますけどね。