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「百夜白夜の消失」  作者: 四つ足ジョバンニ
【第二章】 百夜白夜の紛いもの
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夕暮れ

 『探偵ガジェット第三号』の《小さな埃も見逃さない》(掃除機のような名称をつけてしまったが、双眼鏡である)を片手に、海岸線や森の中など、ありとあらゆる場所を巡ってみた。

 小さい島だから、それ程の労力を払わずに済んだが、特にめぼしい点を発見することはできず、収穫のないまま午後五時を回り、瀬戸内海を茜色に染めながら陽が没した後の夕まぐれに、僕は島の探索を終えて邸へと戻って来た。

 玄関の扉の前には、迷彩柄の後ろ姿が見えた。ミリオタの円谷だろう。鍵穴でも調べているのか、ルーペを手に、その前で屈みながら矯めつ眇めつしている。

「円谷さんも、謎解き前の情報収集ですか?」

 背後から声をかけると、円谷はこちらを振り向き、

「ああ、晴原君か。そうだよ。君も?」

「ええ。森に分け入ったりと、色々調べてみましたよ。特にこれといって何があったってわけじゃないですけどね。骨折り損のくたびれ儲けってやつです」

 苦笑しながら答えると、

「あの森の中を探索していたのか。よくそんなことできるな。いくら冬だって言っても、なにがでるか分かったもんじゃないってのに。アナコンダやら、タランチュラやら……まだ確認されていない未知の怪物だって潜んでるかもしれないんだぞ?」

 ここを、アマゾンのジャングルあたりと勘違いでもしているんだろうか。ミリオタのくせに、意外と軟弱な気質らしい。

「名作《八岐大蛇(やまたのおろち)の酔いが覚めて》を、君は読んだことがあるかい?」

「ええ、もちろん。擦り切れるくらいに読み耽りましたよ」

 《八岐大蛇の酔いが覚めて》は、『八』という漢数字が入っていることからも分かるように、氏の八作目にあたる作品だ。

 毒殺トリックもので、ややペダンチックな内容が人を選ぶところがあり、隠れた名作というような位置どりで語られることも多く、知らない者も多いかもしれないが、僕をそんな俄と一緒にしてもらっては困る。

 生粋の百夜フリークな僕とでは、アメリカンとエスプレッソ以上に、濃さや深みの違いがあるんだ。歴史が違う。

 ただこの円谷は、その作品を、『名作』と呼んだ。それなりに分かっているファンと評価してあげていいだろう。

「あれに登場するヤドクガエルなんかが、茂みの中に潜んでいるかもしれないじゃないか。もう森の探索はやめておいた方がいい」

 ヤドクガエルが瀬戸内海にいるんだったら、チュパカブラが上野公園あたりに出没してもおかしくはないくらいだ。あり得ない方面に神経質すぎる。

「肝に銘じておきますよ」

 そのつもりは毛頭ないが、とりあえず適当に答えてから、

「それじゃあ僕はこれで。まだ情報収集したいところが残っているんで」

 と円谷とはそこで分かれて、邸の中に戻った。


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