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「百夜白夜の消失」  作者: 四つ足ジョバンニ
【第二章】 百夜白夜の紛いもの
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断崖

 自由に飲み食いしてかまわないと聞いていたので、リビングにに向かい、冷蔵庫で冷やされた柑橘系の清涼飲料水で渇いた喉を潤してから、二階への階段を上がった。

 上がり切ったところで、文庫本を手にした妻鳥で出会った。この時間まで、百夜の部屋の前のテーブル席で読書に耽っていたらしい。

 ずっと一所にいたのであれば、そういう役割を与えられているということだろうか?

 もしかすると、彼女が犯人となる可能性もある。

 邸に仕える家政婦だからと言って、犯人でないとは限らない――いや、むしろ、より犯人として相応しい存在なんじゃないだろうか。

 主に忠実なように見せて、その実、心中では、その主に対する殺意を膨らませている――ありそうな話だ。

 このことは後からメモしておこうと、その妻鳥とは、会釈を交わすだけですれ違い、一旦自室へと戻り、ナップサックを置いてから、再び二階の通路へ。

 夕食までの時間は、後回しにしていた他の招待客らの自室を訪ねてみることにしていたので、まずは身近な部屋からと、隣室である瀬戸家の自室に赴いた。

 扉をノックすると、「どうぞ」と返って来たので、「お邪魔します」と観音扉を押し開ける。

 瀬戸家の部屋も、間取りや家具の配置等、僕の部屋とほぼ変わらないようだ。

 その奥の角隅に置かれたデスクの前でノートPCを広げていた瀬戸家がこちらを向きながら、「情報収集はうまくいった?」

「そこそこに。瀬戸家さんはどうでした?」

「私はずっと部屋に籠もりきりだったの」

「情報収集をせずに、ですか?」

「ええ。そうしたいのは山々だったんだけど、早めに片付けたい仕事があってね」

「仕事というと、ルポライターとしての、ですか?」

「そう。このミステリィツアーを記事にするつもりでいるからね。それで、どうしても早い内に、それまでのことを文章に纏めておきたかったのよ。そうしたら、気を入れすぎて、いつの間にかこんな時間になっていてね」

「そうだったんですね」

「だから、私が見て回れずにいた孤島の色々の話なんかを、後から晴原君に教えてもらえるとありがたいな」

「かまいませんよ。でも、よく百夜氏の許可が得られましたね。あれだけ秘密主義な氏なのに」

「私としても、妻鳥さんを介してで、あまり期待はしていなかったんだけどね。氏は快くそれを許してくれたわ。今回こういう企画を立てたり、ブログを始めたり、これからは、もっとオープンな姿勢でいこうって考えているのかもしれないね」

「そうだといいですね。ファンとして、秘密のベールに包まれた氏も魅力的ですけど、著作意外についてももっと知りたいっていうのが、ファン心ってものですから」

「そうよね。私もそう思う」

 瀬戸屋は返してから、

「それで、ここへはなんの用があって来たの? やっぱり、情報収集の一環?」

「ええ、そんなところです。そこで一つ頼みがあるんですけど、ベランダへ出させてもらえませんか? 僕の部屋のベランダに通じる硝子戸、鍵が壊れているみたいで」

「なんだ、そうだったの。だったら、好きなだけそうして。その間、原稿の続きを進めておくから」

 了解を得た僕は、「それじゃあお言葉に甘えて」と奥の硝子戸を開けベランダへと出た。

 ベランダは、胸程までの高さの塀が囲う中、仕切り板で塞がれるなどせずに各部屋の前を横一線に邸の両端まで伸びていた。

 奥に百夜の姿がないかと期待したが、残念ながら誰の姿もない。部屋を訪れてみたい衝動に駆られたが、カーテンが閉められてもいるようだし、ここでも自粛することにする。

 眺望の方へ目をやると、まだ薄く残照が残る空の下瀬戸内海が揺れていた。

 その塀から身を乗り出すようにして下を覗き見てみると、昼間よりも高くなった波が岸壁に打ち寄せて飛沫を上げていた。そこからほぼ垂直に断崖が聳え、その縁から、下の階のベランダが二階と同じ幅突き出ている。

 ベランダは断崖よりも先にあるので、ここから落ちたとしたら、海へと真っ逆さまだ。僕は高所恐怖症ではないが、さすがに足が竦んでしまった。

 それらの確認を終えた僕は、室内へと戻ると、ノートPCに向かい合っていた瀬戸家に一言声を掛けてから、部屋を辞して他の招待客らの自室へと向かった。




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